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守株【後編】

「(´°ᗜ°)✧やぁ♡この間は御苦労さん♪愉しかったかい?瞳さんとガーデンパーティーだなんて何と羨ましい奴♪」


私はようやく原稿が上がり、編集担当さんへ納める事が出来たせいか少々浮かれていた。いつもの事では在るが、このタイミングが私にとっては一番歯切れが良く心地好い瞬間なのである。


「(^。^;)あぁ…まぁね。」


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)何だ何だ!偉く覇気が無いじゃないか!どうした?上手く行ったんだろ…」


「( •̀_₍•́ )ケイちゃんの言う上手くって言うのがどんなものかは僕には判らないけど、お世話になっている瞳さんに恥を欠かせないっていう意味では精一杯の事はしたつもりだよ!」


「(´°ᗜ°)✧何だ♡それなら良かったじゃないか?安心したよ♪実は君が土壇場に為って逃げ出さないかと気を揉んでいたんだけどね…ちゃんと出掛けて約束を果たしたんだから、大した物だ!どれ?どんな具合だったのか聞かせろよ♪約束したろう♡」


私は蒼生の相談に乗ってやり、さらには瞳さんの相談にも乗った身の上で在ったから、土産話くらい聞く権利はあるという物だ。


しかも普段は蒼生に一方的にやり込められている立場だったから、こんなに主導権を握れる機会もそうそう無い。ここは懐の広い所を見せて、落ち着いて話を聞いてやろうと、少々風呂敷を広げ過ぎた。


覇気の無い蒼生なら怖くない。そう想って余裕のある所を見せたつもりが、想わぬ反撃に逢う。


「(*゜ー゜)…ふん♪騎士道精神の賜物だよ♡僕はやると決めたらとことん出来る子ちゃんなのさ!どこぞの唐変木な方とは訳が違う♪」


(ーー;)にゃにおぅ…どの口がそれを言う!「ケイちゃん…どうしよう」そう言って泣きついて来た奴はどこに行った?しかも自分で"出来る子ちゃん"は無かろう…。


私は妙な具合にムクリと起き上がった、そう…起き上がり小法師(こぼし)を見る様な眼差しで蒼生を眺めた。"唐変木"呼ばわりも癪に障る。


彼はすっかり復活しており、にこやかな表情でこちらを見つめている。その目にはいつの間にかいつもの自信が宿り、不敵な程の余裕が感じられた。


『( ω-、)やられた…』私は主導権をすっかり握ったつもりで広げた風呂敷を畳む。こうなってしまってはいつもの流れが来そうな予感が頭をもたげた。


彼は得意気に事の次第を話し出す。


成る程…彼にしてはなかなか上出来に立ち回った様ではあるが、やはりちと面白すぎる。


貴族ばりの服装で出掛けようとして、瞳さんに却下された下りでは、想わず失笑しそうに為って何とか我慢したものだが、シルクハットにステッキを持ち出した下りでは、とうとう我慢出来ずに含み笑いをやらかして、蒼生のご機嫌を損ねた。


「(`へ´*)大事を為すには勝負服というものがあるのさ!君には判らないだろうがね…」


彼は堂々とそう宣うのだが、それもどうやら瞳嬢には却下されたらしい。まぁ当たり前だな…彼女がごくごく普通の感覚である事に不思議と安心してしまう。


まぁ…蒼生らしいな♪その微笑ましくもある光景を思い浮かべて、私も先の愉しみが湧いて来るというものである。話の続きに期待を寄せて、水を向ける様に先を促す。


蒼生の饒舌は止まらない。話し始めてから、当日の緊張と興奮を思い出したのか、気持ちが高揚しているらしく、少々気分を害したくらいでは、その流れに歯止めは懸かりそうにも無かった。


彼は直ぐに気分を直すと当日の様子を再び語り出す。


世の中には特級庭師などという、偉く遥か彼方の遠い存在に感じる程の肩書きを持った人が居るのだと、私は初めて知った。


けれどもそんな肩書きに似合わない優しさと気配りを持った女性だったと聞いて、ひとまずは安心出来た。


彼が先方でどんな風に料理されるのかと少々心配していたからだった。その弥生さんという女性はかなりのやり手の様だ。


なんせパーティーの主催者である筈のホストが、突如として雲隠(ドロン)するハプニングにも拘わらず、参加してくれた人達を只のひとりも退屈させる事無く、愉しませ送り出す事が出来るのだから凄腕である。


お陰でその後の話は落ち着いて聞く事が出来た。彼が辛い目に逢う可能性はこれで無くなったも同然だったからである。


『こころざし』を堂々と手渡した下りは微笑ましかった。蒼生らしいなと想う。彼なりの気配りなのだろうが、やはりちとズレた感覚が面白い。


でもそれを判った上で受け入れてくれる相手の女性も素晴らしい人の様だった。


そして彼の話を聞いている限りでは、瞳さんも楽しい時間を過ごす事が出来た様だから、相談を受けた私としても、これで肩の荷は下りたというものである。


『(*´▽`)これでめでたくこの話も大団円を迎えそうだ♡』


良かったな…そう私は感じていたのだが、ところがドッコイ、蒼生の行くところ…そうそう簡単には物事は収まらないらしい。ここから彼の話は急展開を見せる。


「(。-∀-)♡ケイちゃんは守株(しゅしゅ)って話を知ってるかな?正確には守株待兎(しゅしゅたいと)って言うんだけど?」


「(´_`。)゛守株…何だって?タイト?」


「ꉂꉂ(○´∀`○)うん♪実はね…面白いもん見つけちゃってねっ♡」


彼の話はこうである。色鮮やかなイングリッシュガーデンの一角に、まるでそぐわない様に佇む切り株を見つけたのだそうだ。その切り株には御大層な事に立て札が立ててあり、そこには文字通り「守株」と書いて在ったらしい。


彼は直ぐにその意味が判って、そこに変人の臭いを感じ取った。ある意味、変人は変人を知るといったところで在ろうか?


蒼生はそこでまたぞろいつもの悪い癖が頭をもたげた。十八番(おはこ)である妄想癖が彼を(いざな)う。切り株に魅せられた彼はそこに座り込み、その説話の主人公に同化して、遥か昔の風景に想いを馳せた。


彼が想いを馳せたという説話の中身を実際に聞いた時に、私は初めて「守株待兔(しゅしゅたいと)」という言葉の意味を理解した。蒼生が言う所では、これは中国の書の一つ「韓非子(かんぴし)五蠧篇(ごとへん)」の中にある説話である。


「韓非子」を著した韓非(かんぴ)とは春秋戦国時代の韓の国の公子で、彼は政治家として、韓の国に尽くした人物であると言う事だった。


「(。-∀-)…韓非はね、兵法家でも在ったんだ♪彼の生きた時代には、西から勃興して来た秦という国の皇帝が天下を統一しようと躍起に成っていた…」


「( 。゜Д゜。)始皇帝だね!」


「(。-∀-)そう!さすがはケイちゃんだ♪ご名答♡」


「( 。゜Д゜。)私だって小説家の端くれだからね!馬鹿にした者じゃないさ♪」


「(。-∀-)フフフッ…馬鹿になんてしてないさ!話を続けよう♪彼は自国である韓の斜陽を憂いていた。このままでは滅びてしまうとね!だから他の戦国六強が一致団結して、秦を亡ぼす事を説いたんだ。これを合縦策(がっしょうさく)という…」


「…待っていては何も解決しない。誰もこの状況を覆せないならば、協力すれば良いのだ。皆で一致団結しようとね!でも皆、自国の利益を優先する余り、この策を嫌がり、誰も動かない…」


「…彼は自ら率先して秦の国に渡って間謀となり、敵国内からも情報発信を続ける程の胆が据わった人物だった。でも結局はどの国も動かずに彼は最後は秦の牢獄の中で昔の友人に毒殺されてしまうんだ…」


「…この後、秦が天下統一を果たしたのはいうまでも無い。これは歴史の真実だから、周知の事実だがね…」


「(´_`。)゛そりゃあ憐れな事だな…でその韓非と言う人は、この守株…待兔だっけ?これで何を言わんとしたんだい?」


「(´°ᗜ°)✧あぁ…この時代は百家争鳴(ひゃっかそうめい)と言ってね、沢山の学派が在ったんだ。そして自分達の説こそ正しいと信じて他派との論争に興じていたんだ…」


「…その中である学士が、昔の聖王たちの政治を現在の社会に復活させようと主張した。つまりは仁愛の心や人徳で政治をすれば、きっと良い世の中になるとね…」


「…それを批判して立ち上がったのが、この韓非なのさ!そんな昔話の様な綺麗事で、この乱れた戦国の世が治まる筈が無い。そんな絵に描いた餅の様なやり方では、喩え一時的に上手く行ったとしても、それは(ウサギ)が偶然、切り株にぶつかったようなものだ…」


「…遥か昔の古き善き時代に通用した聖王のやり方を復活させても何の意味も成さない。それはまさに(ウサギ)が今一度、切り株にぶつかるのを待つようなものだ…」


「…そう言って戒めたんだよ♪彼は法家として、より現実的に物事を捉えていたという訳さ!彼は性悪説の提唱もしていたから、法による秩序を尊んでいた訳さ♪それで出来たのが、この守株待兎なのだろう…」


「…説話というのは、教訓を含んでいる物だからね!今現在では、昔と今の時代の違いというよりは、偶然うまくいった事を必然だと勘違いする愚かさを指して用いられる事が多いんだ♪どうだい?勉強に成ったろう♡」


蒼生はそう言うと少しほくそ笑んでいる様に見えた。すっかり悦に入っていて、いつもの彼らしさを取り戻していた。


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)ハハハ…こりゃあ参ったな!でも確かに勉強に成ったよ♪」


私はそう応える他無かった。でもお陰で守株の言わんとしている事が戒めの言葉である事は理解出来たのだった。


彼はますます饒舌になって話を続ける。


「(´°ᗜ°)✧これはね、我が国にもあまねく広まった教訓でもあるんだ!でも守株という言葉を知らない人の方が多いんだよ…なぜだと想う?」


彼の質問攻めが始まったら、もう止められない。それは彼が主導権を完全に握った事を意味するからだ。


「( ω-、)…さぁ、実際私も守株は知らなかったからね!でも教訓としての意味合いは確かに広く知れ渡っているよな…例えば"たなぼた"もそうだし、"他力本願"などもそうだもんな!」


「(´°ᗜ°)✧ご名答!でもその始まりは、何と大正時代に遡るんだ…君も"待ちぼうけ"って歌を学校で習った記憶はあるだろう?」


「(´_`。)゛え?確かに…でもあれって、待てよ♪そうか判ったぞ!」


私は心の中でその一番初めのフレーズを口ずさむ。成る程…気がつかなかった。でも仕方ないと言えるかも知れないのだ。


何しろ、音楽の授業で習う歌なんて、自然とフレーズから歌える様には成るものの、その歌詞の意味なんて、余程こだわりのある奴で無い限り覚えていまい。


音楽の先生だって哲学者じゃ無いんだから、そんなうんちくを宣う事が好きで無い限りは、そこまでの具体的な意味なんて教えないだろう。


鯔のつまりは、教えられる側の生徒の中で、歌詞の意味まで知りたいと思って調べたりしない限りは、歌の授業が終わっちまえば、もう要はないのだ。そこまで知る訳がない。


「(´°ᗜ°)✧フフッ…まさにそう何だよ!これは1924年(大正13年)に満州唱歌の一つとして発表された歌なんだ。その目的は、まさに国民の意気高揚にある…」


「…こんな農夫の様には成りなさんな!て言う反面教師にする為の唱歌なんだよね♪ちなみにあの北原白秋先生の作詞なんだ!作曲だってかの有名な山田耕作先生だ。両巨頭の競演で作り上げられた歌なんだよ…」


彼はうんちくの限りを尽くして、そう説明を終えた。まさか韓非子から始まって、その説話が音楽の授業にまで及ぶとは、さすがの私も白旗を掲げて、ウンウンと納得せざるを得なかった。


「( 。゜Д゜。)これは驚きだな…君の説明も良く整理されていて勉強に成ったよ♪参ったな…」


私は感心してしまって最早、言葉も無い。でも少し癪だったので、一言だけ言葉を添えた。


「(*´▽`)まさかとは想うが、帰って来てから少し調べたんだろう…」


これには彼も意表を突かれた様だ。少し嫌な顔をしたが、素直に認めた。


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)ハハハ…まぁ満州唱歌の下りはそうさ!でもこれは君に話す時に整理しておく為の、僕の優しさだと想って貰いたいもんだね♪僕は元々中国の歴史には造詣が深いが、歌の分野にはからっきし無知なのでね…」


彼は珍しく弱気な面を見せた。私もこれで少しは気が晴れたというものだが、彼が私の為にそこまでしてくれた事には感謝せねば為るまい。私は素直に礼を述べた。


彼は私の姿勢が素直に嬉しかったらしい。直ぐに気を取り直した様だった。


そして今さらながらに気がついた様にこう述べたのだ。"今度は君の番だよっ"と!


「(´°ᗜ°)✧僕は務めを果たした。君には色々と助言も頂いた事だし、今度は僕が君に恩を返して置こうと想う…」


そんな御大層な事を言われても、彼が何を言いたいのか、この時の私にはまだ皆目検討もつかなかった。けれども彼の話は、何とあの"山中静香さん"の事だったのだ。


「(。-∀-)…君はあの日、僕に名刺を見せてくれたろう?」


「( 。゜Д゜。)え!あぁ…確かに!でもそれがどうしたんだい?」


「(。-∀-)フフッ…否、何ね!君は名刺の裏を読んだのかなぁ~何てね、想った次第だ!」


「( 。゜Д゜。)ハァ?そんなもの見ないよ!だって名刺の裏って大抵の場合は白紙と相場が決まってるだろう?見る意味があるのかい?」


「(。-∀-)…だから君は疎いって言うんだ!恋話(コイバナ)が開かない訳だな♪」


「(´_`。)゛君だって似た様なもんだろ!」


「(。-∀-)ドラマとかで、男が仕事のメモを渡す素振りを見せて、実際は堂々と誘い文句を書いたメモを女性に渡すとことか見た事無いのかい?」


「(*゜ロ゜)プッ♪なんだ!ドラマの話か!君の体験談かと想って驚いた私が馬鹿だったな…それがどうした?そんなエキサイティングな事は、ナンパ好きなチャラい奴の専売特許だろう…我々には縁は無いさ!」


「(。-∀-)…どうかな?僕もチラッと見ただけだから、良く見えなかったが、名刺の裏に何か書いてあったのは見る事が出来た。偶然だから、悪気はないんだが、君はやはり気がついていなかったんだな…」


「( *゜A゜)…まさか!」


「(。-∀-)嘘だと想うなら確認してみたまえ!もしかしたら、勇気を出して書いた代物かも知れんのだ!気がつかない何て気の毒だろう…」


私は偶然まだ財布の中に名刺を入れて在ったから、直ぐに取り出して裏に返した。


「(゜O゜; アッ!」


私は驚いてしまった。確かにそこには彼女の自筆でメモが書いて在ったのだ。しかもここでは恥ずかしくて公表出来ない様な代物だった。


彼は名刺を見せた時に、余り興味も無さ気にチラッと観て直ぐに返してくれたと記憶している。あの刹那の瞬間に事も在ろうに目敏く見つけていたとは驚きの極みである。


『(゜O゜;…油断の為らん奴だな♪』


私は感心するのと同時に、自分の観察力の無さにたまげていた。


「(´°ᗜ°)✧どうだい?言った通りだったろう♡そこでここからが僕の恩返しと言う名のお節介な訳だが…」


彼はそう前置きすると話を続けた。


「(´°ᗜ°)✧もし気にならないなら、それは無用な事だが…彼女の言葉が少しでも気になるなら、一度誘ってみたらどうかな?今回の事に引っ掻けるつもりは無かったんだが、"待ちぼうけ"では何も起こらない…」


「…それに案外、人は付き合ってみなければ判らないものだ♪行動を起こす事とは人生の中で、誰もが為し得る取捨選択だ!判断規準は君の心の中にこそあるのだから、試さない手は無いと想うよ✧」


蒼生はそこまで言うと、もうくどくどとは言わなかった。後は自分で考えたまえ…まるでそう言っているかの様に、コーヒーを入れにソーサーの方へ歩み寄る。


そしておもむろに振り返ると、こう尋ねた。


「(´°ᗜ°)✧君もコーヒーでいいかな?」


私は「あぁ…」と返事しながらも、しばらく彼女の事を考え込んでいた。


そして蒼生が「どうぞ♡」と言ってコーヒーを手渡してくれた時に、こう返事を返した。「少し考えてみるよ…」そう言ってマグに口をつけた。


この時はまだ私は知らなかったのだが、彼は結局、探偵・如月中との邂逅については黙ったまま、只の一言も触れる事は無かったのである。

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