046 それは、ステラママの残してくれたもの
「クリス、お前にこれをやろう」
ルシアママが帰ってきて今日で5日め。
晩ごはんのお片づけが終わってまったりしてる時にルシアママがそういったんだ。
(ルシアママ、なんだかやっと落ち着いてきたみたい)
今までずっと人族の砦で、魔族相手の防衛戦をやってたから~
ルシアママ、ずっと寂しかったみたいで? 帰ってからぼくにべったりだったんだ。
(ぼくはルシアママが大好きだから、うれしいけど~)
レイナちゃんもルシアママの大ファン。
だからぼくがルシアママに抱っこされてると、いつも怒っちゃうんだ。
『でれでれしてる!』とか『そんなおっぱいがだいじなのっ?』って。
(そんなこといわれても、ルシアママはぼくのママだし? それにレイナちゃんから取ったりしないのになぁ)
おかげでルシアママの抱っこやキスも、わりと減ってきた。
(ホントをいうと、ちょっとさびしい……それでもアイナママより、すごく多いけどね~)
そんなルシアママからもらったのは、見たことがない鍵だったんだ。
「えと、それって、お部屋の鍵?」
「ああそうだ」
「ええと、どこのお部屋?」
「それはな?」
◇◆◆◇
「すごい!」
そこには、大量の本と紙の束。
そして雑多に積まれてる箱には、なにかしらのアイテムがぎっしり。
それに広い作業机の上には、なにやら怪しげな実験道具がいっぱい!
「ここはステラの工房なのだ」
「ステラママの?」
【大陸最強の魔女】と呼ばれていたステラママ。
ステラママ自身、【元素魔法】の最高の使い手だったのだけど?
【マジックアイテム】作りの天才でもあったんだ!
「ええ、魔法薬の制作のために、一部の道具はわたしがお借りしているけれど」
「アイナママ」
「ここにあるアイテムや道具類、そしてこのすべての魔導書……クリス、あなたにステラが遺したものですよ?」
ぼくが部屋の中をあぜんと見ていると、ルシアママがそっと、肩に手をのせてきた。
「ここは工房ゆえ、危険なモノもある。なのでクリス、お前が一人前になるまでは、開かずの間として封印していたのだ」
「そうだったんだ」
「ええ、わたしたちも専門外で、正直よくわからないものも多いのだけど」
「ははっw なにがなにやらさっぱりだ」
「ですがクリスは優しく、思慮深い子です。きっとステラの遺志を引き継いで、これらを有効に使ってくれるでしょう」
アイナママも、ぼくのあたまをそっとなでてくれた。
「ふふ、ステラ? クリスももう、一人前の歳になったぞ?」
「ルシアママ」
「私からは剣と精霊魔法を、アイナからは勉強と作法、そして神聖魔法を教わっている。そしてそれは、見事クリスの才能となって開花したのだ」
「ええ、ほんとうに」
「ステラ……お前も存命なら、きっと元素魔法を教えたかっただろう」
「ステラ、ママぁ」
「だからこの部屋を、クリスに引き継がせることにした。なぁ、いいだろう? ステラ」
そう言いながら、ルシアママは寂しげに笑った。
アイナママも手をそっと組んで、ステラママの冥福を祈ってくれてる。
「ルシアママ、アイナママ、ありがとう」
「ぼく、いっぱいお勉強するよ。それでステラママの知識と元素魔法を身につけて、みんなの役にたちたい!」
「ああ、がんばれクリス」
「クリスなら、きっとできますよ」
そんなふたりのママ──
ううん、3人のママに見守られて、
ぼくは心から幸せな男のコだって、そう思ったんだ
◇◆◆◇
「んきゃーっ すーごーいーっ!」
ごろごろごろ~
ぼくは無造作に積まれた魔導書や魔導工学書をパラ見するたびに。
ごろごろごろ~
そのうれしさに、床をころがりまくった!
「読める、読めるぞぉぉ」
ほんとうなら?
ぜんぜん読めないような外国のコトバや、むずかしくて意味のわからない専門書がいっぱいで、途方にくれるところだけど?
ぼくには【全能翻訳】の魔法と、【万物真理】さんがいる。
「おかげで、ぜんぶ読めちゃうぅぅ♪」
ごろごろごろ~
【全能翻訳】の魔法は、専門書独特のむずかしい言い回しなんかも、ぼくにわかりやすいコトバになおしてくれるし?
【万物真理】さんはあいかわらず、コンシェルジュなみに丁寧に教えてくれる。
だからそのへんに転がっているナゾのアイテムなんかも、【万物真理】さんの【鑑定】で、
パッ!
-------------------------------------
【性転換のネックレス】
種 別:マジックアイテム
制 限:無制限
価 値:金貨6枚
性 能:このネックレスを装着することで、装着者の見た目の性別を、
【男女逆転】することができるマジックアイテム。
その生体情報を読み取り、その上で性別を反転した状態を再現する。
ただし効果はあくまで【見た目】のみなので、声などは元のままとなる。
故に触れられると元の体型であることが判ってしまうので、注意が必要。
-------------------------------------
な~んて、その使い方までわかっちゃう
「って、なにこのアイテムっ?」
見た目だけ? なにかのジョークグッズかなぁ
「ええと、こっちは」
パッ!
-------------------------------------
【小春日和の腕輪】
種 別:マジックアイテム
制 限:無制限
価 値:銀貨17枚
性 能:この腕輪を装着することで、一定の寒熱を遮断できるマジックアイテム。
炎熱や氷結のダメージを緩和し、防いでくれる効果がある。
また灼熱・極寒の地でも、小春日和の様な適温に感じられる様になる。
-------------------------------------
「これはすごいっ! ……って、あれ?」
これってビキニアーマーにもついてる機能、だよね?
10年前ならともかく? 今は意味ない?
って、男性なら意味あるかなぁ
「銀貨17枚? マジックアイテムにしては、けっこうリーズナブル」
とまぁ、あれこれマジックアイテムの【鑑定】と記録にはげむぼく。
使えそうなのは【異空収納】に入れとこう。
「こっちの魔導書は【サルでもわかる元素魔法】かぁ これでわからなかったら、おサル以下ってことかなぁ」
そんな入門書から超高等魔導書まで、とにかく集めました! って感じ?
でも、この世界には【紙】はあっても【印刷技術】がない。
だから本を作るのはぜんぶ手書きだし、すっごくたいへんなんだ。
「だからお値段もすごいはずだけど? 知っちゃうと読むのが怖くなっちゃうから、鑑定するのヤメとこっと」
いっそぜんぶ【異空収納】に入れちゃったほうが、【目録】化してくれるから、楽かも?
とはいえぜんぶなくなっちゃったら、ママたちが驚くよねぇ
「それから、この【魔石加工学】っていう魔導工学書?」
魔物の魔石を加工して、その特性を活かしたマジックアイテム作りをする解説書。
その序盤をチラ見するだけでも?
アイスゴーストの魔石で【冷気】の出るアイテムを作ったり。
ミラージュモスの魔石で【幻惑】の効果のある剣を作ったり。
「敵だった魔物の能力を、逆に利用したアイテム作りとか~ あぁ、ロマンを感じるよねぇ」
ホントなら、ぼくなんかじゃムリかもだけど?
この魔導書と、【万物真理】さんのチカラがあれば……
「やれそう! むふふ」
とまぁ、そんなかんじで──
ぼくはこの日からしばらく、ステラママの工房にこもって、調査と研究を楽しんだのでした~
◇◆◆◇
「んふふ いいちょうし~」
ステラママの遺してくれた魔導書を読みふけるうちに?
ぼくのスキルに【火】と【水】の元素魔法の魔法スキルがついたんだ♪
「んー【風】がつかないのは、【風精霊】のスキルがあるからかな? なんだかかぶってるかんじ、するもんね」
とはいえ?
【元素魔法】は、なにもない所から火や水を作り出して、それを魔物に【叩きつける】のが基本。
【精霊魔法】は【土】【水】【火】【風】の4種の精霊たちによる支援で、何かしらの工夫による【作業】をしてもらう魔法。
「だから精霊魔法のほうが応用がきくんだけど? ぶつける【威力】そのものは、元素魔法のほうが強いんだよねぇ」
それに、あれこれ実験をしていたら【魔道具作成】のスキルもついたんだ~
「んふふー そしてこれがぼくの初作品!【魔法陣偽装の指輪】~!」
テッテケテッテ テーテテー
-------------------------------------
【魔法陣偽装の指輪】
種 別:マジックアイテム
制 限:無制限
価 値:銀貨2枚
性 能:装備した者の使用する魔法陣を、白く光る様に変更することができる。
-------------------------------------
「おぉう、【万物真理】さん、解説ありがとう」
有能すぎない?
とまぁ【白くする】、それだけなんだけどね。
「ただこれ、ぼくにはけっこう重要なんだ~」
【元素魔法】や【神聖魔法】を発動させると、杖の先に魔法陣が発生してそこから魔法が飛び出すしくみ。
そしてその魔法陣は【白く】光るんだけど?
【勇者魔法】の魔法陣は【青く】光るんだ。
「なんだか【ゲーミング魔方陣】みたいだよねぇ 勇者魔法、中二病っぽいの多いからなぁ」
だからその魔法陣はとうぜん、目立つ。
そして──
「勇者魔法をなんども見てるアイナママとルシアママには、ぜったいバレるよねぇ」
なので、この指輪で白くしちゃえば、たぶんバレない?
そしてこの指輪を、ルシアママの遺してくれた【収納マジックアイテム】ということにすれば、
「むふふ【異空収納】がアイナママたちの前で使える!」
これでギルドの依頼を受けるときも、手ぶらでいけるし?
それにアイナママのごはんも、作りたての温か今までもっていける!
「あぁ、すばらしいっ」
なんて、ぼくがうっとりしてると──
コンコン
「はぁい、どうぞぉ」
「し、失礼するわね、?」
そこへやってきたのは、アイナママだった。
こんなおそい時間に、どうしたんだろう?
「アイナママ、どうしたの?」
「え? ええと」
「あ、ごめんね? 立たせたままで。そこのイスにすわって?」
「ふふ、クリスは優しい子ですね。ですが、ママはこっちで」
アイナママは、ぼくがこしかけてたベッドの端にならんですわる。
ちょっとだけアイナママのおしりがくっついて、あったかい。
「アイナママ、なにかおはなし?」
「その、ええと」
だけどアイナママは、なかなかご用をいってくれない。
なのになにかいいたげに、ひたすらもじもじ、
(あっ)
ぼくは、気づいてしまった。
アイナママが、なんでぼくのお部屋に来てくれたのか。
(そうだ、ここしばらくルシアママが、ぼくにべったりだったし)
それに最近は、ぼくが魔導書に夢中になってたから?
アイナママはきっと寂しかったんだ。
そしてアイナママの性格からして、自分からおねだりなんて──
(うぅ、ごめんね? アイナママぁ)
ぼくはココロのなかでアイナママにあやまると、ベッドの上の魔導書をぜんぶお片付けして──
「アイナママぁ♪ 今日はぼくレッスンしたいな、だめ?」
「クリスぅ」
ぼくはアイナママのおひざの上にのっかって、おねだりしちゃった。
でもアイナママは、そんなぼくを後ろから抱きしめてくれたんだ~
「も、もう。ママに──いえレッスンに、飽きちゃったのかと思ったわ」
「そんなのありえないよぉ~ えへへ」
「じゃ、じゃあ? ルシアもいるし、あまり声を出さないように──」
「えへへー、じゃーん 【密談の小箱】~」
テッテケテッテ テーテテー
「クリス、その箱は?」
「この箱をあけておくとね? お部屋の外に、中の人の声がもれないんだって。ステラママの工房でみつけたんだ~」
「まぁ」
「えへへ、これでいっぱい声を出しても、だいじょうぶだよぉ?」
「もう、クリスったら。ちゅっ」
けれどアイナママは、ぼくを怒るかわりに?
かわいいキスで、応えてくれたんだ。




