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閑話・僕のしてしまった事(エドガー殿下)

良かれと思って、間違ってしまった十五歳のエドガー殿下の話しです。

本編とは違うので閑話としました。

クルシェとアレックスが表で動いている間の、少年の心の中。独白です。

学園が始まれば一夏を親が課した罰を乗り越えた彼等に触れる予定でしたが、その時、ここから始めるよりはとルーキンスに入る前にしました。

僕は…三番目に産まれた王子。

貴族の通う学園の初等科二学生。

最初の一年の成績は上位で、僕は得意になっていた。王族教育で学んだ事を繰り返す様な授業。出来て当たり前の事に順位が付き、上位である事に満足さえした。

ある女の子を知った。その子に王子である僕がしてあげられる事。その優越感に僕の心は高揚していく。

結果、いろんな事に驕った僕は…全てを間違えた。

間違いに気付けば上がった分落ちる。

家である王宮へ戻った僕は、共に問題を起こしたとされる三人と第二騎士団官舎に放り込まれた。僕が巻き込んだ三人だ。


見習いに混じり、空が薄暗い頃に水汲みにと起こされる。走り込みをして、食堂の手伝いや掃除洗濯に駆り出される。ようやく食事をとる事が出来ても、直ぐに次の事がある。

泥のように眠りに落ちる毎日。直ぐに手の皮が剥け、足の皮も剥けた。年長の二人が、僕とエリオットを気遣い薬を塗り込み、熱を持った場所を冷やしてくれた。

それでも此処でする事は変わらない。

辛い。情けないよりもただ辛い。

水汲み場は何ヶ所かあるが、滑車で汲み上げる場所にあたった。痛みでまごつく僕を手伝ってくれたのは、一つ年下の見習いのデール。断ると、一つの遅れで皆の予定が狂うからと、彼が汲み上げた水の入った桶を運べと渡された。次の日も同じ場所で会った。僕の空の桶を置いて、既に満たされた桶を運べと言う。カッとして、僕が王子だから取り入ろうとしてるのかと詰め寄った。だけど、昨日と同じ理由を言われた。納得出来なくて動かない僕に、食事の時にでも話そう、だから運べと言った。

スクランブルエッグと2本のソーセージ。ボソボソとしたパンに冷めたスープ。僕と同じ物を目の前に食べ始めたデール。手が進まない僕に、粗末だから食べないのかと聞く。体が慣れなくて食べられないと答えると、そんな時こそ食べろと言った。

話し出すデールに、自分が恵まれた世界で生きていた事を知る。デールを蔑む意味では無い、当たり前に苦労も無く知識を得られる環境。

デールは、僕と同じ初等科の年だ。そんな彼が何で見習いとして働いているのか考えもしなかった。よく周りを見れば、見習いとされる者は初等科の年。僕と一緒に入ったランスやルキスが浮いた存在だと気付く。

デール達は、下働きと訓練の合間に初等科の授業を受けていた。そして仕事に対して出たお金を、家族の生活にあてている事を知った。

僕が知らなかった世界。

僕が、知った気でいた世界。

僕を形作る物は、何と頼りない物なのかと泣いた。

デールに、僕の出来る事を聞いた。馬鹿にしてるのかと言うデールに、自分の出来る事で助けてくれたのと同じで、僕も出来る事をしたいと。考え始めたデールを見て、金が欲しいと言われたら僕はどうするのだろうとドキドキした。デールは、この国の事と他の国の事が知りたいと言った。出て来た答えにホッとしながら、それを引き受けた。

食事や休憩の時間を見付けては話すけど、一つの領地の説明には時間が少ない。興味を持った者が、僕とデールの周りに集まる。そして疑問や興味で聞かれる事が思いもしない事だったりする。皆が勉強している間にランス達と調べる事が多くなった。


デールを知ってから五日。あの日から十日…。

前日からだが、官舎内が騒がしい。出入りが激しいといった感じだろうか? だけど、する事には変わりは無い。する事を終え、食堂へ行く。

食事を口に運びながら、皆がソワソワとしている。今日は、話す雰囲気じゃ無いだろう。何があったか話しに耳を傾ける。何時もは皆と話しやすい様にと、少し離れた所に居るランスとルキスが、今日は近くに座っている。何か知ってるのかと、二人に聞こうとした時。知った名前と知らない名前を聞いた。

ブワッと汗が吹き出した。レイナード公爵家のゴタゴタを狙った遠縁の伯爵家で不正が発覚した。そのゴタゴタは自分がした事ではないか。

第二騎士団は逃亡者の確保と王都の警備で大変だとか、皆が知り得た事を口にする。騎士団の活躍をこれからの自分に重ね、皆が興奮に湧く。

クルシェ嬢の言った言葉が、頭の中に溢れる。濁流の様に体中を揺さぶり出口の無い事で荒れ狂う。

僕は立ち上がる。隣に居たエリオットが僕の手を掴む。僕はエリオットを殴りつけた。止めに入る者も何も関係無く手足を振り上げ、暴れ噛み付く。

気が付いたら窓の無い、とても狭い部屋にいた。

体が痛い。その事に気付くとエリオットが心配になった。僕が殴ったエリオット。どうなったか知りたくて扉を叩く。声が枯れて、喉が痛い。

どれだけ時間がたったのだろう? ぼんやりしてると懐かしい声。僕の乳母、エリオットの母の声。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………。

叱責でもない。慰めでもない。静かな声で語られる顛末。騒いだら聞こえない。泣いたら聞き取れない。歯を食いしばって堪える。

「二人で二人の母に会いに来て」最後にそれだけ聞き取れた。


とても長く、長く感じた時間は、たったの一晩だった。

開かれた扉の前にランスがいた。ルキスはエリオットに付いてると言った、赤い目をしたランスが、僕を抱きしめた。間違えたのは一緒だから一緒に頑張ろうと。仕出かした事に、一人で向き合うのは恐い。大きすぎて…何をしたらいいか分からない。だから、共に考えよう。気取って話すランスらしくない話し方。

此処に来てから何故此処に来たのかを、深く考えた事は無かった。辛い事をして、少し人の役に立つ。アレックス兄上とクルシェ嬢が、僕のした事をちっぽけで問題の無いものにしてくれる。時間が過ぎれば元通りと思ってた。

あぁ、確かに僕は恵まれていた。

僕はちゃんと立たなきゃいけない。

こんな僕にまだ付き合おうとするランスにも、ルキスやエリオットにも、僕は向き合わなくちゃいけない。


食堂に顔を出した僕に、デールは話し掛けてくれた。だけど、他の皆は、僕を遠巻きに見る。

王子であっても此処では最初からただのエドガーだった。

ただのエドガーを再び受け入れてもらいたい。


逃げたら、もう…母に会いに行けない。



初めて感想を頂きました。とても嬉しいものでした。声を届けてくださって本当にありがとうございました。

拙い私の言葉ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

後、夕方に一話投稿します

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