第021話 お礼
――こんこん。
と、真桜の存在する一室に、扉のノック音が響き渡る。
「真桜様、入りますね」
そんな恵の声と共に、扉が開かれた。
真桜の視界に、メイド服を着た恵と、私服を着用した水穂の姿が映る。
青髪の少女――水穂は、水色の半袖Tシャツに薄青色とクリーム色を基調としたチェック柄の、膝丈まで裾の伸びたプリーツスカートを身に着けていた。
そんな水穂は、真桜のところまで歩を進める。
そして、頭を下げた。
「ごめんなさい」
「…………」
水穂は、謝罪を続ける。
「私の判断で、真桜を勝手に魔法少女にさせてしまった。謝って許されることではないと思うけど、本当にごめんなさい……」
「…………」
ピンク髪のポニーテール少女は、言った。
「恵さんからは、水穂ちゃんからお礼の言葉が伝えられるはずだって、聞いていたけどなー」
「……真桜?」
「頭、上げて。水穂ちゃん」
水穂は、頭を上げる。
真桜は、優しい笑みを浮かべていた。
「水穂ちゃんは、やるべき事をやっただけ。悪い事なんて、何もしていないから、謝る必要は無いと思うよ」
「でも、真桜に何の説明もせず、魔石に触れさせた。真桜が魔石に適合できたから、結果的に無事で済んだけど、もし仮に真桜に魔石の適合性がなかったら……」
「でも、あの状況の中では、ああするしかなかったんだよね。仕方が無いことだよ。結論をいえば、結果オーライってやつだったわけだし。謝罪はいらないよ」
「…………」
水穂は、口を開けた。
「お礼も、したい」
「うん。そっちが、聞きたかった」
「ありがとう。真桜のおかげで、私は家に帰れた」
「……どういたしまして」
恵は、2人の様子を見て、微笑んでいた。
そして真桜が、
――そうだ。
と思う。
「私、未だに魔法少女の衣装のままだけど、どうしたら元の姿に戻れるかな?」
水穂は、自身の首元を、人差し指でトントンと軽く叩いた。
「真桜のチョーカーにはまっている魔石」
「うん……」
「その魔石に触れて、変身を解くイメージを頭に思い浮かべてみて。そしたら、元の姿に戻れる」
「それだけで戻れるの?」
「それだけで戻れる」
「なら、やってみよう……」
真桜は、首元のチョーカーにはまっている魔石を、ピンマイクを掴み取るかのように、右手の5本指で触った。
そして、脳内に思い浮かべる。
――変身を解くイメージ……。
刹那――真桜の身体がまばゆい光に包まれた。
数秒経って光はおさまり、真桜は元の制服姿へ戻る。
ころころと、魔石は真桜の膝元に転がり落ちた。
「変身、解けた……」
「魔石に触れて、逆に魔法少女に変身するイメージを思い浮かべたら、魔法少女に変身できる」
「なるほどね……」
でも――と、真桜は魔石を手に取る。
それを……、
「私は、魔法少女にまた変身する予定はないから、この魔石は水穂ちゃんに返すよ」
「……分かった」
真桜の意図を何となく察したのか、水穂は魔石を手に取る。
「補足にはなるけど……」と水穂が言葉を発した。
「補足……」
「記憶不可って現象……覚えてる?」
「確か、魔法少女と異能力者の無関係者は――」
「――魔法少女と異能力者に関連する記憶を、一定時間が経ったら、綺麗さっぱり忘れる……という現象」
「……もしかして」
「そう。真桜は、魔石から離れて魔法少女とは無関係の存在になったから、明日の朝くらいには私たちのことは忘れている……。でも、絶対に何かしらの形でお礼はするから……」
「初めましてから、また始まるわけか……」
「そうなる」
「…………」
真桜は、言った。
「私、甘いものが好きだから、お菓子系を渡したらめちゃくちゃ喜ぶはずだよ」
「だったら、お礼はお菓子系で考えておく……」
「うん。楽しみに待っているね」
「…………」
水穂は、室内の掛け時計を確認した。
時刻は、午後10時15分を指し示している。
「夜も遅いから、家に帰る?」
「そうだね。さすがに家族も心配していると思うし」
「……私も、真桜の家の前まで同行してもいい?」
「構わないけど、どうして……?」
「もしかしたら……と思って」
「もしかしたら?」
「……いや、気にしなくてもいい。私の、考えすぎだとは思うから」
「…………そっか」
水穂が感じているのは、どことなく来る悪い予感であった。
それは、混沌ズに関することだ。
もしかしたら……。
もしかしたらだが……。
――混沌ズが、真桜にやられたことを根に持っている可能性がある。その予感が、杞憂に終わればいいけど……。




