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呆然と、その光景を見下ろす。
居ない。皆居ない……。
最悪の想像が頭を過り言葉が出ない。
「姉ちゃん落ち着いて!死体も無いのは不自然だよ!」
だが、リオの言葉にハッとする。
落ち着いて目を凝らしてみるも、キノコ、蟻、蟻の死体、卵……改めて見てもやはり凄惨な状況ではあったが、確かに変だった。
人がいない。その死体どころか武器や防具すらない。トードーさんの大盾すらないのだ。
きっとみんなはどこかに避難している!
希望が芽生えて、さてどうするかと考える。退路は無い。だが、こちらの戦力は従業員だけだからほぼ無い。
下に、降りるしか無いのだろうが……下りたら確実に死ぬだろう。弱っているとはいえ、蟻相手じゃ私たちは勝ち目なんか当然無い。
思案していると、不意に女王蟻の死体の横から緑色の光が溢れてきた。
暗視のポーションのおかげで、通常の何倍も眩しく見える光の発生源から目をそらす。
光は真っ直ぐ上に伸びて、緑色の光の柱となり――――中から、半透明となったグリーンさんが現れた。
……え!?
そういえばそばに居たのに、いつの間に居なくなってたの!?
先程までとは違い透けたグリーンさんは私たちを見て、何故か笑顔からすごい衝撃を受けた表情となった。まるでガーン!という効果音が聞こえてきそうな表情だ。
グリーンさんは空中を浮遊したまま直ぐに私たちの元へと来ると、私たちの天井……粉々に砕けた石が集まった天井をぺちぺちと叩いた。
すると、石が壁となり
壁がぐぐぐっと上へと上がっていって、立つことも出来そうな空間となった。
突然の事で呆然としていると、グリーンさんにギューッとリオごと抱きしめられてさらに頭が混乱してくる。
どういう、こと?
「………おら、お掃除の時間だぞてめえら」
「負傷者は時間停止空間に隔離する。後で上で万全の体制で治療するから無理はするな」
「雑魚の癖に本当に、数だけは多いよね」
呆然としてる私の耳に聞こえてくる、大切な人達の声。
「姉ちゃん、みんなだ!」
グリーンさんに抱きつかれたまま下を見ると、そこには地中から這い出でる……ボロボロだけど、蟻に切りかかるみんなの姿があった。
生きてる。
みんな、生きてた。
数が多いため、全員が無事かどうかはまだ分からないけれど。
それでも、全滅はしてなかった。
私の大好きで、大切なみんなは無事だった。
喜びと安心感で、力が抜けた私はグリーンさんに強く抱きついて堪えきれず涙をこぼした。
サイド???
「死んだかと思った」
「俺生きてるよな」
「すげえ怖かった……」
女王が最後にもがくのは想定内だった。
少なくとも応援に来た上級冒険者や、ラクーンから来た奴らは問題なく対応し上方へと戦線離脱をしようとしていたと思う。
だが、想定外の事態が起きた。
床がまるで水になったかのようにどぷん!とその場で沈んだのだ。
新手の攻撃かと焦るが、地中の中の広い空間に落ち
さらに次々と落ちてくる冒険者達。
その中で、ひかる精霊石を持ったグリーンが上の方を見てなにかをしている様子を見つけ彼女が助けてくれたんだと把握をする。
「死んだかと思った」
「すげえ勢いで壁にのめり込んでったのに痛みがなかったのはびっくりしたぜ」
その中には初めに蟻に突き飛ばされたアイズとメルディも居た。そういえばこの二人が壁に突っ込んだ時はロディの時と違って音がしなかった。
「大丈夫か?」
「おう、俺はな」
「もうMP無いから魔法は使えねえが元気だぜ」
そういうものの、二人の装備はボロボロでおそらく骨折もしているだろう。
当たりを見回すと全員が無事とは言い難い。特に、アイアンの冒険者を中心に怪我が酷い者がいて……
「おい、しっかりしろ!」
意識のない者もいた。恐らく治癒士が横たわり意識の無い人物に魔法をかけるのを見て咄嗟に駆け寄って患者を時間停止空間に収納する。
「怪我人は一時的に保護する。後で地上に出たら治癒院で出してやる!」
「こいつを頼む」
「すまん、限界だ」
やはりと言うべきかアイアンの冒険者が数人名乗り出てきて、実際にもうボロボロなその姿を見て全員収納していく。
……名乗り出なかったが、応援に来た冒険者にもお前明らかに骨が折れてるよなといった感じに腕がパンパンに腫れた奴がいた。
血が出た傷口を布で縛ったやつも居た。
「お前たちも中に入れ」
「嫌だね」
「こんなんかすり傷だ」
だが、そいつらは重症を認めようとしない。
「マリィちゃんに弱い姿なんか見せられるわけねえだろ」
そうだな。その言葉には同意するが……。
「ならば今すぐ治せ。無理なら入れ。見た目でわかる怪我な時点で、アウトだ」
慌ててポーションをぶっかけ、仲間に治療をねだりに行く奴らを見ながら地上に上がったあと。最後の仕上げに備えるべく、地下で準備を整えた。
ーーーー女王蟻の暴れる振動は、まだ止まらない。




