表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

37 部屋を散らかさない 後

 そういや、ホテルオーナーはどこに行ったのだろう?老人たちと一緒にここにいて、殺される寸前だったはずだ。

 長谷川に救出されたのか。


 「ねえ、あれ」


 不意に後ろから聞こえた声に、オレの背筋がビクリと跳ねる。

 気配を感じなかった。

 何回目だよ?オレの背後を取れる人間なんて、滅多にいないんだぞ。


 「…………お前も来たのか……」


 オレはできるだけ平静を装って言ったつもりだが、動揺してちょっと声が震えてしまった。


 「…………」


 オレの言葉に返事が無く、オレはゆっくりと振り向いた。

 そこにいたのは佐夜子だ。

 ホテルオーナーの親にレイプされ、壊れてバケモノになってしまった存在。

 老人の姉であり、肉体を少女にまで巻き戻し、永遠に少女の姿を保ち続ける座敷童と呼ばれる怪物。


 オレは佐夜子を見つめる。

 佐夜子は、塔の形に積まれた死体を感情のない瞳で見つめていた。


 こいつは、オレと同じバケモノなのだ。

 オレと同じ……。

 

 オレの心臓が高鳴る。

 頭に血が上る。


 「あれ」


 小さな呟きと同時に、佐夜子の瞳がオレの方を向いた。

 深淵の様な、光のない瞳。冷たい冷たい、海の底の色。


 オレの心はその視線に射貫かれる。


 「あれ、見て」


 視線をオレに向けたまま、佐夜子は何かを指差している。

 視線を向けられ、見つめ合うことに耐え切れなくなって、オレはこれ幸いと佐夜子の示している場所に視線をずらした。


 「…………メモ?」


 オレは誤魔化すように少し声を張った。

 佐夜子の指先は、老人の口元を指していた。そこには、小さく折り畳まれたメモが挟み込まれていた。


 佐夜子は、この老人の死体をどんな気持ちで見ているのだろう?

 老人の話では、佐夜子は老人の姉のはずだ。


 なのに、死体を見ても彼女の顔は感情を浮かべない。声色にも、何の変化も無い。


 「回りくどいことをしやがって」


 このメモは長谷川の仕業なのだろう。

 きっとオレを試してるんだろうな。そうじゃなきゃ、もっとわかりやすい場所に置いておくはずだ。

 メモを見つけられなかったら、注意力が足りないとか言って、オレのことをバカにするつもりだったに違いない。


 オレは老人の口からメモを取り出す。

 女性ならともかく、老人の口をこじ開けるなんてオレの趣味じゃないんだが。


 「…………屋上か……」


 メモを読み、オレはため息混じりに呟いた。

 メモには「屋上に来い」とだけ書かれていた。呼び出しといて、場所を変えるとかありえないだろう?キザな男ってのはだいたい、自己中だ。マナーがなってないよな。

 女の自己中は可愛く感じるのに、男にやられると不愉快でしかない。


 このホテルの屋上はヘリポートがある。

 別にオーナーがプライベートヘリを持ってるとか、客がヘリで乗り付けるためのものじゃない。


 そういう客もいるのかもしれないが、主に|救急医療用ヘリコプター《ドクターヘリ》のためのヘリポートだ。


 ここは山間部。

 急病などで救急車を呼んでも、すぐには駆け付けてもらえない。

 そんな状況ではホテルやレジャー施設の営業には差し障りがあるため、ドクターヘリ用のヘリポートを設置しているのだった。


 ヘリポートはヘリコプターが発着できるくらいだから、当然ながら広いスペースが空けられている。


 なるほどね。長谷川の考えていることはすぐに予想できた。

 

 「キザ野郎、このどさくさに紛れてオレと戦いたいってか?」


 力こそ全てみたいな業界にいると自然と戦闘狂になるらしくて、無暗やたらと戦いたがるやつが多いんだよな。

 長谷川も最初からオレを挑発してたし、オレと戦いたがってたんだろう。


 今の状況なら、死体が一つ増えても何の問題にもならないから、オレと戦うチャンスだと考えてもおかしくない。


 まったく、オレみたいな平和主義には生きにくい業界だな。


 「行くの?」


 佐夜子がオレを見つめて問いかけてくる。


 「ここまでやったんだからな、()()殺してやるよ」


 オレは視線を逸らしたまま、答えた。

 また目を見てしまうと、迷ってしまいそうになるから。


 「あなたは、死なないのね?」

 「ああ、死ぬのは()()()()だ」


 オレは目を合わせず、他の感覚を総動員して佐夜子の動きを感じ取る。だが、佐夜子に変化はない。

 実質的に「お前も殺す」と宣言しているのに、佐夜子に感情の動きを感じない。


 「そう、それは()()ね」

 「え?」


 素敵。

 それは、心を惹かれるということ。感情の動きを表す言葉。


 オレは驚いて逸らしていた視線を、佐夜子に向けた。


 だが…………彼女はもう、そこに居なかった。

 オレが視覚以外の感覚を総動員して存在を捉えていたはずなのに、佐夜子は消えていた。


 神出鬼没。

 字面の通り、人じゃないモノたちの所業だ。

 オレは彼女の存在が感じられないのを、少し寂しく思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ