プロローグ
1984年、夏が間近に迫った6月初旬。
神代組本家では直系組長会が開かれた。
この日は、藤堂隆の四代目の就任が正式に発表される予定の日だった。
しかし、その席に峰崎広以下の峰崎支持派の直系組長たちの姿はなかった。
大広間には空席が目立ち、総勢96人の直系組長のうち、出席したのはわずか46人。
その頃、峰崎支持派は峰崎広を筆頭に大阪・坂本組の組事務所で記者会見を開いていた。
俺は加山組の事務所で、薄暗いテレビの画面を見つめていた。
古びたブラウン管の中で、峰崎の硬い横顔が映し出され、新組織の幹部が顔を揃えている。
フラッシュが焚かれるたび、白い光が彼らの頰の影を鋭く刻んだ。
「四代目というのは、親分が亡くなられて、我々組員総意のもとで決めるものであって、ある一部分の者で決められたということに我々は不満を感じて……」
峰崎の声は低く、抑揚をほとんど感じさせなかった。
事務所内にいる組員たちは、皆一言も発さず、ただ黙って画面を見つめていた。
煙草の煙が天井にゆっくりと昇り、蛍光灯の光を濁らせる。
峰崎の声が続く。
「私は一応、姐さんからは聞きましたけれども……、その時はもう決定的な言葉でありましたので、同意しかねるという言葉をもって、姐さんにお断りしたと……、これが実態であります」
その言葉が、事務所の空気をさらに重くした。
俺は窓の外の港を見つめながら、煙草の煙を深く吸い込んだ。
誰もが息を潜め、ただ重い沈黙だけが部屋を支配した。
おやじが、湯呑みを強く握りしめたまま、ぽつりと呟いた。
「これで……神代組は割れたな……」
これから始まるのは、血と義理と、男たちの業に塗れた長い物語だと誰もが感じた。
——すべては、あの1981年の夏から始まっていた。
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