2.王都に着いて
スクルートとキホテールは、王都に着くことができた。
王都は、住んでいた町に比べ、何もかもが桁違いだった。キホテールは物珍しさに興奮してはしゃいでいた。
「見ろよ、スクルート! あれは何だろうな? 人が沢山吸い込まれているいくぞ!」
「ああ、あれは駅だな。駅に隣接して沢山の店が入っている。人は買い物と移動を同時に出来る。実に合理的だ」
スクルートは王都の観光ガイドを見ながら説明した。この本は必要経費だと認めて買っておいたのだ。
「行ってみようぜ! ここまで来たんだ。見なくちゃ損だ!」
「待て。まず今までの経費の計算をしてだな。お互いの予定を決め……」
「まあまあ! 今は駅とやらを見ようぜ!」
キホテールは強引にスクルートの手を引っ張って、駅の中に入って行った。
駅は複雑な迷路のような通路に、商店街が階層になって重なり凄い人ゴミだった。
子どものように目をキラキラさせてキホテールは歩いていく。スクルートは呆れたように後をついていった。
最初は元気いっぱいだったホテールの顔色が、だんだん悪くなっていった。ついにフラフラして動きが止まった。彼の精霊達が心配そうにくっついて光っている。
スクルートは心配になって声をかけた。
「どうした? キホテール」
「人と情報量が多くて気持ち悪い……音もうるさ過ぎて頭痛い…。しかも道に迷った。うえ……」
「おい!野生動物のカンが働かなくなったのか」
キホテールは遠くから声が聞こえた気がした。スクルートの声のような気がするが、よくわからなくなっていた。
ノウがぐるぐると困ったように回転している。
「しょうがない!私についてこい!」
スクルートはキホテールの手を取ると、駅に書いてある道案内と手元の観光ガイドの地図と照らしあわせて、キホテールを駅の外に連れ出した。
外の風に当たり、キホテールは回復してきた。
「助かった……。なんとかなるだろうと思ったんだ」
「なんとかならなかったな。無計画すぎる!」
「ああ、駅は俺には魔の迷宮だと分かった。面白かった」
「面白くない! 体調崩す前にダメだと気づけ! この、野生生物が!」
「人に変なレッテルを貼るな! 失礼だろうが!」
二人が言い合いをしていると、人にジロジロ見られたり、クスクスと笑われてしまった。気恥ずかしくなったスクルートは、キホテールにここから離れようと提案することにした。
「おまえは方向音痴みたいだからな。おまえが行きたがっていた魔道具屋まで案内してやる」
「ええ! おまえっていい奴だったんだな。行こう行こう!」
ウキウキと口笛を吹くキホテールを連れて、スクルートは地図を読んで、本に載っている魔道具屋に向かう。
魔道具屋は老舗らしく、古く立派な門構えに重厚な門構えだった。キホテールは大喜びした。
「さすが王都の魔道具屋だな! 立派だぜ!」
「高そうな店だな……」
「まあまあ! ここまで来たんだから、入ってみようぜ!」
「おまえは! 先刻それで具合が悪くなっただろうが!」
キホテールに背中を押されてスクルートは店内に入ってしまった。店内には、何だかよかわからない形状の物体が所狭しと無秩序に置かれていたのだ。
「なんだ、この店は……! 商品の説明もついておらず、値段が……高すぎる!!」
「凄え! 各属性の魔法書に転移スクロール、アーティファクトまであるぞ!」
「なんだ、その不気味な名前の物体は……」
キホテールは歓喜に打ち震えた。
スクルートは不安で震えていた。
買い物籠に欲しい魔道具を片っ端から入れていくキホテール。それに気づいたスクルートは金額を計算し始めた。
「……買い過ぎだ。予算を使いすぎている」
「俺はこの為に王都まで来たんだよ!」
「馬鹿者! まず当面泊まる宿代と食費、仕事を見つけて金銭が入るまでの生活費を確保してから買い物するんだ!」
「お、面白くない……」
顔を顰めるキホテールを説得して、スクルートは店の外に連れ出した。魔道具屋の店主がキホテールに名刺を笑顔で渡し、スクルートに冷たい目を向ける。
スクルートはそれを無視して、キホテールに当面泊まる宿を探して休もうと提案した。
「先に宿屋を探そう。しばらく泊まるだろうから、なるべく安い所がいい」
「うー、まあ疲れたしな。さっきの駅みたいな所があるなら、休める場所は必要だ」
「駅は便利な場所なんだが……」
「俺は苦手だ!」
スクルートは思った。文明の利器を使いこなせないキホテールはやはり野生生物だと。だが気分を損ねると宿探しが難航するので黙っていた。
観光案内所で安宿のリストを作成し、スクルートは丹念に調べていく。
そしてようやく、3ヶ月先払いすれば割引してくれる理想的な安宿を見つけることができた。
宿屋の店主も、優しそうな男だった。
お互いのストレスを減らす為に、二部屋取ることにした。
キホテールは、後から気づいた。
(あれ? 俺達、王都に来たら別れるんじゃなかったか?)
スクルートは考えていた。
(あの野生生物を放置したら、何処で必ずトラブル起こす。そして後から私の元に絶対に苦情がくる。すぐ破産しそうだし、賠償金の肩代わりをさせられるなんて嫌だからな。管理下に置いておかないと危険すぎる)
二人は宿で一休みすると散策に出かけた。早く王都に慣れるためだった。
歩いていると、元気なかけ声が聞こえてくる。
声がする建物には、王都公認の賭博場とあった。
ルールの説明が書いてあった。
「正式」な場で株を買って、株が上がった時に売れば大金持ち。
下がれば損失。下がる前に売れば損失は少ない。
ちょうど大手の会社の株が安くなっていた。
スクルージの目が光った。大好きな言葉ばかりだ。
少額投資で最大利益。
キホテールは、危険をビシバシと感じた。
(……胡散臭い。あれほどケチ臭いスクルージが、「正式」「少額で最大利益」という言葉だけで大金をかけようとしている)
「待て! スクルージ!」
賭博の主人は嫌な顔をした。
固い財布の紐を解こうとしていたスクルートも不機嫌になった。
「いつも冷静なおまえが、どうしたんだよ?」
「金があればもっといい生活ができる! ここは正式で安全で、リスクも少ない! 今賭けなければ、大金の損失機会なんだ!」
キホテールは慌てた。
スクルートの目の色が変わっている。
「待てって! 俺が魔法で調べてからにしろよ。時間制限をして考える時間を奪ったり、稼げるかもしれないって期待に人間は弱いんだ。そこを突いた商売はいくらでもあるんだよ」
「そんな……馬鹿な……」
キホテールが風魔法で、賭場場全体から情報収集を始めた。音を風で集めるのだ。この魔法もかなり頭を使って疲れる。
調べたら株は、明日倒産を発表する予定だと分かった。
その話を聞いてスクルートは、意気消沈した。
「うまく行くと思ったんだ……」
「そういう時もあるさ。人生ってのは。行こうぜ。安酒でも一杯奢るよ。王都に来た祝い酒だ」
「ああ。ありがとう。キホテール……助かったよ」
二人は近くの酒場を見つけると、安酒を頼んだ。
運ばれてきたコップを手に持つ。
「王都到着を祝して!」
「王都の生活に祝福があらんことを!」
キホテールは酒を一気に飲み干し、スクルートはチビチビと酒を飲み始めた。
やがて酒場の小さなステージに美しい女性が現れた。妙齢の歌姫だ。彼女の歌声は優しく切なく、疲れた心を癒していく。
スクルートはじっと熱い目で歌姫を見つめた。
「美しい。彼女には資産価値がある」
それを聞いたキホテールは、ひっくり帰りそうになった。
(これで…褒め言葉らしい。これで口説ける女がいたら、逆に怪しい女だろうな)
キホテールは無言で歌姫を観察した。
(彼女は美しく楚々としている。歌声も優しく素晴らしい。……おそらく子持ちだな。子どもの幸せを歌う部分に情感が強くこもっている…。やめよう。
今は王都到着の祝杯を楽しむ時だ。野暮な事をするもんじゃない)
キホテールは安酒をもう一杯ずつ頼むと、ケチなスクルートの前にそっと置いてやった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は「合理主義」と「直感型」のぶつかり合いをテーマにしています。
どちらが正しいというより、どちらも極端だと大変そうだなあ…という視点で書きました。
もし気に入っていただけたら、次の話もゆるく続けていく予定です。
スクルートとキホテール、どちらに共感しましたか?
あるいは「この二人、ここが好き/苦手」など、気軽に教えていただけると嬉しいです。




