第15話 『三人目は強化術師、そして最後の一人は――』
「そうだな。事細かに教えてやりたいのは山々だが……さすがにこの場で答えるには長くなりすぎる。という体で、また暇なときにでも追々と?」
「むしろ今がその『暇な時』だと思うのだがな? あとその『という体で』というのは何だ?」
だって『説明するための説明』までしないといけなそうだし……正直面倒くさいじゃん。
あと全面的にこいつにぶっちゃけるとなると、
『実は俺って転生者? 転移者? そんな感じで違う世界から来たんスよ。ていうかこの世界って俺の記憶ではゲームの中なんスよ』
とか答えても真面目に受け取って貰える気がしないし。
絶対に『嘘乙!』って返されるだけだし。
もちろん蘆屋の方はそんな俺の『気遣い(?)』なんてつゆ知らず。
絶対零度のジト目をこちらに向けてきているわけだが。
……美少女のジト目とか、アラサーリーマンにとってはただのご褒美です。
「少しだけありがとうございます!」
「何の感謝の言葉なのだそれは?」
「というわけで、三人目の候補者は」
「まさか本当にここまでの説明は何も無しで話を進めるつもりなのか!?」
ほら、俺ってNOと言えるサラリーマンだったし?
それでもそれなりに出世は出来たし後輩からも慕われてたし?
……たぶんだけどな!
「まったく貴様は……。というか先程からの話では、ここまで荷運び人である貴様を含めて全員が非戦闘系ジョブの人間だったと思うのだが」
「ほう。さすがは学年首席の蘆屋朔夜。その考察力、なかなか鋭いモノがあるな」
「……それは本当に褒め言葉なのか? 私には小馬鹿にしているようにしか聞こえんのだが?」
「褒めてる褒めてる」
てことで。
三人目の候補は、パーティ全体の戦闘力を上げるためのスキルを持つ『強化術師』。
「貴様……それは先ほど口にしがばかりの話を聞いたうえで、あえての全無視か? 私以外には戦闘職が一人もいないのだぞ? それなのに強化術師など入れても、火力には微々たる変化しかしないだろうが!」
確かに。バッファーの代表的なスキルである『攻撃力アップ』にせよ『ダメージ軽減』にせよ?
最大までレベルを上げても、その上昇幅は『25%』でしかない。
俺だって最初にプレイした時は『もう一人アタッカーを追加したほうが強いだろ』と思ったくらいだもん。
「フッ、それ以上言わずともわかっているさ」
「貴様の耳は節穴か? 伝えたいことは、すべて言葉にしているのだがな?」
「ならあえて問おう! お前はサポート職、生産職が戦えないとどうして思った?」
「私がそう思っているのではなくそれらの二職は最初からそういうモノだからだ!!」
確かに、ゲームの一作目『だけ』で考えればそれが正解なんだけどさ。
「まぁそのへんはパーティメンバーが集まれば納得してもらえると思うからさ」
「出来ればこの場で納得させてもらいたいものだが……今はそれで良かろう」
『まったく、この私から譲歩を引き出せる者などそれほど居ないのだぞ?』なんて言いながらため息をついている蘆屋だけど、ゲーマー視点だとただのチョロインなんだよなぁ……。
「……さて、繰り返しになるが。ここまでで。私と貴様も含めてすでにパーティメンバーは五人。ということは、最後の一人は必然的に回復術師ということになると思うのだが」
「本当に? それでファイナルアンサー?」
「もちろんファイナルアンサーだ!」
……
……
……
……
「残念!!」
「どうしてだ!? あれか? 貴様は常識というものが無いのか? ヒーラーはパーティの要なのだぞ? なら貴様が選ぶ最後の一人のジョブは何だというのだ?」
「逆に聞くけど、どうして俺が最後の一人までジョブで選ぶと思ったの?」
「むしろ仲間を選択する上でジョブ以上に解りやすいモノなど無いだろうが!」
先程までの胡乱な顔から『何言ってんだこいつ?』という困惑顔に変わる蘆屋。
「残念。本当に残念だよ蘆屋朔夜。まさかお前がそんな奴だとは思わなかった」
「……無駄に面だけは整った貴様のドヤ顔にイラッとくるから無駄な小芝居をやめろ。なら一体誰を誘うというのだ? まさか貴様の幼馴染をクズ……ノハのところから引き抜くつもりか?」
「ふざけんな馬鹿。残り一枠しか無いのにあんなのを誘うはずが無いだろ馬鹿」
「……フフッ。この私を、二度までも馬鹿呼ばわりした男は貴様が初めてだぞ?」
とても美しい、まさにご令嬢という笑顔で薄っすらと微笑む蘆屋。
もっとも、そのコメカミには青紫色をした血管を網の目のように走らせているのだが。
「そうだな。最後の一人、真打登場と言っても過言ではない人物。それは」
「……それは?」
俺と蘆屋の二人、まるでシンクロしたかのように『ゴクリ』と唾を飲み込む
「それは――天逆鬼灯、その人だ!!」
「そこまで溜めるから有名なヤツなのかと思えば誰だなのだそいつは? ……いや、そう言えば貴様は先程もその名前をのたまっていたような? もちろんその天逆というのは私と同じ――否! 私以上に役に立つジョブを持っている人間なのだろうな?」
んー、天逆のジョブなぁ。
本人申告でくノ一。
実際のところは中忍。
「……一応前衛もこなせる後衛? レアっちゃレアなジョブではあるけど。戦闘力でだけ見れば蘆屋の方が三枚くらい上になるかな?」
「なるほど。中忍……と言えば斥候系の発生ジョブだったか? 異界攻略に必要なジョブの一つではあるだろうが、それなら専門職である斥候の方が良いのではないか?」
「何を言ってるんだお前は? いいか? 天逆は天逆だから必要なのであって、天逆でなければ中忍なんてまったくパーティに必要ではないんだよ。というか天逆という存在は役に立つとかそういう範疇の話ではないんだよ」
「お、おう。真顔で顔を寄せてくるな気持ち悪い。なるほど、そうか。貴様が何をいってるのかまったくわからんが……そこまでいうなら候補に上げるくらいは良いだろう」
口元を引き攣らせながら、グイッと後ろに背中を逸らす蘆屋。
「てことで。これで候補者を四人まで絞りこんだわけだが」
「絞り込んだといより貴様の戯言に押し切られただけなのだがな?」
一番の問題は……どうやって選んだ面子にアポイントメントを取るかなんだよな。
「さすがにこの時間に教室に残ってダベってる暇人なんて俺と蘆屋くらいだろうし。すでに他のパーティに入ってる相手に声を掛けて揉め事になるのも面倒だし」
「付き合わされているだけの私までひとからげにはして欲しくはないのだがな? というか貴様はすぐに物事を面倒がる悪い癖があるよな? あれか? 休日に家でゴロゴロ転がってるだけの怠惰なオッサンか?」
こいつ……俺の正体を見破ったぞ!?
「フフン、ボッチの貴様は知らないかもしれないがな? パーティを組む際は学園に登録する必要があるからな! 手元にあるデバイスを使えば、その程度はすぐにでも確認できるのだぞ? それこそ連絡など、そこから直接メールを送ればいいだけだ」
「えっ? そんな簡単なことで仲間が集められるのか!?」
ゲームだと仲間集めはアドベンチャーパートになってたし?
それこそ『どこに誰が居るのか?』をタイムテーブルで管理しながら相手のいそうな場所に何度も通う必要があったんだけど?
蘆屋に教えてもらった通り、さっそくデバイスを確認する俺。
「おお! 何だこの便利機能は!? 誰がまだソロでいるのかだけじゃなくジョブの検索まで出来るんだけど!?」
いや、偉そうに大きな胸を張ってるけど、別にお前の手柄ってわけじゃない……ていうか魔装具鍛冶師の『水無瀬』!
まだ誰とも組んでないじゃん!
こいつ、主人公ならいの一番に誘うメンツの一人なんだけど!
ていうか採掘人と強化術師にも見覚えのある名前が残ってるし!
まぁ天逆はもともとソロだったというか、半ば隠れキャラみたいなモノだったから一人ぼっちのままでも不思議はないか……。
「ふふっ、さすがに天逆以外は妥協する必要があると思っていたが……。蘆屋、お前はとんでもなくラッキーガールのようだな!」
「何がラッキーだ。むしろ貴様の話にホイホイと乗ってしまった少し前の自分を叱りつけてやりたいのだが? そもそも、その職種のメンバーでパーティを揃えようとする人間がいるはずもないだろうが」
憎まれ口を叩きながらもまんざらでもなさそうな蘆屋朔夜。
確かに『お前の中(この世界の常識)』ではそうなんだろうな!




