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宇宙海賊やろう!  作者: 池田 和美
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宇宙海賊やろう! よんじゅうご

 さて<メアリー・テラコッタ>の「反撃」は?



「<メアリー・テラコッタ>との距離、詰まります」

 駆逐艦<ハマカゼ>のセントラル・コントロールで、追撃して来る<メアリー・テラコッタ>をレーダーホログラムで確認している船務長が曽根崎少佐へ報告した。

「なぜ振り切れない!」

 曽根崎少佐は掴みっぱなしの受話器に向けて怒鳴り声を上げた。相手は艦橋に居るはずの航海長である。

「こちらの出力は目一杯です」

 航海長も艦橋で怒鳴りっぱなしなのか、声が涸れていた。

「変針して距離を稼ぐか?」

「おそらく内側に回り込まれて、余計に距離が縮まるだけかと思います」

「艦長!」

 航海長とのやり取りに気を取られていた曽根崎少佐の気を引こうと、船務長が大声を上げた。

「提督からも停船するようにと命令が…」

「そんなことは分かっている」

 臨時の水雷戦隊旗艦となった<キタノシゲオ>艦長の高橋大佐からの停船命令も、惑星<カゴハラ>駐留のグンマ宇宙軍艦隊司令の荒木提督からの停船命令も、<ハマカゼ>はちゃんと受信していた。

「だが安全上の危険が無い限りだろう? このままでは、あの船にぶつけられるぞ」

「それは…」

 こちらが逃げるからではないでしょうかというセリフの後半を船務長は呑み込んだ。

 普通、停船命令という物は、宇宙軍が民間船を臨検する時に発する。お巡りさんがドロボウに対して「とまれ」と言うのと同じだ。

 いまの状況はその真逆で、民間船である<メアリー・テラコッタ>が宇宙軍に所属する<ハマカゼ>に停船を求めていた。曽根崎少佐は彼自身が停船命令を無視している事が<メアリー・テラコッタ>に対して敵対行為になっていると考えが及んでいないようだ。

 まあお巡りさんがドロボウに「とまれ」と言われてもピントが来ないであろう。

「よし、あと五〇〇距離が縮んだら、全力で宙返り。艦首ブラスターの射界に捉えろ」

「アイ・サー」

 受話器を握りしめたまま曽根崎少佐は斜め前のコンソールに就く砲雷長の背中を睨んだ。

「砲雷長。艦首ブラスター準備。レーザーだけじゃない、実射だ」

「ブラスター準備…、で、いいんですね?」

 コンソールに向いたまま砲雷長が確認をした。

「向こうの足を止めない事には、こちらも安心して慣性航行に移れん。船務長。聞いていたな、いまから五〇〇距離が縮んだら教えろ」

「はあ」

 船務長は生煮えの声で返事をした。

「返事はどうした?」

「アイ・サー。五〇〇距離が縮んだら知らせます」

 それからセントラル・コントロールに静寂が訪れた。機器が動作する音のみが響き、そこに詰める乗組員たちは咳すら遠慮して立てなかった。

 そのまま相対的な速度にあまり差が出ていないせいか、ジリジリと距離が詰まるのを、黙ってレーダーホログラムで確認する時間が流れた。

「艦首ブラスター準備よし」

「よし、好機を捉え次第発射すること」

 ブラスターを撃つためには、薬室内に充填した液体金属を十分に熱してプラズマ化しなければならない。砲雷長の報告は液体金属の温度と圧力が規定に達したことを意味した。

「好機を捉え次第発射、了解」

 戦闘機のような高速で機動戦を行う駆逐艦では、艦長の判断を待っていたら絶好の射点についたとしても、命令のタイミングがずれて外れてしまう事もある。よって機動戦に突入したら、実際に発射ボタンを手にしている砲手の判断に任せた方が、より実践的なのだ。

 艦首ブラスターの照準器からの映像を自分のコンソールに映し出している砲術士が、ガクガクと頷いた。

 実戦どころか公試以外でブラスターを発射するのは初めてであった。

「距離、縮まります!」

 自分のコンソールのレーダーホログラムに距離計(スケール)を表示していた船務長が緊張した声を張り上げた。

 自分の報告が新たな火蓋を切る事になる実感があるのだ。

「目標との距離、縮まります。五〇五、五〇四、さらに加速! 五〇二! 五○一! 五〇〇です!」

「アップトリム最大!」

 曽根崎少佐は艦橋に繋がりっぱなしの内線へ怒鳴った。戦闘用の宇宙船には基本的に舷窓が無いため、自艦の変針を実感しにくい。さらに慣性制御装置で艦内の重力は常に床面に対して一Gに調整されている。とくに無理な変針などしない限り、余分な加速度を感じることも無い。マニュアルを守っている限り、機動戦を行う駆逐艦と言えども、まるで地上のビルでシミュレーターを行っているような感覚で艦を動かすことができた。

 いまも宙返りするためのズーム上昇という、本来ならば乗組員たちが加速度のために座席へ押し付けられるはずの変針をしたが、艦内の乗組員に特段の不快感などなかった。

 それに対して<メアリー・テラコッタ>は一切の変針を行わなかった。Z舵を九〇度、つまり船体を進行方向そのままに反時計回りに横倒しにして、宙返りに入った<ハマカゼ>の真下を通過しようとした。

 そして突然、大加速を止めて三秒間だけ慣性航行に入った。

 駆逐艦<ハマカゼ>に対して右舷を向けて通り過ぎようとした<メアリー・テラコッタ>は、船体上部に二基、下部に一基備えた連装ブラスターの旋回を終えていた。

 各砲塔の右砲だけから、合計三つのプラズマ火球が吐き出され、高速ですれ違おうとしていた<ハマカゼ>に襲い掛かった。

 三発の内、一発が外れ、一発はノズルの一つに命中してこれを潰した。そして残った一発が見事<ハマカゼ>の後部艦体を捉えた。

 宇宙軍に所属する戦闘艦であるが、民間船と同じ程度の装甲しか持っていない駆逐艦である。

 被弾の瞬間に、乗組んでいる全員を持ち場から放り出すほどの衝撃が襲った。



 フレッドがダンゾーの背中を追いかけるようにして医務室から警務室まで走ると、そこに一人、装甲宇宙服の着用を終えた者が立っていた。

 陸戦隊の海賊たちは、みんな体格に優れた者が多い。その上に、防弾耐熱の装甲が重ねられた鎧でもある服を着たのだから、ひとりだけで警務室の空間を占めてしまって、他の者が入りにくそうだ。

「リーブスか?」

「へへ、お先に」

 肩にあるスピーカと、部屋の天井にあるスピーカと、そして簡易ヘルメット内部のスピーカと、同時に声が出た。声の調子といい、ヘルメットのバイザー越しに見える顔は、たしかにリーブスのようである。戦闘ロボットのようなゴツイ外見に加え、足にはジャンプを補助するロケットモーターまでついているから、普段と身長が違って見えた。

 だが彼は第四近接防御に居残りをしていたはずだった。

「応急班との連絡はどうした?」

 もっともなダンゾーの質問に、ヒートライフルをガチャガチャ弄っていた手を止めて、リーブスは答えた。

「応急班が来て申し送りは済んでいます。それで、おっつけ刀でココを通りかかったら、船長から白兵戦(カケアイ)の準備だって連絡が入りましてね。こりゃ早い者勝ちだと」

 両腕を上に曲げてガッツポーズを取って見せた。上半身が血まみれな彼女を見ても驚きもしないのは、ダンゾーの受け答えがしっかりしているからだろう。まあ陸戦隊員は他にも数人がナーブラの血を浴びて汚れていたので、彼女だけ特別に見えなかったのかもしれない。

「ふうん」

 つまらなそうに鼻を鳴らしたダンゾーは、全員に向き直った。

「ヤローども、コレを見るんだよ」

 ダンゾーが事務机の上にある端末を操作すると、室内にホログラムが投影された。これから白兵戦を予定している駆逐艦の艦内見取り図である。

「相手はグラジオラス級駆逐艦。最新型とはいえ駆逐艦にゃ違いない。よって通路もこんな幅しかない」

 立体模型のようなホログラムが拡大された。ホログラムの中の通路には歩いている人間まで再現されていた。おそらくあれは平均的な人間の大きさであろうから、そこが<メアリー・テラコッタ>の通路よりだいぶ狭いことが、素人のフレッドでも理解できた。

 装甲宇宙服を着た者が仁王立ちになれば、たとえそれが小柄なフレッドでも、脇をすり抜ける余地は無さそうだ。

「よって装甲服を着るのは二人。残りはこのまま行く」

 フレッドが予想できたように、ダンゾーは装甲宇宙服を全員で着るのではなく、限定した人数にすると判断したようだ。簡易宇宙服でもある程度の防御力はあるので、動きやすさを重視するようだ。

「ひとりはリーブスが志願してくれたが…」

「俺が!」

「オレオレ!」

「まって、俺の番だろぉ!」

 士気旺盛な陸戦隊員たちが先を争うように挙手してダンゾーにアピールした。やはり装甲宇宙服を着て敵に突っ込んでいくというのは陸戦隊…、いや宇宙海賊として花形なのだろう。

 腕組みをして満足そうに男たちを見ていたダンゾーは、ウンとうなずくとレッドミルを指差した。

「よしっ。今回はレッドミルが装甲服を着て、盾となって先頭。他の者は簡易宇宙服で突入する」

 近接防御から医務室へ直行したので、全員が簡易宇宙服姿のままだ。ダンゾーの指示を受け、男たちは装甲宇宙服へ着替えようと脱いでいたヘルメットを再び被り直した。

 警務室の空間を占有している装甲宇宙服姿のリーブスを避けるようにして「タコ部屋」と綽名されている奥の部屋へと押しかけた。その部屋には他の装甲宇宙服と一緒にヒートライフルもしまってあるのだ。

 取り残されたダンゾーが、腕組みをして装甲宇宙服の分だけ高くなったリーブスを見上げた。

「勇敢にも志願してくれたリーブスは『後詰め』な」

「そんなあ」

 装甲宇宙服というごつい姿のままでリーブスが肩を落とした。見た目がそんな勇ましい姿でしょんぼりされると、もはや冗談にしか見えなかった。

「後詰めってなんです?」

 フレッドが当然の質問をした。宇宙船で白兵戦なんて、もちろん人生初である。

「こっちから乗り込んでいる間に、向こうからこっちに逆襲してこないように、エアロックを守る役目さ」

 リーブスはしょんぼりしつつも教えてくれた。

「今回は相手が小さいから殴り込むのは陸戦隊だけだろうが、相手がでかいと総がかりって言って、乗組員全員で突っ込んでいく時もある。その時、留守番が居なかったら、逆にウチが乗っ取られちまうだろ」

「あ~」

 なるほどと手を打っていると、つまらなそうにリーブスは言った。

「相手の逆襲があれば楽しい配置なんだが、こんな小舟相手じゃそんなことも無いだろ。ちぇ」

 腐った声を出す装甲宇宙服の腰の辺りを叩いてやりながら、フレッドは励ました。

「誰かがやらなきゃいけない仕事ですよね。それを任されるなんて凄いじゃないですか」

「抜け駆けしようとしたバツゲームだ」

 バッサリとダンゾーが断言した。

「隊長…」

 せっかくフォローしたつもりだったのに台無しにされてしまった。もしかしてダンゾーはリーブスの抜け駆けに怒っているのかもしれない。

「隊長」

 陸戦隊員が、持ち出して来たヒートライフルの一挺をダンゾーへと渡した。もちろん充電もマガジンも一杯の奴である。

「うむ」

 ダンゾーは頷いて受け取ると、そのままヒートライフルをフレッドに差し出した。

「フレッド。おまえの分だ」

「隊長は?」

「コレがある」

 そう言ってダンゾーは腰の太刀を鞘の上から叩いた。今回乗り込む先が駆逐艦なので、射撃の機会は少ないと判断したのだろう。ビームガンなどで撃ち合いをするには、ある程度の距離が必要だが、狭い駆逐艦ではそんな空間は無いはずだ。

「おまえも、もちろん後詰めだ。私たちが帰る場所を守ってくれよ」

「はい」

 初めて触る大型武器に、手に震えが来た。

「リーブスはフレッドに、ヒートライフルの使い方を教えておけ」

「へえい」

 気の抜けた声でリーブスが答えた。

 また、あの不協和音が三段階重なる警報が鳴らされた。自然と警務室に居た全員が、スピーカのある天井を見上げた。

「白兵戦五分前。陸戦隊は配置に就け」

「そら来なすった」

 ナナカの声に元気よくこたえる海賊ども。装甲宇宙服を着ている者も、簡易宇宙服のままの者も、一団となって移動を開始した。

 ダンゾーは満足そうに男たちを見送ってからヘルメットを被った。上半身が血まみれのままなのに(いと)わしいとは思っていないようだ。

 慌ててフレッドもヘルメットを装着した。

「どこに行くんです?」

「乗り込むのは右舷にあるフォースト・ボーディング・ブリッジからだ」

 警務室からドヤドヤと通路を後方へ行くと、気密扉に一枚のシートが貼ってあった。


<現在、この部屋は臨時のエアロックとして使用しています。ご迷惑でしょうが隔離区画以外へのご用事の方は、う回路をご使用ください。第三分隊応急班>


 まるで町で見かける共同溝を工事しているような掲示であった。ヘルメットを被った工員がオジギしているイラストまで添えてあった。

「おっと、そうだった」

 先頭を行っていたホームズがクルリと回れ右をした。それが合図だったかのように陸戦隊全員が振り返り、それまで最後尾だったフレッドとリーブスが先頭になった。

 元は軽巡洋艦だった<メアリー・テラコッタ>だって通路が広いとは決して言えない幅だった。しかも区画ごとに気密を保つための扉まである。

 装甲宇宙服を着たリーブスは、器用にも気密扉の度に体を縦にしてくぐり抜けていた。

そうやって居住区画を抜け、前の方のタラップでふたつ上の短艇甲板へと上がった。

 装甲宇宙服だとタラップの踏み段にうまく足が乗らないからか、リーブスは手摺を掴んだ腕の力だけでタラップを登った。

 格納庫の扉には、この先無重力注意のピクトグラムが掲示されていた。

 そこをくぐると宇宙服に身を固め、手に武器を持った海賊どもが集まっていた。

 狭い格納庫には幅いっぱいに<オクタビウス・ワン>が収まっており、天井からは逆さになった<オクタビウス・ツー>がぶら下げられていた。狭いところに押し込んでいるものだから、宇宙桟橋で見る時よりも大きく感じられた。

 格納庫内部は無重力状態とされていた。おそらく天井から下げられている<オクタビウス・ツー>へ気軽に飛び移れるようにするためだろう。無重力ならば体育館のような空間でも、簡単に天井まで飛びあがれるからだ。

 艦載水雷艇が占めている空間以外の場所に、上下左右の区別なく、けっこうな人数が浮かんでいた。

「これは?」

 フレッドの当然の疑問に、リーブスが教えてくれた。

「他の分隊の陸戦配置の(もん)だ。今回は俺らと一緒に後詰めだな。あと突っ込んだ誰かが怪我をした時に、手当なんかもしてくれる」

 言われて見てみれば、おそらくサドと思われる簡易宇宙服姿の女も来ていた。ナーブラの治療はどうなったのか訊ねたいところであった。

 全員、真面目に簡易宇宙服や標準宇宙服を着ている。どちらかに揃っていないのは、おそらく元の戦闘配置による違いと思われた。

 そんな有象無象の中で、補給長のレディ・ユミルだけがヘルメットを被らずに、床に仁王立ちになっていた。

 白地に黄色が入った簡易宇宙服の胸にショルダーホルスターを提げ、そこには大時代的なリボルバー、コルト・シングル・アクションがぶち込んであった。

 もちろん武器はそれだけではなく、海賊流でもうひとつ持っていた。腰にストラップで提げているのは電磁警棒(ショック・バトン)と思われた。

 武装としては他の海賊と似たり寄ったりであるが、ひとつ違う点があった。

 三つ目の武器としてレバーアクション式のライフルを両手で抱えているのだ。

 そんな勇ましい物を抱えて素顔を晒しているものだから、表情がいつもより凛々しく見えた。

 格納庫の壁際に、オイル缶を重ねて固定した台が用意されていた。ダンゾーがそこに着地すると、格納庫内を見回すような素振りをした。

 自然と注目が彼女に集まった。なにせ、すでに上半身は血まみれなのだ。注目を集めないわけがない。

「おはようヤローども!」

「おはよ!」

「おはようございます」

「はよ~ん」

「見える! 見えるぞよ。キミの後ろによからぬモノが。これは誓約の腕輪。これを購入すれば…」

「これからって時に変なものに勧誘するな」

「おはよう」

「おーっす」

 格納庫全体から返事が返って来た。

「聞くまでもないだろうが…、準備はいいな?」

「おおー」

 ダンゾーが、まるで舞台から会場に呼びかけるバンドマンの調子で声を張り上げた。フレッドが格納庫を見回すと、海賊どもが手にした武器を振り上げてこたえていた。

「相手はグラジオラス級駆逐艦だ。私らの得物にしちゃあ小魚だが、乗っているのは正規の軍人たちときた。反撃はそれなりの激しいはずだから、うかつに動いてケガすんじゃないよ!」

「おおー」

 陸戦隊も他の分隊も関係ない。今すぐにでも乗り込んで行って、相手をぶん殴る気マンマンであった。

「ブッこむのは私ら陸戦隊のみ。制圧したら、他の手を借りるかもしれねえから、ちょいと待っていてくれ」

「ぶー」

「ズルイ!」

「俺たちにも分け前をよこせ!」

「いかん! いかんぞ隊長! 独り占めは悪行だ! それを許されるためには、この誓約の腕輪を…」

「おまえは、どうしてもソレを売りたいんだな」

「おれも参加させろ!」

「私にも撃たせて」

 海賊たちから白兵戦に参加させろとブーイングが上がった。だが譲れないとダンゾーは手で制した。

「ブッこむ。一階層おりる。セントラル・コントロールを制圧。それでおしまい(ザッツ・イット)

 指示はとても明確で分かりやすかった。



 警報が鳴りっぱなしであった。

 すれ違いざまに<メアリー・テラコッタ>の砲撃で動力部を破壊された<ハマカゼ>は、最後に噴かしたエンジンの推力の方向のまま、宇宙空間を漂っていた。

 副長からの報告によると、海賊たちの射撃は正確で、主缶と呼ばれる縮退炉は全くの無傷である。もしここにダメージがあったら、大爆発を起こして機関科員どころか全員が即座に宇宙を漂う星間ガスに変換されていたところだ。

 ただメインエンジンである主機が、艦体を斜めに貫通したプラズマのせいで、全て使用不能になっていた。

 これでは、いくら主缶から電力を供給しようが、推進剤をプラズマ化できないので推力を得る事が出来ない。

 どう考えてもドック入りして大修理しないとならない状況である。しかし艦長を務める曽根崎少佐は、できるだけの復旧を副長に命令して、ディフェンス・コントロールとの会話を終わらせた。

「<メアリー・テラコッタ>が速度を同調させます」

 一度床へ放り出された船務士が、自分の席へ戻って来た。放り出された時に打ったのか、しきりに右手で左肩を撫でていた。

 いったん行き過ぎていた<メアリー・テラコッタ>は、鋭い旋回をすると<ハマカゼ>の左舷側に並ぶように近づいて来た。

 クルリと前後を入れ替えるように回ると、進行方向に向いたメインノズルで逆噴射をして今までの加速を殺し、後は船体各部にある姿勢制御用のスラスターだけで近づいて来た。

「どうする気だ?」

 恐怖で口の中を乾かした声で曾根崎少佐は言った。その言葉にセントラル・コントロール内部から答えは無かった。

「攻撃しますか?」

 砲雷長が曽根崎少佐に訊いた。やられたとはいえ、まだ主砲もポンポン砲も無傷で残っている。主缶からの電力供給も絶たれていなかったので、プラズマの生成に問題は無いはずである。

 スラスター全開で艦の向きを変え、近距離からの艦首ブラスターを一撃ぐらい浴びせるぐらいならば十分可能なはずだ。

「…。それは止めておこう」

 あんな高速ですれ違いざまの射撃だったのに、主機だけを破壊するという腕前である。慣性航行のままに漂っているだけの今の<ハマカゼ>ならば、好きなところに六〇センチブラスターをぶち込めるに違いない。もちろん主砲やポンポン砲を一個ずつ潰すこともできるだろう。そして艦体の一番奥にある曽根崎少佐たちが座るセントラル・コントロールだって例外ではない。

「射撃レーダーも発振するな。きっと通信を試みて来るはずだ。通信士は聞き逃さないように」

「アイ・サー」

 しかし曽根崎少佐の予想は外れた。

 遠くから次々と、何か金属同士の物が噛み合うような音が連続して聞こえて来た。

「?」

「<メアリー・テラコッタ>から伸びて来たロボットアームが、我が艦を掴みました。他にも複数個所に、係留索が撃ち込まれています」

 先端に装甲板へ貼りつく粘着弾頭をつけたグレネードが<メアリー・テラコッタ>から撃ち込まれたのだ。弾頭には頑丈なワイヤーが取り付けられており、反対側は装甲板の下に隠したウインチやキャプスタンに繋がっていた。それでワイヤーを巻き取れば、手がかり足がかりが無い宇宙空間と言えども、二隻の位置は固定されるというわけだ。

 装甲板に次々に与えられた衝撃が<ハマカゼ>の艦体を揺らし、その振動が艦内の空気に伝わって曽根崎少佐たちの耳まで届いたのだ。

「まさか…」

「艦長。連中、乗り込んでくるつもりですよ!」

 砲雷長が悲鳴のような声を上げた。いちおう駆逐艦の乗組員にも陸戦訓練は為されるが、基本は技術職で実際に切った張ったの世界とは無縁のはずだった。

 そこで曽根崎少佐はやっと思い出した<メアリー・テラコッタ>は「宇宙海賊船」だという事に。




 解説の続き(段落ごとにまとめてみました)


「あと五〇〇…」:距離の事だけどキロメートルなのか、海里なのか単位は考えていなかった。まあ、それなりに近づいたらってことで

「アップトリム最大」:既述したとおり「一杯」が九〇度変針で「最大」が一八〇度変針

真下を通過:<メアリー・テラコッタ>は<ハマカゼ>の次の動きを読んでいたため、最小限の舵しかきっていない

三秒間だけ慣性航行:もちろん慣性制御装置を元に戻して発射されるブラスターのプラズマが「見かけ上の質量」から本来の質量になるようにしている。それと同時に精密射撃用の射撃諸元も掴んでいるはずだ

発射された三発:外れた一発は分解整備が必要と報告されていた三番砲塔の射撃。ノズルに命中したのは一番砲塔の射撃。もっとも船の中心に近いため精密射撃に向いている二番砲塔の射撃が機関部を貫いた


机の上の端末:内線として事務室から電話がかかって来た物だ

「リーブスは『後詰め』な」:まだ素人であるフレッドの面倒をみろと言っているのであろう。先に抜け駆けしたからというより、一番信頼しているということだ

ヒートライフル:現在のアサルトライフルの未来版とする。ビームが出るのかレーザーが出るのか決めていないけどね

レディ・ユミルの武装:シングル・アクション・アーミーにレバーアクションのライフルという西部劇でお馴染みの組み合わせ


「射撃レーダーも発振するな」:それだけで敵対行為と取られるからである

「係留索が撃ち込まれてます」:<メアリー・テラコッタ>の第一分隊が宇宙服で甲板に出て、手に持ったランチャーで撃ちこんでいるという設定


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