とんでもない依頼6
高木はすぐに刑事課の知り合いに連絡を入れた。
追尾してきた黒いセダンのナンバーを伝えた。
「偽警官の可能性が高い。3億8000万円の現金輸送中に止められた。身元を洗ってほしい。」
刑事課の返事は、予想以上に早かった。
30分後、電話が戻ってきた。
「ナンバー照会した結果、車両はエターナル・プロモーションの社用車だ。所有者はあの闇オーディションの会社……在宅起訴されてたはずの連中だな。」
高木はスマホをスピーカーモードに切り替え、健一にも聞こえるようにした。
刑事の声が続く。
「運転手と助手席の男、両方ともエターナル・プロモーションの社員。制服は撮影用のコスプレ衣装……
つまり、コスプレ警官の衣装を着て、本物の赤色灯と拡声器を社用車に積んでたらしい。逮捕状請求はした。夕方には両方とも確保に向かえる。」
健一は、
「エターナル・プロモーション……あの時のプロデューサーと同じ会社か。3億8000万の情報を、どこで嗅ぎつけた?」
刑事はため息混じりに答えた。
「それがまだ分からない。でも、支社側もスタッフの洗い直しが必要かも知れない。」
電話を切った後、高木はソファに深く座り込んだ。
「エターナル・プロモーションの残党か……闇オーディションで潰したはずなのに、まだこんなことやってるなんて。」
健一はコーヒーを淹れ直しながら、
「仁さんの会社に、情報を漏らした人間がいる。支社の独立資金……株取得の話は、社内でも極秘だったはずだ。」
高木はスマホを握りしめ、低く言った。
「次は、その漏洩源を暴く。仁さんに連絡して支社スタッフのリストをもらおう。僕たちが直接当たろう。」
健一はカップを高木に渡し、
「そうだな。現金輸送は終わった。今度は、裏切り者の正体を暴く番だ。」
二人はカップを軽く合わせた。
コーヒーの湯気が、事務所の静かな空気に溶けていく。
仁からの次のメールは、
「支社スタッフのリスト、すぐに送ります。本当にありがとう……」
という短いものだった。
Guardeanの新たな戦いが、静かに始まろうとしていた。
現金輸送の情報の漏洩元調査は、予想以上に困難を極めた。
健一と高木は仁から提供された本社社員のリストを基に、通信ログ、メール、チャット履歴、スマホの位置情報、さらには社内PCのアクセス履歴まで、可能な限りしらみつぶしに洗った。
刑事課の協力も得て、外部への不正アクセスや暗号化通信の痕跡も探したが、漏洩を示す明確な証拠は一切出てこなかった。
「本社内部からのリークじゃない……?それとも、もっと巧妙な手口か?」
高木が疲れた顔でコーヒーをすすりながら呟いた。
健一はデスクに広げた資料を睨み、
「いや……まだ見落としてる部分があった。仁さんの社長室だ。」
仁に連絡を入れ、社長室の監視カメラ映像の提供を依頼した。
仁は即座に了承し、過去1ヶ月の社長室前後の映像データを送ってきた。
映像を再生し始めたのは夜の11時過ぎ。
早送りで確認していくと――
ある日の午後、警備会社の外国人スタッフが、仁の社長室に入っていく姿が映っていた。
清掃や点検の名目で入室したはずだが、滞在時間が異常に長い。
スタッフは部屋の隅々を歩き回り、デスクの下や棚の裏側に手を伸ばしているように見える。
健一は映像を一時停止し、拡大して確認した。
「これ……盗聴器だ。」
高木も画面に顔を近づけて確認した。
「間違いない。デスクの下に、何かを貼り付けてる。仁さんが電話で現金輸送の話をした時、傍受されてたんだ。」
健一は立ち上がり、コートを羽織った。
「今すぐ社長室を調査する。仁さんに連絡して、今から行くって伝えてくれ。」
深夜の片桐ファーマシー本社ビル。
仁が自らエントランスで待機していた。
疲れた顔で二人を迎え入れ、エレベーターで最上階の社長室へ直行。
部屋に入ると、健一はすぐにデスクの下を調べた。
予想通り、小型の盗聴器がテープで貼り付けられていた。
バッテリー式で、音声データを定期的に外部へ送信するタイプ。
高木が専用ツールでスキャンし、
「SIMカード内蔵型。海外のプリペイドSIMを使ってる。送信先は……まだ特定できないが、エターナル・プロモーションの関連サーバーに繋がってる可能性が高いね。」
仁は顔を覆い、肩を落とした。
健一は盗聴器を慎重に剥がし、証拠袋に入れながら言った。
「警備会社の外国人スタッフが犯人。清掃や点検の名目で入室して仕掛けたようです。エターナル・プロモーションの残党が、警備会社に潜り込んでた可能性が高い。3億8000万の情報を盗聴で掴んで、ニセ警官を仕向けてきたと思われます。」
高木はスマホで刑事課に連絡を入れ、
「盗聴器の現物を確保。すぐに鑑識を送ってほしい。送信先の特定も急いで。」
仁は震える声で言った。
「本当に……ありがとう。君たちがいなかったら、すべてを失ってた。」
健一は仁の肩に手を置き、
「まだ終わってない。盗聴器の送信先を突き止めて、エターナル・プロモーションの残党を一網打尽にする。仁さんも、支社側と警備会社の契約を見直してください。これで、漏洩の穴は塞げます。」
仁は深く頭を下げ、
「分かった……これからも、Guardeanを頼りにするよ。」
事務所に戻った二人は、コーヒーを飲みながら計画を練り直した。健一が静かに言った。
「次は、送信先の特定と、残党の摘発だ。エターナル・プロモーションの闇は、まだ底が見えない。」
高木はカップを握りしめ、
「仁さんの未来を守るためにも、絶対に終わらせる。」
Guardeanの灯りは、深夜のマンションで静かに輝き続けた。
3億8000万の現金は守られた。
しかし、戦いはまだ終わっていない。




