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「エリオット・アーデンテス」


私の発した声に、エリオットの頭が跳ねる様に持ち上がる。


「貴方が今、そこに居るのは正しきか?」


ハッとした瞳が向けられる。

私の…、アレックス殿下の後に気付いて。優しい従弟だけれど、無自覚な者に振り回されてるだけでは駄目。確かに頼りなかったけど、幾らでも取り戻せる。

エリオットの膝上の両手が、更に強く握り込まれる。息を吸いながら立ち上がり、ソファーの横へと立ち直した。


「不心得者で申し訳ございません」


深く頭を下げた後、エドガー殿下の後へと移動した。そのエリオットが姿勢を正すのを待って、ルキス様を見る。何があったのかという顔だ。

別に私、年下の従弟を虐めた訳じゃありませんよ。


「改めて、ルキス・べイギー様にお伺い致します。貴方が今、そこに居るのは正しきか?」

「正しいも何も…。反対に貴女は、そこに居るのが正しいと思うのか?」

「思いませんわ」

「なら、自分の相応しい場所へ行けばいい」

「ええ。ルキス様がその場を空けてくだされば、今直ぐに」

「何を?」

「それとも私に、そちらで1人で立てと? 私はこの場に、断罪される者として来たのではありません」


退けと言われた事が飲み込め無いのか?  私とアレックス殿下を見比べた後、渋々とだが立ち上がったルキス様に合わせて私は移動した。

スカートの裾を直して座る。

正面にはエリアナ。ようやく話し合いの正しい位置関係だ。

ランス様には何も言うまい。宰相家の御子息なのだ、自分で考えて下さい。


「改めまして、クルシェ・ジス・ハレス・レイナードと申します。エドガー殿下におかれましては、そちらのエリアナ嬢に対して私が貴族らしからぬ態度で不当に彼女を貶めた。それを正そうとしているというので間違いはございませんか?」


場が改まったので、仕切り直しと名乗りを上げる。 (ジス)を入れ、当主であると明かしましたからね?

そうだと頷くエドガー殿下。


「エリアナ嬢?  私、貴女とお話するのは、これで3度目だと思いますの」


そうとも、違うとも言わない。ただ「お姉様」だけ呟く。


「1度目は、貴女のお父様が私の父なのだと我が屋敷を訪ねていらっしゃった時。お父様へお知らせはしますが、夏迄は帰って来ない。それ迄の間、どうするのか問いました。間違い無いですか?」


エリアナ嬢はこくりと頷いた。

エドガー殿下?  彼女が自分の父だと思っているのは、私の父ですよね?

娘の私が当主を継いでる。それは、父には爵位を継ぐ資格が無いからなのですよ?  だから、レイナード家云々は有り得ない話なのです。

だが気の毒だと思い迎え入れた。取り敢えず、父の確認を取らないとというのもあった。

だから、本人に待つ間の希望を聞いたのだ。


(1) 母親と、貴族屋敷の使用人として住み込んで居たので、事情を話してそこで待つ。使用人労働あり。


(2) お礼金持参で最寄りの孤児院に受け入れてもらい、そこで待つ。もちろん労働あり。


(3) レイナード敷地内の父の別邸で待つ。条件は「自分の事は自分でする」


彼女が選んだのは(3)だった。

学園が始まる一月半。彼女は別邸に居たのだ。

ここまで説明した所でエドガー殿下が、「使用人として使ってたんだろう?」と言葉を挟んだ。

もちろん否定させて頂きますよ。

父の別邸とレイナードの本邸は、同じ敷地内に在りながらも別個の扱いだ。兄妹と言いながらも、異母兄妹達は父の別邸で暮らしている。基本自分でと言っても、ちゃんと使用人は居る。やる事といったら、自分の部屋の整理整頓とベットメイキング程度。本邸には、お祖父様からの執事長と使用人が、ずっと縁を繋ぎながら勤めてくれている。だから、彼女に使用人として働いて貰う必要は無いし、騙して使用人として囲ったのなら、学園になんて通わせ無い。初等科の学費はとても高額なのだ。14歳の働きで通える程甘くは無いのですよ?

色々あって、心が追い付かないだろうから、落ち着いて過ごす様にと話した筈。


「だって隣の部屋の子が、部屋に籠ってないで何かしろって言うし…。何かしようとすると、違うって怒るんです」


しょぼんとした様子。


「部屋でご飯を食べたいって言っても聞いてくれないで、嫌がっても無理やり使用人の食堂に連れていかれるんです。…洗濯物だって、カゴに入ったまま置きっ放しにされたままなんですよ?」


それは、汚れたままだったとでも言うのかな?  そんな事無いよね?  お父様の留守をいい事に手を抜いてたら…お父様すぐ首にするから。


「お姉様が何かしろって言った訳じゃ無いんです。兎に角、皆私に冷たくて…。お姉様にお会いしたいって思ったって、使用人棟からじゃ、お姉様の所に行けなくって…」


使用人棟じゃ無いです。ちゃんと別邸と言ってありますよ私。

あらあらランス様、何故斜め下を見詰めていらっしゃるの?

私の補足説明を聞きながらなら、私の対応が破格だと分かって頂けたでしょうか?

ルキス様。私の後に立ってらっしゃるのでお顔は見えませんが、「あ?」とか「え?」とか聞こえてきてます。

エドガー殿下? そんな戸惑ったお顔されては駄目ですよ?  悪い人に付け込まれてしまいます。


「頂いた服だって、使用人の物と変わらないし…」


と、止めの一言が呟かれました。

私はご立腹です。何故なら、私の部屋着と同じ物だからです。

あ゛~っ!! 2度目は、学園入学を進めた時だ。

早くて、6の月の半ばから7の月にならないと帰って来ないお父様。私は中等科に通う事が決まっていたので、学園に通う兄妹達と寮生活になる。だから、アーデンテスの伯父様と相談して彼女にどうだろうと聞いたのだ。

学園の説明をしたら、行きたいと言う。月に幾らかのお金(文具か、ちょっとのお菓子が買えるくらい)を渡す事にして、彼女も同意したので初等科入学となった。

この頃はまだ「クルシェ様」か「お嬢様」だった気がする。


「ねぇ?  エリアナ嬢?  私には心当たりが無いのだけれど、意地悪をしていると思うような事あったのかしら?」


エリアナは、うるうるお目目で、バッと顔を上げる。


「学園に来て直ぐの頃、学園に来ている使用人に、立場を考えろって言われました。それを見ていた皆が、お姉様に相手にもされないって馬鹿にして…」


あ、涙ポロポロが始まった。


「使用人が私の所に来る度に皆クスクス笑うんです。寮の同室の子も、私が使用人と同じで相部屋なんて可笑しいって!  兎に角馬鹿にするんです」


相部屋の何が悪いのか?  おしゃべりできて楽しいでは無いか。後、使用人を学園に通わせられる程お安く無いよ?  稼いでるのはお父様で、子供の学費はお父様が出している。だから、学園に通ってるのはお父様の子供なのだ。

聞いていれば分かる筈なのに、自分の事ばかりで、人の話を聞いて無い。


「エドガー殿下は、その場に居合わせた事はありまして?」


目が合ったので話を振ってみた。「いや」「あぁ」と呟きながら少し考えている。


「だいたいエリアナが泣いていて、回りが変な雰囲気になってる時だった」

「殿下は、その度に慰めてくれたんです」


もう1人、目の前のランス様にも聞いてみる。


「私は殿下の御様子を伺いに行った時だが、泣きながらの話を聞いたくらいだ。…その、申し訳無かった」

「何でランス様が謝るんですか?」


そんなの可笑しいですと首を振る。

段々と興奮してきてるのか、口調がヒステリー気味だ。


「お姉様さえ。お姉様さえ会いに来てくれれば、こんな事にはならなかったんです!」

「エリアナ。もう黙るんだ」

「エドガー殿下?  何でそんな事言うの?」


あぁ、どうしてこの娘は、こんな風になってしまったのだろう?  学園に入る前と今では別人に思える。

だからって、何時までもエリアナと話をしている訳にもいかない。


「あのね、エリアナ嬢。さっきから使用人、使用人って言って居るけど、使用人じゃ無いのよ。お父様の子供。私の兄妹よ」

「兄妹なのに使用人なの?  そんなの酷いっ!」


カッと頭に血が上る。体に力が入り、彼女をどうしてやろうかと思う前に、彼女の体が伸び上がる。

後に控えていたエリオットが、彼女の手を掴み立たせたのだ。「エリオット様、痛い!」と言ってエリアナは身を攀じるが、エリオットの手は揺るがない。


「彼女を別の部屋に移しても宜しいですか?」


エドガー殿下に問い掛けたが、エドガー殿下は唖然として立ち上がったエリアナを見上げている。


「アレックス殿下。宜しいですか?」

「分かった。騎士を1人付けよう」

「ありがとうございます」


と、エリアナは両腕を騎士に抱えられ部屋を連れ出された。

エリオットはエドガー殿下に「お側、失礼します」と耳打ちすると、入り口の前で改まる。


「今後アーデンテスで彼女の対応に当たりたいと思います。御報告は夕刻にでも必ずいたします。が、ひとまず失礼させて頂く事、お許し下さい」


そして頭を下げた後、「報告を待つ」とのアレックス殿下の言葉に頷いて部屋を出て行った。

何とも言え無い沈黙。


「クルシェ・ジス・ハレス・レイナード」

「何でしょう?」

「まだ時間はあるか?」


はいと答えたら、「なら、もう少し付き合ってくれ」と言われた。

まだ固い表情のアレックス殿下。

分かってます。エリアナの話の通じ無いのも困った事だったが、残った方達の方が本当の問題ですからね。

自然と出た溜息が、アレックス殿下と重なっていた。


とっても長い1日なので、まだ続きます。ようやく折り返しです。

くどくどと読みにくかったらすみません。

だけど、長い1日を書きたいと思ったのです。

お付合いして下さると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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