大嵐の歌姫
しばらく、歩いているとエイリスが立ち止まって言う。
「ここから先は帰らずの森と呼ばれている凶悪モンスターの巣窟よ…私ならともかく、今の貴方たちじゃ、子供の魔狼にさえかなり厳しい戦いを強いられると思うわ。出来るだけ敵を避ける為にも外周を進む事がおすすめよ。」
この森の外周には鋼のように硬い毛皮と強力な顎と強靭な足の魔狼、超高圧の電流で敵を追い払ううさぎのライトニングラヴィット、物理攻撃を完全無効化する魔物のスライム、下級の魔法も無力化するエタニティースライム、真っ赤な体に全てを瞬時に溶かす強力な酸性の毒を持つハチのスカーレットが主に生息している魔物らしい。
ただし、これはごく一部である上にこの森では比較的に弱い魔物なんだそう。
ここには強力な力を持つ妖精も居るが、植物モンスターは居ないので、ある一体を除いては妖精に襲われる心配はないとの事である。
アルスが腕組みをして言う。
「つまり、俺たちはさっさとここを抜けて水の国に行けばいいんだろ?」
「結論だけを言えば、その通りなんだけどね。かなり大回りをしていかないと、中心部には私の魔法でさえも効きにくい魔物がわんさといるから、貴方たちの命の保証どころか、私でさえ危ういわ。ま、全滅する保証なら、太鼓判を押せるのだけどね。」
俺はかなりの日数をここで過ごさなければならないかもしれないと感じる。
外周の雑魚ならエイリスが何とか出来るから、睡眠の心配は要らないだろうが、内側に入れば確実に寝れなくなるし、寝れなければ思考能力も低下するし、身体能力も大幅に低下する事が考えられる。
つまり、何としてでも外側を回って無事に通り抜けなければならないわけだ。
エイリスの案内の元に森の外周を慎重に歩いていると、エイリスが立ち止まる。
「不味いわね…厄介な奴に見つかったわ。」
「な、なんだ?!」
俺たちの足元に突然魔法陣が形成される。
エイリスが覚悟を決めた様に言う。
「これから会うやつは妖精族の中でも好戦的で最も強く危険な歌声の持ち主、大嵐の歌姫:セイレーンよ。くれぐれも歌には気をつける事ね。」
俺たちの視界が真っ白になる。
気がつくとそこは木々が生い茂る森の中だった。
『アハハハ!こんにちは!可愛い人間さんたち!』
どこからともなく声が聞こえる。
俺とアルスが周りを見回しているとその声の主は楽しそうに言う。
『ごめんごめん!このままだと君たちに見えなかったね!』
どこからともなく突然目の前に緑色と短い髪の中学生くらいの大きさの中性的な妖精が現れる。
エイリスはその存在を警戒する様に構える。
「やあ!ボクはセイレーン…この世界で最強の妖精だよ!よろしくね!」
セイレーンは人懐っこい笑みで俺に手を差し出し握手を求める。
俺はその手を握ろうとしたが、エイリスが右手を広げて止める。
「何を企んでいるのかしら?あなたがタダでここに人を呼ぶとは思えないのだけど…」
「アハハ!やだなぁ!エイリスちゃん、ボクを買い被りすぎだよ!」
セイレーンはひとしきり笑った後に真面目な顔をする。
「ボクは世界に命令を出したって言う愉快な神様に興味があっただけだよ。ついでにボクたちは性質上、自然を愛する種族だから、ボクたちに敵対するものかどうかの見極めもしたかったんだけどね〜」
「そう。本当にそれだけなら、良いのだけれど…」
エイリスはまだ警戒を解かないが、セイレーンはお構い無しな感じで言う。
「まあ、頼みたい事はあるんだけど、今の君たちでは厳しいよね。特にそこの神様は力を手に入れたばかりだし…」
セイレーンはふよふよと俺の前に飛んでくる。
「君、名前は?」
「俺はリアだ。」
「リアちゃんね。わかったわ…」
セイレーンが俺の左腕を持って不思議な力でよく分からない紋章を刻み始めた。
「我、風の担い手なり…神をも穿つ白き風よ…我が誓約に従いてかの者に力をさずけたまえ…」
セイレーンが紋章を刻み終えるとその紋章が白く輝く。
アルスが驚いた様子で言う。
「なんだその力…魔力でも無ければ、精霊力でもない、莫大な力だ…」
「これは古の時代の力…あえて、名をつけるとするならば、音神の力…つまり、神力と呼ぶべき力よ。それも今の神が使えるものより、もっと強力で絶対的な神力ね。世界の始まったばかりの時代の絶対的な力として"原初の神力"とも言われるわね。今回のはその中でも最も扱いやすい"微風の歌"を刻み込んだわ。もちろん、貴方の実力次第では最強の"白き風の歌"にもなる力よ。」
エイリスが不信感を隠すこともなく言う。
「あなたが力を授けるなんてどういう風の吹き回しかしら?」
「ん?今のボクはリアちゃんの味方だよ。それだけは保証してあげる!だから、リアちゃんを傷つける事はしないから安心してていいよ。」
「本気で言っているのならば、私もここでの詮索はこれ以上しないでおくわ。」
セイレーンは満足そうに頷く。
「そうそう。リアちゃん、その力はほんとに危ない時にだけ使うといいよ。今の君だとせいぜい1回力を使うので限界だろうからね。これからの君の活躍に期待してるよ。」
セイレーンはそう言うと眩い光を放つ。
目の前が真っ白になった後、さっきの場所に戻される。
エイリスがブツブツと言う。
「やけにすんなり帰したけど、何のつもりなのかしら…人助けをする様なタイプでも無いはずなんだけど…そもそも妖精の彼女があんな力を持ってる事自体が異質なのだけれど…」
アルスが若干眠そうに言う。
「今は味方だと言ってたし、良いんじゃないか?万が一、こちらに危害を加えてきた時には、全力で蹴散らせばいいだけだろ?」
エイリスは何か言いたげにしていたが、そのまま歩き始めたので、俺たちもついて行く。
ここはとある場所…
その場所で一人の女が楽しげに踊っていた。
「私の下僕からの情報によると私を殺そうって考えてる愚かな人間が来るんですってね♪アハハハハ!時期に楽しい夜になりそうですわ♪」
女の楽しげな声が広い部屋の中に響く。
楽しげな歌とともに…




