↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/56

エピローグ いつもの日曜日

 四月最初の日曜日。


 返却されたスマートフォンを片手に、星羅は朝から何度目か分からないため息をついていた。


「休み短すぎない?」

「毎週言うとるやん、それ」


 向かいに座る小町が呆れたように返す。


 四人がいるのは、日曜になると何度も足を運んでいるショッピングモールのフードコートだった。入学した頃には外出できるだけで浮かれていたのに、一年も通っていれば店の場所もだいたい覚えてしまい、星羅に至っては昼食を買う店までほとんど決まっている。


「だって二年生になったんだよ? 休み増えてもよくない?」

「何の理屈やねん」

「進級祝い」

「学校に言ってみたら?」


 瞳子が言うと、星羅は即座に首を振った。


「絶対無理」

「じゃあ言わないでよ」


 昼食を終え、それぞれスマートフォンを眺めながらのんびりしていると、星羅がふいに顔を上げた。


「ねえ、二年って秋から学校いなくなるんだよね」

「厩舎実務のこと?」


 瞳子が聞くと、星羅は頷いた。


「美浦か栗東でしょ。普通にヤバくない? 現役の競走馬に乗るんだよ?」

「そこに行くために今まで訓練しとるんやろ」


 そう言った小町も、少しだけ楽しそうだった。


 二年生の前半は、学校でこれまで以上に実践的な騎乗を学び、その先では美浦か栗東のトレーニングセンターへ出て、実際の厩舎で生活しながら仕事を覚えることになる。


 学校の訓練馬ではなく、現役でレースを走っている競走馬に乗る。


「楽しみ?」


 隣から声がして顔を向けると、鈴乃がこちらを見ていた。


「うん。怖いけど、楽しみ」

「どちらですか」

「両方だよ」

「アタシも!」


 向かいから星羅が勢いよく手を上げる。


「現役馬とか絶対速いじゃん。早く乗りたい」

「その前に学校でやること山ほどあるやろ」

「分かってるって」

「星羅ちゃんの場合、その『分かってる』が一番信用できないんだよね」

「とこまでひどくない?」

「瞳子の意見に同意します」


 鈴乃が平然と言い、星羅の動きが止まった。


「……ちょっと待って」

「何?」

「今、清っち普通に『瞳子』って言った?」


 しまった、と瞳子は思った。


 小町もスマートフォンから顔を上げ、鈴乃と瞳子を交互に見る。


「ほんまや。いつから?」

「最近」

「なんで黙っとったん!」

「言うほどのことでもないでしょ」

「あるやろ!」

「ある!」


 小町と星羅の声がきれいに重なった。


 鈴乃は面倒そうに二人を見る。


「呼び方が変わっただけです」

「じゃあ、とこも?」

「うん」

「呼んでみて」

「なんで?」

「いいから!」


 星羅に急かされ、瞳子は隣を見る。


 鈴乃もこちらを見ていた。


「……鈴乃」

「はい」

「うわ、本当に呼んだ!」

「星羅ちゃん、うるさい!」


 周囲の客が何人かこちらを見て、小町が慌てて星羅の腕を引いた。


「声でかいって!」

「だって一年かかったんだよ!?」

「正確には一年経っていません」

「清っち、そこ今どうでもいい!」


 また始まった三人のやり取りを見ながら、瞳子は笑った。


 一年前の日曜日は、外へ出られるだけでも特別だった。


 学校へ戻れば早朝から厩舎作業があり、検量があり、訓練では毎日のように叱られる。それは二年生になっても変わらないどころか、きっと今までより厳しくなる。


 やがて学校を離れ、厩舎実務へ出れば、今まで通り四人そろって過ごせる時間も減っていくのだろう。


 それでも、不思議と寂しいとは思わなかった。

 その先にあるものを、今は見てみたかった。


「そろそろ戻らないと時間なくなるよ」


 瞳子が時計を見ると、星羅が名残惜しそうにスマートフォンを握りしめる。


「あと五分」

「五分で何すんねん」

「なんか見る」

「雑すぎるやろ」


 小町が立ち上がり、鈴乃も荷物を手に取る。


「行きますよ、瞳子」

「うん」


 自然に返事をしてから、四人で出口へ向かった。


 明日になれば、また馬に乗る。その次の日も、そのまた次の日も。


 二年目には、一年目には知らなかった馬と出会い、知らなかったことを覚え、きっとまた何度も失敗する。


 それでも、その全部が少し楽しみだった。騎手になるまで、まだ先は長い。


 四人の二年目は、始まったばかりだった。




  一年生編  完

※ここまでお読みいただき、本当にありがとう御座います!!

 いったん完結にします。プロットはありますが、書くとしたら二年生編は厩舎実務入るので、調教師や厩務員、馬主やエージェントが出てきたり、もう少し世界が広がる感じになります。

 


 ありがとう御座いましたm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。