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女装探偵  作者: 相澤 沁
25/72

彼氏のフリと本気の警護7

2月22日、箱根温泉旅行2日目。

朝の湯上がりの肌寒い空気の中、高木と由香は旅館の玄関を出て、温泉街の散策を始めた。

高木は昨日と同じくハイブランドのスーツにカシミアのマフラーを巻き、由香は可愛らしいコートにマフラー、手を繋いで歩く。

由香は楽しげに高木の腕を軽く引きながら、

「高木さん、こっちの土産物屋さん可愛いよ! 見て見て!」

高木は照れくさそうに笑いながら、

「由香ちゃん、ゆっくり行こう。僕、こんなデート初めてだから、ペースが分からないよ。」

二人の後ろ、ちょうど10m離れた位置を、健一が歩いていた。

コートを羽織ったシンプルなスーツ姿で、スマホを片手にGPSを確認しながら、視線を周囲に巡らせる。

女装なしの「男の俺」で護衛できるこの状況が、健一にとっては新鮮で心地よかった。

温泉街の石畳を進み、土産物屋や足湯を眺めながら、由香が突然立ち止まった。

「あ、蕎麦屋さん! お腹空いた~。高木さん、ここ入ろ!」

高木は頷き、

「いいね。僕も蕎麦好きだよ。」

二人が店に入るのを確認し、健一は一歩遅れて同じ店に入った。

カウンター席の端に座り、由香たちのテーブルから視界に入る位置を確保。

注文したのは天ぷら蕎麦セット。

湯気が立ち上る中、健一は静かに箸を進めた。

高木と由香は奥のテーブルで、天婦羅そばを頬張りながら笑い合っていた。

由香の声が少し聞こえてくる。

「高木さん、昨日からずっとカッコイイね。パパの車運転してる姿、ほんとに彼氏みたいだったよ♪」

高木は苦笑しながら、

「由香ちゃんに褒められると、照れるな……でも、ちゃんと守るから。」

健一はそれを聞きながら、内心で小さく笑った。

「悠斗、意外とハマってるじゃん。」

食事を終え、健一が先に店を出た。

外の空気が冷たく、湯気の残る街並みを眺めながら歩き出す。

その時、道向かいの物陰に、福田の姿が目に入った。

福田はコートの襟を立て、スマホをいじりながら、由香たちのいる蕎麦屋の方向をじっと見つめている。

表情は険しく、下唇を強く噛みしめていた。

健一は即座にスマホを取り出し、福田の姿をズームで撮影。

高木にLINEで写真を送る。

「福田、道向かいの物陰にいる。由香ちゃんを見てるだけ。動きなし。警戒継続」

高木からの返信はすぐに来た。

「了解。由香ちゃんにはまだ言わないでおく。僕が自然にエスコートする。」

健一は福田を横目で見ながら、心の中で呟いた。

「…そんなんだからモテないんだよ、そういう所だぞ」

福田の視線は執拗で、しかし一方でどこか惨めだった。

健一は少しだけ、憐れむ気持ちが湧いた。

「由香ちゃんに近づく資格なんて最初からないのに……必死すぎて、逆に哀れだな。」

その日も、福田に特別な動きはなかった。

ただ、遠くから由香と高木の姿を追いかけるだけ。

健一は10mの距離をキープし続け、高木は由香を自然にエスコートしながら、旅館へ戻る道を進んだ。

旅館に戻った頃には、夕陽が箱根の山を赤く染めていた。

由香は高木の腕に軽く寄りかかり、

「今日も楽しかった~!高木さん、ありがとう!」

高木は優しく笑って、

「由香ちゃんが楽しそうでよかったよ。」

健一は個室に戻り、窓から温泉街を見下ろしながら、スマホのGPSを再確認した。

福田の影は、まだ消えていない。

しかし、今日は何も起きなかった。

「あと一日……福田、お前が動くなら、そこで決着だ。」

湯煙が立ち込める箱根の夜が、静かに更けていった。

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