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20/20

終わりの世界

あれから数年後…


私は彼らが居なくなってもこの国で冒険者の依頼を受けていた。

そのすぐ後に血塗れの大怪我を負いながらも命からがらで帰ってきたアルスが彼らが居なくなった事とこの世界が閉ざされた事を知らせてくれた。

そのアルスもしばらくして依頼を受けている最中に災害級モンスターの群れに襲われて死亡した。

その数日後には、突然フィリアムが寝たきりとなり、目を覚まさなくなった。

昼間もどんよりとした曇り空ばかりが続き、街中でも薄らと霧が出ていた。

日に日に夜が長くなるのを感じる。

また夜になれば外で未確認のモンスターが大量に発生し、外にいる人を襲っては食べる為、今日も今日とてあちらこちらで悲鳴が聞こえる。

単体の攻略自体は可能だが、数が多過ぎてとてもじゃないが、モンスターの討伐は不可能に状況だった。

それからは簡単な依頼を何度も受けては、その日の宿代を稼ぎ、同じ宿で寝る。

私は夜になったので、宿に戻り、受付で3人分の代金を支払う。

いつもの部屋の扉を開けて、同じ部屋で寝泊まりしている少女に声をかける。


「ナーシャさん、ただいまです。」


ナーシャと呼ばれた人狼の少女はゆっくりと私の方を向く。

この国で唯一、あのモンスターの群れを討伐する事が出来る女性だ。

彼女の戦闘を見せてもらった事があるが、本能で恐ろしいまでの強さだと理解した。

軽く拳を突けば、山すら破壊する様な衝撃が放たれる。

その上、魔力も凄まじいもので、初級の中でも一番攻撃力の低い火の魔法であるフォイヤですら、国一つを滅ぼせそうなほどの火力なのだ。


「おかえり…アリアス…だったかしら?私の怒りを抑えてくれた貴方には感謝しかないわ。」

「いえ、私が出来るのは呪いで貴方の手助けをする事だけですから…それに貴方もフィリアムさんが死なないように魔術をかけてくださったでしょう?なので、お互い様です。」

「そう…」


ナーシャは短くそう返すとどこか悲しげに窓の外を見る。

そして、ポツリとつぶやく…


「守れなかった…人が居る…とても大切な人…」

「そうなのですか?」

「うん…」


ナーシャは短くそう返すと涙を落とす。


「私は怒りに呑まれた…それから、ずっと守れなかった自分を憎んで怒って…」


ナーシャはまるで懺悔をするかのように言う。


「ごめんなさい…私が…弱かったせいで…ごめんなさい…」


私はナーシャの背中を優しく撫でる。


「アリアス…」


ナーシャは涙でぐしゃぐしゃの顔で私の方を見る。


「ナーシャさん…私にはこうする事しか出来ませんが、貴方は悪くないと思います…」

「ううん…私が悪い…私は逃げたんだ…だから…私は…罰を受けたんだ…愛する人を…見殺しにした…私は…私は…」


ナーシャは私の手を退けると、そのまま虚ろな目で歩き始める。


「奴らを根絶やしにしなくちゃ…殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して…」


まるで壊れたロボットの様に繰り返す。

そして、そのまま彼女は宿の外に出て戦闘を始める。

あちらこちらから、地響きや爆発音が聞こえ、人々の悲鳴も聞こえる。

彼女は強い。

だが、彼女は無差別に殺戮を繰り返した。

モンスターも人も全てを殺し尽くさんがばかりに殺していた。

この国の城も彼女を危険視した王が彼女を殺そうとした時に彼女が跡形もなく壊している為、今ではアンデットの巣窟となっている。

アンデット達は城の敷地の中に入らなければ襲ってくる事はなかった為、ギルドからは討伐依頼は出さない事になっていた。

時折、外でアンデットとモンスターが戦ってる様子が見られる事から、この国を守る目的で生成されたと考えられている。

私はフィリアムの顔を見ながら言う。


「これが夢ならば、早く覚めてほしいよ…リア…エイリス…エフィル…」


私は今は亡き友の名を口にする。

私はどうしたら良いのだろう…

私の呪いの力は増しているが、それは私が扱う呪いとは別物の呪いだった為、私の力としては日々の精神の疲労で衰えるばかりであった。


「フィリアム…私、もう疲れちゃった…皆、死んじゃってさ…残された私たちも日に日に精神が削られてさ…うぅ…皆、自分の事で手一杯で誰かを助ける事も助けられる事も無くなってさ…たくさんの村や街、そして国が滅んだよ…」


フィリアムは相変わらず死んだ様に眠っていた。

気がつけば、私の頬を涙が伝っていた。


「フィリアム…私は…どうすればいいの…私、もう耐えられない…フィリアム…ねぇ…どうして…どうして目を覚ましてくれないの…もう私には貴方しか居ないのに…貴方はずっと眠っているの?どうして…どうして…ねぇ…フィリアム…私、生きてる意味…あるのかなぁ…悲しくて絶望しか無くて、もう3日も何も食べれてないんだ…食事が喉を通らなくてさ…流動食は食べれたけど、それでもあまり食べられなくてさ…それでも発生するモンスターたちは日に日に強くなってさ…災害級モンスターの群れも発生してさ…もう体が限界だよ…ねぇ…フィリアム…目を覚ましてよ…フィリアム…」


私はフィリアムの身体を掴む。

フィリアムは死んだ様に眠っているが、ある言葉を発する。


「時を戻しますか?」


私が驚いて飛び退くとフィリアムの身体がベッドから浮き上がり、直立の姿勢で地に降り立つ。

フィリアムは相変わらず寝ていたが、まるで息を吹き返したかのような安らかな寝顔になっていた。


「時を…戻す…?」


私がそう言うとフィリアムは言う。


「この世界に光が訪れる事は二度とありません。だから、貴方が願うならば時を戻し、運命を変えて差し上げましょう。それが私の最後の役目です。」


私は二つ返事でフィリアムに言う。


「はい…!それで皆が救われるなら…私は…!」


フィリアムが目を見開く。

その瞳には今までと違う真っ赤な光が輝いていた。


「よろしい。では、この世界の時を戻しましょう。ただし、この世界の記憶は失われます。そして、必ず選ばれなかった選択肢にたどり着きますので、ご安心を…」


フィリアムから莫大な魔力を感知する。


「時よ…我が身を糧に今、回帰せよ!そして我が声を聞き、世界を変えよ!我が名はフィリアム・オクロウル!世界よ…巻戻れ!|時神の回帰<オクロウル・リバース>!」


急速にフィリアムから赤い魔力が解き放たれ、それはやがてこの世界全てを包み込む。

そして、赤く輝く彼女は言う。


「…蘇りし世界に私は居ませんが、代わりの者がいるのでご安心を…私は役目を終え、神の座を次の世代に託します。」


時がグングンと巻きもどる。

ありとあらゆるものの時が戻り、私たちの記憶もそれに合わせて巻戻り、存在していた地点が変わる。

私は最後にこの終わりの世界の記憶が全て消える前にある呪いを自らに刻む。


「今度こそ…失敗のない世界を…」


私の意識はここで途切れた。

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