035 かわいいって、いわないでよぉ!?
『キャ──っっ』
それは、
ぼくとアイナママが、依頼を終えて街にもどる途中のことだった。
(【万物真理】!)
とっさにぼくがその呪文をとなえると、頭の中にレーダーが浮かびあがる。
ここから300メートルほど先、そこには人族を示す青い光点がふたつ。
そして10をこえる赤い光点──魔物の表示があった。
「アイナママっ!」
「……(こくり)」
ぼくがそのお顔を見ると、同時にうなずいてくれるアイナママ。
その直後、ぼくはレーダーの示す方向に向かって駆けだした!
(まにあえっ! もっとはやくっ)
祈るようなそんなキモチで走るぼくに【俊足】と【跳躍】のスキルが発動する。
まるで大型のネコ科の動物みたいに、しなやかに身体が動くのがわかる。
足場の悪い森の中、しげみを飛びこえ、木の幹をけり──
文字どおり飛ぶようなはやさで、悲鳴の主のところへたどり着いた。
(っ!【ラビドードッグ】に【デスクロウ】!!)
2種類の魔物が連携して、冒険者を襲ってる。
魔物は魔物どうし、争ったりすることがない。
むしろ人族への殺意をもつ魔物同士、協力しあうことだってよくあるんだ。
「助けがいりますかっ?」
「お、おねがいっ!」
まずは救助の意思確認。
これをしておかないと【エモノの横取り】ということにされかねないから。
とはいえ? ふたりとも女の人、剣士の人は脚をえぐられて動けない。
(魔法使いの人は火の防壁を張ってる、けど、)
魔物の半分以上は【デスクロウ】、すごく大きい凶暴なカラスの魔物。
だから飛んで、防壁の上から襲ってくる。
(しかもコイツ、動きがかなり速くて連続攻撃してくる!)
そのうえ【ラビドードッグ】は【遠吠え】のスキルを持ってて、これは【瞬発力低下】の効果がある。
だからこの2種に組まれると、
(こっちの速度をダウンさせられたあげく、2回連続攻撃を受けるんだ!)
そしてそのパターンにハマっちゃったのかも。
ふたりの冒険者たちは、まさに絶体絶命だった。
「【ソニックブレード】!」
キュ──ン
抜いた剣に風の精霊をまとわせ、振りかぶる。
空気を切り裂く、カン高い高周波の音がひびいた。
「たぁぁっ!」
ぼくは【跳躍】のスキルを維持したまま高く飛び上がる。
そして防壁を飛び越えようとしていたデスクロウを、まっぷたつに斬った。
「ガァァァっ」
「やっ!」
「キャウン!」
そして着地の瞬間、いちばん大きなラビドードッグを横なぎに斬る。
きっとこいつが【司令塔】だったのかも?
ほかのラビドードッグたちがひるむのを感じた。
「こいっ」
とはいえ相手は魔物で、人族に明確な殺意をもっている。
保身を考えない捨て身の突撃で、いっせいにぼくをおそってきた!
「【ケースショット】!」
空から襲ってくるデスクロウに向かって、ぼくは呪文をとなえた。
てのひらの魔法陣から【礫】──鋭く尖った岩のかけらがいくつも飛び出した。
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【ケースショット】
種別:元素魔法(土魔法)
状況:戦闘時
対象:魔族・魔物
効果:空気中の元素から礫弾を作り出し、標的に向かって発射する魔法。
一度に10を超える礫弾を同時に発射することができる。
殺傷力は微力だが、術者の意思によってその速度や範囲の変更が可能。
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「ガァっ」
「いまっ」
ぼくが使える唯一の【元素魔法】である【土魔法】。
それを応用した【ケースショット】。
いわゆるショットガンみたいに、たくさんの礫弾を打ち出すことができるんだ。
だからまず的を外すことがなく、そして当たりさえすれば──
ズバッ!
礫弾にひるんだ魔物を斬るのはとてもカンタン。
あっけなくぼくの剣に斬られてしまう。
「つぎっ!」
そうしてアイナママが駆けつけるころには──
ほとんどの魔物が、その姿を魔石に変えていたのでした。
◇◆◆◇
「あ、ありがとうぅぅっ」
「うぅ、おかげでたすかりましたぁぁっ」
「うわっ」
ぎゅぅぅぅ~
さいごの魔物を切り終わったあと。
ぼくが剣を収めたとたん、左右から冒険者のお姉さんたちに抱きつかれる、ぼく。
(お、おっぱいが~~~っ)
ぼくに抱きついたお姉さんたちのおっぱいがちょうどお顔に!
しかもそれはビキニアーマーに包まれた、やわらかいおっぱい。
(こ、こんな柔らかいのに、板金鎧より防御力があるだなんてぇぇ)
「で、でもすごかったぁぁぁ」
「ホントっ あっという間に魔物を!」
「あんなカッコイイの、初めてぇ」
「うんっ それに魔法も使えるなんてっ すごい」
「え? えへへ」
なんて、ぼくがお姉さんたちに挟まれていると、
「こほん、そこの剣士のかた? まずはその怪我を治療しましょう」
「え? あっ ありがとうございますっ」
アイナママが剣士さんに声をかけて、治療を申し出てくれたんだ。
「【ライトヒール】!」
パァァァッ
「これで大丈夫でしょう」
「す、すごい……ライトヒールなのに、跡形もない」
「ふふ、回復魔法には多少の自信がりますので」
「え、ちょ──まさか、聖女様っ?」
「ええ、そう呼ばれる方もいらっしゃいますね」
「「えぇぇぇぇぇっ」」
「ですが今は、小さな村の神官に過ぎませんよ」
アイナママが【聖女】だって気づくお姉さんたち。
そりゃぁ、驚くよねぇ
「ととっ ということは」
「あのコが──」
「「【かわいい英雄】っ」」
なんですと?
「英雄級冒険者の息子にして、その愛弟子っ」
「ギルドの塩漬け依頼を何件も、達成してる期待のホープ!」
「なのに食べちゃいたいくらい可愛くて──」
「思わずその全身をっ ペロペロしちゃたいくらいラブリーな男のコ!」
「あ、あのウワサ」
「「ホントだったんだ~♪」」
「うぷっ」
むにゅぅぅぅ~
おっぱいという海で溺れたら、こんなかんじ?
その4つのビキニおっぱいに、お顔をもみくちゃにされるぼく。
そんな荒波ならぬ、軟波(?)に揉まれてると──
「こほん! おふたりとも? そこまでです」
「はっ、はいっ」
「し、失礼しましたっ」
「あなたがたの感謝はいただきました。それではわたし達はこれで、クリス?」
「はい、アイナママ」
ようやく軟波から開放されたぼく。
アイナママのちかくに駆けよった
「じゃあお姉さんたち? お気をつけて~」
「あぁっ クリスくぅん」
「ホント、あんな可愛いのに強いなんてぇ」
そんなお姉さんたちの熱い視線を背中にあびながら、
ぼくとアイナママは、街に向かって歩きだしたのでした。
◇◆◆◇
そしてお姉さんたちが見えなくなって、しばらく経ったころ。
「……アイナママ?」
「どうしたの? クリス」
「ぼく、ちょっとお花をつみにいってくるね?」
「ええ、わかったわ」
「ちょっと時間かかるかもだけど、きにしないで?」
「うふふ、ごゆっくり」
ぼくはそういって、アイナママに背を向ける。
そして茂みの向こうに駆け出だして──
そのまま止まらずに【俊足】と【隠密】のスキルを起動した。
(あと50メートル……と、いたっ)
ぼくが足を止めたところには、5人の冒険者がいた。
剣士が4人に、シーフがひとり。
(バランスの悪いパーティーだなぁ)
そして誰もがぼくを見て、ぽかんとした顔をしてる。
「おいおい、こりゃぁどういうこった?」
「知らねぇよ! だが、手間が省けただろ」
「だな、わざわざ片方だけ来てくれるとか」
そして次第にその顔が、ニヤニヤとしたイヤらしいものになる。
だからぼくはこういってあげた。
「あのぉ、ぼくたちにご用ですか?」
「聞いたかよ?『ご用ですか』だとw」
「ああ、ご用でちゅよぉ? ボクちゃんw」
「正確には、あっちの聖女サマにだけどな」
「けどよぉ、このガキにも懸賞がかかってんだろ?」
「ああ、でもこのツラだ、高く売れるわw」
「ちがいねぇw」
「……それでご用って、なんですか?」
「ああ、カンタンなこった。俺らと一緒に来てもら──」
「あ、お断りします」
ぼくはそういうと、ぺこりと頭を下げて、回れ右をする
「ま、イヤでもそうしてもらうがな」
「………………」
5人がいっせいに、剣やタガーを抜くのがわかった。
そしてぼくが首だけふり向くと、その剣を見せつけるように、またイヤらしい笑みを浮かべた。
「あのぉ 剣を抜くってことは、反撃されてもいいってことですよね?」
「あぁ? 反撃だぁ? できるものならしてみ──くぁ」
スパッ
「覚悟できてるんなら、いいんですけどね」
スパッ
「どうせ【万物真理】のレーダーでも」
スパッ
「黄色い光点で【敵意】があるのはわかってましたし?」
スパッ
振り返りざまにそんなことをいいながら、4度剣を振る。
【抜刀術:LV87】のスキルが正確に急所──喉を深く斬り裂く。
ドサドサっ
4人の剣士が声もなくもがき、倒れた。
そして残ったシーフに聞いてみる。
「ひっ ひぃぃぃっっ」
「ええと、あなたがたも【闇ギルド】の人ですか?」
「た、助けてくれっ」
「きいてるのに」
「そ、そうだっ 闇ギルドの依頼なんだ!」
「あー、やっぱり」
これで襲撃は3回め。
正確には、襲撃されるまえに返り討ちにしてるけど。
「頼むっ 助けてくれ!」
「いいですよ? そのかわり」
「な、なんでも言うとおりにするっ だから──」
「にどとぼくたちに関わらないこと。それから他の人たちにも、やめるようにいってください」
「わ、わかった! 誓う!」
「じゃあ」
そういって、ぼくが背中を向けると──
「あ、甘いんだよっ ガキが──カフぁッ」
スパッ
ドサッ
「むぅ、どうしてこういう人たちって、背中を向けただけで『勝てる』って思うんだろ? さっきもそれで斬られてるのに」
しかもこのシーフも、最後まで【敵意】がぜんぜん減らなかったし。
悪いけど、ぼくの有能すぎる【万物真理】さんにかかれば、丸見えだよ?
「いけない、アイナママが心配しちゃう。それに【いつもの人】にも気づかれないうちに、っと」
ぼくはまた【俊足】のスキルで駆け出すと、アイナママのもとへ急いだ。
(ここ何日か、誰かがずっとあとをつけてくるけど……敵意はないみたいなんだよねぇ?)
考えられるのは……闇ギルドの監視員とか?
それとも冒険者ギルドがつけてくれた護衛の人? かも。
(どちらにせよ? アイナママがイヤな思いをする前に、終わらせちゃうけどね~)
ともあれ、勇者の頃からこんな襲撃は何度もあった。
その多くは、魔族にたぶらかされたり、賞金に目がくらんだ人だったけど。
「けどどの人も? 許しても、見逃しても、ぜったいに改心なんてしないんだよねぇ」
というか、ウソをつくぶん魔物よりタチが悪い。
そう……最近のコレも、さいしょの1回は軽く痛めつけて見のがそうとした。
2回めは半分斬って、残りに警告したうえで見のがした。
けど、3回とも見逃したとたん、その【敵意】がぐんぐん増すだけ。
そして全員が、ぼくの背中を斬りつけてきた。
「もう次から確認はいらないかな~ どうせみんな【闇ギルド】ってとこの人みたいだし?」
どちらにせよ、ぼくの家族を狙うのは絶対にゆるさない。
この勇者のチカラで、アイナママたちを守りぬく。
ぼくはそう決めたんだ。
◇◆◆◇
「アイナママ、ただいま~」
「あら、クリス?」
「なぁに? アイナママ」
「髪が、乱れているわ」
「え、ほんと?」
ぼくが手ぐしで髪をととのえようとすると、
「あっ」
「じっとしてて? ママがやってあげる」
「うんっ」
アイナママの手が、やさしくぼくの髪をなでてくれる。
それだけでぼくは、ココロがぽかぽかしてうっとりしちゃう。
「はい、可愛くなったわ」
「むう、かわいいって言わないでよぉ」
「はいはい、【かわいい英雄】さん、うふふ」
「それ、ホントなのかなぁ」
「どうかしら? でも」
「でも?」
「ママはクリスにぴったりな【二つ名】だと思うわ」
「えー」
いくらなんでも、男のコに【かわいい】はないでしょお?
そんなふうにぼくが【おこ】になってると、
「むぎゅ」
「うふふ、そんなかわいいクリスに、ハグのご褒美です」
「うれしすぎるぅ」
「さっきのふたりのハグと、どっちがうれしい?」
「もちろんアイナママ」
「うふふ、よろしい」
もしかして、しっと? してくれたのかなぁ?
そんなアイナママのハグに、ぼくのココロが癒やされるのでした。




