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女装探偵  作者: 相澤 沁
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とんでもない依頼11

フェイとリからの配置換えに対するクレームが上がった。

そのクレームは、仁の元に正式な文書(メール+紙ベースの抗議書)として届いた。

内容はほぼ同じで、以下のようにまとめられる。

「最近、片桐社長は怪しい日本人二人(明らかにGuardeanのこと)と親しくしているが、警備業務の本質を理解していない」

「私たちの方が長年の経験とスキルで優秀であり、信用に値する」

「日本人などに任せるのではなく、私たちのような優秀な中国人に全てを任せるべきだ」

「この配置換えは不当な差別であり、労働環境の悪化を招く。撤回を強く求める」


文面は表向きは「業務改善の提案」風に書かれているが、「日本人 vs 中国人」の対立構造を明確に押し出し、仁個人への不信感と脅しめいたニュアンスが滲んでいる。

仁はこれを読んで青ざめ、すぐにGuardean事務所へ連絡を入れてきた。

仁が事務所に現れたのは夕方。

いつもの穏やかな表情はなく、疲れと困惑が顔に張り付いていた。

ソファに座るなり、ため息をついて言った。

「フェイとリから……抗議が来た。内容は読んでの通りだ。『日本人などに任せるな』『私たち中国人に任せろ』……これはただのクレームじゃない。脅迫に近い。配置換えを拒否してるどころか、私の判断そのものを否定してきてる。」

健一は仁の持ってきた抗議書のコピーを読みながら、静かに言った。

「これは……差別を逆手に取った逆差別ですよ。『中国人だから優秀』『日本人だから信用できない』って、露骨すぎる。仁さんがこれを放置したら、社内の中国人スタッフ全体に波及する可能性もある。」

高木はコーヒーを淹れながら、

「しかも、Guardeanの存在を『怪しい日本人二人』と名指ししてる。僕たちのことを、相当警戒してる証拠だ。盗聴器の一件で、僕たちが嗅ぎ回ってるって気づいてるのかも。」

仁は額に手を当て、

「どうすればいいんだ……解雇はできない。不当解雇で訴えられたら、会社が大ダメージを受ける。

でも、このまま放置したら……また何か仕掛けられるかもしれない…」

健一は仁の目を見て、落ち着いた声で言った。

「まずは、社内通達を出してください。『セキュリティ強化のため、全スタッフの配置を見直す』という名目で。差別にならないよう、『国籍問わず、適正配置を優先』と明記して。フェイとリは、現金・金庫室関連の業務から完全に外す。それでクレームがエスカレートしたら、逆に『脅迫・業務妨害』として刑事課に相談できる材料になります。」

高木が付け加える。

「同時に、僕たちが二人の尾行と調査を継続します。次の動きが出たら、即座に刑事課に引き渡します。仁さんは、社内の中国人スタッフ全体に、『信頼できるスタッフは国籍関係なく評価する』というメッセージを、社長として発信してください。それでフェイとリの孤立を深められます。」

仁は深く息を吐き、ゆっくり頷いた。

「分かった……君たちの言う通りだ。明日、社内通達を出して、配置換えを正式に進める。フェイとリには、『業務適正化のため』という理由で、現金関連業務から外すと伝える。」

健一は小さく笑って言った。

「それでいいです。仁さんが動けば、二人はさらに焦るはず。焦った時こそ、決定的な証拠を掴む隙が出来ます。」

仁は立ち上がり、二人に深く頭を下げた。

「ありがとう……本当に、君たちに頼ってばかりで……」

仁が帰った後、事務所は静かになった。

高木が新しいコーヒーを淹れながら言った。

「次はフェイとリの盗聴データを撮らないとだな。二人が何を企んでるか……全部暴いてやる」

健一は頷いて言った。

「そうだな。片桐ファーマシーは絶対に守り抜く。」

Guardeanの灯りは、深夜のマンションで静かに輝き続けた。


フェイとリに盗聴器を仕掛ける計画は、健一と高木の間で即座に固まった。

まずは二人の行動パターンを洗うことが先決だ。健一は二人のシフト表と、過去の監視カメラ映像、

社内での休憩時間帯を基に、

二人がよく行く居酒屋を特定した。

場所は本社から徒歩10分のチェーン居酒屋「とり鉄」。

金曜の夜になると、ほぼ毎週のように来店し、ビールと焼き鳥を肴に愚痴をこぼすのがパターンだった。

健一は数日間、変装して店外から確認。

二人はいつも隅のテーブルで、大声で「社長は日本人ばっかり信用してる」「俺たちの方が優秀だ」と不満をぶちまけていた。

高木が提案した。

「健一、美穂として僕と酔ったカップルを演じて、隣の席に座ろう。ふらついたフリをして、スリの要領で盗聴器を仕掛ける。鞄の内ポケットか、ジャケットの裏地に滑り込ませれば、気づかれないはずだ」

健一は少し考えた後、頷いた。

「いいな。俺が美穂で、悠斗が彼氏役。カップルなら自然に隣に座れるし、酔ったふりで体を寄せれば、接触のチャンスも作りやすい。」

金曜の夜。

美穂(健一)は黒髪ロングに赤いリボン、タイトなワンピースにストッキング、ヒールで軽く酔った演技を練習しながら店へ。

高木はカジュアルなシャツにジャケット、「ちょっと飲みすぎたカップル」の彼氏役で隣に。

店内は賑わっていた。

フェイとリは予想通り、隅のテーブルでビールを飲んでいる。

二人はすでにかなり酔っていて、大声で「社長はあの日本人に頼りすぎだ」「俺たちならもっとうまくやれる」と愚痴をこぼしていた。

美穂は高木の手を引いて、「ねえ、あっちの席空いてるよ~」と甘えた声で隣のテーブルを指す。

店員に案内され、フェイとリのすぐ隣に座った。

美穂はわざとグラスを倒すふりをして、「わっ、ごめんなさーい!」と体を寄せ、フェイのジャケットの内ポケットに、小型盗聴器(バッテリー式・音声送信型)を滑り込ませた。

一瞬の動作。

フェイは気づいていない。

「大丈夫大丈夫、かわいい子が謝るなんて罪深いな!」と笑うだけ。

高木もリの方に軽く体を寄せ、「すみません、彼女酔っちゃって……」とフォローしつつ、リのパンツの後ろポケットに、もう一つの盗聴器を仕込んだ。

完璧なスリ。

二人はそのまま1時間ほど店にいて、フェイとリが会計して店を出るのを待った。

二人がフラフラと歩き出すと、美穂と高木も後を追う。

尾行は慎重に。

フェイとリは同じアパートに住んでいるようで、徒歩で10分ほどのマンションに入っていった。

部屋番号は、玄関の郵便受けで特定。

フェイ:302号室

リ:303号室

隣同士だ。翌週の平日、フェイとリが勤務中の昼間。

健一と高木はマンションの管理人に変装して接触。

「点検で入ります」と偽り、合鍵マスターを使って二人の部屋に侵入した。

室内は散らかり放題。

中国語の新聞、ビールの空き缶、怪しい海外送金の明細が散乱している。

健一はコンセント型の盗聴器(電源常時供給型・音声+周囲音拾い)を、リビングのコンセントに、

もう一つを寝室のコンセントに仕掛けた。

高木は同様にフェイの部屋に二つ。

どちらもWi-Fi経由で事務所にデータを送信するタイプ。

侵入時間はわずか8分。

痕跡を残さず撤収。事務所に戻り、受信テスト。

フェイの部屋から、「社長はあの探偵に頼りすぎだ……次はもっとうまくやる……」という声がリアルタイムで聞こえてきた。

健一は青いリボンを指で軽く撫で、「これで、二人の動きは丸裸だ。仁さんに報告して、刑事課と連携して一網打尽にする。」

高木はコーヒーを淹れながら、「片桐ファーマシーを完全に守る。」

Guardeanの戦いは、静かに、しかし確実に、最終局面へと向かっていた。

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