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193話

イヤ……イヤ、イヤ、

な、何かしたよな…?


俺が、間抜けなのか?


だが、本当に証拠が無い。


()めたマモンの態度に…

シンタローが、ぶち切れ、机を蹴り…そのすぐ(あと)

シューイチが、マモンの胸の少し下あたり、腹?腹だったよな?そこに手を添えた様に見えた…と、同時に突然、マモンが絶叫した。


何をしたのだ?



驚きのあまり、俺だけでなく、部屋に居る全員の思考が止まったのを感じた。




レイだけは、「ハー……」っと、呆れたような小さなため息をついた。

そして、横に居たレクサス総長が小声で「すまない。」と、俺に謝ってきた。

そうだよな?

絶対に、何かしたのだ。


今思えば、シンタローは初めから机を蹴るつもりだったのだろう。

部屋に入ると、ほんの少しだけガタッと机を持ち上げた気がする。それは、つまり…机が動くか確認したのでは?

あの時は、ん?と思った程度だったが、俺自身、違和感が有ったから、無意識に気になっていた。




-----数時間前-----


アークランドからの御一行(ごいっこう)を出迎え、顔を合わせた時、まずアルベルト王の側近、レクサス総長から、お(れい)を言われた。

「フィン総長。貴国の統治者 ジュール様の、指紋採取にご協力いただいた事、並びに闇組織から押収した殺害依頼書の現物をアークランドへ託していただきました事、感謝いたします。」


その様に言ってもらえるとは、思ってもいなかった。

「とんでもない。逆に、特別な計らいを受けているのは、こちらの方です。我々の方こそ、感謝しております。感謝しても、しきれません。

ジュールは、もはや統治者の地位ではありませんので、敬称も必要ありません。刑罰が確定していないだけで、罪人の立場の者ですので、そのままジュールと言っていただいて差し支えありません。我々もそう呼んでいますので。」

と、申し上げた。

「かしこまりました。では、その様にいたします。」と、言う彼の穏やかな表情からは、特に何も読み取る事は出来なかった。


我々のやり取りをレイから聞いて、シンタローは

「なんや、一日中(いちんちじゅう)そんな話し方、せなあかんのか?」と、言っているようだ。


彼は、あの雨の日に、あちらの乗り物でレイと突然現れた時と、全く変わらないな。ハハ…。

「その様な必要はありませんよ。堅苦しい事は、お互い抜きにしましょう。ですが、これだけは言わせてください。保護した子供達の治療のみならず、アークランドの庇護下においてくださった事、本当にありがとうございます。ここまで、酷い現状にも気づけず、野放しにしてきたのは、私の落ち度です。申し訳なかった。」

そう言って、心から詫びた。本心だ。

別に、前もって取り決めていた訳では無かったのだが、俺が頭を下げると、他の者達まで一斉(いっせい)に頭を下げたのがわかった。

「いえ、どうか頭を上げてください。リチャードや我々を信頼してレイ長官をアークランドへ送り出してくれた。だから、暗殺者をこちらで捉えることが出来たのです。その事が今回の保護に繋がりました。

児童保護施設の調査も、直ぐに動いてくださったと聞いていますよ。この件が落ち着いたら、保護した子供たちの顔を見にアークランドへも、来てあげてください。」


「ぜひ、そうさせていただきます。」


レクサス総長は、かなり懐の広い男だ。

アルベルト王といい、レクサス総長といい、双方で立ち上げたストレリチアの部署の、アークランド側の騎士や役人たちも、みな人格者ばかりだ。今も、今までも嫌味の(ひと)つも言われた事が無い。


「フィン。今回ばかりは、私もだよ。乱暴をする大人は、イヤと言うほど知っている。性的な意味での虐待もね。だが、児童売春は、聞いた事すらなかった。」

そう、レイに言われた。

そうだろうな。

早馬でレイから報告が届いた時、その場に居た誰もが、絶句した。

そんな、バカな。

なんて酷い事を…。

当然、その場に居た騎士、ほぼ総出で向かった。

嘘だとは思わなかったが、嘘であって欲しいと、あれほど強く思った事はなかった。


「抵抗し剣を抜く者は、全て斬り殺せ。容赦するな。」


セタースの屋敷本部を潰した時と同じく、部下にそう指示を出した。他に選択肢は無い。


今回の、レイ暗殺の実行犯。

一人は幼い少年の為、アークランドにて、その場で保護された。

その経緯も、先に説明を受けていたので、こちらとしては事情が事情なので、他の児童の保護も併せて、何も反対するところは無い。保護した子供達の安全を第一に考慮し、アークランドで責任を持って引き受けるとの申し出に、どれほど救われた思いがしたことか。

そちらの手続きは、既にレイを通じて正式に国籍変更の手続きも完了している。存在しないはずの子供たちだったので、出身地を我が国とし、法の判断による、救済を第一に考慮した合意のもと、新たな国籍をアークランドで作成してくれたのだ。

そうして保護された子供達は、アークランドの庇護下に入った。

部下たちも、思うところは近いのだろう。

誰からも異論は出なかった。

希望も、生きる喜びも、子供らしい楽しみを何も知らぬ目をした子供たち。

かろうじて、生きていただけだった。

アークランドから、騎士が来てくれてはいたが、念のためこちらも数名の警護を付けた。

子供達を送り届けて、戻って来た部下たちの報告によって、アークランドの入出国管理局の建物で、とても親切で丁寧なもてなしを受けていたと聞き、食事まで気が回らずに、可哀想な事をしたと、自分に腹が立った。

翌日に届いたレイからの報告には、漆黒の民による高度な治療までも施してもらえると書かれていたので、感謝で目頭が熱くなった。

そこには、同行してくれたマンフリード医師とライリー医師の、診断書の写しも添えられていた。

名前の欄の番号は、保護した時に外した首輪の番号だと書かれた文字を見て、手が震えた。

名前すらもたぬ、劣悪な環境。

いくらこの国の治安が悪いとはいえ、流石に子供に売春をさせているなど、噂ですら耳にした事は無かった。

闇組織セタースの連中は、本物のクズだ。



まずは取り調べ用の部屋へ、アークランドの騎士と、漆黒の彼らを案内すると、初めに部屋を昼に変えた。言い得て妙だが、そうとしか表現のしようがない。

どの様な技術なのかは分からないが、形は俺たちの使うランプと変わり無い感じの物をいくつも取り出すと、瞬時に輝かせた。そして、自立する形の棒を何本も取り出し、次々に眩しいほどに光り輝くそれらのランプを引っ掛けると、我々の背丈以上、天井に届くほどに、その棒を伸ばしていった。

アークランドから一緒に来た護衛の騎士と、そして何よりもレイが、慣れた様子で手際よく、それらの道具を使いこなしている姿に、仰天した。

我々も手伝いを申し出て、デンチを入れたり、棒を伸ばしたり、室内の壁際に次々と設置していくと、たちまち部屋全体が明るくなった。

シンタローは、取り調べ用の机をほんの少しガタッと持ち上げると、シューイチと手分けしながら、灰色の大きな本の様な物を机に置いたり、透明な袋に入った紙を一箇所にまとめたり、何かの道具らしき物を机に並べて置いたりした。

部屋が完全に昼間の様な明るさになると、我々が机に置いていたランプを指差しながら、レイの腕を掴み話しかけていた。


「こかしたら?あぁ、倒れたらですね。ケイレブ、こちらで用意していたランプは倒れると危険なので部屋から出してください。」と、レイは、部下に指示を出し、我々の使用していたランプ数個を全て部屋から出した。


「これ程、眩しくする必要があるのでしょうか?」

レイを介して質問すると

「相手の表情をつぶさに見える様にしたいそうだ。」

と、彼らの意図を訳して教えてくれた。





ふれていると、我々でも言葉が理解できるという、不思議な体質の漆黒の民。レイの通訳を介し、先に判明している指紋照合の結果を見せてもらった。


ジュールの指紋は、やはり殺害依頼書に残された指紋と一致していた。

三組から回収した、レイを標的にした暗殺依頼書、全てだ。

「他にも手の側面の紋が残っているので、この(あと)、ジュールの全ての紋を採取し、それらも一致すれば、更に決定的な証拠になる。」と、言われた。

「文字を読むだけなら、指の紋しかつかないはずだ。文字を書いた人間なら、左右どちらか利き手の、小指側の側面の紋が残る。」との説明を受けた。



依頼書に付着していた指紋の一致は、レイの殺害依頼だけでは無かった。路地裏で殺された役人の殺害依頼や、ジュールの実父であるヨーツ公ならびに火事で焼け死んだ客人達の殺害依頼。こちらは『今夜の会合で、確実に全員 始末しろ。』と、書いて有ったので、急遽 殺害を決意したのだと分かる。

前に、アークランドから来ていた隊の者達から聞いてはいたが、本当に、あの火事は事故では無かったのだ。

他国から来ていた医療支援に対する工作活動については、更に具体的な指示を出していた。

『貧民街の住人に重傷を負わせ、支援施設へ連れて行け。』

『治療にあたっている建物の中から火をつけろ。邪魔な見張りの騎士は、女を使って呼び出した後、事故に見せかけて始末すれば良い。足がつかぬ様に、痕跡を絶対に残すな。』

『その三人の女の死体を転がせば、流石に騎士も持ち場から動くはずだ。その間に入り込み、中から火をつけろ。捕まった男は、折を見て逃がしてやるから、数ヶ月待て。次は失敗したなどと聞く気は無い。』などと、何通も執拗に指示を出していた。

いったいジュールは、どれほどの殺人に関与しているのだ?

これらの依頼書に、ジュールの指紋が残っていたと、不思議な灰色の、本の様な形の道具で、一致した指紋を見ながら、わかりやすく簡潔に説明してくれた。




指紋に関しては、実際に経験させてくれた。

マモン担当の牢番二名と、本日の調理場担当の二名を呼び、指紋採取を(おこな)う必要があったからだ。

だが、特に調理場の二名が、とても不安気にしていたので、試しに俺が、最初にやってもらう事にした。

「フィン。シンタローの言葉は、乱暴に聞こえるかも知れないが、せっかちなだけなので、気にしないでくれ。」と、レイに言われた。

「せっかち?」

「あぁ、すまない。『せっかち』は、そうだな…漆黒の民の言葉で、気が短いと言う意味だよ。」

なるほど、言葉使いが乱暴に感じでも、怒っている訳では無いと、レイが気を使ってくれているのか。

「ありがとう。大丈夫だよ。彼とは、前にも愛らしい幼子(おさなご)の通訳者を通して、会話をしているからね。幼子(おさなご)の通訳は、酒場のオヤジの様な話しぶりだったよ。」

ハハッと、レイが少し笑った。


そして、直接のやり取りで始めた。

シンタローが、俺の腕に触れながら直接 話しかける。

「ほな、右手からいこか。ここに乗せてくれ。」

何か板のような台に、手を広げて乗せる。

「ほい。次、左手。」

乗せるだけで良いので、椅子に座る必要もない。

「終わりや。ほな次の人。」

驚くほど、呆気ない。

「え?もう終わりですか?」

「そや。」

俺もだが、見ていた他の者達も皆、肩透かしを喰らったようにキョトンとしている。

すぐに他の四名の採取も終わった。

それから、シンタローとシューイチは、見たことも無いクリーム色の、伸縮性のある手袋をはめ、夕食時にマモンが使ったコップから、いくつかの指紋を採取した。

「綺麗に残っとる。」

つい先程まで使っていたコップなので、状態が良かったのか、シンタローもシューイチも少しご機嫌な様に感じた。

二人を皆が取り囲み、レイの通訳を聞きながら何をしているのか、その作業工程を見せて貰った。

手慣れているのが目ていて分かるほど、コップからの指紋採取も非常に早い。早いのだが、全ての作業を丁寧に取り行っているのがわかる。



「で、今、採取したコップの指紋をパソコンに落としたら(しま)いや。」


本のような形の、灰色の道具は、コンピューターと言うキカイで、名称はノートパソコンで、色々な事が出来ると言っていた。そう教えてはくれたのだが、ふむふむ、と言うのが正直な感想で、とにかく夢のような道具だ。

その後の作業は、消去法だ。

コップには、数個の指紋が付着していた。その内、調理場担当の二名の指紋を除外する。

残る指紋は、「我々はコップに触れていないはずですが、そこまで気にしていないので、もしかしたら、配膳時にプレートから落ちそうな時は、内側に寄せるので、無意識に触ってしまったかも知れません。」と言っていた本日の牢番 二人とも一致しなかった。

つまり、この指紋がマモンの指紋という事になる。

コップの取っ手や、丸みのある部分に残っていた、指の指紋と、殺害依頼書に残っていた指紋とを照合する。

「決まりやな。」と、言われた。一致したと言う意味らしい。

驚いたのは、その速さと正確さだ。

分かりやすいように、これも見せてくれた。

二つの指紋を重ねると確かにピタリと合わさっていた。

本当に指紋とは、一人一人が違うのか…。


ちなみに、殺害依頼書からは、他の指紋も採取されている。

「フィン総長は、両方の親指と人差し指、中指が一致したので、この位置と、この辺りを持ち、殺害依頼に書かれている内容を読んだのでしょう。」と、シューイチに言われた。勿論、この依頼書を発見した騎士の指紋や、闇組織の連中の指紋も残っているのだろう。

それほど、かなりの数が有ると言われた。


「紙は、比較的 指紋が残りやすいそうです。」

レイの通訳を聞きながら、どうしてもこの技術を取り入れたいと心から思った。


マモンには、本人が理解しやすい様に、手間はかかるが、特殊なインクを使い、専用の紙で指紋を採取すると言われた。

本人に、納得させて認めさせる為だ。

指紋を採取される体験と、これらの証拠品で、取り調べの突破口が開けば良いのだが。



そして、『ロクガ』と『ロクオン』についての説明を受けた。

ピンとこない。

音とエイゾウ?

レイが俺に「フィン、君の好物は、何ですか?」と聞いて来た。周りの部下がふざけて

「女以外でお願いしますよ。」

「酒もダメですよ、フィン総長!」

と、茶化してきたので、笑いが起きた。

レイが訳さなくても良いのに、シンタローとシューイチに伝えている。彼らもニカッとした。

俺は、気を取り直して

「肉だな。牛肉も美味いが、特にカモ肉。焼いても煮ても美味い。」と、答えると、白い道具から、たった今の会話と、笑い声が全て聞こえた。

驚いた。

『録音』『停止』『巻き戻し』『再生』『早送り』と、

レイがシンタローの通訳をしながら説明をしていると

シューイチが、

「『巻き戻し』は、死語で、今は『早戻し』って、言うけどね。」と、言っていると言い直していた。


「ホンマ、そーゆー細かいとこが、母親そっくりじゃ。」と、シンタローの言葉をそのままレイが訳して言ってきたので、皆で笑ってしまった。


彼ら漆黒の民は、人を和ませる笑いが上手い。


もう一つ。手のひら程度のガラスには、小さくなった俺達が動き、話していた。

「映像で残しとったら、一番わかりやすいんや。」

もう、ただ、ただ、驚愕…した。


黙り込む俺たちに、

「こちらは、アルベルト王への報告用で、使用しますので、映像の方は持ち帰ります。そちらの音声も、書記の方々が書き取り次第、レイ長官へご返却ください。使用方法が分からなければ、レイ長官へご確認ください。」と、レクサス総長が言うので、皆で一斉(いっせい)に、レイを見てしまった。


「何や?おもろいやっちゃなぁ。レイ。この人らー、いっつもこんな感じなんか?」と、シンタローに言われているよとレイが言うので、気恥ずかしかった。ハハッ。


動く俺たちが見れた、ガラスの道具は、取り調べる側の、椅子の横に立てた棒に固定した。

マモンや、ジュールの背丈を聞くと、同じくらいの騎士が座り調整していた。

「ちゃんと、映っとる。ここで()え。」と、確認の為に座った騎士に言っていた。



マモンが来る前に、注意事項を説明した。


「取り調べでの、殴る蹴るは認められていません。」


俺の腕を掴み、「殴る、蹴るは無しやな。」と、シンタローも、ハッキリと(くち)にした。

その言葉を聞きながら、シューイチも俺を見ながら間違いなく頷いてくれた。

そして、我々が見守る中、問題なく進み……イヤ、


進むはずだった…


マモンが、シンタローを小馬鹿にし、シラを切るまでは…


突然、目の前でシンタローが机を蹴った。

説明………したよな?……

したよ。確かにした。

しかも、いつの間にかマモンの背後には、シューイチが立っていて、椅子が倒れぬようにガッツリ押さえている。


「殴る、蹴る『は』無しやな。」


なっ!!…まさか……!!!

だから机を蹴ったのか?

嫌、イヤ、イヤ…………。駄目だろう普通。

机を蹴るのも無しだろ普通。

シューイチは?彼は何をしたのだ?

マモンの悲鳴は、本物だった。

この部屋に居た誰もが、そう感じたはずだ。

あの叫びは、意図せず出た。

そう、断末魔に近い悲鳴だ。

だが、マモンの服の下には、傷一(きずひと)つ付いていなかった。

蹴られた机を酷くぶつけていたので、この部屋を出る頃にはアザが浮かびあがるはずだが、本当にそれ以外、暴力の跡は何も無かった。

グラつくマモンの後ろから首を掴み、シューイチが小声で何かを囁き、そこからは(せき)を切ったように、マモンが話し出した。

暗殺に関与しているのは、分かっていた。

だが、それ以上の情報だった。


牢番に引き摺られるように部屋を出て行ったマモンは、

まるで死刑執行前の罪人のようだった。


黒龍の国で、彼らは俺たちと似たような職に就いていると、レイから聞いてはいた。


これほど早く、マモンを自白させるとは、想像もしていなかった。

自白?もはや、自白どころでは無い。

とんでもない内容だ。


全て、計算され尽くされていたのだ。

昼間のような明るい部屋。

冗談まじりの和やかな準備と、わかりやすく親切で丁寧な説明。

俺たちの警戒をとき、漆黒の民のやり方で、けりをつけた。


マモンの入室と同時に、確かに二人の顔つきが変わった。

背中にヒヤリと冷たさを感じる、静かな何かだ。


マモンが縮み上がって「指を切り落とすのか!」と、声を荒げ、拷問を受けると勘違いしたのも頷ける。

ところが安全だと理解した途端に、漆黒の民を見下し、いつも通りの不誠実な態度をとり出した。

通用しない。

彼らには。

()めた真似をすれば、我々が止めに入る前に…。

マモンが理解したように、我々も全員が理解した。


我々の内、誰か一人でも、

「実は、本当にマモンは関与していないのでは無いか?暗殺を知らないのではないか?」と、ほんの少しでも思う者が居れば、慌てて止めに入る。

そのような事態を排除する為に、先にマモンの指紋を調べたのだ。

だから、平気で嘘をつくマモンの態度に、俺も腹が立った。

皆、そうだろう。なぜなら、確信しているから。

マモンが、レイの暗殺に関わっている確証を皆が見て、納得して、取り調べが始まる前に知ってしまっているからだ。

手酷い扱いを目の当たりにして「止めなければ」と、思えずに、ただシンタローとシューイチに対して、驚いた感情しか湧かなかった。

純粋に「何をしたのだ?」としか思えなかった。

漆黒の民の心理戦は、この部屋に入った時から始まっていたのだ。

それとも、この一連の事態も、影の参謀の一人と(おぼ)しきレクサス総長の策略なのだろうか。

彼を見ると、右手を軽く握り、いや、握るまではいかないが、その曲げた指を眉間に当てて、困り果てたように考え込んでいた。

流石にこれは、彼の意図せぬ出来事だったようだ。

少し安心した。

そうだよな。俺だって、そうだ。他の皆も呆気にとられてしまったのだから。


次は、ジュールだ。

今のマモンの話しが本当なら、その名前さえも本名では無い。このまま続けて良いのか?

彼ら、漆黒の民に会わせる前に、もう少し我々で調べた後に、取り調べを(おこな)った方が良いのではないか?



「シンタロー。殴る蹴る以外に、机を蹴るのも無しです。念のため、鞄や椅子を投げつけたりもしないでください。棒で刺すのも、叩くのも無しです。」レイが諭す様に、もう一度 話している。


「ダイジョウブヤ。ホンマニ、ツギハチャントスルテ。シンパイセンデエエ。」


シンタローの言葉を訳する事なく、レイは、

「不安しかありませんよ。」と、ぼそりと呟いていた。


「レイハ、コマカイコト、キニシスギジャ、デッカイ、ドロブネニノッタキィデ、ドーント、マカセトッタラエエネヤ。」


「沈みますよね。」と、レイが言うとシンタローもシューイチも「アカンカ」「レイ。カオがイカツナッテンゾ。」と、言いながら、黒い長方形の物を開けた。25cm×18cmほどの鏡だ。持ち運び用が有るのか…。

「イロオトコガダイナシヤ。」と、レイの顔を映して見せ、普通に楽しそうに少し笑った。

彼らの言葉をレイは訳してくれない。

ただ、本当に疲れた様に

「勘弁してくださいょ…。」と、言うだけだった。

レイの言葉を聞いて、こちらの規則を彼らが守る気が無いことを何となく理解した。

多分だが。



「とにかく、危害を加えるのは無しですからね。」



「マ、ホンナラ、ワリヤ、ガンバレ。」と、シンタローはシューイチの肩をポンっとした。



どうやら次は、シューイチが取り調べを行う事に決まった様だった。



先程の、マモンが自白した内容をレイが二人に説明している。


俺もレイに訳して貰いながら、考えを話した。


「ジュールとその父親の戸籍が他人の物なら、それこそ前代未聞の騒ぎになります。恐らくですが、本物のヨーツ夫妻は、殺されて人目につかない場所に埋められているのでしょう。」


レイも、彼らに触れたまま、意見を言ってきた。


「死体を隠す理想の条件は、常に自分の目が届き、誰にも暴かれる心配のない場所です。自分の屋敷の庭なら誰にも気づかれずに済みます。確か…ジュールが所有している屋敷は、相続した物も含め3軒あるはずです。

その中に、死体を埋めた屋敷が有るのなら、絶対に手放したりしない。

つまり、一番古い物件を調べれば、そこが死体の埋まった始まりの家と言う事になるのではないでしょうか。」


シンタローとシューイチは、まるで何でも無いふうにレイの通訳を介して教えてくれた。


「他の場所よりも、明らかに植物の育ちが良い一角(いっかく)が有れば、その下に死体が埋められている可能性が高い。」


冗談だろ?考えたくも無い。


「動物などに掘り返されるのを防ぐため、毒性の強い植物、例えば彼岸花や鈴蘭などが植えられている場所も同様に可能性の高い場所です。」


そう、彼らの言葉を訳しながら、レイも、その植物に心当たりが無いのか

「彼岸花と鈴蘭?それは、どの様な植物ですか?」と、聞いていた。


シューイチは、胸ポケットからスッとペンを取り出すと、書記官から紙を借りて、花の絵をサラサラと描いてくれた。

美しい。

黒のインクで描かれているのに、目にした瞬間に、あの血の様に赤い花だと分かった。

もう(ひと)つは、小さな愛らしい白い花だ。

シューイチは絵心があるのか。

この(ふた)つの花なら知っている。

「こちらは、赤い花ですよね。死人花(しびとばな)。花の名に詳しくは無いので正式な名称は分かりませんが、我々は死人花(しびとばな)とよんでいます。もう、(ひと)つは、小さな白い花ですよね。こちらは君影草(きみかげそう)。我々は、そう呼んでいます。」と答えた。

そうか、赤い花の方は『死体に咲く花』と言われ、忌み嫌われているが、実際は逆で、ご遺体を野生動物から守るために植えられていたのか。



今から部下に、屋敷の捜索をする様に指示を出そうと思ったのだが、考えが顔に出ていたのか、シンタローに腕を掴まれ話しかけられた。

「捜索は、(ひぃ)が昇ってからのが()え。遺骨の傷で、死因が分かるかも知れん。」


「骨で分かるのですか?」


「頭を鈍器で殴られたんやったら、頭蓋骨陥没しとるやろうし、首を絞められたなら、舌骨、首の骨が折れとる場合も有る。深く刺されたなら、肋骨(ろっこつ)胸骨(きょうこつ)脊柱(せきちゅう)に鋭利な傷がついとるかも知れん。」

つまり、白骨化しているご遺体に、傷がつかぬ様に細心の注意を払うべきだと教えられた。


次の取り調べは、シンタローとは真逆のやり方だと言われた。今度は、正真正銘『ちゃんとする。』らしい。





統治者ジュール。

たった数週間で白髪が増え、頬もこけた。

目だけがギラギラとして、人間が野生の生き物なら、この様な姿になるのかも知れないと、思わせる様な風貌に変わっていた。



シューイチは淡々としていた。


マモンの時と同じ様に、ただ静かに指紋、掌紋、手の横側の紋などを採取した。


今回も、レイの通訳だ。


事件の話しから入るのだと思っていたが、意外にもジュールの両手にある傷の事を(くち)にした。


外傷性刺青(がいしょうせいしせい)が有りますね。」


「な、なんだ?何のことだ?」露骨に嫌そうな顔をしながら、ジュールは戸惑っている様だ。


「ここです。石や異物が皮膚に残ったまま排出されずに傷が治癒した後です。貴方の両手には、異物が残ったままになっている。」

シューイチのたった、それだけの説明で、ジュールの顔色が変わった。


「む、昔、つまずいて、転び…そ、その時に…そうだ、その時に怪我をした。」



シューイチは、おもむろに手袋をつけると、持参していた銀色の箱の様な鞄から、透明な袋に入ったキャベツほどの大きさの石を取り出すと、コトリと机に置いた。


何だ…?この石は…


ジュールの顔が、気味が悪いほど見る間に青ざめていく。


「石には、固有の種類が有る事を知っているか?」

ジュールは答える事なく、目をギョロギョロさせながら石と周囲を見ている。これほど動揺する理由は何だ?


シューイチは、淡々と話し続けた。


火成岩(かせいがん)堆積岩(たいせきがん)変成岩(へんせいがん)接触変成岩(せっしょくへんせいがん)深成岩(しんせいがん)広域変成岩(こういきへんせいがん)

そこから更に種類が別れる。

流紋岩(りゅうもんがん)玄武岩(げんぶがん)安山岩(あんざんがん)石英斑岩(せきえいはんがん)花崗岩(かこうがん)礫岩(れきがん)砂岩(さがん)石灰岩(せっかいがん)緑色岩(りょくしょくがん)蛇紋岩(じゃもんがん)透閃石岩(とうせんせきがん)結晶片岩(けっしょうへんがん)石英(せきえい)

他にも有るが、その顔だとこれ以上言っても理解するのは無理そうだな。石が語る事を知っているか?その手に残っている石を取り出し、当時、少年だったピアースの殺しに使われたこの凶器と共に調べれば、石が答えてくれる。」


まるでジュールの返事など必要無いと思っているのか、ただ静かに紙を机に並べていった。


一枚目は、少し、はにかんだ様に笑う少女の似顔絵。

凄いな。まるで今にも動き出しそうだ。

二枚目は、その少女の母親だろう。とても、よく似ている。優しく微笑むその表情は、愛情に溢れていた。三枚目は、聡明そうな男性の似顔絵だった。

父親だ……

あぁ…!そうだ。間違いない。

あまりにも生き生きとした似顔絵だったので、記憶に残る被害者と結びつかなかった。

あの一家の生前の姿だ。




「この少女の名を覚えているか?」


「………ク…クレア…」ジュールは、かすれた声でそう答えた。



「ヨーツと勝手に名乗っていた男の筆跡で書かれた、殺害依頼書だ。」

そう言いながら、次に机に置いたのは、透き通った袋に入った依頼書だった。

我々が預けていた本物の現物だ。

「クレアを強姦するために、邪魔な少年、ピアースを殴り殺した。

頭が潰れるほど、何度も何度も執拗に、この石を振り下ろした。そして、恐怖に怯える少女を強姦した。殺しと強姦がバレると投獄される。だから父親に頼み、クレアを両親ともどもバラしたのか?」


「ち!違う!!断じて違う!!」

興奮しているのか、ジュールは、ブルブル震えている。

「俺は、俺は。そもそも強姦なんてする訳が無いだろ!」


シューイチは、石に少し手を乗せた後、ジュールの手を広げて、「これは、どう言い訳するつもりだ?」と聞いた。「見覚えが有るのだろう?この部屋に居る人間の中で、そんな顔でこの石を見ているのは、たった一人、お前だけだ。自分が今、どんな顔をしているのか、分からないのか?」

そして、十分(じゅうぶん)に顔が映る鏡をトンッと、ジュールの目の前に立てた。

先程、レイに使っていた鏡だ。


鏡に映る自分の顔を見て、誰よりも自身に対して恨みでもあるかの様に忌々しそうに目を逸らした。



「名前を変えて生きるのは、さぞ大変だっただろう。」


シューイチの問いかけに、眉間に皺をよせながら、

「何のことだ?」と、ジュールが聞き返した。


「ジュールと言う名の男の子は、若くして亡くなっている。

今でも、街の共同墓地に行けば、墓が残っていたよ。

本物のヨーツご夫妻は、始まりの家に埋めたのか?

まあ、それも明日になれば、掘り返すので、はっきりする。無理に答えなくて良い。

父親が、やらかした殺しを見たか?

訪ねてきた老人の男を殺しただろ?」

シューイチは、本当に何でも無い風に話しながら、黒い本の様な鏡をパタンと閉じた。


本物のジュールの墓は、まだ確認出来ていない。

シューイチは、その現状をお首にも出さずに、スラスラと述べている。


ジュールが、かろうじて息をしているのが分かる。


「心配しなくて良い。君の母親が、どこかで生きているなら、必ず保護して、然るべき療養施設に入れる様に手配すると約束しよう。」

そのシューイチの言葉で、ジュールが、落ちたのが分かった。


マモンの言った通り、ヨーツ公もジュールも別人だった。


父親の名は、オゼ・カワード。

母親の名は、ナアマ・カワード。

そして自分の名は、マレフィー・カワード だと言い、今までの罪を自白した。

それは、貧しかった頃の幼少期からの話しだった。

父親のオゼ・カワードを馬の世話で雇ったのが、ヨーツ夫妻だった。

夫妻の兄弟は、特に仲違いした訳ではないが、歳をとってから付き合いが疎遠になっていた。子供を早くに亡くした事もあり、あまり人とは関わらない生活を送っていたようだ。ジュールと言う、新しい名に変わると言われた時、前に住んでいたヨーツ夫妻は旅に出たと、父親からは聞かされていたようだ。

屋敷と家具は、譲り受けたと。

守料の回収に来た男は、夫妻の友人だと名乗った為に、殺された様だった。


他にも訪問者が来るかも知れない。

ほどなくして、屋敷から引っ越した。

当時の父親は、ろくに働いていなかったようなので、

この頃の金は、ヨーツ夫妻の金を使っていたのだろう。



実母のナアマ・カワードは、声が聞こえると言ったり、何か誰かが家に居ると言い出して気がふれたので、父親が森の近くの貧民街に小さな家を用意して、いくらかの金を握らせ、放り出した。

場所は知ってはいるが、壊れた母親に会うのが怖くて、一度行ったきり、行くのを辞めてしまった。

その後の事は、生きているのかさえ、分からない様だ。



驚くべきは、クレアに乱暴したとは、思っていない事だ。

殺人によって結ばれた、淡い恋にも似た様な説明をしていた。きっとこの男の本心なのだろう。

少女の痛みと、絶望を理解する事は、無理なのだ。


「その時の、クレアの顔を覚えているか?」

「当然だ。」


机の上の、愛らしい笑顔の少女は、黒一色にも関わらず、目にした瞬間に、まるで本人がそこに居るように思えるほどの絵だ。その絵をトンッと指で押さえシューイチは、再度 問いかけた。


「別れた時、ちゃんと笑っていたか?」


ジュールと名乗り、人生の大半を生きてきた男は、押し黙ってしまった。


「クレアを助ける為だけに、この石を振り下ろしたのなら、一度で十分(じゅうぶん)だ。突き飛ばす事だって出来ただろう。お前が、一番わかっているはずだ。

顔の判別が出来ないほどに、何度も何度も顔を潰したのは私怨以外の何ものでも無い。」


「違う!!あの時は無我夢中で、だから、だから、」


さらに二枚の絵に手を置いた。


「クレアのご両親だ。

お前は、ピアースを殺し、怯えるクレアを強姦した。

きっとオゼ・カワードは、一人息子のお前に見張りを付けていたのだろう。

そして、息子がやらかした殺人と強姦を知った。

息子の犯した罪を隠蔽する為に、クレアとご両親を殺した。

この一連の行いの何処に、正義が有ると言うのだ?」

レイの通訳を聞いても、マレフィー・カワードは、犯した罪を頑なに認めたく無いようだった。


「強姦などしていない…クレアと俺の関係は違う…。

クレアは、泣いてはいたが、一度も抵抗しなかった。

キサマはあの場にいなかったから、分からないのだ!俺たちは、互いに結ばれた!分かち合ったのだ!クレアも俺と同じ気持ちだ!」


「結ばれた?違うだろ?

 クレアを殺そうとしたピアースを殺害し、

 さも、その罪の一端が、クレアにも有ると思わせて、

 対価を要求した。目の前で少年の頭をかち割り、

 やらせろと迫った。クレアが抵抗できると

 本気で思っているのか?お前のした事は、

 恐怖による支配以外の何ものでもない。」


「違う!そうじゃない!俺は、乱暴にはしていない!

優しくした!だからクレアは嫌がらなかった!」




「拒めば、殺したくせに、()()ーな。

 まぁ、動機、証拠、自供で役満やんけ。

 残りの人生、独りでほざいとけ。」

シューイチの言い方が変わった。


「マレフィー・カワード。これらの殺害依頼書からは、お前の指紋と右手の側紋が検出されている。それが意味するところが分かるか?お前が、殺害依頼を書いたと言う事や。何やったら、筆跡鑑定もしたる。とぼけんのも大概にしとけよ。

殺しまくっとるやんけ。」



「俺は、直接手を下していない!殺人者と一緒にするな!」

シューイチは、呆れたのか憐れんだのか、諭すような口調で話し聞かせた。

「犯罪を実行させた者のことを教唆犯、言うんや。

この殺害依頼書で確認取れとるから、証拠として十分(じゅうぶん)に成立する。教唆犯は、正犯の刑が科せられる。

意味、分かるか?第一級殺人が成立しとんねん。()んどるやんけ。」


「一緒な訳…無い…俺は、殺してない。俺は、違う!俺は、書いただけだ!殺してない!」


レイの通訳で、マレフィー・カワードが、『自らの手で殺害依頼書を書いた。』と、言ったと聞くと、


「終わりや。」と、言いながら、白い録音する道具をレイに手渡した。


レイは、今日の日付の後に、

「午後8時9分から9時40分。ジュール・ヨーツこと、マレフィー・カワードの証言。」と、言い、録音を止めた。


マモンの時とは違い、自らの足で歩き、騎士と牢番に連れられて部屋を出て行ったが、

「俺は、殺してない。な?そうだろ?」と、言い続けている。俺は、マレフィー・カワードを心底 殴りたくて仕方が無かった。



自白や自供に追い込むプロを『割り屋』と、言うらしい。

シンタローとシューイチのやり方は、全く異なるが、とにかく見事だった。



本来、被害者の遺族に取り調べの様子を見せる事は無い。

その様な発想すら無かったが、シンタローが提案して来た。

「裁判制度が、こっちと違うんやったら、完落ちしたとこ、ベアテルに見せたったらどないや。」


自白は、書記官の記録を見せるのかと思ったが、違った。明日、殺害現場の現場検証を行うのだが、そこで採取した証拠品の鑑定結果と一緒に、犯罪者達の証言を映像で見せる方向でレイと話していた。

彼らは、証拠品の更なる鑑定を行う為に、一旦 黒龍の国に戻る必要が有るそうだ。

彼らが帰ってから、恐らくは八日後、全ての鑑定結果を携えて、また戻って来ると言われた。

ただし、アークランドで暮らしている保護された子供達の検査が可能になる日までは、調整のため、こちらに留まらなければならないので、もう数日はアークランドに滞在する様だ。



「フィン。今回の暗殺者として送り込まれた、二名の人物をアークランドにて拘束したのは聞いてると思うが、見張り役と(おぼ)しき人物が、手練(てだ)れの可能性が高い。」


「なぜ、そう思うのだ?」


「全てが違う。普通の生活を送って来たような雰囲気では、なかった。見れば分かるよ。監視役としてと言うよりは殺しの指導員、もしくは、少年が失敗した時に、完遂する役目を負っている人間だと。」

まさか、レイは、その人物と接触したのか?

だとしたら、あまりにも無謀すぎる。

「そいつと、話したのか?」


「イヤ。ただ、相手からは気づかれない様に撮影した、取り調べの動画を見せてもらった。

シンタローも、『あら、()っとるな。』と、言っていたよ。とにかく、殺害現場に、何か証拠が残っていれば良いが。」


「指紋か?」


「そうだね。凶器に残っていた指紋とは一致したので、後は、現場にも何か残っていれば、これで決まる。」


使用した色々な道具を鞄や木箱にしまうと、いつもの殺風景な取り調べの部屋になった。漆黒の民のランプは、数個使用したまま、移動する。


今夜は、城に泊まってもらう手筈になっている。

統治者の代理は、たつ予定だが、暗殺を危惧して誰も首を縦に振らないので、次の選挙までは、城の主人が不在だ。

警護の観点からも、宿よりは良いだろうと、城になった。

ただし、アークランドほど立派では無い。


「何や、レイの豪邸に泊まらしてくれへんのか?」


「豪邸な訳、無いでしょう。」


「ほんなら、見学ツアーで、中だけ皆んなで見せて貰うのはどないや?」


「床が抜けますよ。」


軽口を言いながら、馬車へ乗り込む彼らを見ながら、皆で城へ移動した。


本当に、レイはあちらの世界へ飛ばされていたのだと、今更ながらに実感した。


それは、そうと…。漆黒の民も、人間なのだから、睡眠は夜にとるよな?





お読みいただき、有難うございます。

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