032 なーんか、なかよしすぎない?
「………………ん」
まぶたごしに感じる明るさに、ぼくが目を開けると──
となりにアイナママがいなくて、ちょっと寂しいきもちになる。
けれど視線をめぐらせると……そこには髪をクシですく、アイナママの背中が見えた。
「あら、クリス。おはよう、よく眠れた?」
「うん、アイナママ」
「よかった、じゃあ身体を拭いてあげるから、背中を向けて?」
「うん」
アイナママはもういつもの神官服を着てるけど、ぼくはハダカで寝ちゃったみたいで、ちょっとはずかしい。
後ろを向いて、ついおまたのあいだに手をはさんじゃう。
ゆうべは、もっと恥ずかしいコトをしたのに、ね。
「………………」
「………………」
だけど、やっぱり恥ずかしくて、なにをお話したらいいかわかんない。
でも、こんどはちゃんと覚えてる。
アイナママの優しいお顔と匂い それから──
「クリス、ごめんなさいね」
「え?」
「………………」
そういったまま、アイナママはまた黙っちゃう。
「ええと、どうして『ごめんなさい』なの?」
「それは……」
「ぼくはアイナママのおかげで、一人前の男のコになれたのに?」
「ですが……クリス、ママはズルをしたんです」
「ズル?」
「ええ。ほんとうは……クリスのお勉強相手は、もっと若くて綺麗な女性がするはずだったんです」
「えっ?」
アイナママより若くてきれいな人?
そんなひと、この村にいるの?
「ですが、わたしがそれがどうしてもイヤで、村長さんの申し出を、断って……しまったんです」
「そう、だったんだ?」
「だからクリス、ごめんなさい。あなたの大切な初めてを、ママみたいな年増がするだなんて──」
「ちょっ アイナママっ! ぼくは、それでもアイナママがお相手で、よかったって思ってるよ?」
「……クリス」
「ううん、ぼくは、アイナママがいい。だからボクのはじめてが、アイナママでホントによかった」
「クリス、ありがとう。ママ、嬉しいわ」
「えへへ。それに? この村にアイナママより若くてきれいな人なんていな──むぎゅっ」
アイナママはぼくを抱きしめて、何度もほっぺにキスをしてくれた。
でも、決してウソでもオセジでもなく、ぼくはアイナママでよかったって思う。
心から、そう思っていたんだ。
◇◆◆◇
「ほら、クリス? ジャムがほっぺに付いてるわ? ちゅっ はい、取れた」
「えへへ~ ありがとう、アイナママぁ」
「うふふ、どういたしまして」
「……むぅ」
収穫祭も終わって、またいつもの日常がもどってきた。
昨日のごちそうが残ってるから? もうしばらくは食卓がにぎやかだけどね~
「ん? レイナちゃん、もう食べないの?」
「食べるわよっ でもぉ」
「でも?」
「クリスとママ、なーんか、なかよしすぎない?」
(ぎくっ!)
「あら、レイナ? クリスとママは、いつも仲良しよ?」
「そう、だよね? アイナママぁ」
「むー、でもなんかママ、いつもよりうれしそうなのよねー」
(ぎぐぎくっっ)
れ、レイナちゃん、するどすぎ!
コレが【女のカン】ってヤツなの?
「ええ、嬉しいわ だって──」
(ちょっっ アイナママっっ)
「昨日までのクリスは、村のみんなの【英雄】だったでしょう? なのにママは神官のお仕事で、ずっとクリスのお世話をできなかったのよ?」
「そういえば、そうね?」
「ええ、なのにクリスの隣をずっと離れずにいた子も、いたみたいでね~」
「ぎくっ!」
「やっとお世話できてママ、嬉しいのに~ やっぱりそんな子には、判ってもらえないのかしら~」
「わ、わかったわよっ! もうっ」
おぉ、さすがはアイナママ。
かんたんにレイナちゃんをいいくるめちゃった。
「お祭りも終わったし? すこしはクリス、ママに貸してあげる」
「か、貸してあげるって、レイナちゃん?」
「なによぉ? クリスのくせに、もんくあるの?」
「ないけど──うわっ」
ぎゅっ
「んふふ じゃあクリスは今日、ママのお手伝いね」
「あ、うん。わかったよ、アイナママぁ」
「レイナは神殿のお掃除をお願いね?」
「ぶー、きのう村の人たちが、みんなでおそうじしてたじゃないっ」
「いろんな人がいっぺんにやるとね? どうしても雑なところが出てくるのよ。だからあなたがひととおり、全部チェックしながらもう一度、ね?」
「うぅ、はぁい……というか、ママ? クリスばっかり甘やかさないでよねっ」
「あら、ママはね? ほんとうはレイナのことも甘やかしたいのよ?」
「えっ」
「なのに、ママが甘やかそうとすると、『ママウザい』なーんて嫌がるのは、どこの子だったかしら?」
「わ、わたしはクリスとちがって、そんなのでよろこんだりしないもんっ」
「はいはい、ですからお仕事がきちんと出来たら、褒めてあげるから。頑張ってね? レイナ」
「うぅ、はぁい」
そういってレイナちゃんは食器を片付けると、そのまま神殿にお掃除しにでかけちゃった。
「じゃあクリス、今日は薬草の収穫をしましょう。お外は寒いから、しっかりと温かい格好をしてきてね?」
「はぁい」
ぼくはお部屋にもどって、上着を着こんで手袋をはめる。
そしておうちのうら庭に行けば、そこにはアイナママの菜園があるんだ。
菜園といっても? トマトやジャガイモみたいな食べるお野菜じゃなくて、薬の効果がある【ハーブ】みたいなのがほとんど。
(それに、食べる方のおやさいは、村の人がおすそ分けしてくれるしね~)
◇◆◆◇
ゲームなんかでの【薬草】は、なぜだか【生の葉っぱ】のイメージだけど?
そんなのあっというまに枯れちゃうから、じっさいにはありえない。
だからこの世界での【薬草】は、いわゆる【漢方薬】みたいなモノなんだ。
(だから効果はそれなりだけど? 普通に暮らしてる人には、それでじゅうぶんだしね~)
もちろんお値段もお安いし、そして手にも入りやすい。
だから薬師のいないこの村では、アイナママが代わりにそれを作ってるんだ。
(じゃあ、冒険者はどうするかというと?)
【魔法薬】を使うんだ。
そういった薬草を煮詰めて、うんと濃くしてエキスをいっぱい集める。
そしてそのエキスの濃縮液に魔力を染み込ませると、【魔法薬】として錬成されるんだ。
(だからそっちは、回復魔法みたいな【即効性】があるんだよね~)
だから当然、お値段も薬草の何倍もするし、作る手間もけっこうたいへん。
そしてアイナママは魔法薬の調合を、神聖魔法ですることができるんだ
そして作れるのは?
(あ、【万物真理】さん? 説明よろしく~)
パッ!
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【回復薬】
使用した者の体力を一定量回復し、怪我などを治癒する効果のある魔法薬。
空気にさらすと劣化するため、小ビンに小分けして密閉して保存。
そのつど使い切るのが前提。
体力回復の場合は服用し、怪我や骨折の治癒には患部に振りかけて使用する。
【状態回復薬】
使用した者の【毒】や【麻痺】等の異常状態を、正常に戻す効果のある魔法薬。
なお、保存や使用方法などは【体力回復薬】に準ずる。
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ちなみに【回復薬】は【初級】【中級】【上級】の3グレードあって、もちろんグレードが上がるごとに、その効果とお値段がはね上がってゆく。
ただし、上級ともなれば作るのに魔力をいっぱい使うし? 作ってからその効果が安定するまでの日数もだいぶかかる。
◇◆◆◇
(もちろんアイナママは【上級】だって作れちゃうけどね~)
なんて事を考えながら、ぼくはもくもくと薬草の収穫をする。
ちなみに【薬草栽培】のスキルがあるから、手が勝手に動いてくれるんだ~
アイナママのおかげで【調剤】のスキルもあるし、
(このままがんばれば、魔法薬も作れるようになるかも?)
ただ、残念ながら【魔力回復薬】は、まだ実用化されていないんだ。
だから、冒険者たちは魔法使いや神官の魔力──すなわち【MP】が少なくなってきたら、すぐに撤退。
そんなルーチンで冒険をやっているのが普通なんだけど、
(もしそれがあれば、もっと冒険できる時間が増えるのになぁ そしてぼくも、MPが少ないから)
この前の【ソニックブレード】の呪文は、【風精霊魔法】の応用だけど?
ぼくのスキルレベルだと、いちどの発動で効果があるのはほんの数分。
それにけっこう魔力をもっていかれたから、まず連続使用はできない。
(そもそもMPが残り1割を切ったら、めまいをおこしちゃうし)
そしてゼロになれば昏倒する。
すなわち戦闘不能状態になるということで、
(うぅん、それはぜったいマズいよねぇ ええと、【万物真理】、ぼくの今のステータスは?)
パッ!
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・名 前:クリス(人族)
・性 別:男
・レベル:LV63
・状 態:正常
・H P:102569/102569
・M P:37/37
・スキル:【剣術:LV87】【槍術:LV81】【弓術:LV72】【抜刀術:LV87】
【盾術:LV83】【斧術:LV80】【鞭術:LV71】【格闘術:LV77】
【体術:LV82】【暗殺術:LV85】【隠密:LV84】【投擲:LV82】
下画面があります▼
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(うーん、魔王を倒してレベル63になったばっかりだしなぁ こんなんじゃレベルアップはそうとう先だし? MPも──ん?)
ずっとレベルアップしないから、代わり映えのしないぼくのステータスだけど……
(【37】? えと、たしか【29】だったよね?)
そう、30に1足りなかったから、よく覚えてる。
なのに、なんでMPだけ増えてるの?
(ええと、【万物真理】、ぼくのMPが増えたのはいつ?)
パッ!
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MPの数値変動における報告
出典:万物真理【ステータス管理ログ】より
昨日の夜半に【29】→【37】へと【08】のMP増加を確認。
なお、このMPの数値変動は【クリス(人族)】の出生以来、初のものである。
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(えっ? きのうの夜? それって)
きのう夜といえば、アイナママに【手ほどき】してもらってた日だ。
というか、それが原因なの?
(えと、【万物真理】、ぼくのMPが増えたのはなんで?)
パッ!
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MPの数値変動の原因報告
不明。
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(おぉう)
さすがの有能な【万物真理】さんでも、わからないことはあるっぽい。
(うーん、これはもうミヤビさまにでも、聞くしかないのかなぁ というか最近、ミヤビさまぜんぜん来ないみたいだけど?)
ともあれ考えても仕方ないので? ぼくはアイナママのおてつだいに、集中することにした。
◇◆◆◇
薬草の収穫を終えて、ひとやすみ。
ぼくたちは、アイナママの淹れてくれたお茶を飲んでまったり中。
「ねぇ、アイナママ?」
「なぁに? クリス」
「あのね? レベルアップしてないのに、MPが増えるってことって、あるのかなぁ?」
「それは……クリス、あなたのことなの?」
「うん、そうなの。ええと、朝ごはんの前に、剣の練習をして、魔法も使ってみたんだけど? なんだか昨日よりも、MPに余裕がある気がして」
「ええ、それで?」
「レベルアップしたのかな? って思ったけど、【筋力】とかは変わらないみたいだし?」
もちろんコレは作り話。
けど、ギルドで調べてもらわないと、ステータスなんて判らないからね。
「そう、ですか」
「え? アイナママ、信じてくれるの?」
てっきり『気のせいじゃないの?』っていわれるかと思ったのに。
「ええ、実は……レベルアップしていないのに、MPが増えたことが、ママにもあるの」
「えっ そうなの?」
「ええ、それもだいぶ前。10年以上前の、まだママが冒険者をやっていた頃の話よ?」
ん? それって、勇者の従者だった頃のお話だよね?
「れ、レイナのお父様にね? ママが……ええと、【手ほどき】をしてもらったの」
「…え?」
「その次の日にね? ママも、MPが増えていたの。クリスと同じように、レベルアップをしていないのに……ね」
「なんと」
や、やっぱり!
コレってアイナママに【手ほどき】してもらったせいなの?




