宇宙海賊やろう! よんじゅうなな
そして宇宙海賊は駆逐艦に雪崩れ込みました
「『DD〇九〇』と回線、繋がりました」
重巡洋艦<オブチユウコ>の艦橋で、半ば癇癪を起していた荒木提督の耳に、やっと事態の進展を知らせる言葉が届けられた。
「双方向通信で画像付きです」
セントラル・コントロールから回されてきた回線を開くと、三次元ホログラムではなく、風景を中継する時に使用する二次元ホログラムであった。
「よう提督」
まるで記念撮影でもするように、ホログラムの画面には海賊どもが勢ぞろいしていた。誰も彼も宇宙服を身に着けて、武装していた。
完全に「DD〇九〇」こと<ハマカゼ>を制圧したことを証明するように、簡易宇宙服を着た連中はヘルメットを脱いで素顔を晒していた。
真ん中の艦長席に座り、行儀悪くコンソールに足を乗せているのは、間違いなくキャプテン・コクーンである。
その脇で、本来ならばその席に座っているはずの曽根崎少佐が両手を上げて、泣きそうな顔で集団に混ざっていた。
「おうチビッコギャング」
腕組みをした荒木提督は少しも怯む様子を見せずに言い返した。
「怪我人はいるか?」
チラリと一瞬だけ、提督の目線が美丈夫の陸戦隊隊長へ向いた。相変わらずコクーンの影のように寄り添う彼女の上半身は、間違いなく血液と思われる物で汚れていたからだ。
返り血としては相当の量である。本人がいつもの仏頂面で立っていることから、彼女からの出血とは考えづらかった。
「おっと、最初にソレを聞くか? もしかしたら怪我人はゼロかもしれねえじゃねえか。みんな、死んじまってな」
コクーンは不遜な態度のままで言い放った。確かに死亡者しか存在しないのであれば負傷者はゼロという事になる。
「チビッコギャングなら、そんなことしないだろ?」
荒木提督の切り返しに、二人同時に不敵に笑い合った。
「手の内はお見通しか」
「人質の身代金に関わるからな。宇宙海賊が無駄な殺しをしないことぐらい知っとるわ」
「やっぱり提督相手だと話しが早くて助かるぜ。こいつを含めて、ちぃとは小突いたが、まあいってタンコブくらいだよ」
足を上げたままコクーンは上半身を前に出した。
「で? ひとり幾らまで出す?」
荒木提督は怒ることなく首を横に振った。
「いちグンマ・ドルも出せんなあ。ウチの台所状況は分かっているんだろ?」
「なら、こいつらはドレイ商人へ売っ払う。この拿捕した駆逐艦も、どっかの軍事会社なら買ってくれるだろ」
「そうか。それは残念だな。オレも部下が宇宙海賊に攫われたとなると、本気で相手をしなくちゃならなくなる」
荒木提督は脇に表示したレーダーホログラムをわざとらしく確認した。だいぶ四番地に近づいたとはいえ、ランデブーした二隻は、まだ<ニイボリ・スリー>の内惑星系にいた。しかも対宇宙戦艦ミサイルの回収をする予定だった船艇に球状に包囲されたままなのだ。
荒木提督の使える艦は、重巡洋艦二隻に、駆逐艦が一五隻。他は民間船だ。
だが宇宙軍と雇用関係にある民間船とはいえ、軍務に関わる仕事をしている関係上、最低でもポンポン砲ぐらいはどの船も装備しているはずだ。
もし、これから全面的にやりあうとしたら、最低でも<ハマカゼ>を放棄しないと脱出は難しいはずである。
「おっと、人質がどうなっても構わないと?」
驚いたという顔をしてみせるコクーン。大根演技なのはわざとであろう。
「オレの部下が生きて虜囚の辱めを受けるなんてするはずがない。きっと、分かってくれるさ」
「司令…」
荒木提督の言葉を聞いて曽根崎少佐が泣きそうな声を上げた。彼の言葉が本当ならば、曽根崎少佐たち<ハマカゼ>乗組員は見捨てられることになるからだ。
「両手をおろすな」
ホログラム越しに荒木提督を睨むコクーンは、腰の大型ビームガンを抜くと、無体な事を言われて姿勢が崩れた曽根崎少佐の足元に向けた。
顔どころか視線すら向けずにビームガンのトリガーが三回絞られ、セントラル・コントロールの床に三つの焦げ跡を作った。
ビームガンの威嚇射撃に、まるで慣れないダンス教室に混ざったブタのように踊った曽根崎少佐は、肩から両腕を水平に出し、肘から先を垂直に立てるポーズに戻った。
「交渉は決裂か?」
「まだ始まったばかりだろ?」
荒木提督の確認に、コクーンが笑いながらこたえた。
コクーンのわざとらしい笑いが収まるのを待ってから、荒木提督は口を開こうとした。
その時だった。
「伝令! 伝令!」
画面の向こうに可愛らしい声で乱入する者がいた。小柄な体を簡易宇宙服で包んだ伝令役が、半分裏返った声を上げながら<ハマカゼ>のセントラル・コントロールに走り込んで来た。
ここ約一月の間に、司令部で話題になっていた元女子高生の海賊で間違いないだろう。演習の準備会議にコクーンが連れてきていたので、荒木提督にも見覚えがあった。
「通信中だぞ」
コクーンの周囲を埋める強面たちが眉を顰めた声を上げるが、それでも彼女が通れるように道を作ってやっていた。
「伝令です!」
小脇に抱えて来た情報端末を、こちらに見えないようにコクーンへと差し出した。彼はチラリと画面を確認した。三次元ホログラムならば、彼の瞳に反射して、情報端末が表示していた内容を読み取ることもできたであろうが、二次元ホログラムでは無理だった。
荒木提督は脇に表示しておいた内惑星系の対勢指示へ、今度はコクーンに悟られないようにチラリと視線をやった。先ほどから特に変わった様子は見られなかった。
「ごくろう、フレッド」
表情筋を小動もさせずに、伝令へ労いの言葉をかけたコクーンは、コンソールに上げていた両足を下ろした。
どうやら何か事態に変化があったようだ。
この好機を捉えて交渉を進めようと、荒木提督は一歩前に出た。
「チビッコギャング…、いやキャプテン・コクーン。正式な謝罪がまだだったな。今回の事故は、本当に故意では無いんだ。それでも腹の虫は収まらんだろう。<メアリー・テラコッタ>に実弾頭のミサイルが向けられたことに対して、心から謝る。このとおりだ」
荒木提督はピンと立った姿勢から、深々と頭を下げた。
「どうか部下たちを解放してもらえないだろうか」
「今回の事は、あくまでも事故だと言うんだな?」
コクーンも、もっそりと動き出した。席を立ち、海賊の集団から一歩前に出た。
「ああ。必ず調査委員会を立ち上げ、原因を追究し、責任者に責任を取らせる。なんだったら、そちらの法務士官を調査に加えてもいい」
「ふむ」
コクーンは目を細め真摯な態度の荒木提督を見た。
「外れたとはいえ、ウチの船は少々ブッ壊れたんだが?」
「それもこちらで責任をもって修理しよう」
荒木提督は手元にホログラフを呼び出し、情報を確認した。
「<カゴハラ>の中継ステーションにあるドックの一つが空いている。そこに収容するというのはどうだろうか?」
「そちら持ちで?」
「もちろん」
再度の確認に荒木提督は大げさに頷いて見せた。
コクーンはわざとらしく<ハマカゼ>のセントラル・コントロールを見回すような仕草をした。
「この艦に風穴を開けちまったが、それは怒らないのか?」
「それもコチラに非があるだろう。停船命令を無視して逃げ回った<ハマカゼ>が悪い。<メアリー・テラコッタ>の対応は、攻撃を受けた者として当たり前の物だった」
「ふむ」
腕組みをしたコクーンはダメ押しのように確認した。
「じゃあ交わした契約書は、まだ有効だということでいいのか?」
「もちろんだ。<メアリー・テラコッタ>には引き続き<カゴハラ>の防衛と、オレの部下の演習相手を務めてもらいたい」
「よし手打ちだな」
やっと厳しい顔をしていたコクーンの顔が解れた。艦長席の周りで壁のようになっていた海賊どもに振り返ると楽し気に命令した。
「おぅ、お前ら。撤収するぞ」
「へえい」
周囲の強面どもがつまらなそうに返事をした。手にしていた武器に安全装置をかけ、片付けを始めた。
その様子を確認していたコクーンは、再び硬い表情に戻ると、荒木提督に向き直った。
「話しは変わって、提督に正式な依頼がある」
「なにかな?」
まだ無理難題を言われるのかと荒木提督は身構えた。
「ミサイルの爆発で、ウチの乗員ひとりがフネから投げ出された。契約書の乗組員の人命に関する条項にあるように、正式な救助要請を出したい」
「それは大変だ。すぐ捜索に当たらせよう」
たとえ宇宙服を着ていたとしても、宇宙空間を永久に漂えるわけでは無い。大抵の宇宙服には一週間分の空気しか用意が無いはずだ。もし宇宙船から投げ出されたとしたら、すぐにでも探し始めないと助けられる者も助けられなくなる。
そして宇宙船から放り出された者…、溺者救助は宇宙船乗りならば優先して協力するのが、銀河に生きる者たちの仁義であった。
解説の続き
<ハマカゼ>を制圧:乗り込んで行って格闘してボコボコにしてって書くのを省略。だって宇宙海賊だから腕っぷしは強いはずだもの
生きて虜囚の辱めを…:第二次世界大戦の日本軍じゃないんだからさあ…。もちろん交渉のために荒木提督はこう言っているのであって、見捨てる気は毛頭ない
二次元ホログラムでは無理だった:もちろんこういった事態も考えての選択である




