079 変身ヒモパンの今後って?
「いやぁ、凄まじい爆発音だったなぁ」
「ええ、アプリルさん? あの爆発は、本当に魔法ではないのですか?」
「あっ はい、違いますよ?」
あれから、合流してきたルシアママとレニーさんだったけど?
やっぱり塔の中でも、すっごい音と振動がしたみたい。
ねんのためにキマイラの足元にも【アスガルド】を張ってもらってよかった~
(でなかったらいまごろ、屋上の床が抜けてたかもね)
そうしたら、下の階にいたルシアママたちも無事じゃすまないし?
とにかくあの【水蒸気爆発】で、キマイラが討伐できてホントによかった
「たしかにあの大量の【水】と【溶岩】は、魔法で出したものですけど?」
「ええ」
「じっさいの火山とかでも、閉じたところにある水に溶岩が流れ込めば? お山のカタチが変わっちゃうくらいの爆発をおこすんです」
「そ、そうなのか?」
「恐ろしい……ですね」
「こわいですよねぇ」
さすがのキマイラも、あの規模の爆発は未体験だったみたいだ。
さんざん【舐めプ】してくれた、バチがあたったと思いたい。
「しかし、よくもそんな作戦を思いついたな?」
「ええ、本当に」
「え? あ、ええと~ ステラさまの遺されたご本に?」
「ああ、なるほど」
「さすがはク──いえ、アプリルさんですね」
ふう、やっぱりステラママの名前を出すと、説得力があるなぁ
もちろん【水蒸気爆発】は、前世の知識からだけど?
と、そのとき──
「あ、アマーリエさんっ しっかり!」
アマーリエさんが手で頭を押さえて、辛そうにしてる!
「え、ええ……なんだか少し、めまいが──」
「大丈夫ですか!」
「え、ええ。なんでしょうか、その……なんだか、目の回るような感じの様な」
「ああ、それならおそらく【レベルアップ酔い】だな」
「レベルアップ酔い、ですか?」
「ああ、アマーリエ? 其方は冒険者ではないから、レベルが1だったのだろう?」
「ええ」
「それが先ほどのキマイラの討伐で、一気にレベルが上がりすぎたのだ」
「レベルが、上がりすぎる?」
「レベルが上がると、その身体能力が上昇するからな。普通は少しづつ上がるから、その差異も判りにくいのだが」
「そうなの、ですね?」
「ああ、一気に上がりすぎるとその差異に頭が追いつかず、まるで酔いが回ったような状態になるそうだ」
あー、レベルアップ酔い、前世でもあったなぁ
ルシアママたちに【パワーレベリング】してもらったときに~
「え? じゃあワタシも、すっごくレベル上がってるんでしょうか?」
「ああ、聞けばこれまでの魔物はすべて【封印】だったらしいが、今回のキマイラは、完全に【討伐】してからの封印だったのだろう? 故に、かなりの経験値が入ったはずだ」
「おぉぉ ならこの騒ぎが終わったら、調べてくださいっ アマーリエさんっ」
「それは構いませんが……武器職人のアルタムさんがレベルが上がっても、使いみちがないのでは?」
「はっ! そうでした」
「それに高レベルになると、ビキニアーマーの面積が減りますよね?」
「そうでしたぁ!」
「ま、まさかあたしもかいっ アルタム!」
「あ、【上級者】もレベル35を超えると、ビキニ小さくしないとダメですねぇ」
「なんてこった!」
「でも、この【戦装束】に比べれば~」
「こいつは【認識阻害】っての、してくれるんだろ? いつもの神官服のビキニは、そんなのしてくれないんだよっ」
「あ~」
ん? そういえば、
「そういえば……この【悪霊】と【6体の魔物】の騒ぎがおさまったら、とりあえずこのチームは解散ですよね?」
「ん? ああ、そうなるな」
「ええ、アプリルさんも、目的は果たした事になりますよね?」
「じゃあこの【変身ヒモパン】って? これが済んだら、私が皆さんの分もエルフの森に持ち帰るんでしょうか?」
なんて聞いてから、ちらりとぼくのカラダのアプリルさんを見ると?
『さ、さあ?』みたいなこまったお顔でぼくを見てる。
「ふむ、だが現在のエルフの森には、その【戦装束】を伝える者は、アプリルしかいなかったはず」
「え? ええ、そうですね(棒)」
「故に、従者の戦装束は【6体の魔物】の封印のあいだの期間限定、もしくはその従者の生ある限り──なのやもしれぬな」
「な、なるほど」
「え? じゃあこの変身ヒモパン、ワタシたちがもらっちゃっていいんですか?」
「ええ、6体の魔物をすべて封印後、残っていれば、ですが」
「それにこの【戦装束】に変身しないと、あれらの魔法は使えませんよぉ?」
「そうでした!」
うん、この【セーラー服美少女戦士】ふうのビキニ。
ビキニアーマー全盛のこの世界でも、けっこうキワモノ扱いなんだよねぇ
だから? プライベートでもコレを装備したいってヒトは、いないかも?
◇◆◆◇
「な、なんということでしょう」
「ああ、まさか、とは思ったが……」
あれから──
どさくさにまぎれて逃げた【悪霊】と、最後の1体の魔物。
それを探してぼくらはまた、塔の捜索を続けました。
そして宿屋で一夜を明かした朝──改めて地下を捜索し始めたら……
「こんなところから、ダンジョンが広がっているとはな」
「ええ、しかもこの階段を降りた先は……」
「魔素が濃い、ようだな」
そう、キマイラ討伐の時の振動のせいか?
隠し通路への入り口みたいな壁が崩れてて、その先には通路が続いてたんだ。
「アイナさん? これって」
「往々にして【魔素】の濃いダンジョンは、なぜかその規模が拡張するのです」
「え? ダンジョンが、勝手に、ですか?」
「ええ、まるで生き物のようにその身を伸ばし、新たな階層すら作り上げる……話には聞いてましたが、実際にそれを見るのはわたしも初めてです」
「そんな」
「ともあれ、捜索するしかないだろうな」
「ですね、ではチーム分けはどうします?」
「いや、ここは多少の距離を置く程度にして、同行するとしよう」
「私とアイナ、そしてアプリルが先行。その後を残りの4人で追う形としよう」
「ええ、それがいいでしょうね」
「では、後ろのチームのリーダーはクリス、殿は神官のレニーに頼む」
「わ、わかりましたっ」
「ええ、承知しました」
◇◆◆◇
とはいえ、
「【ホーリーブレス】」
パァァァァァ、
アイナママが杖を掲げて神聖魔法を放つ。
それだけで、たくさんいた魔物──アンデッドたちが浄化されていった。
そう、タフクの塔の地下にできた増加版ダンジョンは、アンデッドの巣窟だったんだ。
「むぅ、最初はどうなるかと思ったが、おおむね【中級者】でなんとかなるレベルの魔物だな」
「ですね、ほぼアンデットですけど~」
とはいえ? さすがに初めて人が足を踏み入れたダンジョンだけあって?
そのアンデッドの数はハンパなく、さっきから全然とぎれない。
けど? こっちにはアンデッド系に強い【神聖魔法】のエキスパートがいる。
だからさっきから、
「【ホーリーブレス】」
パァァァァァ、
アイナママがほぼひとりで無双しちゃってます。
「ぐぬぬ、【レイス】やゴーストならともかくっ ゾンビやスケルトンなら、剣や風刃で討伐できるではないか!」
「いえ、そもそもアンデッドは元々人族や亜人の成れの果て。ならばむしろ、天に送ってこそ供養ではありませんか」
「ぐぬぬ」
とまぁ? さっきから出番のないルシアママはおもしろくないみたい。
ソレに対してアイナママは珍しく、ドヤ顔をキメちゃってる~
(あとアイナママー、さっきから後ろでレニーさんが)
『あたしのホーリーブレスと格が違う……』
(って落ち込んでるのに、きづいてー)
そりゃまぁ? アイナママは【英雄級】の神官で、しかもその最高位の【聖女】。
ホントならたいした威力じゃないホーリーブレスも、メッチャ効き目ありすぎ。
「つーまーらーんー 華麗に活躍して、最愛の息子に尊敬の瞳で見られたいー」
(ルシアママっ 本音がダダ漏れだよ!)
な~んてぼくらがお話してると、
「これは、行き止まりでしょうか?」
「ふむ、それにしては一本道だったのだが──」
カッ!
そのとき、ぼくたちの足元の床に、現れた魔法陣。
それが一気に輝きを増して──
(しまった! 強制転移!?)
そして消えゆく景色のなか、
「あ、アイナさまたちが!?」
慌てて駆け寄るアプリルさんたちの姿が、最後に見えたんだ。
◇◆◆◇
「こ、ここは……」
「ふむ、この声の響きよう、かなり広いな」
「ふたりともっ 身体に異常はありませんか!?」
「あ、私は大丈夫ですっ」
「ああ私もだ、アイナはどうだ?」
「ほっ ええ、わたしも異常はありませんが──」
ズンッ!
「なっ!」
「アイナ! 灯りを!」
「ええっ 【ライト】!」
ぱぁ、
そこに見えたものは──
最初、見上げるような大きな岩かと思った。
ズズズズ……
けど、それは這うようにこちらを振り向いた。
そのカラダは太くて手足がなく、まるで鎧のようなウロコに包まれている。
そしてそこから伸びる9本の長い首は、赤い目をらんらんと光らせて──
「【九首の大蛇】、ヒュドラか!」
「こ、こんなところにいたのですね」
パッ!
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【ヒュドラ】
出典:万物真理事典『ステペディア(stapedia)』
9本の頭を持つ巨大なヘビの魔物。
魔族大陸の辺境にあるとされる毒の沼地に生息し、
水辺では不死に近い生命力を発揮するとされている。
巨大な胴体に9本の長い首が生えており、それぞれが独立した意思を持つ。
毒のブレスを操り、その毒は浴びた者をまたたく間に死に追いやるという。
その硬い鱗は生半可な剣では通用せず、たとえ首を切り落としたとしても、
強力な再生能力で瞬時に生え変わるといわれている。
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そこは石作りの広い空間で、その天井は見上げるほどに高いところにあった。
(けどヒュドラが大きすぎて、なんだかせまく見える!)
「ともあれ、ここは私達だけで討伐するしかないな! 喰らえ!【真・塵旋風】!」
ギュオォォっ!
ルシアママが放った逆巻く竜巻が、ヒュドラに向かって放たれた!
粉塵を含んだ強固な風刃が、そのカラダに襲いかかる。
けど──
ブワァァァッ!
「なん、だと!」
ヒュドラがその9本の首を激しく振ると、風刃はそのまま霧散してしまった!
「あ、あのウロコが風刃を防いでるんです! もっと強力な刃でないとっ」
「むぅ なら1本づつ落とすまで! せやっ」
ヒュバッ!
ルシアママが振るう剣から、巨大な風刃が放たれた!
そしてそのままヒュドラの首の1本に届くと──
「やった!」
そのまま首は切断され、地面に落ちていった!
だけど──
ブゥン、
「なにぃ!? さ、再生、しただと!」
「し、しかもこんなに早く!?」
首がなかったのは、ほんの数秒たらずのこと。
その切断面に魔法陣が光ったかと思うと、切ったはずの首が再生されていた!
「あ、ありえませんっ 魔物がこんな再生をするだなんて!」
「でも【6体の魔物】は【不死性】があって、倒しても復活するって」
「くっ コイツも魔族にいじられているということか!?」
そんなぼくらが戸惑いを隠しきれずにいると──
ゴガァァァ!
「なに! ブレスだと!」
「こ、これは毒のブレスです!」
キマイラの尻尾のヘビが吐いていた、毒のブレス!
その毒が、9本全部の首から発射されて──
「まずいっ【風防壁】!」
ヒュゥゥッ!
ルシアママの放った風が防壁となって僕らを包み、毒のブレスを吹き飛ばす!
風の防壁なら、こんな毒のブレスの対処にはぴったりだった。
「まいったな、これではうかつに近寄れない」
「ええ、しかもあの再生能力、どうしたら──」
「アイナ? 毒のブレスを防ぐ神聖魔法の防壁は?」
「【アスガルド】なら、しかしこちらからの攻撃も困難になります」
「むぅ なら──」
「解毒の呪文【スケルチブラッド】をかけ続けるしか、」
「それしかないか、」
せめて火が使えるアマーリエさんがいれば、その切断面を焼くという手段が使えたかもしれない。
(けどあの異常な再生能力は、どんな魔法も防いでしまうかも? なら、この手しかない!)
「ルシアママ、アイナママ?」
ぼくはアプリルさんのマネを止め、クリスとしてそういった。
「ヒュドラを倒すには……9本の首、そのすべてを同時に切り落とすしかない、そうだよね?」
「あ? ああ、一般的なヒュドラはそうだが」
「ですがあの再生の速度では、よほどの速さすべてを切断するしか……」
「私の風刃でも、さっきの威力なら1発づつが精一杯だぞ?」
「うん、でもぼくたちが直接、【ソニックブレード】で切りつけたら?」
「むぅ、あの僅かな間にか? 私なら3本、いや、4本いけるか。だが、私はともかくお前の剣技では──」
ルシアママのいいたいことはわかる。
いくら【姫巫女の戦装束】をまとったアプリルさんのカラダでも、その技はルシアママには及ばず、上回ることはない──って。
「うん、だけどそれを可能にするマジックアイテムが、ステラママの遺品にあったとしたら?」
「なにっ?」
「まぁ」
「もちろんそれは、そう何度もつかえるものじゃないんだ。だけど──」
「それに賭けるしか、ないか」
「あぁ、ふたりともどうか気をつけて……【アインヘリヤル】!」
ぱぁっ
ぼくとルシアママの身体を、アイナママの神聖魔法が包み込む。
【アインヘリヤル】──衝撃を緩和・消滅させる神聖魔法の正防壁だ。
その虹色の輝きをまとったまま、ぼくたちは、
毒のブレスでカラダを覆う、ヒュドラの姿をにらみつけたんだ!




