8 メガネ
柔らかそうな緑の髪に、意志の強い光の宿す紫の瞳。肌はなめらかで陶器のよう。イリクもそうだ。なんで、私の幼馴染2人は、女の私を差し置いてなめらかな肌を手に入れているのか?
一瞬見惚れてしまった。そのおかげで、久しぶりにリディの顔をしっかりと見ることができた。それはもう、彼が若干赤くなるほどに。
いつもは私が慌てて目をそらすのに、今日は彼が先に目をそらし、片手で口を覆った。
「その、リア・・・」
「リディ・・・」
お互いの名を口にし、そのあとの言葉が続かない。
彼に触れたまま、目が合ってしまった。私はその事実に、若干の恐怖を感じた。なぜなら、彼に私の隠していることが読まれた可能性があるからだ。
リディの能力は、あまり他の生徒に脅威と感じられていない。イリクと同じ心を読む能力なのに、イリクほどの力はないと思われている。だが、それは違う。
イリクの能力は、対象に触れることで、その対象の心を読む。それも、必要な情報を対象から得られるというもの。その説明だけ聞けば、彼に隠し事などできないと思われがちだが、実はコツがある。そのコツさえつかめば、イリクにその情報だけ見せないようにすることはできる。イリクに隠していることはバレバレだが。
話を戻してリディの能力だが、対象に触れて目を合わせることが条件となっている。しかし、まれに目を合わせるだけで相手の心が読めるらしい。これは脅威だ。
さらに、対象がリディに隠していることが見えるのだ。隠そうとすればするほど、彼にはよく伝わる。彼に隠し事はできない。ただ、彼の能力はそれだけで、すべての心を読むことはできない。彼は、彼に対する隠し事のみを読むことができるのだ。
このことは、他の生徒に知られていないので、一応人の心を読めるらしい程度の能力だと思われている。察しがいいな、程度の能力と思われているので、彼が怖がられることは今のところない。
つまり、今の状況は私の隠し事がリディにばれた可能性があるということだ。もう起きてしまったことだから、これは仕方がない。私ができることといえば、まずは解放してもらい・・・って、この状況は・・・
倒れかかったことを抱きとめてもらったので、距離は近いし片手はまだ私の腕に添えられているし、彼の顔は赤いし・・・まずい、こんなところ誰かに見られたら!?
「おい。何やってんだお前ら。」
聞き覚えのある声は、いつもより何段階か低い声で、どこか荒っぽさのある言葉だ。
「えっ!?」
突然腕を引っ張られ、後ろに数歩下がる。リディの添えられていた手はあっけなく外れ、今度は別の手が添えられた。
「え、あの、イリク?」
私の背後からリディをにらみつけるイリク。
「俺のいない間に何してたのかって、聞いてんだよっ!」
一人称がウチから俺に変わってると、どうでもいいことを思いながら、成り行きを見守ることにした。だって、なんだか怖いから。
「いや、そのだな。」
何もなかったというのに、気まずそうに言うリディ。やめてよ。何かあったみたいじゃん!?
「すまない。」
おい。何を謝っているんだ!どうするの?イリクはこんなこと周りに広めるような人間じゃないけど、誤解されるのは嫌なんだけど!?
「誤解されるの、嫌なんだー?」
「うん。だって、何もなかったし。」
いつもの調子で話しかけられたので、私は普通に答えて、あれ?となった。
「怒ってたんじゃないの?」
「うん、少しね。ウチだけ仲間外れなんて寂しいし・・・なんてね。」
寂しい?冗談だよね。
「もう怒ってないから安心して。リアはね。」
イリクはそう言うと、私を引っ張って教室の外に出た。そのまま教室の扉を閉める。
閉める前にリディが何かを言っていたみたいだが、無情にも扉はかっちり閉められた。
「あーあ。初めての依頼は失敗か~」
「ま、良かったんじゃないの?超能力全く関係ない依頼だったし。私たちの本来の目的忘れてたよね・・・」
「確かにそうだけど、超能力者を身近に・・・同じ人間なんだって思ってもらうためには、こういう無関係な依頼でも全力で取り組むといいよ。そういうことの積み重ねで、信頼関係ってできるものだからね。」
「そういうものか・・・」
「あ、あの!先輩!ごめんなさああああああああい!」
「ん?」
呼び止められたので振り返れば、メガネさんがいた。去った時と同じように90度に体を折り曲げて、声を張り上げる。
「せっかく協力していただいたのに、私・・・最低です。直前に逃げるなんて。本当にごめんなさい!」
「いいよ。頭を上げて。」
「はい・・・」
頭を上げて、上目遣いでこちらをうかがうメガネさん。もっと怒られると思っていたのか、今から怒られるかもしれないと恐れているのか、わずかに震えている。
「こっちこそ、先ばしちゃったみたいだね?もっとあなたの気持ちを考えて場を整えてあげればよかった・・・だから、気に病む必要はないよ。」
「・・・でも、これは私の問題で、先輩たちには本当は何も関係ないようなことで、それなのに協力してくれた先輩を、私は困らせてしまいました・・・」
確かに、唐突に逃げられたときはどうしたものかと頭を抱えたけど、ちょっとトラブルはあったがうまく乗り越えたので別に気にしていない。
「いや、少しは気にしようよ。」
「えっ何、イリク?」
「別に。それで、君はどうするつもり?まだリディに告白したいってなら、ウチらも協力するつもりだけど?」
「・・・あんなことがあったのに、それでも協力してくれるんですか?」
「あなたが望むならね?」
「・・・ありがとうございます。でも、私、生徒会長のことは諦めます。よく考えてみたら、私生徒会長とよく話すわけでもないし・・・その、あの時逃げた時点で、告白するのは無理だって思いました。だから、気持ちだけ・・・もう一度助けてくれるって言ってくれた先輩の気持ち、嬉しかったです・・・ありがとうございます。」
潤んだ目でお礼を言って、メガネさんは笑った。え、ちょっと可愛い・・・リディ、惜しいことをしたんじゃない?
「いや、それはないでしょ。」
「・・・」
ぽつりとつぶやいたイリクの言葉を拾って、彼が私の心を読んでいることに気づいて反論した。
それは、この潤んだ瞳のメガネがキュートな後輩がかわいくないってこと?男として終わってるんじゃないの?
「・・・メガネしか見てないんかい!」
「え、メガネ?私のメガネ変でしょうか?」
「とってもキュートだよ、メガネさん!」
「え、メガネさん・・・裏生徒会長もそうでしたが・・・それはちょっと。」
メガネさんを思わずそのまま呼んでしまったことで、メガネさんはかなり嫌そうな顔をした。しかも、やんわりとその呼び方は禁止された。
え、なら何て呼べば・・・!?
「普通に呼べばいいじゃん!?」
「・・・メガネさん、私ツァリアよ。」
まずは、メガネさんの名前を聞かなければ始まらないと、改めて自己紹介をした。




