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ママとビキニと、かわいい英雄  作者: 身から出た鯖
第2章 ルシアママは、エルフの魔法騎士
42/92

042 ルシアママの【社会見学】

「ソニックブレード!」


 キュ──ン


 剣に風の精霊をまとわせて軽くひと振りをすると、いつものカン高い高周波の音がひびいた。


「ほう?」


 そしてそれを後ろから見てるのは、ルシアママ。

 ぼくの魔法を見たいっていうから?

 まずは土魔法の【ケースショット】と、ぼく考案の【ソニックブレード】をみせてあげてるんだ。


「風がしきりに動いて──いや、震えているのか?」

「すごっ 見えないのにわかるんだ?」

「ああ、風の精霊が教えてくれるからな」

「おおー」


 ぼくの持つ【勇者魔法】にも、翻訳の魔法はあるんだ。

 けど精霊のことばなんて、ぼくにはぜんぜん聞こえないけど?


-------------------------------------

全能翻訳(トランスレイト)

 種別:勇者魔法

 状況:常時

 対象:術者

 効果:あらゆる言語を理解し、会話及び読み書きができる魔法。

    魔族語や高位の魔物などの言語も理解可能。

    常時発動で魔力消費はなし。

-------------------------------------


(だからこの前の魔族も、あのとき翻訳の魔法を使ってたのかなぁ?)


 そうでなかったら、魔族の言葉じゃ通じないはずだけど……


(ぼくは全能翻訳(トランスレイト)がかってに翻訳しちゃうからなぁ)


 あとは、あのときの【魔物使い】が使ってた【支配魔法】。

 一種の【テレパシー】みたいな感じで使役するから、翻訳はいらないっていうけど、


(どうなんだろ?)


 ともあれぼくは、5センチくらいの太さの薪をたてて、その風をまとわせた刃で、スパっと斬った。

 固定もしていない薪が斬れたから、その切れ味がわかってもらえると思う。


「ほう、たいしたものだな」

「えへへ」

「ふむ、こうか?」


 するとルシアママは刀を抜いて、刃が欠けちゃって使えなくなった大きな斧を、台の上においた。

 そしてその鉄の部分を──


 キィンっ


「まっぷたつに斬っちゃった!」

「ふむ、これは面白いな」

「なななっ いきなりっ? それに呪文もなしに!」

「ん? ああ、さすがに風の精霊とは付き合いが長いからな。だいたいのことは、考えただけでやってくれるのだ」

「なにそれすごい!」


 エルフだからできるのか、ルシアママがすごいのか、

 ぼくの【ソニックブレード】じゃ、鉄のカタマリなんてぜったいムリ!

 というか、見ただけですぐマネできちゃうとか~


「やっぱりルシアママはすごいや!」

「そ、そうか? んふふ」

「そうだよ! ぼくなんかこれ、思いついてから使えるようになるまで、すっごい時間かかったんだからっ」

「いやいや、その【発想】こそが凄いのだぞ? 私は200年風精霊と付き合ってきたが、こんな使い方は思いもしなかった」

「そ、そう? えへへ」

「ああ、さすがは我が愛弟子!そして最愛の息子、クリスだ♪ んちゅっ」

「やぁん♪」


 そういってルシアママはぼくを抱き上げて、ほっぺにキスをしてくれる。

 そしてぎゅうって抱きしめて、いっぱいほおずりしてくれたんだ。

 いまは鎧をつけてないから、そのカラダの柔らかさにうっとりしちゃう~


(けど……)


 左手だけは、ガントレットを付けてるんだ。

 ルシアママは左手首と左目を、魔王戦で失ってしまったから。


(マジックアイテムの義手が組み込まれてるって聞いてるけど、いわれないとぜんぜんわからないや)


 この世界は魔物が人族を襲うから、ケガしたり死んじゃったりする人がすごく多い。

 だから義手や義足なんかが、すごく普及してるそうです。


(でも、前世の記憶のあるぼくだから、いまはわかるけど……)


 やっぱりアイナママの神聖魔法でも、ルシアママの目と手首はなおらなかったんだ。

 神聖魔法はケガは治りやすいけど、大規模な欠損の修復と、死者の蘇生はできないとされてる。

 取れてしまった部分がその場にあれば、くっつけることはできるけど……

 ルシアママの手首と左目は、回収ができなかったんだ。


(前世のぼくが、強制転移させちゃったから)


 とはいえ、あのあと魔王は大爆発をおこして、ぼくもそれに巻き込まれて死んじゃった。


(あそこにいたら、ママたちも死んじゃっただろうし? やっぱりあれでよかったのかなぁ)


 だからルシアママは、いつも髪で左目のところを隠してる。

 もちろんそれでもルシアママは、すごくきれいだけど。


「いやぁ、やはり良いものだなぁ!」

「え? いいものって?」

「ああ、以前【精霊魔法】の研究をしている連中に依頼されてなぁ しばらくその連中に付き合って、実験だのなんだのに協力してやったのだ」

「じっけん」

「それというのも、精霊魔法は人族で使える者はほぼ居ない」

「エルフさん専用っぽいよね?」

「そうかもしれないが、故に人族には非常に人気がないのだ」

「あー」

「なのでその研究をする連中も、また【変わり者】扱い」

「ですよねー」


 人族が使えないと、どうしても、ねぇ?


「そこにだ、ひとりだけ【若い女】が途中から参加してな? ただやる気はあるが、いまひとつ実力が伴わない。そんな女だ」

「ふむふむ?」

「そしたらなぁ、他の男どもがやたらに貢ぐのだ、その女に」

「おぅふ」

「その滞在費やら貴重な文献やら、我先にと競うよ様にな。私はそれを見ていて、呆れてしまってなぁ」


 ええと、それは──


「だが、今ならそのキモチ、理解できる! 自分の得意分野に理解を示し、共に語り合える! ああっ なんて素晴らしい」

「えっ? えっ?」

「さあクリス! なにか欲しいものはないか? 剣か? それともお小遣いか? なんでもこのママが、叶えてやろうではないか!」


 それ、【サークルの姫】ってやつですね? わかります。


(って、ぼくは姫じゃなくて男のコだけどね!)


 ◇◆◆◇


(うわ~っ サラマンダーより、ずっとはやい!)


 ぼくはいま、空を飛んでいます。

 ルシアママに抱っこされて。


(勇者だったとき、めっちゃ高くて寒い山脈を飛びこえるのに、テイムされたサラマンダードラゴンに乗ったことがあるけど)


 ルシアママの飛行魔法は、それよりずっと早く感じる。

 しかも、


「ルシアママの飛ぶ魔法って、こんなすごかったんだね!」

「はっはっはっ そうかそうか」

「うん、なんだかイメージが違いすぎてー」


 まず、空を飛ぶポーズって、どんなのだと思う?

 そりゃあ、うつ伏せで前を向いて……両手を前に突き出したアレ、だよねぇ?


(誰だってそー思う、ぼくもそー思う)


 だけどルシアママは、いわゆる【ソファーに浅くゆったりこしかけたポーズ】に近いかんじ?

 『なんでこのポーズ?』って聞いたら、『楽ではないか』って。


(たしかに例の【飛ぶポーズ】って、ずっとやるのはけっこうキツい)


 前世の日本で、友達にロードバイクをかりて乗せてもらったことがあるけど?

 あの【前傾姿勢】で顔を前に向けてるだけで、すぐに首が痛くなっちゃった。


(それに、風がぜんぜんあたらないんだよね)


 ルシアママがいうには、まず風でカラダを覆ってから、別の風で浮かせて飛んでるんだって。

 だからぜんぜん風圧を感じなくて……なんというか、映像みたいに感じる、

 そしてなによりも──


「ルシアママぁ でもぼく、この格好は~」

「ん? しっかり抱いていないと危ないではないか」

「で、でもなんで【お姫様だっこ】なの!」

(ぼく、お姫様じゃありませんのだっ)


 おかげで、ルシアママのきれいなお顔が目の前にあって、ついついみとれちゃう♪


(というか、エルフのことを【妖精】ってよぶ人がいるけど? そのキモチ、わかるなぁ)


 姿をもたない【精霊】に対して、【妖精】は人の姿をしているんだって。

 そして妖精たちは、神さまが創ったその【眷属】のひとつ。

 4元素の精霊をベースに、神さまの姿を模して創られた、っていわれてる。


(だから妖精はみんな、すっごい美形ばっかりなんだって。大きさは30センチくらいしかないけど~)


 そしてエルフも美形さんばっかりで、森の自然のなかで暮らしてる。

 だから人族はエルフのことを【妖精】ってよぶ人も多いんだ


(もっともルシアママは、【斬撃妖精(ざんげきようせい)】って呼ばれてるけどね~)


 それはルシアママが、風の精霊魔法の【風刃】をよく使ってて?

 振った剣から飛んでく風刃で、岩とかもカンタンに斬っちゃうから。


(ルシアママは気にしてないみたいだけど? けっこうぶっそうな二つ名だよねぇ)


 ◇◆◆◇


 そしてぼくは、ケストレルの街の、とある建物にいます。

 そこは暗殺、密輸、賭博、人身売買など、街の暗部をとりしきる、通称【闇ギルド】の隠しアジトのひとつだそうです。


(ルシアママは、【社会見学】だっていってましたー)


 けど?


「ひぃっ! ざ、斬撃妖精!」

「最近、なにかと物騒でなぁ。先日も私の家族に刃を向ける者がいて──どうなったか聞きたいか?」

「ひぃぃぃっ!」


 街についたルシアママが、ここまで着くのにわずか30分くらい。

 そのやりかたは?

 街のチンピラににっこり微笑んで『闇ギルドはどこにある?』って聞くだけ~


(ね、カンタンでしょ?)


 そしてこの建物でも、怖がってるだけの人にはなにもしないけど?

 殴りかかってきた人は、風で壁に叩きつけて気絶させて……

 武器を抜いてきた相手は、風刃で首を飛ばしちゃった。


(それでこの、いちばん奥のお部屋にいた、幹部っぽい女の人だけど?)


 レニーさんと同じくらいの歳の、人族の女の人。

 ビキニを装備してるけど、レベルはそんな高くないみたいなのに、面積ちいさめ。

 【元素魔法使い】っぽい、黒いレザーブーツとグローブを装備してるけど?

 【魔女】っていうより【女王さま】っぽいかんじ?

 そして、


 ヒュンヒュンヒュン──


 静まりかえるお部屋のなかに、何かが激しく回転するような、風切り音がずっとひびいてる。

 それは不可視でありながら、その女幹部さんの首のあたりから聞こえてきて──


(うわぁ【風刃の首輪】とか、なにそれ怖──)


 ヒュパッ!


(あ、たらした鼻水がまっぷたつ)


「ひぃぃぃぃ!」

「おっと、下手に動かないほうがいいのではないか?」

「い、命ばかりは!」

「人聞きの悪い、そもそも私は【話し合い】に来ただけなのだぞ?」

「ひっ」

「それにお前は私に武器を向けていない。殺してしまったら、私が犯罪者ではないか」


 【風刃】は見えないから武器じゃないんですね?

 そのわりには、風切り音をわざと大きくしてるみたいだけど。


「そしてお前たちは【傷つけずに拐え】と命じていたそうだし?」

「そっ そうですっ」

「だからなぁ、【その依頼】さえなければ──お互いに幸せになれると思わないか?」

「わわっ わかった! いや、わかりました!」

「ふむ、では?」

「今後一切! あなたとその家族には敵対しません! 誓いましゅからぁぁっ」


 ホントかなぁ? と思って、【万物真理(ステータス)】で好感度を見てみたら?

 本気でそう思ってるみたいで【ややマイナス】くらいになってた。

 たぶん【好感】っていうより【服従】みたいだけど~


(って、あらら)


 そう誓ったあと女幹部さんは~

 全身のいろんなところから、血じゃない【体液】を漏らして、失神しちゃった。


「ええと、ルシアママ?」

「まぁ、こんなところだろう」

「そぉなんだ?」

「あぁ、こいつら全部を潰して回るのは骨が折れるからな。なら適当な頭を残して、そいつになんとかさせた方がずっと楽だ」

「なるほどー」


 さすがはルシアママ、その言葉に深いモノがある。

 そんなルシアママの手を、ぼくはそっとにぎって、


「じゃあルシアママ」

「あぁ、クリス」

「次は、冒険者ギルドにおわびに行こうね?」

「………はい」


 ◇◆◆◇


 そうして──

 影で人身売買を商っているという噂のある【とある大商人】、その人が。

 その晩、心臓の病で急に亡くなったそうです。

 くわばらくわばら。

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