第020話 自分が魔法少女
「…………」
数秒間沈黙し、真桜は思った。
――まずは、現実を受け止めよう……。受け止めないと、先に進めないし……。
と、自身の魔法少女コスチュームを睨みながら、そんなことを考える。
『自分が魔法少女』
嘘のような、本当の現実だった。
そんな現実を受け止めたうえで、次はどうするべきか?
――これから、自分はどうなるのか?
それをまずは、聞いておくべきだろう。
何せ、魔法少女になったわけだ。普通、魔法少女になった女の子は、どうなる?
もしかしたら、日曜日の朝アニメみたいに……。
――正義の味方として、悪い人たちと戦わなければいけない、かもしれない……?
真桜は、恵へ直球に質問をした。
「私が魔法少女であるという現実は受け止めました。そのうえでお聞きしたいのですが、私はこれから、戦う義務を課せられるのでしょうか?」
「そのような義務は課せられませんよ」
メイド服の彼女は、続けた。
「真桜様は魔法少女となり、強敵と戦う力を得ただけです。魔法少女になったからといって、悪人を倒さなければいけないとか、秘密組織に入会しなければいけないとか、そういった決まり事は一切発生しません」
「で、でしたら。私は、魔法少女だから絶対に戦う必要がある……行動が監視される……。そういったことがある訳でも無いんですね」
「そう、なのですが……」
「ですが……?」
恵は、気まずそうな表情になった。
「真桜様は『魔法少女』という特別な存在を確立しました。つまり、狙われる立場になったわけです」
「狙われる立場……? 誰からどういった理由で、ですか?」
そういえば、と真桜は思い返す。
――水穂ちゃんが前に、混沌ズは水穂ちゃんを捕獲しようとしているって言っていたな……。
恵は、真桜の質問に答えた。
「魔法少女を観測できる『異能力者』と呼ばれる人たちが、自身の願いを叶えるために、魔法少女を捕えようとしてくるのです」
「魔法少女を捕える……? 願いを叶えるために……?」
意味が分からない――と真桜は思った。
「詳しく説明しますと……」
黒髪おさげの彼女は、解説を始める。
「月の光輝く夜間帯のみ、『とある場所』に出現する『月輪図書館』と呼ばれる場所があるのです。その月輪図書館の中には『願いの書』と呼ばれる――何でも一つだけ願いが叶うといわれている伝説の書物があると言われておりまして」
「何でも一つだけ、願いが叶う……」
「ええ。そして、その『願いの書』が存在するといわれている『月輪図書館』は、『異能力者3人』と『魔法少女3人』の両方が揃うことで、初めて門が開かれると言い伝えられているのです」
「だから、異能力者は魔法少女を……」
「そうです。己の欲望を叶えたいがために、異能職者たちは魔法少女を捕獲しようと、企むわけです。願いの書を手に入れるために」
真桜は、言葉を発する。
「なるほど……。となると結局、私を捕えようとしてくる異能力者が襲ってくる可能性があるから、戦うことは確定したようなものでは……」
「でも、ご安心ください。世の中、そんなに非情という訳ではありません」
「と、いうと……?」
「魔法少女を辞めれば良いだけの話です」
「辞める……? ことができるんですか?」
「はい。魔石を所持しなければ、魔法少女にはなりません。いわば、一般人です。魔法少女の姿で無いと、月輪図書館の門開けには何の役にも立ちませんから、異能力者に狙われる危険性もなくなります。正義の味方として戦うことに興味がなく、いつも通りの穏やかな日常を過ごしたいのであれば、魔石を手放すだけで、簡単に理想は実現できるわけです」
「そうなんですね……。だったら、安心しました」
恵は、真桜に聞いた。
「やはり、魔法少女として戦うことは、嫌なものですか?」
「嫌というか、何というか……」
真桜は、言葉の引っ掛かりを感じながらも、ピンとくるものを引き出す。
「私に務まるものではないと思います」
「…………」
恵は、柔らかい笑みを見せた。
「真桜様の選びたい道を選択すれば、私はそれで良いと思いますよ」
そして、彼女は続けた。
「お嬢様も回復してきた頃だと思いますので、お呼びしますね」
「水穂ちゃん……大丈夫ですか?」
「ええ。ただ、満身創痍なことに変わりは無かったので、強制的に休んでもらいました」
「強制的に……?」
「大人には、いろいろな手段があるのです」
「……詳しくは聞かないことにします」
「助かります」
というか――と真桜は思った。
「今更なのですが、ここはどこなのでしょうか……? それに、なぜ私はベッドの上に……?」
恵は、答えた。
「ここは、お嬢様の住まれているお屋敷です。そんなお嬢様を助けてくださった真桜様は、魔法少女として戦闘を続けた反動で、意識を失って倒れていました。その場を私が目撃して、真桜様とお嬢様をここまで運んだ。ただ、それだけのお話です」
「そうだったんですね……。ありがとうございます」
「いえ。お礼をいうのは私の方です」
恵は、ダイニングチェアから立ち上がった。
そして、頭を下げる。
「お嬢様を助けてくださり、ありがとうございました。真桜様には、感謝しかございません」
「…………」
恵は、顔を上げた。
「遅くなりましたが、私、白水恵と申します。伊豆島水穂様の使用人です。今から、お嬢様を連れてきますので、お待ちください。お嬢様も、真桜様にお礼の言葉を伝えたいでしょうから」
「お礼は……」
「そんなに、たくさん必要ないですか?」
「そういうわけでは、ありませんが……」
「でしたら、たくさん受け取ってあげてください。真桜様は、お礼を言われるようなことをされたのですから」
恵は一度、部屋から退室した。
真桜は、未来のことについて考えた。
興味がなかったはずの、『未来の自分』のことについて……。




