9 連行
のほほんと、裏生徒会がいつも集まる教室で待機する。もちろん、依頼が来るのを待っているのだが、昨日も誰も来なかったのだから今日も期待はできないと思っている。
いや、活躍する場がなければ現状は変わるわけがないでしょ?何か活躍して多くの人の目にその活動が触れれば、2、3件は依頼が来るかもしれないけど、ただここで待機しているだけなら稀に1件来るくらいだろう。
「リア、お茶飲む?」
「うん。前のんだピーチがいいな。」
「りょーかい。ライは?」
「同じもので。」
「はいよ。」
少し離れた場所で本を読むライにも、イリクはお茶を入れる。
あまり話すことはないが、話しかければ普通に答えてくれる物静かな少年だ。あまり話したことがないので、少し話してみようか?
すると、ライは本を閉じて立ち上がり、私達の近くの席へと腰を下ろす。
「イリコは、なんでイリコなんだ?」
「急に何?哲学書でも読んでいたの?」
「いや、そういう意味では・・・確か、イリクが本当の名前だよな?なぜ、イリコとみんなに呼ばせるのかと思ってな。」
「あぁ、そういうね。」
茶葉を蒸らしている間に、話に乗ることにしたのかイリクはライの方を見て苦笑する。
「ウチって、どんな風に見える?」
「う、ん・・・リアの彼氏未満、友達以上の幼馴染。」
「いや、そういう話じゃないんだけど。」
「さっきから噛み合わないね・・・ライ、イリクはね、昔女の子みたいに可愛かったんだ。それでよくイリコって呼ばれてからかわれて・・・」
「そうだったのか。でも、ならなぜ今もそう呼ばせる?・・・今は、髪は長いが女子と間違う可愛さもかけらもないが?」
確かに、イリクは髪を伸ばしているが、だからといって髪を下ろせば女の子に見えるのかと言えばそうではない。細身だが男の子の体をしているし、身長もある。でも、髪を伸ばしている理由は、女の子だと思わせるという理由がある。能力を使ってよく女の子のふりをするのだが、その効果を高めるために髪を伸ばしている。
それだけの理由なので、イリクが髪を伸ばしていても女の子みたいだとからかうものはいないだろう。髪が長い男の子も普通にいるし。髪型で気になると言えば、あのリーゼントだ。あれはどういう仕組みなのだろうか・・・と気がそれた。
まぁ、イリクは警戒心を抱かせないためにいろいろと気を付けていて、呼び方もその一つだったりする。
「そのほうが都合がいいからだよ。ウチは、女の子みたいな男の子を目指しているからね。名前をイリコって・・・女の子みたいな名前で呼ばせるのもそれが理由。」
「都合がいい?女子っぽいと・・・いいことがあるのか?レディース割とか?」
「ぷふっ!?君、意外と面白いよね。まぁ、相手の油断を誘うのが目的かな。男相手ならなよなよした奴、女の子相手なら親し気なって感じで。まぁ他にもあるけど。」
紅茶をカップに注いで、私達の前にカップを置くイリクは、私に微笑む。なんだろうと不思議に思っていると、私の隣に腰を下ろしたイリクが今度はライに聞く。
「ところで、なぜ唐突にこんなことを?」
「最初から気になっていたが、聞くタイミングがなかった。」
「なるほど。別にそんなのあだ名で済むと思うけど、君って好奇心旺盛だね。」
「そうか?仲間のことを知りたいと思うのは当然だろう。」
「まぁ、そうだね。ところで、今日は会長が来ていないみたいだけど・・・」
「あ、本当だ。」
「今気づいたのか?・・・特に用事があるとは言っていなかったな。もしかしたら、誰かに依頼されたのかもな。」
少し笑って、ライはイリクの入れたお茶を飲む。おいしいと感想を口にして、そのまま無言で飲み続ける。
「あの、ライ・・・」
「ん、なんだ?」
「あまりこの教室に顔を出さないけど・・・その、他のメンバーもそうなんだけど、こんなものなの?」
この教室にいるのはだいたい裏生徒会長だけ。他のメンバーを見ることはほとんどない。自主的に集まっている割には、集まりが悪いと思っていた。
まぁ、マリスイヤーは、便利屋の活動をしばらく様子見と言っていたので、あまり来ないのはわかるが、副会長や仲間と一緒に過ごしたいと話していたライをあまり見かけないのは不思議だ。
「・・・今は、幹部だけが集まるように会長から言われている。便利屋の話が軌道に乗ったら、招集をかけるつもりのようだ。・・・幹部の集まりはこんなものだ。一番熱心なのは会長で、次が・・・今はいないジスター達だった。」
まじか。あの不良っぽいリーゼント、出席率が高かったんだ!人は見かけによらないね。
「へぇー、それだけここに思い入れがあったんだね、彼。」
「あぁ。一度・・・お前は2度か?会った時の印象が悪いとは思うが、あいつはあいつで仲間思いであつい、いいやつだった。僕のことも何度か助けてくれた。」
「そうだったんだ。」
物静かなライを不良リーゼントがいじめる図しか想像できなかったが、実際は困るライを助けたこともあるリーゼントはいいやつなのだろう。
印象が悪くて想像できないが。
「その話を詳しく聞いてもいいかな?」
「あぁ・・・あれは、クラスの人気者リ」
思い出しながら話し始めたライの言葉を、乱暴に開かれた扉の音が遮る。
「みなさんいますか、大変です!」
入ってきたのは、初めまして以来初めて会う副会長だ。会長の補佐なのに全く見かけなかったが、それでいいのかと思っていた副会長だ。
「どうかしたの?」
「ブレーン、よかったです。実は、会長が生徒会に連行されました。至急対策を練ってください。」
「本当か!?」
会長が生徒会に?裏生徒会長が、生徒会に連行された!?
「あーやっぱりね。こうなるとは思っていたけど。」
驚く私とライとは違って、頭がいいイリクは落ち着いた様子だ。想定の範囲内ということなのだろうが、私にはなぜ会長が生徒会に連行されるか全くわからない。
私たちが受けた依頼と言えば、カツラ・・・は、違うか。恋の相談の1件だけだ。今は何にも依頼を受けていないし、会長が超能力を使ったわけでもないだろう。ならなぜ?
「チラシだよ・・・まさか、みんな気が付かなかったの?」
「チラシ、ですか?」
「え、チラシって・・・あの宗教勧誘の?」
「あ・・・あぁ、なるほど。」
イリクの言葉で納得したライとは違い、私と副会長は首をかしげる。
でも、渡された宗教勧誘もとい、便利屋宣伝のチラシをライに見せられて気づいた。
「あ・・・これか。」
「???」
まだわかっていない様子の副会長に、ライが説明する。
「ほらここ。・・・会長の名前が書いてある。」
「・・・だから何ですか?」
いまだにわからない副会長。あれ、もしかして馬――――なんでもない。人のことを馬鹿にするのはよくないだろう。
つまり、裏生徒会の便利屋のチラシに、会長トールの名前があったのが問題だ。特に活動していなかったとしても、生徒会と似た組織を作るというのは生徒会も容認できないだろうし、噂では反政府・・・政府ではないけど・・・現状に不満を持つ者の集まりだ。そのリーダーともなれば、連行されて事情聴取の一つでもされるだろう。
普通に考えればわかることだったが、今まで気づかなかったことが恐ろしい。イリクは気づいていたようだけど・・・




