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その後私は軽く魔力酔いを起こしていたので大物の回収を手伝ったら最後に迷宮の魔力を吸う時に備えてトールさんの膝の上で、彼に寄りかかりながらぐったり休息を取った。
戦闘も、回収作業も、諸々が落ち着いてきたら緊張の糸が切れたんだよね。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。でも無事討伐出来て良かったです」
「今回はマリィに助けられたな」
「ふふふ、じゃあ落ち着いたら頑張った御褒美を貰わないといけませんね」
目を閉じて、脱力しつつ笑って返せばしっかりと抱きとめて「ああ」と返してくれた。
無事でよかった。トールさんも、皆も、リッツさんも。
あ、そういえばリッツさんとエレーヌさん戦闘が終わってから見かけないけどどうしたんだろう。
「そういえば冒険者のみんなやリッツさんの怪我は大丈夫ですか?見かけませんが」
「重傷者の奴らはどうかな。治癒院とポーション次第になると思う。エレーヌたちは……リッツが激怒したエレーヌに個室に引きずり込まれていたからな?今頃は……何をしてるんだろうな」
個室に引きずり込まれた。
治療を受けているのか、それとも――。
戦闘中に聞こえたあの不穏な様子からするとエレーヌさんが本懐を遂げていたとしてもおかしくない。
「……仲直りできると良いですね」
「ああ、出来るだろ。あいつらはリッツが身分がなんだとうじうじしてるだけだからな」
そうなのか。そうなんだ。
振られたとかなったら気まずくなるし、どうせなら二人とも幸せになってくれたら良いのになあ。
そんなことを思っているとキャンプ場の方からクリハラさんがやってきた。
「いま、大丈夫ですか?」
「ああ。どうした」
「これを。アイアンに戻る帰還スクロールです。迷宮では使えないから量産していないので、とても貴重なのですが非常時用に持ち歩いていて助かりましたよ」
「ああ、出張とかの時に使ってたのか?」
「ええ」
クリハラさんとの会話も大事だが今の私は魔力回路の回復が優先だ。なので会話をトールさんに任せてぐったりしていたのだけれど……「……マリィちゃん」とクリハラさんに呼ばれたので仕方なく目を開く。
と言うか、マリィちゃん?
クリハラさんにしては珍しい呼び方をしてくるので少し戸惑っていると彼は優しく笑っていた。
「君に、それからトールにお願いがあるんだ……」
「マリィ!!!」
「マリィ!!」
「マキエ姐さん!モモ婆!」
帰還スクロールで地上に戻ると、ほんの数分でマキエ姐さんとモモ婆が文字通りすっ飛んできた。
そしてその勢いのまま抱きしめられて私からも二人をぎゅっと抱き返す。
「怪我はあらへん?いける?無事ね?」
「見た感じは平気やけどどっか痛いとこは無いな?」
「大丈夫。ただいまマキエ姐さん、モモ婆」
心配されるのがくすぐったくって、笑いながら「ポーションすごく役に立った。ありがとう姐さん」と言うとマキエ姐さんは涙ぐみながら「せやったら良かった。あげたかいがありましたわ」と微笑んだ。
「感動の再会なところ悪いけれど良いか?皆を出してやらないと」
感動の再会をしていると一緒にいたのにはぶかれていたトールさんが困ったように笑って、ハッとして慌てて扉を設置する。
するとクリハラさんが一番に出てきたが……
「マリィちゃん、素材運ぶのが面倒なのでここじゃなくてギルドに扉を出してください」
そう言って中に戻ってしまった。
と言うか、誰も出てこない。
マキエ姐さんとモモ婆と一緒に中を覗くと……そこには疲れ果てたのかぐーがーと大きないびきを立てて爆睡する冒険者、更には酒盛りをする冒険者。
外に出てこようとする人なんて一人もいなかった。
と言うか地上に着いたことに気づいてない人ばかりだ。
「随分図々しいな」
「これくらいいいでしょう。見返りは充分すぎるものをさしあげてるつもりですが」
『見返り』。ああ、『見返り』ねえ。
先程のクリハラさんとの会話を思い出して……ちょっと拗ねてるんだなと思いつつ了承する。
「あ、姐さんにあの話してもいいですか」
「ええ、構いませんよ。迷宮宿屋には今回とても協力して頂きましたからね。情報も見返りでどうぞ」
許可を得たので扉を閉じながら姐さん達に報告をする。
「姐さん、モモ婆、あのね一ヶ月間アイアン迷宮の鉱石の出現率が上がって、レア鉱石も出やすくなって、魔金も取れるようになるって」
そういえばマキエ姐さんもモモ婆も一瞬で商人の笑顔になって、無情にも「先戻りますわ」と言って行ってしまった。
「商人だなあ」
「商人ですねえ」
トールさんと二人、くすくす笑いながら手を繋いで冒険者ギルドへの道を歩く。
私たち二人の手は、しっかり…しっかりと握られていた。




