表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/516

26話 数日前の敵

 風舞




 つい数分前にファルゴさん達と再会した俺達3人は、昼飯を食べに行くのを中断して朝鳥の泊まり木に戻り、団長さんと話をしていた。

 どういう訳か彼女はローズが魔族だというのを誰にも言わないでいるみたいだし、その真意を知るために先程彼女を俺達の部屋に誘った所、こうして一人で来てくれたのである。

 因みにファルゴさんは人払いの意味も込めて俺達の馬車を村の馬車置き場に置いて来るように団長さんに命じられたため、今はここにはいない。

 ありがとうございますファルゴさん。



「ふぅ。元気だったかミレン?」

「うむ。お主ももう万全の様じゃな」

「ああ。お前が手加減してくれたお陰で後遺症も何もねぇよ」

「それは何よりじゃ」



 そう言って微笑み合うローズと団長さん。

 あれ?

 この前は本気で殴り合いをしてたのに、今日はすごい仲が良さそうだな。

 昨日の敵は今日の友みたいなもんなのか?


 そんな事を考えながらたわい無い話をしている2人をぼんやりと眺めていると、舞が腕を組んで仁王立ちをしながら話に割って入った。

 まぁ、いつまでもこうして駄弁っていても仕方ないしそろそろ話を始めるべきだろう。



「さて、そろそろ挨拶も終わったみたいだし本題に入ってもらってもいいかしら?」

「うむ。そういえばそうじゃったな。妾達はこれから昼飯を食べに行かねばならんし、手早く済ませるとしよう」

「ああ、私もあまりあいつらを待たせられないし、そうしてくれると助かる」

「それじゃあ、単刀直入に聞くわよ。ねぇ、シェリーさん。どうして貴女はミレンちゃんの正体を見破ったのに、誰にも話さないでいるのかしら?」



 質問を投げかけられた団長さんが、舞のことを数秒ほどじっと見つめた後で口を開く。



「なぁ、マイム。先に私からも一つ聞いていいか?」

「ええ。私の質問にしっかりと答えてくれるなら構わないわよ」

「それじゃあ、何でお前そんな娼婦みたいな格好してるんだ? お前は冒険者じゃなかったのか?」

「べ、別に好きで着てる訳じゃないわよ!」

「ん? じゃあ何で着てるんだよ」

「それは、その、何というか。ほ、放っといてちょうだい!」

「あ、ああ。そう言うなら別に深くは聞かねぇけどよ」



 舞に必死な顔でエッチなメイド服について触れないでくれと言われた団長さんが、思わず面食らった顔をしている。

 まぁ、どう考えてもシリアスな話をするような格好じゃないし、普通は気になるよな。

 俺とローズは大分慣れ始めてるからもうあんまり違和感を感じないけど、団長さんの反応の方が普通な気がする。



「へぇ。マイムも結構大変そうだな」

「そうじゃな。夜の内に洗濯をして同じ服を着まわしているぐらいじゃし、きっと深い事情があるんじゃろう」

「もう! 2人が私にこの格好をさせている張本人なのに、どうしてそんなに他人事なのよ!」

「そんな事ないぞ。今もマイムのその格好をこうして堪能させてもらってるし、全然他人事じゃない」

「そう言う事を言ってるんじゃないわよ! ていうか、そんなに脚ばっかり見ないでちょうだい! …って、ここもダメ!」



 舞が顔を赤く染めながら胸元の素肌が露出してる部分を手で覆い隠す。

 今日も俺達のメイドさんはエッチだ。

 そんな感じで俺が舞のメイド服をじっくりと鑑賞していると、真面目な顔をしたローズが足を組み直して、団長さんに話を戻した。


 雑にいじられるだけだった舞は何かを言いたそうな顔をしていたが、結局深いため息をついて部屋の隅で体育座りをし、ヘッドドレスを外してチマチマといじり始めた。

 なんだかそろそろ舞が気の毒になって来たし、今日いっぱいでエッチなメイド服を着せるのは終わりにするか。

 もう十分楽しませてもらったし、これ以上は舞の精神衛生上良くない気がする。

 今も胸元の穴を見て顔を赤くしながら乾いた笑みを浮かべてるし。



「まぁその話は置いといて、結局お主の目的は何なのじゃ? 妾が魔族だと知った上でどうしたいんじゃ?」

「あ、ああ。そう言えばそうだったな。でもまぁ、別に大した理由じゃないぞ。ただ、魔族だとかつまらない話でお前みたいな奴の敵に回りたく無なかっただけだ」

「む? どういう事じゃ?」

「お前、魔族の中でも結構強い方だろ? ステータスはそこまでじゃないのに、その技や雰囲気がタダ者じゃねぇ。私はうちの騎士団で一番頭が悪いが、お前みたいなやつに喧嘩を売る馬鹿ではないつもりだ」



 まぁ、ローズはいくら弱体化してるといえ千年を生きる最強の魔王な訳だし、一度手合わせをした団長さんがローズには喧嘩を売るべきじゃないと思うのも無理はないかもしれない。

 赤い狂人と呼ばれる特異体質の彼女なら、野生の勘みたいなものでローズの力量を正確に測れててもおかしくはないだろうし。



「それはいくらなんでも買い被りすぎじゃな。今の妾は魔族の中でもせいぜい中間層に入るぐらいじゃろうよ」

「ふん。大分力を抜いて私に圧勝した癖に良く言うぜ」

「それは単純に経験の差じゃ。もしもお主が望むなら今から稽古をつけてやっても良いぞ?」

「いや、それは勘弁してくれ。また3日間も動けなくされたらたまったもんじゃねぇ」

「ふむ。それは残念じゃの」



 そんなやり取りをしていたローズと団長さんはお互いの(おど)けた顔を見て、どちらからともなく笑い始めた。

 俺にはこの2人の考えている事はイマイチ分からなかったが、とりあえずは和解というか、特に問題が無さそうで良かった。

 これで心置きなく世界樹への旅を続けられるな。


 そんな事を思いながら水瓶に入っている水をコップに汲んでゴクゴクと飲んでいると、誰かが部屋にノックをして訪ねて来た。

 ちょうどドアの近くにいた俺が、ドア越しに声をかけ要件を確認する。



「はいはーい。どなたですか?」

「あ、フーマかい? 少し旅の予定について聞きたい事があるんだけど、今は時間が空いてるかな?」



 ああ、ユーリアくんか。

 俺は部屋の中にいる面子に顔を向けて、彼を部屋に入れても良いか判断を(あお)ぐ。



「ああ、私の事は別に気にしないで良いぞ」



 団長さんがそう言ったのとローズが頷いているのを確認した俺は、ユーリアくんを俺達の部屋に招き入れる事にした。

 ドアを開けると、髪が短くなって少しボーイッシュになったものの、尚も可愛い顔をしたユーリアくんが俺の顔を見てふんわりと笑みを浮かべる。


 昨日俺がユーリアくんの髪をイケメンにしてやろうと思って切ったんだけど、結局可愛い顔のままなんだよな。

 これは俺の実力が不足しているというよりは、ユーリアくんの顔が可愛いすぎるのが問題な気がする。

 マジで、どうしてその顔でユーリアくんは男なんだ。



「ほら、今お客さんが来てるけど、それでもいいなら入っていいぞ」

「そうだったのかい? それなら僕は出直した方が良いかな?」

「いや、団長さんも良いって言ってるし構わないだろ。ちょうど話も終わったところだしな」

「ん? 団長さんってジャミー達の傭兵団の団長の事かい? それじゃあ自己紹介しないとだね」



 そんな話をしながら部屋にユーリアくんを招き入れると、彼が団長さんに自己紹介を始めた。

 団長さんもエルフのユーリアくんを見て少し驚いた顔をした後、彼の元へ寄って行く。



「初めまして。僕はエルフのユーリア。今はフーマ達の旅の一員に加えてもらっているよ」

「ああ。私はセイレール騎士団団長のシェリーだ。今はグラズス山脈から魔物が溢れ出している件の調査をしている」



 そう言ってにこやかに握手を交わす赤髪と金髪の二人。

 なんかこれぞファンタジーって感じで結構絵になる光景である。

 片やエルフで、方や赤い狂人だし。



「む、シェリーはグラズス山脈の魔物の件について何か調べがついておるのか?」

「いや、魔物の討伐も依頼されてるから調査の方はそこまで進んでないんだけど、どうやら世界樹の方から強力な魔物が押し寄せているみたいだ」

「ふむ」



 ローズは会釈をしてそう声を漏らすと、アゴに手を当てて何やら考え事をはじめた。

 俺達の中で世界樹に一番詳しいユーリアくんも神妙な顔をしているし、俺の想像していたよりも事態は大きいのかもしれない。


 そんな事を考えながら、ふと部屋の隅で蹲っている舞に目をやると、ちょうど目が合った彼女に手招きをされた。

 彼女の近くに寄って行って目線を合わすと、舞が小さい声で話を始める。



「ねぇ、フーマくん。シェリーさんも私たちの旅に誘ってみてはどうかしら? 彼女も世界樹ユグドラシルを調べる予定なんでしょう?」

「まぁ、それもそうだな。とりあえずミレンにも聞いてみるか」

「ええ。お願いするわ」



 そう言ってベッドと壁の間に座りながら頷く舞。

 いい加減そこから出てくれば良いのに、いつまでこうしているのだろうか?

 舞がこうなった原因の一端が俺だから声に出しては質問しないけれど。


 俺はそんな事を考えながら、ベッドに腰かけて考え事をしているローズの元へ後ろからベッドの上を這って行って、何となく彼女の耳に息を吹きかけた。



「ふぅー」

「にょえいっ!?」

「うわっ!?」



 思ったよりもローズがビックリしたから俺まで驚いてしまった。

 それにしても、にょえいってなんだよ。

 びっくりして耳を押さえているローズを見て笑いをこらえていると、ぽかぽかと胸を叩きながら怒られた。



「おいフーマ! いきなり何をするんじゃ!」

「ああ、悪い。珍しくミレンが隙だらけだったからつい」

「ふふっ。ミレンちゃんもあんなに可愛らしい声を出すのね。にょえいって」

「ああ。にょえいなんて初めて聞いたぞ」

「むぅ、それはもう良いから早く要件を言わんか! 妾に用があるのじゃろう?」



 ローズがそう言いながらベッドの上に俺を座らせて、俺の膝の上に座る。

 なんか最近俺、ローズの椅子になってる事多くね?

 まぁ、別に良いんだけどさ。


 ってそうじゃなくて、初めはコッソリとローズに団長さんを旅に誘うか尋ねる予定だったのに、思ったよりもローズがビックリしたからユーリアくんと団長さんもこっちを見ている。

 あれ、なんで団長さんはそんなに驚いた顔をしてるんだ?



「あ、あのミレンの背後を取るなんてなんて奴だ。そういえばあの時も攻撃を見切れてないのに私をのしてたし、フーマは実はもの凄く強いのか?」

「そうよ! 何せフーマくんはこの私と真剣勝負をして無傷で勝ったんですもの!」

「何? 全然強そうには見えないが、マイムよりも強いのか。お前、実力を隠すのが上手いんだな!」

「はぁ。ど、どうも?」



 あれ?

 何か過大評価されすぎじゃないか?

 どう考えても舞と団長さんの方が俺より強いだろ。

 っていつの間にか部屋の隅から舞が出て来て俺の盛りすぎな武勇伝を団長さんに語り始めてるし。


 そうして遠いどこかの英雄フーマの話で盛り上がる二人を眺めていると、部屋に入ってすぐの所に立っていたユーリアくんがこちらにやって来た。



「へぇ、フーマは優秀な魔法の使い手なんだね」

「いやいや、今は魔法使えないし、使えてた頃も舞が言ってるようなことはほとんど出来なかったぞ?」

「ん? 今は魔法が使えないってどういう事だい?」

「ああ、なんでも魂が少し壊れてるとかで、魔法が使えないんだ。俺の中のオセロ廃人がそう言ってた」

「オセロ廃人? よくわかんないけど、もしかすると僕の姉さんならフーマの魂を治せるかもしれないよ?」

「え? マジで!?」

「うん。確証はないけど姉さんはそういうのに詳しいし、多分できると思うよ」



 そう言ってニッコリと微笑むユーリアくん。

 魔法が使えなくなって早半月、今日まで魔法なしで頑張ってきたが、ようやく魔法を再び使える様になる手がかりが見つかった。

 まさかユーリアくんのお姉さんが、ギフトの花弁を無理矢理はがして傷ついた俺の魂を癒せるかもしれないとは、彼と出会えて本当に良かった。



「よし、今すぐ行こう。すぐ行こう! ほら、団長さんも早く準備をしてください。今すぐ世界樹ユグドラシルに行きますよ!」

「は? 私もお前らと一緒に行くのか?」

「だってグラズス山脈の異変を調査する予定だったんですよね?」

「まぁ、そりゃあそうなんだけどよ」

「それなら一緒に行きませんか? 今すぐ!」

「これ、魔法がまた使える様になりそうで興奮するのは分かるが、少し落ち着かんか」

「あだっ!?」



 早る気持ちを抑えられずについつい興奮していたら、俺の膝に座っていたローズに後頭部で頭突きをされた。

 別に口で言えばわかるから頭突きしなくてもいいのに。

 頬を膨らませてるし、さっき耳に息を吹きかけられた事を怒ってるのか?

 そんな事を考えなが頭突きされた鼻をさすっていると、ローズが団長さんと話している舞に声をかけた。



「それで、フーマが先程マイムと話しておったのは、シェリーを誘うかについてなんじゃな?」

「ええ。シェリーさん程の強い人が同行してくれるなら私たちも心強いでしょう?」

「ふむ。妾は構わんが、お主はどうじゃ?」

「僕はミレン達の馬車に乗せてもらうだけだし、その辺りの事は任せるよ」

「そうか。ではシェリー。どうじゃ? 妾達と共に世界樹ユグドラシルまで行かんか?」

「あぁ、そうだな。誘ってくれるのは嬉しいんだが、こればっかりは私だけじゃ決められねぇし、少し時間をくれないか?」

「うむ。妾達は明日の昼頃出発する予定じゃから、その気になったらそれまでに声をかけてくれ」

「わかった。それじゃあ早速あいつらと話してくるから、私は先に失礼するぞ」



 団長さんはそう言うと、後頭部をぼりぼりとかきながら舞にまたなと挨拶をした後で、何か考え事をするように部屋から出て行った。

 確かに団長さんはセイレール騎士団の団長さんだし、他の団員とも話し合わないとか。

 ちょっと急かしすぎたかもしれない。


 そんな事を考えながら団長さんの出て行ったドアを眺めていると、舞がこっそりと俺に寄って来るのが視界に入った。

 どうやら俺の耳に息を吹きかけようとしているらしい。

 スカートのボリュームがあるから結構視界に入りやすいんだよな。

 俺はそんな事を考えながらローズを持ち上げつつ、すっと立ち上がり口を開いた。



「さてと、それじゃあ昼飯に行こうぜ! もう腹ペコだ」

「うむ。そう言えばそうじゃったな。ユーリアも昼食がまだなら一緒にどうじゃ?」

「いや、僕は今日の昼食は宿で頼んであるから遠慮しておくよ」

「そうか。それは残念だな。ん? 舞はなんでタコみたいな顔をしてるんだ? 食べたいのか? タコ」

「もう、フーマくんは相変わらず意地悪ね」



 俺は口をとがらせながらそう言う舞を見て笑みを浮かべた後、昼食を食べに行くために揃って部屋を出た。

 それにしても、ユーリアくんのお姉さんはかなりの美人だろうし、魔法をまた使える様にしてもらえるかもしれないなら、ますます会うのが楽しみだな。

 ビバエルフのお姉さん!

 もうすぐ会いに行くから待っててくれよ!

 俺はそんな事を考えながら、世界樹ユグドラシルの方へ強い思念を送った。

4/19分です。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。


本日中にもう一話更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ