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女装探偵  作者: 相澤 沁
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消えたコスプレイヤー

コスプレイベントの会場は、熱気とフラッシュの嵐だった。

ここ3ヶ月で、3人の女性レイヤーがイベント後に忽然と姿を消した。

いずれも人気キャラのコスプレで、SNSで事前に告知していた子たち。

警察は表向き「家出の可能性が高い」と発表しているが、刑事課の非公式ルートは違うことを知っていた。

「連続拉致だ。犯人はイベント会場でターゲットを選び、帰り道を尾行して拉致している可能性が高い。

お前なら…目立つし、狙われやすい」

刑事は、苦笑しながら言った。

佐藤健一はため息をつきながら、鏡の前で最後の調整をした。

青いチャイナドレス風の衣装。

高めのサイドスリットから、細いながらも引き締まった脚が覗く。

髪は黒髪を二つのお団子にまとめ、白いリボンで飾る。

腕には棘付きの黒いリストバンド。

足元は白いコンバットブーツ。

顔はいつもの可愛らしい造りだが、今日はメイクを少し濃いめに。

チュンリーの強気な表情を意識して、唇を軽く引き結ぶ。

「…これで、148cmの俺がチュンリーに見えるのか?」

高木悠斗が隣でスマホを構えながら、珍しく本気で感心した顔をした。

「いや、見える。というか、可愛すぎてヤバいレベル。犯人が来なかったら僕が狙っちゃうかもよ。」

美穂(健一)は軽く蹴りを入れるふりをして、高木の脛を狙う。

もちろん当たらない。

でも、その動きだけで、脚の筋肉が美しく浮き出る。

小柄だが、鍛え抜かれた体は本物の格闘家さながらだ。

会場内を歩くチュンリー姿の美穂は、すぐに注目の的になった。

写真を求められるたび、ポーズを決める。

百裂脚の構え、スピニングバードキックの準備ポーズ。

可愛い笑顔の裏で、目は周囲を鋭く見回している。

夜9時過ぎ。

イベントが終わり、帰宅ラッシュが始まる頃。

美穂はわざと人気のない裏口から出た。

一人で歩く。

後ろから、足音が近づいてくる。

「すみません、チュンリーさん!一緒に写真撮ってもらえませんか?」

声をかけてきたのは、黒いキャップを深くかぶった若い男。

カメラを構えているが、レンズの向きが妙だ。

――ストロボじゃない。

おそらく暗視カメラだろう。

美穂は振り返り、にっこり笑った。

「いいよ~。でも、ここ暗いから、ちょっと明るいところ行こ?」

男の目が一瞬、輝いた。

「じゃあ、こっちの駐車場側に…」

高木は少し離れた場所から、隠しカメラで全てを記録している。

美穂は男の誘いに乗って、薄暗い駐車場へ。

男の手が、ポケットから何かを取り出す。

――スタンガンか、クロロホルムか。

その瞬間。美穂の体が閃いた。

低い姿勢から、百裂脚の連撃。

小柄な体が信じられない速さで回転し、男の腹に連続蹴りを叩き込む。

「ぐはっ!」

男が膝をつく。

美穂は素早く男の腕を捻り上げ、地面に押さえつけた。

棘付きリストバンドが、男の首筋に軽く食い込む。

「動くな。お前が3人を拉致した犯人だろ」

男は苦しげに笑った。

「…お前、誰だよ。ただのコスプレイヤーじゃねえ…」

美穂は青いチャイナドレスの裾を直しながら、淡々と答えた。

「ただのコスプレイヤーだよ。趣味でやってるだけ。」

高木が駆け寄り、手錠をかける。

すぐに待機していた刑事が現れ、男を連行。

男のバンからは、薬と拘束具、そして拉致された3人のレイヤーたちの写真が見つかった。

彼女たちは近郊の廃倉庫に監禁されていたが、無事救出された。

事件解決後。

美穂は駐車場の端で、チュンリーの髪型のお団子をほどき始めた。

黒髪がさらりと落ちる。

高木が缶コーヒーを差し出す。

「今日の脚技、完璧だったね。チュンリーそのものだったよ」

美穂はコーヒーを受け取り、一口飲んでから呟いた。

「…可愛いって言われるより、強いって言われる方が、ちょっと嬉しいかも。」

青い衣装の裾が、夜風に揺れる。

小柄な体に、意外な強さが宿っている。

「次はどんなコスプレしよっかな!」

佐藤美穂は、空を見上げて小さく笑った。

可愛い顔で、少しだけ、誇らしげな目で。

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