067 アルタムさんの、おっぱいの南半球
「うぅ 正直、もう夜の間は飛びたくありませんね……」
「で、ですよねー」
アプリルさんのアイデアを採用して、ぼくたちは大急ぎでお家に飛んで帰った。
そしてアイナママを説得して、3人でまた街に戻ってきたんだ。
ちなみに、2人でアイナママを運ぶのはちゃんと成功した
けど夜の空はまっくらで~ アイナママ、すっごく怖かったみたい。
「とにかく、常に3人で固まっていたほうがいいでしょうね。個別に行動しては、また入れ替わりの危険があります」
「はいっ」
「それに、エナジードレインの件もありますし」
「で、でもアイナママ? ぼくたち3人で固まっていて、あの悪霊が姿を現してくれるかな? それに3人とも、顔を知られてるし」
「あ」
「それは、その通りですね」
アプリルさんのそんな指摘に、おもわず納得!
でもホント、アプリルさんって頭の回転が早いなぁ
「なら、私が変装したらどうでしょう?」
「アプリルさんが変装、ですか?」
「はい 悪霊が襲うのはレベルが高そうな女性冒険者ですよね? なら、変装した私がおとりになれば」
「ですが、危険では?」
「もちろんアイナさまたちには、影から見守ってもらいます」
「なるほど……それしかないようですね」
「あ、じゃあ魔法使いの装備を用意しないと」
「だったら~」
◇◆◆◇
「な、なるほどぉ そんなヤツが街にいるんですね?」
「はい、ですから魔法使いの装備をお借りしたくて」
ぼくたちは、アプリルさんのお店にやってきています。
夜だからお店はもうしまってたけど、ムリをいって開けてもらいました。
「ついでに、私がアプリルとわからないように、なにか変装用の小物があるとたすかるんですが」
「ああ、さっきの話によれば、顔を知られてるんですよね? お三方とも」
「そうなんです!」
「だったら、このワタシが囮になりますよ」
「えっ アルタムさんが、ですか?」
「で、でもっ 危ないんじゃあ」
そういってくれるけど、アルタムさんは冒険者じゃない。
あくまで職人だから、魔物どころか人とも戦ったことがないと思うし?
「けど、そこは守ってくれるんですよね? その、クリスくんが」
「えっ あ、もちろんぼくが守ります! けどぉ」
そんなアルタムさんのフリに、アプリルさんが慌てて応えてくれた。
でも【クリス】であるアプリルさんを見る、アルタムさんの視線。
なんだかとっても熱っぽいんですけど?
「それに、今まで襲われた被害者って、みんな魔力を根こそぎ奪われているんですよね?」
「ええ、そうなんです」
「だったらワタシは大丈夫ですよ」
「え?」
「だってワタシ、ドワーフですよ? 魔力なんて、生まれたときからまったくありませんから」
「「「あ」」」
◇◆◆◇
人族や獣人にも、男性なら魔力がないひとはけっこういる。
けど? 女性で【まったくない】っていうひとは、ほぼいない。
(だけど【ドワーフ】だけは、男女ともに魔力がないんだっけ。っていうかアルタムさんて、あんまりドワーフっぽくないし?)
だからつい魔法のことも忘れてたんだ。
とはいえ今回の件に関しては、すっごく助かったけど。
「お、おまたせしました」
「おぉ!」
「ど、どうですか?」
「はいっ とってもステキですよ? アルタムさん」
「クリスくんにそう言ってもらえると、えへへ♪」
なんだかほっぺを赤くしてるアルタムさんだけど?
その格好は、すっかり上級魔法使いっぽくなってたんだ。
(っていうか? 魔法使いの装備は、サイズが豊富でいいなぁ ぼくなんかいまの【軽剣士】の装備、けっきょく女のコ用のだし!)
魔法使いはほぼ女性だし、あんまりマッチョなひともいない。
それに小柄なひとも多いから、アルタムさんでも困らなかったみたい。
(でも? たしかににあってるかも~)
そんなアルタムさんの装備は?
エナメルっぽい光沢のロングブーツに長手袋。
ブーツはハイヒールだから、いつもより背が高くなってる。
(アルタムさん、いつもはかかとがぺたんこなブーツだからなぁ)
襟が高めで【輪】のカタチにになってる黒いマントをはおって、口元──というか、おヒゲのあたりを隠してる。
それからお約束の天然木の杖と、つば広のとんがり帽子。
そして三角ビキニ!
(アルタムさん、おっぱいの【南半球】が見えちゃってるぅ)
いつもはスポーツブラっぽいアルタムさんだけど?
今日はレニーさんみたいな三角ブラ。
しかも上級冒険者向けだから? とっても面積がちいさい!
「その装備、とてもお似合いです! それに髪、解いたんですね?」
「私もいちおう、イメージを変えようと思いまして」
「とってもステキですよ すごく、出来るオンナって感じで」
「も、もぉ、クリスくんったら(ぽぉっ」
(ちょっ!)
おおはしゃぎでべた褒めしてるアプリルさんに、アルタムさんは、恥ずかしそうにくねくねしてるぅ?
「アプリルさん?」
「は、はいっ アイナマ──アイナさま!」
「おうちに帰ったら、少々聞きたい事があります。いいですね?」
「はひっ!」
うぅ、違うんだよアイナママぁ!
ぼくはちょっと、セッケンをプレゼントしようと思っただけでぇっ
「こほん、では、アルタムさん? 今夜はお願いしますね?」
「は、はいっ 【聖女】アイナ様っ」
「うふふ、わたしはもういち神官ですから、もっと気さくに呼んでください」
「わ、わかりました! では、アイナお義母様っ」
「アルタムさん?」
「はいっ」
「その呼び方は却下です」
「そんなぁ!」
◇◆◆◇
コツ… コツ…
すっかり人が少なくなった街の中を、アルタムさんのヒールの音だけがコツコツひびく。
ここは現代日本と違って、自動車なんか走ってない。
だから夜になると、虫や鳥の声くらいしか聞こえないんだ。
(それに、今日はお月さまが雲にかくれてるから、まっくら)
だからアルタムさんは、マジックアイテムのランタンを持って歩いてる。
おかげでアルタムさんのまわりは明るいけど、ちょっと離れたところは真っ暗だった。
そしてぼくたちは、少し離れたうしろからアルタムさんを追いかけてる。
アイナママに【気配遮断】の魔法を使ってもらって。
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【ハーミット】
種別:神聖魔法
状況:常時
対象:術者、対象者、魔物
効果:神々の神聖な祝福を受けることで、
対象者を含むパーティーメンバーの気配を遮断する魔法。
一定の時間経過で効果は消失する。
ただし、高レベルの索敵スキルがある敵には効果が薄い。
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ダンジョンなんかで、魔物に会いたくないときに使う魔法だけど?
あくまで【気配】を消すだけだから、姿を消してくれるわけじゃない。
だけど足音や装備の音なんかはだいぶ消してくれるから、今日みたいな真っ暗な夜なら身を隠す効果はかなり高い。
(それにさっきから【万物真理】のレーダーも使ってるけど~)
周囲にあるのは、人族や亜人を示す青い光点だけ。
魔物や魔族は【赤】、敵意をもつ人族や亜人は【黃】で表示されるけど、ぼくたちに気づいていないということは、悪意を向けられていないということ。
だからもし犯人が【人族】だったら、レーダでは判別できないんだ。
(うーん、こんな時間でも歩いてるひと、そこそこいるからなぁ)
さっきから、なんども人とすれちがうたびに、ぼくらは警戒するんだけど、今まではぜんぶ【ハズレ】だった。
そして【万物真理】の時計では、もう夜の10時を過ぎていた。
(うぅ いつもはもうおやすみしてるじかんだから、ちょっとねむけが)
って! ダメダメ!
(アルタムさんもてつだってくれてるんだから、ここはがんばらないと!)
コツ… コツ…
と、そんなとき、向かいから女のひとが歩いてきた。
それは若い神官のひとで、レニーさんよりはちょっと若いかんじ?
そして冒険者じゃなくて、神殿におつとめの神官さんだった。
(あー、神殿の神官さんでも? わかいひとはビキニ、装備するんだなぁ)
なんて──どうでもいいことを考えてたせいで、気付くのが遅れた。
向かいから、しかも近い距離で、すれ違おうとしてるのに?
アプリルさんがその神官の女性に、気づいていない事に。
(しまった! あっちも【気配遮断】の魔法を使って──)
「あれ悪霊です!」
「「──っ!」」
ぼくが小声でそう呼ぶ。
それと同時に──その神官がすれ違いざま、アルタムさんのカラダに触れた。
「ひゃっ!」
「おかしいですね? 魔力が奪えないとは」
「あ、アナタですね! 魔力を奪ってまわってる犯人は!」
犯人らしき神官にむかって、アルタムさんが杖を構える。
アルタムさんは魔法なんて使えないけど、それでも犯人の気は引いてくれた!
(アルタムさんっ)
ぼくは【俊足】のスキルで駆け出すと、犯人のもとへ駆けよった。
そして剣の柄をそいつの首筋に向かって──
突きつけた!
ガキッ!
「なっ!」
「ふふ、危ない危ない」
「せ、聖防壁っ?」
ぼくの剣はそいつに届くことなく、防壁に阻まれた。
いやむしろ、その防壁の向こうにアルタムさんが囚われてしまった!?
「そろそろ警戒されるとは思ってましたが、まさかアプリルさん──いや、クリスくんですね? あなたが来るとは」
「や、やっぱりお前は、【悪霊】!」
「ああ、人族が勝手にそう呼んでいるだけで、名乗ってる訳ではありませんが」
「やっぱり!」
「ふふ、オンナの身体はいかがです? 楽しんでいますか?」
きっとあの時のメイドさんのカラダから、また乗り換えたんだろう。
神官さんらしい優しい笑みで、ぼくを見ながら小馬鹿にするようなことをいう。
そして、慌ててアプリルさんたちが駆けつけるけど──
「はぁっ はぁっ あっ アルタムさんっ」
「ああ、クリスくんの身体ということは……アプリルさん、そして聖女も一緒ですか」
「このっ」
そのとき、悪霊の後ろにいたアルタムさんが、杖を振りかぶって殴りかかる!
けど──
「うぁぁぁっ!」
「そのヒゲと耳、ドワーフですか? どうりで魔力がないはずです」
「あ、アルタムさんになにをした!」
「今度は魔力ではなく、気力を吸っただけですよ」
「なに、吸い尽くしていません、殺したら、人質にならないでしょう?」
「こ、こいつ!」
【MP】ではなく【HP】をドレインされ、アルタムさんがぐらりと傾く。
そんなアルタムさんのカラダをはがいじめにして、悪霊は何かを取り出した。
「な、何をする気──」
「ふぅ、MPだけなら人死も出ないし、もう少し行けるかと思いましたが……ひとまず1体分程度なら、もう集まっていますよ?」
「まさかっ 【6体の魔物】っ?」
「正解です。 正直このカラダでも、あなた方には勝てそうにないので」
すると悪霊の手のひらのボール状のモノ──
それがぱぁっと光り輝いた。
(ま、まさか、魔力を注いでいる? こんな街中で、そんなコトしたら──わっ!)
するとボールは激しく光り、そのまま大きく膨れあがった。
あまりの眩しさに、腕で目を覆う。
ようやく光が収まってみると、そこには──
「なっ──カニぃ!?」
そこには──
ふたつの強大なハサミを振りあげた、幅6メートルはありそうなカニがいた!
しかも大きなクチを開け、そこには凶悪そうなキバがぎっしりと並んでる。
「あ、あれは【大鋏の悪魔】っ!」
アプリルさんが、ソイツを見て叫ぶ。
それはアプリルさんから聞いていた、6体の魔物のひとつ。
その大バサミで数多の船を沈め、あらゆるものを断裁するという──
屈指の攻撃力と防御力を持つ、凶悪な大ガニの魔物だった。




