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絶望する少女

目を覚ました。


また、だ。


何度目の覚醒か、もうわからない。

ただ、いつもと同じ。

ベッドに縛りつけられ、身体は動かない。


天井の木組み、埃の匂い。

壊れた薬品瓶や、割れた魔道具が床に散らばっている。


ここは、ミレイユの研究室。


リリィ。

いや、リュミエールの姿をしたリリィは、乾いた喉で小さく息をした。


(また、ダメだったんだ)


視線を横に向ける。

そこには、ぐったりと床に座り込んだミレイユがいた。


彼女は、ランタンを前にして、うなだれている。


何度も、何度も試したのだ。

聖水を。

封印呪文を。

祓いの護符を。

あらゆる手を尽くして。


今度こそ、今度こそと願いながら。


けれど、ランタンに照らされる影は、変わらなかった。

リリィの影は、いつだって。

竜のままだった。


リリィは、静かに口を開いた。


寄生スキルのこと。

ダンジョンに置き去りにされたこと。

火竜に飲み込まれたこと。

そして、夢の中で出会ったリュミエールのこと。


話した。

すべて、隠さずに。


それでも、ミレイユは立ち上がらなかった。


ぽつり、と。

かすれた声で、呟いた。


「……彼女を……返してよ」


リリィは、何も言えなかった。

その時だった。


ドンッ!


研究室が震えた。


鈍い轟音。

床を、壁を、窓を震わせる衝撃。


一度ではない。

二度、三度。


次第に、激しく、大きくなっていく。


「……な、に……?」


遠くで、誰かの悲鳴が上がった。


リリィは縛られた手をもがきながら、ミレイユに呼びかけた。


「ミレイユ!逃げないと!」


けれど、彼女は動かない。

ただ、床を見つめ、固まっている。


壁が、爆ぜた。

巨大な何かが、研究室の壁をぶち破って侵入してくる。


それは、蔓だった。

人の胴ほどもある、太く、蠢く蔓。


壁を打ち破った蔓は、ずるずると細い枝を伸ばし。

部屋中の壁に、天井に、床に、広がっていく。


(アムリエル……!)


リリィは直感した。


倒したはずの嘆きの樹。

その残滓が、地上に芽吹き、再び災厄をもたらしているのだと。


「ミレイユ!拘束を!」


必死に叫ぶ。

けれど、ミレイユは、まるで聞こえていないかのように動かない。


蔓が、にじり寄る。

細い触手のような先端が、ミレイユの腕に触れた。

それでも彼女は動かない。

全てを諦めてしまったかのように。


(もう、無理なの)


リリィも諦めていた。

何度もかけた彼女の声は、届かなかったのだから。


だが諦めない者が一人いた。


「ミレイユ!手を貸して!」


その声はリュミエールの物だった。

その身体を乗っ取ったリリィと同じ声だったが。

確かにリュミエールの声だった。


ミレイユの身体が、びくりと震えた。


次の瞬間、条件反射のように彼女は立ち上がり。

リリィの拘束具へ手を伸ばした。


縄を解く指が震えている。

彼女自身、何が起きたのか理解できていないようだった。


それでも。


「私は、まだここにいるから」


その言葉に、ミレイユの目に光が戻った。


だが、限界だった。

長時間、休むことなく活動を続けた身体は、悲鳴を上げていた。

拘束を解き終えた直後。

ミレイユはその場に崩れるように気を失った。


リリィは、彼女を抱きかかえる。

蔓が暴れ、建物を呑み込もうとしている。


(行かなきゃ)


リリィは歯を食いしばり、倒れたミレイユを背負った。

夜明け前の、震える街へと走り出す。


たとえ、

偽物と呼ばれようとも。


たとえ、

英雄の仮面をかぶったままでも。


今はただ、生き延びなければならない。

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