15.フィーネ②
階層『2』へ到着した。
なんだここは……。今までの迷宮と趣が違う。
具体的に言うと、通路がないのだ。
正方形の部屋があり、四方に扉がある。
試しに、扉を開いて移動してみたら、そこもまた部屋になっていた。
不気味なのは、最初にいた部屋と次の部屋が、全く同じように見えるのだ。
絨毯の模様、ソファとテーブル、壁の絵画、隅にある観葉植物……。
続けて扉を開けて次の部屋へ移動してみたら、そこもまた同じ部屋だった。
「……なんだここは」
現実にはこんな建物はありえない。なんだか異次元の部屋に閉じ込められてしまったような、そんな錯覚に陥りそうになる。
「ここは部屋型迷宮ね」
「部屋型迷宮?」
「うん。人工型ダンジョンでたまに生成される迷宮タイプよ。部屋と部屋が繋がった迷路になっていて、通路がないのが特徴。ちゃんと地図を書かないと、無闇に歩き回るハメになるわ」
アイリスはそういって荷物からノートを取り出した。
「この迷宮のルールは大きく三つ。一、入ってきた扉からは出られない。二、残るの扉のうち一つ開けると、他の扉は開かなくなる。三、扉は四面全てにある場合もあれば、ない時もある。こんな所かしら」
なるほど……。
扉が閉まっているせいで、いつものように俺の煙の索敵が使えない。厄介だ。
「よし、準備はできたわ。私がマッピングをするから、とりあえず進んでみましょう。そうね、とりあえず、真っすぐ進みましょうか」
「……分かった」
言われたとおり、俺は正面の扉に手をかけた。
きい、と音が鳴り、扉が開かれていく。
やっぱり、次の部屋も同じ部屋だ。
「ちゃ、ちゃんと出られるんだよな?」
「うん、階段がある部屋がどこかにあるはずだわ」
気味が悪い。こんな場所にずっといたら、気が狂ってしまいそうだ。早く上へ行きたいぞ。
俺たちは部屋型迷宮を進んでいく。
…………。
……。
部屋を二十くらい通過しただろうか。
瓜二つの部屋が続いたか、いくつかの部屋に宝箱があって、違う部屋をちゃんと移動しているのだと分かった。
「次は左へ進みましょうか」
アイリスの指示に従い、もう何度も行ったように、次の扉のドアノブに手をかけて引いた。
が。
「あれ、開かない」
「開かない?」
「うん。おかしいな……他の扉は開けてないのに」
ガチャガチャとひねる。
が、やっぱり開かない。
「もしかして――」
アイリスがそう呟いた時だ。
きいい。
あ、あれ?
おかしい。俺は力を入れていないのに、ひとりでに扉が――。
「うわ!」
俺は思わずそんな声を上げた。
開いた扉の隙間から、道化師の仮面がこちらを覗いていたからだ。
「みーつけた」
思わず扉を閉めようと力を込めたが、フィーネは扉に足を突っ込んでいた。
ガチャッ。
銀色の銃身が隙間から差し込まれた。銃口が俺の眉間を狙っている。
「……くっ!」
ドォンッ!
至近距離でぶっ放され、俺は吹き飛ばされた。咄嗟にガードした腕の鎧が剥がれ、血が滴り落ちた。
「……ひひ、ひひひひ!」
フィーネがこちらの部屋へ入室してきた。
「うっ……!」
びり、と体に電気が流れたような刺激があった。
体が動かない。
シャルロッテとアイリスも苦悶の表情をあげている。
□□□□□□□□□
名前:リュート
種族:竜人種/ブラックマジックドラゴン
状態:麻痺
レベル:1
□□□□□□□□□
魔力の波動は感じなかった。
もしかして、麻痺の効果を与えるスペルカードか?
「ひゃはッ、ひゃははははははあ」
フィーネの周囲に無数の銃が出現した。
「く、くそっ!」
こ、このままではシャルロッテとアイリスまで撃たれてしまう。
そう思った時だ。
再びフィーネが消えた。宙に浮いていた銃も全て消えている。
何が起きたのか分からないが、とにかく助かった。
『治癒』の魔法を使い麻痺を解き、続けて彼女たちにも魔法をかけた。
「大丈夫か?」
二人ともこくりと頷いた。
「また消えたぞ……」
「今のは、私がやったの」
アイリスがそう言った。
「青の塔でリュートたちに使ったのと同じ、一時しのぎのカードよ。このフロアのどこかにフィーネはいるわ」
あれか。
□□□□□□□□□
【一時しのぎ】のカード
1.念じることで発動が可能。
2.対象の範囲にいる者を同じ階層の違う場所へワープさせる。
3.発動後、カードは消滅する。
□□□□□□□□□
さっき宝箱でゲットしたやつだ。
どうやらアイリスが機転を利かせてくれたらしい。
「リュートくんは、大丈夫?」
シャルロッテはそう言って俺の腕を見た。
「うん。大丈夫だ」
単発であれば問題ないが、連発されたらヤバいかもしれないな。
フィーネは強い。
銃魔法に加え、スペルカードまで使いこなす相手だ。
どうしたものか……。
「とにかく先を急ごう。この階層では煙の索敵が使えない分不利だ」
フィーネが入ってきた扉の方へ進む。
「次は右ね」
アイリスに従い、ドアノブに手をかける。
ふと開けるのを躊躇う自分に気がついた。
この先に彼女がいるかもしれないと思うと、背中に痺れたような感覚が走る。
――ビビってる場合か! 早くダンジョンを進まなくては!
きいい。
「うあ……!」
扉を開けると同時に、俺はぎょっとして情けない声をあげた。
その部屋に、黒いドレス姿のマネキンがたくさんいたからだ。
ぎぎぎ、と鈍い音を立てながら、マネキンどもが首を動かしてこちらを見た。
び、びびった。フィーネかと思ったぞ。
とりあえずこのモンスターを始末しなければ――。
「【水弾】」
マネキンを一気にぶっ壊す。
「アイリス、次はどっちだ?」
「えっと、真っすぐよ!」
扉を開けて次の部屋へ。
「次は?」
「真っすぐ」
再び扉を開ける。
また黒ドレスのマネキンの大群――。
いや、違うッ!
「くひゃひゃひゃひゃひゃッ!」
「げぇ! フィーネ!」
マネキンに混じってフィーネが立っていた。
「ウシャアアア!」
お、恐ろしいッ!
まさか犀川の他に、こんな恐ろしい人間がいたなんて。
フィーネが銃が乱射した。
周囲のマネキンを一気に吹き飛ばしながら、俺を銃撃している。
白い半透明の箱が俺を守る。シャルロッテが銃弾を防いでくれたのだ。
「ひゃはっ、くひゃはははははは!」
フィーネが銃を撃ち続けている。爆音で耳が痛い。
「く、くそっ」
悪く思うなよ、フィーネ。
俺は『疾風迅雷』と『竜の闘気』を重ねがけした。
もはや彼女を傷つけずに捕縛するなどと言っている場合ではない。
このままだとシャルロッテとアイリスに危害が及んでしまう。
とにかく彼女を止めなければ。
「シャルロッテ、箱を解除してくれ」
「うんっ」
シャルロッテが頷いた。後ろに立つ二人だけ囲むように、別の箱が出現した。
「解除するよ」
ぱきん、とひびが入り、そして箱が消えた。
銃弾が俺を襲うが、俺は即座にその場を離れた。
「ヒャヒャヒャ!」
俺の姿を目に捉えられないのか、フィーネは奇声を上げながら部屋中に銃を乱射している。
俺は彼女の背後に周り込み、どんっと背中を押した。
彼女が床へ転がる。俺は即座に煙で彼女を拘束した。
――『毒の霧(麻痺)』。
念じると、紫色の霧が俺の周囲に出現した。
これを煙で包み込んで圧縮する――。
「行けッ!」
仮面の隙間へ、そしてフィーネの口内、肺へと侵入させた。
ぴたりと銃撃が止む。
フィーネの手足がぴくぴくと痙攣している。
「…………うう」
表情は分からないが、苦しそうな声を上げている。
あれだけ濃縮したものを吸わせたのだ。しばらくは動けまい。
「アイリス、この部屋にモンスターが入ってくることはあるのか?」
「ううん、部屋型迷宮はモンスターの移動はないのよ」
そうか。
そのうち自然に動けるようになるだろうし、このまま置いていっても問題ないだろう。
まずはダンジョンを進み、ボス部屋まで行こう。フィーネのことは、それから考えたい。
「……殺す……殺してやる……絶対に許さない」
フィーネが苦しそうな声で呪いの言葉を吐いた。
「……竜人だと黙ってて、ごめんな。それに、君に魔法を使ってしまった。……ごめん」
「…………」
俺はシャルロッテに目で合図をした。
彼女たちを囲んでいた箱が解除される。
「進もう」
俺たちはフィーネを置いて、次の部屋へ進むのだった。
…………。
……。




