冒険者ギルド
やっと冒険者ギルドに到着しました。
相変わらず会話ばかりです。
「ここが冒険者ギルド……」
ティオは目の前の屋敷を見上げる。
他の民家よりも大きく威圧的な3階建てで石の壁に囲まれている。
万が一の時に籠城できるように高い壁に囲まれ、侵入を防ぐために窓は小さい。
そして2階、3階に突き出したバルコニーは射手が身を隠せるようにしており、屋根にも撃てるように戸がついている。
さらにいくつもの秘密があるがティオは気付くわけもなく、堂々とした建物の造りに感心するばかりだ。
「よし、行くか!」
期待に胸を膨らませて、ティオは扉を開けた。
大小のテーブルについて何か話し合っていた冒険者たちが扉の開く音に釣られて振り返る。
一目で場数を踏んだと分かる冒険者たちの視線に晒されて、ティオは一瞬身を強張らせたが気を引き締める。
受付けは奥のカウンター。そこを目指して冒険者たちの間を進んでいく。
ティオを値踏みするように見ていた冒険者たちは懐かしむように笑みを零す。
「へぇ、新人だな」
「大丈夫なの? まだ子供じゃない」
「かわいい子ね。お兄さんがいろいろと教えてあげたいわ」
冒険者たちのからかい交じりの言葉――粘着質な視線も感じる――は無視する。
手前のカウンターにいる女性スタッフに声をかける。
「はい、いらっしゃいませ」
「すいません、冒険者の登録をしたいんですが」
「冒険者志望ですね。では、こちらの書類に記入をお願いします」
そう言って渡された紙は門前の小屋で書いたものと似ていた。
ティオはすぐに埋めて、スタッフに渡す。
スタッフはさっと目を通して書き落としか、書き間違いがないかをチャックする。
そして間違いがないことを確かめる。
「宿泊はどうしますか?」
「あ、宿をお願いします」
宿は冒険者ギルドが用意した宿泊施設で、一般の宿屋よりも安い金で泊まれる。
また、紙が渡されたので今度はサインと利用期間を記入する。
とりあえずは3ヶ月間利用することにして宿代は3回に分けて払うことにした。
ちなみに宿は1月ごとの契約で、1月に払う金額は二万四千エルク。
1日八百エルク程度の計算で、一回の食事が三百エルクだから安い値段だと思う。
そして冒険者登録するには五百エルク払う。
「では、登録費と宿の一月分料金として二万四千五百円になります」
事前に父からいくらかかるか教えてもらっていたティオは財布とは別に封筒からお金を払う。
この金は冒険者になるためにこつこつ貯めてきた物で、このために貯めてきたとはいえ、封筒の中が一気に減るのは寂しい。
が、このために貯めてきたんだから躊躇うな! と心の中で自分を叱咤する。
けれど気持ちが表情に出ていたために、スタッフはお金に伸ばした手を止めてしまった。
捨てられた子犬のように見えてしまったが、心を鬼にして差し出されたお金を数えていく。
「では、登録はこれで終了します。次にギルドでのクエストの受け方について説明しますか?」
「お願いします」
スタッフはわかりましたと頷くと、書類を同僚に渡して手帳ほどの大きさの冊子を取り出した。
その冊子を机の上に開いてティオに見せる。
「冒険者の登録ができましたので今日からクエストが受けられるようになりました。
クエストはあちらに張ってあるボードに張ってありますので、受けたいものを取って受け付けに持ってきてください」
そう言って脇の壁にあるボードを指さす。
そこには大きさがばらばらの紙がボードを埋め尽くしていて、冒険者たちが受けるクエストを選別している。
「過去に狩ったモンスターから受けられるクエストは判断されます。
ですので、最初は受けられるものは限られますが、冊子の裏側に書いてありますモンスターを倒して行けば受けられるクエストは増えていきますよ」
そう言ってページの後半を開くとモンスターの紹介が乗っていた。
写真の横に名前と生息地、攻撃方法などが書いてあり、下には星が書いてある。
スタッフは最初のページに乗っている、星の数が1つしかないモンスターを指した。
「星の数は強さを表していますので、最初はこのモンスターを狩ることをお勧めします。
星が2つまでなら一人でも大丈夫ですが、3つのモンスターを狩るときは必ずチームを組んでください」
星2つのモンスターを眺めていたティオはその中からアイアンドールを見つけて、ついスタッフの説明を遮ってしまった。
「こいつって星2つなんですか!?」
「あら、アイアンドールを見たことあるの?」
「ええっと、、ここに来る途中で襲われたんです……」
そう言いながらアイアンドールの説明を改めて見る。
アイアンドールは捕食も睡眠もとらない特異な魔物で、剣や槍のほかにマスケット銃を使用してくる。
唯一の弱点である頭に埋め込まれた石を破壊すると消えてしまうので、魔物の専門家も死亡解剖や生体実験をすることができず、未だわからないことが多い魔物だそうだ。
「その時は一緒にいた人たちに助けてもらったんです。とても僕一人で倒せる相手じゃなかったです……」
「そうですか、でも一人で倒せない相手でもチームを組めば対処することができます。
今は冒険者としていろいろ学んでください。私も勉強しながらクエストをこなしてましたよ」
「え?」
スタッフはくすっと笑って胸に手を当てる。
「私も冒険者だったんです。だからなにがあったら私に尋ねてくださいね」
「は、はい!」
「じゃあ、とりあえず最初に覚えておくべき所はこれぐらいです。
冊子は差し上げますので読んでおいてくださいね」
「ありがとうございました」
「お疲れ様でした。これから頑張ってね」
ティオが礼を言えば、にっこり笑って手を振ってくれた。
「チームを組めば倒せる、かぁ……」
クエストボードを眺めながらスタッフが言ったことを思い返す。
父が言っていた意味を、まさかこんなに早く理解することになるとは思わなかった。
アイアンドールと戦った時もセレハートがアドバイスをして魔法で助けてくれたから撲殺されず、この手で一矢報いることができた。
いや、彼女がいたからこそ、逃げずに戦うことができた。
「早く仲間を作ろう……!」
初クエストはまだ先になりそうです。