069 魔物の素材のありかはどこへ?
「ふぁぁぁぁ、ねむぅ」
思わず大きなあくびをしちゃって、目からナミダが出ちゃうぼく。
だって、寝てないんだもん。
「こほんっ アプリルさん? 淑女が人前で、大きな口を開けてはいけませんよ?」
「ご、ごめんなさい、アイナさん」
慌てておくちを手で覆うぼくだけど?
アプリルさんも、ぼくのカラダで困り顔で見てて~
うぅ 素直に反省しますぅ
「でも、ほんとうに良かったですよ! アルタムさんを含めて全員無事だし!」
「ええ♪ それに【大鋏の悪魔】──カルキノスでしたっけ? 無事に討伐して、封印できました」
「ですよねぇ」
とはいえ~
あんな大型で重力級の魔物が街の中で暴れたから?
街の中、特に石畳の地面は穴だらけにされちゃった。
それに大きな音と地響きがしたから、人もいっぱい集まってきちゃったし。
「でも、討伐の時間はわずかな間でしたけど……まさかその後の冒険者ギルドの取り調べが、一晩中続くだなんて、ふぁぁぁ」
「アルタムさんまで~」
ぼくに負けない大あくびをするアルタムさん。
そう、ぼくたち4人は全員、冒険者ギルドの取り調べを受けたんだ。
しかも領主様の配下の人とか、街の守護兵士さんたちまで加わったから?
それはもう、何度も何度も説明するハメになっちゃって。
「でも。さすがはアイナさ──アイナママだよねっ アイナママが証言すれば、みんな信じてくれるし」
いくらカルキノスを討伐したとはいえ、街の中がああも壊されちゃったら?
ぼくらもそのまま撤収!
ってワケにはいかなかったんだよねぇ
「ホント、おかげで助かりましたっ、アイナさんっ もしアイナさんがいなかったらとおもうと、今でもまだ尋問されてたかも?」
「で、ですよねぇ」
お互いにお顔を見合わせて、ウンウン頷きあうぼくとアプリルさん。
あの時アイナママを呼びに行って、本当によかった、
「ええ、ですが今回はなによりの【証拠】がありましたからね」
アイナママのいう【証拠】は、カルキノスの【大鋏】、しかも大きい方。
普通魔物は討伐されると、魔石を残して消滅しちゃうんだけど?
「おそらく現在のカルキノスは封印され、時間が停まっているようなもの。本体がその状態ですからあの大鋏も消滅も再生もせず、残ったのでしょうね」
「なるほど~」
もともとカニとかザリガニって、ハサミが取れちゃっても、脱皮すればまた生えてくるし?
だからもう、アレは【生きた魔物の一部】じゃなくなったのかも?
「そうなると、素材として使えるんでしょうか? もしも【魔物の素材】で武器や防具が作れたら、んふふふ!」
「あ、アルタムさん?」
武器と防具の職人であるアルタムさん。
寝てないのも手伝って、なんだかとってもハイ?
でも~
「というか、あの大鋏って、誰のモノなんでしょう?」
「そうですね……」
ぼくがアイナママにそう聞いてみると?
「討伐した魔物の魔石は原則、それを討伐した冒険者の物になりますね」
「だったら、私たちのモノですか?」
「ですが、ドラゴンなどの大型の魔物の魔石はかなり価値が高く、冒険者ギルドが強制的に買取りをするという事例もあります」
「そうなんですね」
【魔石】はあくまで【討伐証明】としてギルドに収めるワケで、それが【討伐報酬】としてお金になるんだ。
そして魔石は、マジックアイテムとかの電池代わりに使われたりもするから? ギルド以外でも高く売れる。
だけど珍しくて価値のある魔石なら、ギルドが強制的に──というワケかぁ
「今回は魔石以上に希少な魔物の素材。しかもアルタムさんの言う通り、武器や防具に転用できそうとなれば……これはもう、一筋縄ではいかないでしょうね」
「ですよねー」
しかも長さ2メートル近い大鋏!
そのまま飾っておくだけでも、王侯貴族とかが欲しがりそう。
「それにしても」
「あ、アルタムさん?」
「ワタシが【姫巫女】様の従者、ですか~」
「え、ええ」
しみじみとそういうアルタムさん。
そういうアルタムさんの股間には、あの【変身ヒモパン】がある。
【悪霊】をおびき寄せる、囮をしてた時に装備してたビキニ。
そのショーツは【変身】を解いた後も、変身ヒモパンのままだったんだ。
だからそれが【夢】じゃなかったという証拠でもあるワケで~
「あの、アルタムさんっ」
「はい?」
「私たちの都合に巻き込んでしまって本当にごめんなさいっ」
「ひ、姫巫女様っ 頭を上げてください!」
ぼくはそんなアルタムさんに頭を下げる。
アルタムさんを、こんな危険なことに巻き込んでしまったから。
「ですがこうなってしまっては、アルタムさんにも力を貸していただくしか──」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ! ワタシ、これからもちゃんと協力しますし」
「ほ、ほんとうですか?」
「ええ、もともとワタシから言い出したことですしね? 囮になるの。それにあの格好に【変身】したときに、だいたいの事情は判りましたから」
「そ、そうなんですね、やっぱり」
あのカルキノス討伐の時も、アルタムさんは誰にも教えてもらうことなく、難なく魔法を使った。
そしてアプリルさんのカラダのぼくを、心配して抱きつき【姫巫女】と呼んだ。
それはもう、
(千年前の【姫巫女の従者】の記憶とか知識がある、そういうことだよねぇ)
アルタムさんに元からその記憶があるのか?
それとも、変身したから記憶が流れ込んできたのか?
どっちかはわからないけど、とにかくそういうことっぽい。
(これはまた、ミヤビさま聞かないとなぁ っていうか、こうなるなら先に教えといてほしかったよ!)
なんて、ぼくがまたミヤビさまのことを考えてると~
「それに、んふふふ!」
「あの、アルタムさん?」
「それにこのワタシが! ドワーフのワタシがですよ! あんなすごい精霊魔法を使えるだなんて~~~っ」
「あー」
「そりゃぁ? マジックアイテムに攻撃魔法がエンチャントされてるのとか? そういうのは実際に、発動させた事もありますけどね?」
「あ、あるんですね? そういうの」
「でもなんですか! あの滅茶苦茶強力な魔法! しかも下着一枚で変身して、あんな強くなるとか反則でしょ!?」
「で、ですよねー」
あ、アルタムさん?
なんだかすっごい早口なんですけど!
「とにかく!【6体の魔物】でしたっけ? それでもこんなチカラが使えるならっ ぜひ協力します!」
「アルタムさん」
「それにワタシ、もともと冒険者やってましたしね」
「えっ そうなんですか?」
「ええ、ドワーフの職人は駆け出しの頃、たいてい冒険者やりますよ? そもそも現場を知らなきゃ、最先端の職人なんか務まりませんからね」
「なるほど!」
「たいていは戦士兼、武具のメンテ役ですね~ だから前衛は経験ありましたけど、今回みたいな【魔法職】は初めてで~」
「おぉう」
アルタムさん、実はけっこう戦い慣れしてたんだ!
とにかく、魔物は1体無事に封印できたし?
そして従者もひとり増えた。
(うんうん、順調順調♪)
「ですが、アプリルさん?」
「え? なんでしょう、アイナさん?」
「こほん、お忘れですか? カルキノス封印の影で、まんまと【悪霊】を取り逃がしているのを」
「あ」
そう、そうなんだ。
封印成功の嬉しさで気づかなかったんだよ~~~っ
そして気づいた頃には、もうどこにも姿がなかった……
さすがの【万物真理】さんでも、その居場所はつかめなかったんだ。
「とはいえ……わたしもあなた方が心配で、うっかりしていたのですが」
「あ、あはは~」
「ともあれ、あの悪霊がまた同じ様な事をする可能性もあるのです。ですからこれからも気を引き締めていかないと」
「はい、おっしゃるとおりですぅ」
とまぁ、そんなぼくたちが反省会をしていると~
「ああ、遅くなったな」
「あっ ルシアさんっ」
「ルシアママっ」
やってきたルシアママは、ぼくとアプリルさんのほっぺにキスをする。
ぼくはもちろん、アプリルさんもめっちゃ嬉しそう。
「それでルシア、どうなりましたか?」
「ああ、おおむね上手くいった、そう言っていいだろうな」
「まぁ、それでは?」
「うむ、今回の【悪霊】と【6体の魔物】の件、我らに特務として依頼が発生した」
「おぉぉ」
それというのも、あのカルキノス討伐のあと?
取り調べを受けているぼくたちのところに、ルシアママがやってきた。
それはもちろん、いつまでも帰ってこないぼくたちを心配してのこと。
(もちろんアイナママには、)
『貴女は街に来ない約束では?』ゴゴゴゴゴ、
って、【笑顔の威圧】の発動つきで怒られてたけど~
だけど今回に限っては、結果的には来てもらってラッキーだった。
それというのも、【領主さまの配下】【冒険者ギルド】【街の守備隊】……
そんな人たち相手に、交渉しなくちゃいけなかったから。
(アイナママもいってたけど……)
ああして悪霊が街で魔物を使ったからには、またこんなことが起きることも、じゅうぶんありえる。
だから、ある程度の事情を話して、むしろ街の関係各位に協力してもらうことにしたんだ。
「だいぶ時間も掛かった様ですが、揉めたのですか?」
「ああ、向こうも立場というのがあるからな。それこそ、私が悪霊に狙われたのがそもそもの原因だ! などと言ってきた奴もいたぞw」
「まぁ、それは災難でしたね」
「ああ、とんだ難癖だな」
そ、そんなヒトいたんだ?
「それにあのカルキノスの大鋏の件もあったのでな」
「ルシア様っ アレはどうなったんですか?」
「ん? ああ、あれに感してはとにかく揉めたが……最終的にはいったんギルドが預かり、競売にかけることになった」
「そんなぁ!」
すごくガッカリしてるアルタムさん。
やっぱり素材にしたかったんですね?
「それで落札額から手数料を引き、残りの半分がクリス達に。もう半分は壊された街の復興に充てることになった」
「なるほど、それは名案ですね」
「ああ、今後も被害がでるやもしれん。なら最初から費用があれば、街の協力も得やすいというものだ」
「でも、街の復興なんて、すごくお金がかかりますよね?」
「ん? あの大鋏の予想落札価格だが、金貨50枚は下らぬだろうと商業ギルドの者が言っていたぞ?」
「きんかごじゅうまい!」
ちなみに金貨1枚は、日本円でだいたい百万円ですぅ
「あふぁぁぁ、大鋏がぁ 素材がぁぁ」
「アルタムさんっ 気をしっかり!」
「ああ、そういえば、其方がアルタムどのか?」
「は、はいっ ルシア様っ」
「ふむ、この度の件、私の家族とアプリルがたいへん世話になった。そして此度の件はエルフの森の不始末でもある。家族として、エルフの森の者として、改めて礼を言わせてほしい、感謝する」
「ももっ もったいなきお言葉ですぅ!」
深々とあたまを下げるルシアママに、アルタムさんは大あわて。
まさか救国の英雄に、あたまを下げられるとは思わなかったんだろうなぁ
「あ、ルシアさま? このアルタムさん、そのビキニアーマーの作者なんですよぉ?」
「なんと、これは奇遇な」
「は、はひっ 軍より依頼をいただきまして!」
「ははっ そうかそうか。いや、軍から渡されたはいいが、これを使う相手もなく死蔵していたのだがな。装備してみればまさに具合がよく、実に気に入っている」
「ああっ ルシア様ぁっ」
「ふむ、なら今後は私の武具の整備も頼むとしよう。その腕、これからも私とその家族たちの為、存分に奮って欲しい」
「あ、ありがたき幸せっ」
な、なんだかアルタムさんまで、ミラさんとハマさんみたいに~
まぁ ルシアママって?
エルフの森の、尊い血筋のお嬢さまで?
そのうえ救国の英雄だから、ホントにえらいんですけどね?
「ともあれ、其方が【姫巫女の従者】として選ばれた上は、此度の件が収まるまで、今後も協力してもらわねばならん」
「は、はいっ それはもう」
「そうか では頼むぞ? アルタムどの」
「わ、ワタシの事はアルタムと、呼び捨てて頂ければと!」
「そうか? ふむ、他人行儀なのもよくないか」
「はいっ つきましてはワタシもルシアさまのことを──」(ちらっ)
ぼくのカラダである、アプリルさんをチラ見するアルタムさん。
「【お義母様】と呼ばせていただければと♪」
「はっはっはっ いやいや、アルタム?」
「はいっ」
「それは却下だ」
「そんなぁ!?」
あ、アルタムさん、それまだ諦めてなかったんですね?




