第03話 『セクシー担当『神楽坂教官』はどこ?』
時間通り乗車してしまえばあとはガタゴト、電車に揺られながら目的地に着くのを待つだけ。
もっとも通学電車だけあって、朝っぱらから学生・社会人混合おしくらまんじゅう大会になっているこの混雑状態はいかんともしがたいが。
「動けないっていうほどじゃないけど混んでるよね」
「もしかしてこれ、稀に良くある『痴漢に間違われて美少女に腕を掴まれる』っていうイベントが発生する感じじゃね?」
「そんなの未だかつて見たこともないよ! ていうか九郎ちゃんって中学の時痴漢に遭ってるよね?」
何その知りたいような知りたくないような開発秘話。
確かに今の九郎は母親似。ルックスも中性的というか、頼りなさげな感じだし? ギリそういう趣味のオッサン――ああ、相手は中学の部活の先輩(女子)だったんだ? それもうただのスキンシップだろ。
九重牡丹とくだらない話を「あの時の九郎ちゃん、一週間くらいチワワみたいな顔で震えてたよね」……しているうちに最寄り駅に到着。
改札を出てから歩くこと五分。辿り着いたのはもちろん『黄龍学園』である。
赤レンガで出来た重厚な門をくぐるのは俺たちと同じ新入学生――
「あれだな、思ったより普通の学生ばっかりだな」
「逆に九郎ちゃんはどんなの人たちを想像してたの?」
だってほら。ここって超常現象対策学科とかいう、かなり特殊な学校じゃん?
だからもっとこう、ならず者というか変人というかさ。
「ゴリ……筋肉自慢のアスリートみたいな連中が集まる場所なのかと」
「ふふっ、何よそれ。もしそんな学校なら私も九郎ちゃんも試験に落ちてると思うけど」
俺の言葉に、思わず吹き出す九重。
確かに、校内をうろつくアドベンチャーパートで描かれる学園内。基本的には普通の学校だった――言うほど普通だっただろうか?
少なくとも主人公のライバル筆頭に男キャラ、もちろん女子にもそれなりの人数のゴリ……恵体な人たちがいたと思うんだけど?
イマイチ腑に落ちないながらも校門をくぐった俺たちが最初に向かうのはクラス編成が張り出された掲示板の前。
『一緒のクラスだといいね!』
『入学式が終わったらヤン茶寄ろうよ』
周囲から聞こえるのはこれから始まる高校生活への期待に胸を膨らませた、女子生徒の明るい未来を思わせる姦しい声。
俺はこのまま学校に通うと四月中頃には死んじゃうんだけどな!
もちろんそれまでには目を覚ましてるだろうけど。
「九重はA組みたいだな」
「うん! ……って、あれ?」
隣で掲示板を何度か確認していた九重の表情が曇る。
「うう……何度見ても九郎ちゃんの名前が無い……」
「そりゃあ俺はC組だったからな」
あっさりとした返事をする俺に九重がジトッとした目を向けてくる。
「小学校からずっと同じクラスだったんだよ? それなのに九郎ちゃんは寂しくないの?」
「別に。クラスが違っても一緒に異界に入ることは出来るみたいだし、問題はないだろ」
「そういうことじゃないもん!」
だってねぇ? ゲームでも九郎と九重は別々のクラスだったし?
「ていうか今はそんなことよりだな」
「まさかのそんなこと扱いされた!?」
頬を膨らませる九重を宥めながら、A組から順番にクラス表を確認していく。
お目当てはもちろん推しヒロインたちの名前である。
主人公が居るだけあり、A組にはその幼馴染やパーティの初期メンとなる男女が多数。下がってB組……C組……D組……やっぽり天逆はG組か。
「……さっきから九郎ちゃんは何を探してるの?」
そういう『私、あなたのこと気にしてます!』みたいな態度が駿河九郎を勘違いさせたんだろうけど……今の中身はただのゲームオタクである。
どのヒロインがどのクラスにいるか確認することの方が何倍も大切なのだ!
……端から見ればストーカーにしか見えないことをやっているが、自分の夢の中なので合法のハズ。
名前を覚えている面子をある程度見つけることが出来たので掲示板の前から移動。
さすがにずっと立ってたら他の学生さんの迷惑になっちゃうからな。
「九郎ちゃん、またあとでね!」
「ああ」
「やっぱり今日の九郎ちゃんは冷たい気がする! もう! 式が終わっても一人で帰っちゃ嫌だよ?」
唇を尖らせながらもこちらに小さく手をフリフリ。
何度か振り返りながらも自分のクラスへと向かっていく九重牡丹。
……もっとも、今はあんな殊勝なことを言っている彼女から帰宅間際にm
『これからA組のみんなで親睦会に行くみたい。だから九郎ちゃんは先に帰っても大丈夫だよ!』
というメッセージが一通送られてきて九郎は一人で帰ることになるんだけどな。
「なんというか、他人目線で見ると完全に体の良いキープ君だな」
「これが惚れた弱みか……」と、九郎の現状に少しだけモヤっとした気持ちになりながらも彼女の背中を見送る。
思わず小さなためを息一つつき、俺も自分のクラスであるC組へ向かうことに。
今日は入学式だけだし、まっすぐ帰らず学校周辺マップの探索をしておくのもありか?
「C組に割り振られている『ストーリーに関わるキャラクター』は四人だったかな?」
もっとも、俺を含めて三人は主人公やヒロインにスキルを『引き継がれる』サブキャラクター。そんな中でも一番早く退場するのが俺ってわけだな。
「……てかさ。男キャラは『退場=死』のパターンがほとんどなのに、女キャラは『身を引く』という流れで主人公パーティを陰から見守るポジに回るのズルくない?」
ちなみに残りの一人は主人公のライバルキャラ(男)で、プレイヤーからは『知力の低い呂布』と呼ばれていたゴリマッチョな乱暴者である。
いやそれもうただの野生のゴリラだろ。
さっき見たクラス分けの掲示板にも『蘆屋』の名字があった……ような、なかったような。
ヒロインの名前は目を皿にして探したけど、男の名前なんて適当に流し見してただけだから仕方ないね?
もちろんただのモブである九郎とは何の絡みも無い……そう言えば九重が俺のことをパーティに誘いに来るイベントで主人公と喧嘩してたな。
教室に来ただけの奴と縄張り争いとか、やはりただの野生のゴリラである。
教室の入口をくぐるまでもなく、中から聞こえてきたクラスメイトが騒ぐ賑やかな声。
中学時代からの知り合いか、それとも新しく出来た友人なのか。
社交的な連中がすでに数人のコミュニティを作りざわつく中、机の上に置かれたネームプレートから自分の名前を探して席に着く。
知り合いもいない……というより九郎と同じ中学だった人間がこの中に居ても俺にはわからないんだよな。
一人ぼっちではあるが、十数年ぶりの高校生活になんとなく自分の頬が緩む。
さすがにそんな顔を他人に見られたら気持ち悪がられそうだし? 机の上、ぐでっと液状猫のよう上半身を預け。
そのまましばらく……二十分ほど経った頃、教室の前の扉が開く。
「とっとと自分の席に戻れ―、とっとと静かにしろー、そしておはよう。今日からお前たちの担当を務める――」
そこから現れたのは教師というより歴戦の傭兵か何かに見えるゴツいおっさん。
厳つい見た目のくせにずいぶんのんびりした話し方というか、やる気の無さそうな雰囲気との違和感が凄い。
ていうかちょっと待って?
俺の推しヒロイン、お姉さん部門第三位。
黄龍学園のセクシー担当『神楽坂教官』はドコ?
思わず教室の入り口を二度見する。……いや、それもそうか。
あの人は主人公が所属するA組の担当だし、C組に来るわけがないよな。
チッ……! まさか、こんなところで『駿河九郎』であることの弊害が出てしまうとはっ!
「何この肉を斬られて骨まで砕かれたような状況……」




