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youkai の詩  作者: ゴリラ
7/7

昨日

「モフチャン、あーん」

俺は、モフチャンの口にお好み焼きの切れ端を持っていった。

ソースがほんの少しつけた小さな一切れだ。

鰹節を多めに箸で挟んであげた。

「ケチくさいな」

モフチャンが、爪を立てて、卓を叩いた。

「え、そう?だって、猫にはこういうのは良くないような」

俺は、そのまま箸を皿に戻した。

「もっと、どーんとくれ」

俺の膝頭に前足を置いた。

「どーんと」

「わかった、わかった」

俺は、自分の一口サイズをモフチャンに差し出した。

べか太郎が言った。

「なーんだ、お前、お好み焼き、食べたかったんだ」

俺は、べか太郎の方を見て「そうなんだよぉ」と言った。

そして、自分の箸へ視線を戻した。

箸の間のお好み焼きは、そのままだった。

「モフチャン、ごちそうさまぁ」

モフチャンはくるりと背を向け、ピンクのキャットタワーへ登っていった。

「えっ?」

俺は自分の皿を見て声を上げた。

食べかけのお好み焼きが全部、消えていた。

また、モフチャンにやられた。

俺は、口をへの字にして、モフチャンにあげるはずだった一切れを食べた。

牛御前が低い声で笑っていた。

べか太郎は、「モフチャン、やったね」と手を叩いている。

俺は、ちっとも楽しくなかった。

「あのな、レンジでボタン押すと、出てくるから」

俺は、顔を上げた。

「お前が食べたいものがね」

牛御前が俺をまっすぐに見ている。

「そういえば、これ、俺のお好み焼き」

俺は腹が減っていて何も考えていなかった。

牛御前に言われるままに、ボタンを押しただけだった。

材料も入れてないのに、お好み焼きが手に入っていた。

「な、わかった?」

べか太郎が卓に乗り出し、俺の目を覗き込んだ。

俺は、咄嗟に後ろへ身を引いた。

べか太郎は、インパクトが強すぎる。

「思いのままに、食べたいものが出てくるんだ」

牛御前が言った。そして、続ける。

「アバターになると、最初、記憶が飛ぶんだよ。だから、自分が電子の世界に来たことを忘れている。お前、電子の世界にいるんだぞ」

俺の手から、箸が転がった。

モフチャンの食べたソースの跡が皿に残っていた。

「アバター?電子?」

俺は、内心で繰り返した。

べか太郎は、珍しく眉を寄せて、牛御前に話している。

「こいつ、まじ、思い出せないみたいだよ」

牛御前は、「ああ」と軽く頷いた。

俺は、部屋を見渡した。

ピンクのふんわりとしたキャットタワーの上では、モフチャンが前足を舐めては、顔を撫でている。

俺は自分の呼吸音を聞いていた。

「昨日」が、記憶の中に見つからなかった。

思い出そうとしても、何も出てこない。



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