戦闘開始する少女
ダンジョンへと足を踏み入れて間もなく、パーティーは群れを成すゴブリンたちと遭遇した。
「……数、かなり多いね」
エルナが冷静に弓を構える。
ヴァルトは無言のまま剣を構え、前へ出た。
「来るわよ!」
ミレイユの掛け声とともに、戦いが始まる。
リリィは剣を握りしめた。
リュミエールの記憶が身体に刻み込んだ剣技は、見よう見まねでも強かった。
ゴブリンの腹を、喉元を、手際よく斬り伏せていく。
けれど。
(連携が)
剣を振るうたび、仲間の動きに微妙なズレが生じた。
本来のリュミエールなら、数手先を読んでいた。
だがリリィは、その技を「記憶」から探らねばならず、ほんのわずかに遅れる。
そのタイムラグが、他の3人の動きを乱す。
怪訝そうな目が自分に向けられていく。
(……不審がられてる)
不安が胸を締め付けたそのとき。
『私が合図するから、それに合わせて』
突然、頭の中に声が響いた。
(──リュミエール?)
反射的に身を任せる。
『右、右、左下──!ミレイユの炎に合わせて前進、斬って、下がって、ヴァルトと交代!』
流れるような声と指示が、迷いを打ち消した。
その瞬間から、リリィの剣が変わる。
剣士ヴァルトの突進にあわせて敵を弾き、エルナの矢の死角を突いて追撃。
ミレイユの詠唱にぴたりと合わせて、爆炎の隙間から跳び出すと。
「はあっ!」
一閃。
斬撃と連携が重なり、ゴブリンの群れが次々と倒れていく。
仲間たちの驚きと、そして喜びが伝わってくる。
何より、リリィ自身の中に言葉にできない充足感が湧き上がっていた。
(これ……なに、この感じ……)
仲間との連携ではない。
リュミエールと自分。
一つの身体に宿る、二人の呼吸が噛み合ったこと。
その達成感は、今まで感じたことのないものだった。
戦闘が終わり、仲間たちがほっと息をつく。
「リュミエール、調子戻ったみたいね!」
ミレイユが嬉しそうに笑った。
だが、その瞬間だった。
何かが見えた。
頭上から、いや、天井から“それ”はぶら下がっていた。
巨大な影。
絡みつくような鱗の軋み。
大蛇。
しかも魔力を帯びた、ダンジョンの中堅魔物だ。
その牙は、ミレイユの真上に。
「──っ!」
リリィの言葉は声にならない。
距離がある。
剣が届かない。
声をかけても、ミレイユは今、こちらを向いていない。
(──間に合わない)
魔法使いが、死ぬ。
そう思った、その瞬間だった。
彼女の目に、力が宿った。
竜だった頃、持っていた力。
対象を睨むことで一瞬だけ動きを奪う。
拘束の邪眼。
「止まれ」
リリィの視線が、雷のように蛇を貫いた。
バチィィィッ!
天井から落下する蛇の巨体。
そのまま地に叩きつけられる直前、リリィは飛び出していた。
「はああっ!」
斬撃が光を引き、蛇の頭部を一刀で裂く。
──静寂。
仲間たちが、驚きに息を呑む。
「肝を冷やした」
ヴォルドがそう呟く。
「え、あ、私危なかった?」
僅かに遅れて、ほっとしたように肩を落とすミレイユ。
だが、その横顔はわずかに硬かった。
(気づかれてない、よね?)
ヴォルドたちは邪眼の発動を見ていないようだった。
リリィはほっと胸をなでおろす。
だが、彼女は気づいていない。
ミレイユだけは別だったのだ。
リリィを見つめるその目は、何かを探るように揺れていた。
「よし、先に進もう」
仲間たちの無事を確認して次の階層へと歩き出すリリィ達。
その先に何が待ち受けるのか。




