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14.フィーネ①

「――竜人です」


 フィーネが言った。


 どうして、分かったのだろうか。


 彼女は激しい息遣いをしながら、憎悪を込めた目で俺を睨みつけている。


「リュート。フィーネに話したの?」


「い、いや」


 そういえば直前に、られているような感触があった。考えてみると、犀川と接触した時も、同じような感覚があった気がする。


 何か俺の正体を知る手段があり、彼女が行使したのだろうか。例えば、鑑定の魔石とか……。


 何にせよ、フィーネに竜人だということがバレてしまった。


「ま、まさか。二人ともご存じだったのですか?」


「……うん」


 アイリスがそう答えると、フィーネは俺に向けていた目を彼女たち二人にも向けた。


 ぎりっぎりっ、ぎぎぎぎぎ。


 ぎぎぎぎぎ。


 のこぎりで木を削るような音が鳴る。フィーネが歯ぎしりしているのだと分かった。


「ふふ、ははは。……そう。そうだったのですね。おかしいと思いました。どうしてそんなに優しくしてくれるのかと思いましたが、そう。……私を騙して、三人で笑っていたのですね」


 彼女の顔が怒りで歪んでいる。


「はぁ……はぁ……私、貴女たちのことも好きになりかけてたのに……こういう風に誰かと寄り添って生き方もあるのかなあって、そんな風に思ってたのに……ふぅ……ふぅ……許せない。よくも、私を騙したな」


「フィーネちゃん。落ちついて?」


「黙れッ!」


 空気が震えるような怒号をフィーネはあげた。


「うう……! うううぅぅ! ……許せない……許せない…! 殺す……モンスターも……それをかばうあんた達も……殺してやるッ!」


 フィーネは、がちゃり、と重たい金属音を立ててライフルを構えた。


 が、発砲はされなかった。


 シャルロッテがフィーネを白い箱に閉じ込めたからだ。


「なによ、これ」


「フィーネちゃん、話を聞いて」


「貴女がやっているのですか。……解きなさい」


「解かない」


 びく、びくびく。


 フィーネの目の周りの筋肉が痙攣けいれんした。


「だったらぶっ壊してやるわぁーッ! このクソボケがああああッ!」


 箱の内部から銀色の光を放たれた。


 と、同時に凄まじい爆裂音が鳴り響いた。エネルギーの塊が内部で暴走している。


「うがああああッ! シャルロッテ! てめーからぶっ殺してやるからなぁー!」


 彼女は獣のような声で吠えながら、銃を乱射している。


 思わず絶句してしまうほどの豹変ぶりだ。


「フィーネちゃん!」


 シャルロッテが声をかけたが、フィーネは怒り狂ったまま箱の内部で暴れている。とても話せるような状態ではない。


「ど、どうするのよ」


 …………。


 理由は分からないけど、フィーネは俺をモンスターだと認識し、そして恨んでいるようだ。


 箱の封印が解ければ、彼女は即座に攻撃してくるだろう。


 …………。


 少し考えた結果、


「二人はここを出ていてくれないか? シャルロッテ、部屋を出たら能力を解いてほしい」


 俺はアイリスとシャルロッテにそう言った。


 本音ではフィーネと戦いたくない。


 しかし逃げたとしても彼女は力尽きるまで俺たちを追ってくるだろう。


 だから、ここで無力化するしかない。煙の能力を使えば、無傷で捕縛できる。


「うん……分かった」


 シャルロッテはアイリスを連れて、休憩部屋を出ていった。


 ふとフィーネが銃の乱射をやめた。


 彼女は涙を流しながらも、殺気を込めた瞳で俺をまっすぐに見ている。


「フィーネ……」


「ひどい……ひどい……ッ! 私の気持ちを、よくも弄んでくれたな……絶対に殺してやるわ……うぅ……!」


「聞いてくれ。俺は竜人かもしれないが、心は人間だ!」


「黙れ……!」


「フィーネ! 頼む。聞いてくれ!」


「うるさい! うるさい……うるさい……! 殺すッ! 殺すわッ!」


 ぎり、ぎぎぎぎぎ。


 なんという気迫。理屈ではない何かが彼女を突き動かしている。


 ぱき、ぱきぱき。


 音を立てて箱にひびが入っていく。


 ガラスが割れるように箱が砕け散った。


 と同時に、フィーネがその場から移動した。


 ――速い。


 天井や壁を蹴りながら、部屋の中を縦横無尽に高速で駆け巡っている。


 まるで高反発のゴムボールを思いっきり叩きつけたような動き。


「ひゃは! ひゃははははは! 殺すうぅぅぅぅ!」


 不気味な笑い声とともに、激しい発砲音が鳴り響いた。フィーネが四方八方から俺を攻撃しているのだ。


 魔法『風の障壁』を使って銃弾の雨を防ごうとした、が。


「うっ!」


 魔法の銃弾は風の壁を突っ切って、俺の鎧にヒットした。鎧に無数の穴が入り、俺の血液が穴から吹き上げている。



□□□□□□□□□

名前:リュート

種族:竜人種/ブラックマジックドラゴン

レベル:1

HP:1927/2427

□□□□□□□□□



「死ねッ! 死ねッ! ひひ、ひゃはははッ!」


 ぼわあん。


 俺は煙を部屋へ拡散させ、フィーネの体を掴んだ。彼女を傷つけないように、徐々に力を入れていく。


「ぐう……離せッ!」


 フィーネを空中に縛りつけた。


 彼女は煙の内側からぎりぎりと力を込めているが、俺の煙のパワーの方が上だ。


「フィーネ、頼む。大人しくしてくれ」


「うああああああッ!」


 銀色の魔力の波動が閃光をあげている。


 空中に無数の銃が出現した。がちゃん、がちゃんと音を立てて、撃鉄が引かれていく。銃口が一斉に俺を向いた。


 ――触らなくても動かせるのか? まずい――。


 耳をつんだくような爆裂音とともに、銀色の銃たちが俺への攻撃を開始した。


 俺はその場から高速で移動し回避したが、弾幕が止まない。


 この狭い部屋では逃げ場がなさすぎる。


 ――雷歩。


 俺の両足が黄色に輝いている。俺はさらに速度を上げた。さっきフィーネがやったように、俺も部屋の中を出鱈目でたらめに移動する。


 が、銃弾の数が多すぎる。全てをかわすのは不可能だ。


「……ぐ」


□□□□□□□□□

名前:リュート

種族:竜人種/ブラックマジックドラゴン

レベル:1

HP:1779/2427

□□□□□□□□□


 ま、まずい。


 このままだとHPが削られていく。


「死ねよおおぉぉぉ! モンスターがああああッ!」


 ならば――。


「――【魔力吸収】」


 闇属性の黒い波動が俺の腕の周囲に集まっている。俺は移動を続けながら彼女へその掌を向けた。彼女から魔力が流れ込んでくるのを感じる。


 厄介なのはこの銃だ。


 銃魔法と言っていた。ならばMPさえなくなれば使えなくなるだろう。


 ――『回復(小)』、『強化加工』。


 俺は自分の肉体を癒し、黒い鎧をMPで修繕するとともに強化する魔法を施した。


 鎧が銃弾に多少耐えられるようになった気がする。


 俺のHPが削られる前に、フィーネのMPを吸い尽くす――。


「……なッ!」


 その時だ。


 ふと煙の中のフィーネが消失した。


 これは……。最初にモンスターハウスで出会った時と一緒だ。


 スペルカードで逃げたのか?


 俺は慌てて部屋を出た。部屋の外にはシャルロッテとアイリスがいる。


 左右に伸びる通路に目をやったが、フィーネの姿は確認できなかった。


「リュート? ど、どうだった?」


「……逃げられた」


 甘かったかもしれない。


 冒険者としての実力はフィーネの方が上なのだ。簡単に捕縛できる相手ではない。


「どうするの?」


 とりあえずダンジョンを進むしかないと思うが……。


 フィーネは再び俺を狙うだろう。


 このダンジョンでは、モンスターの他にフィーネの襲撃も警戒しなければならなくなった。


 彼女はモンスターと違い、休憩部屋まで入ってこれるのだ。


 ……やれやれ。とんだ高難易度ダンジョンに変貌してしまった。


「とりあえず荷物を取ってこよう。すぐに出発したい。二人とも、大丈夫か?」


 シャルロッテとアイリスは不安そうに頷いた。




 * * * * *




 洋館を進む。


 たたでさえ気味の悪いダンジョンだというのに、どこかでフィーネが俺を殺そうとしているのだと思うと、体中の血液が逆流したような気分になる。


 まいった……。とんでもないひとと出会ってしまったものだ……。


「リュート? 大丈夫?」


 アイリスがそう言った。


「……フィーネに言われたことだけど、気にしたらダメよ。モンスターを恨んでいる人って、一定数はいるから……。こういうことは、この先もあると思う」


 アイリスは、竜人だと知ったら殺しにくる連中がいるかもしれない、と言っていたな。


 ショックではあるが、こういうことはあるだろうと覚悟はしていた。


「大丈夫だ、ありがとう」


 しかしフィーネのあの怒りは尋常ではなかった。彼女はなぜモンスターを恨んでいるんだろうか……。


「リュートくん。フィーネちゃんのこと、どうするの?」


「…………」


 どうしよう。困っている。


 できれば説得したいが、出来る気がしない。


 かといって、他にいい手段が思いつかない。例えば青の塔でやったような脅しも、彼女には一切通用しないだろう。


 がたん!


「うわ!」


 急に大きな音がして、つい反射的に声をあげてしまった。


 廊下にいた二体の鎧が、ぎぎ、ぎぎぎと錆びた音を立てながら動いている。


 モンスターだ。


「ビ、ビビらすんじゃねえ!」


 ひゅっ。


 魔法、切り裂く風で攻撃すると、鎧が真っ二つになり、その場にガラガラと崩れた。


 もう出たい! このダンジョンは嫌いだ!


「む?」


 ちょうどいいことに階段を見つけた。のぼっていくタイプのようだ。


 フィーネはまだこの階層にいるだろうか?


 とりあえずダンジョンを進もう。時間が経てば、状況が変化するかもしれない。


 …………。


 ……。

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[一言] なんだなんだ?一体どんな詐欺師にヒデー目にあったんだ?Σ( ̄ロ ̄lll) しかしリュートよ錯乱したレディーを宥めるにはソフトなハグからのキスがハードボイルドな男の慰め方だ(#゜Д゜)y-~…
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