13 テスト
今日はイリクと共に便利屋・・・裏生徒会への依頼の仕方を広めるために、一緒に行動することになった。
「一緒にやるのはいいけど、どうやって広めるつもり?」
あまり人が来ない廊下で、イリクと2人話し合う。今は授業の合間の10分程度の休憩時間だ。
「この時間は、テストで芦田さんに話しかけてみようと思ってるんだけど、まずは後ろ向いて。髪を縛るから。」
「わかった。」
髪を縛るくらい自分でできるが、わざわざイリクが縛るということはこだわりでもあるのだろう。私はイリクに背中を向けて話の続きを促した。
「あとは、スカートを短くして、ブラウスを腰に巻き付けて・・・あ、メガネも外してね。」
「なんだか、変装してるみたい。」
「まさにその通りだよ。できた。こっち向いて。」
「はい。」
「うん、かわいい。ポニーテールも似合うね。」
振り返ると、イリクが髪を下ろしているのが分かった。どうやら私の髪を縛るのに自分のリボンを使ったようだ。いつもの女の子の格好をしたイリクとちょっと髪形や服装を変えた私。これでイリクの能力が加われば他人に見えるだろう。
「話している相手には、ウチたちと話している認識をさせて、周囲には全く他人の人という認識をさせる。で、噂を聞かせた後に、話をしている相手の記憶を消す。これでウチたちが広めているのが分かりにくいと思う。」
「イリクが器用なのは知っているけど、そんなに能力を使えるの?周囲すべてに他人だと思わせるならわかるけど、例外を作るって難しくない?」
「いつもやっていることだし、いつもよりは軽くやるから大丈夫。ほら、リアにはいつもウチをウチだと認識させているでしょ?」
「それは、最初からわかっているから・・・あぁ、そっか・・・声をかければ私たちを認識するね。」
「そういうこと。ただ、記憶を消した後、少し相手の気をそらしたいんだ。記憶を消せばウチたちという認識も一緒に消える人が大半だけど、中には消えない人がいるからね。今回は、チャイムを使おうと思うから、リアは時計を見ていてくれる?これ、秒針もしっかり合わせてるから、この時計を見て3秒前に教えてくれる?」
可愛らしい腕時計を渡されたので、それを腕に付けた。赤いベルトは少し硬く、新品であることが分かった。わざわざ買ったのだろうか?
「その時計を貸すから、毎日つけてきてね。さ、時間が無いから行くよ。」
「あ、待って。」
珍しく私を置いて先に行くイリク。よほど時間が無いのだろうと納得して、私は小走りでその背中を追いかける。
長い髪は綺麗だけど、しっかりとした体格と身長を見れば、すぐに男の子だってわかるのに、きっともう周囲には女の子に見えているのだろう。そして、私も別人に。
これだけの能力でもすごいのに、イリクは人の記憶を消すことができる。先ほどさらっと言ったが、これを知るのはイリク以外では私くらいだ。
だって、この能力がどれほど危険視されるか、私でもわかる。完全に記憶を消すわけではないが、思い出しにくくなるというものだ。よほどのことがないと思い出せないので、ほぼ消したのと同じ意味だけど。
わりと能力を日常的に使っているイリクだが、この記憶を消す能力は2回しか使っていない。1回目はその能力がわかった時なので不可抗力だった。でも、2回目は・・・
「リア。」
「イリク・・・いいの、その力・・・それは、ちょっと危険すぎるんじゃない?」
「そこまでの危険はないよ。まぁ、公になれば大変なことだけど、今のところウチとリアが知っているだけだし、これからも2人だけの秘密にすればいいよ。」
「・・・わかった。イリクがいいなら、私は何も言わない。たとえ何があったとしても、イリクを私が守ればいいだけだよね。」
「うん。リアがウチを嫌いにならないでそばにいてくれるなら、何があっても大丈夫。さ、はじめよう。芦田さんもちょうど見えてきた。」
芦田さん・・・彼女は教室の喧騒が苦手のようで、教室から出た先の窓で一人外を眺めている。休み時間は残り5分だ。
「芦田さん。」
「?・・・え、イリコ!?」
「どうかな~驚いた?髪の毛下ろすと女の子っぽいと思わない?」
「うんうん!全然イリコだって気づかなかった。これはもう、制服もスカートにすれば完璧だよ!」
「やっぱり?なら、制服の調達裏生徒会に頼んでみようかな~」
「そんなの、クラスメイトに頼めばすぐ貸してくれるよ。私は身長足りないから無理だけど・・・ケイコとかだったら、イリコでもいけるんじゃない?」
裏生徒会はスルーされてしまった。これでは雑談に終わってしまう・・・
「え~流石に悪いよ。制服伸びちゃっても可哀そうだし。」
「確かに。でも、何で裏生徒会?実在するかも不明なのに・・・確かに変なチラシは入っていたけど、トールは無関係らしいよ?」
よかった、裏生徒会の話に戻った。それにしても、会長が無関係だって話を知っている人いたんだ。結構広まっているのかな?
「え、知らないの?放送部の音楽リクエスト用紙に「イライ」ってカタカナで書くと、裏生徒会が悩みを解決してくれるらしいよ。」
「え、マジ?」
「うん。なんか、放送部の部室前にリクエストボックスっていうのができて・・・」
イリクは、詳しい話を芦田に聞かせる。芦田を見れば、少し興味がありそうだった。この人、先ほど話に出たケイコが嫌いだったな・・・そういうドロドロとした依頼出されたらどうするんだろう?
ケイコを痛い目に合わせて!弱みを握って!
能力を使えば可能なので、できないとは言えないが・・・そういうのにはかかわりたくないし、イリクにもかかわって欲しくないな。
時間が流れるのは早いもので、残り10秒でチャイムが鳴る時間となった。裏生徒会への依頼の仕方はとっくに伝え終えて、今はさらに女子っぽくなるにはどうすべきかを話している。
イリクの名前を呼ぶのもあれかと思い、私はイリクの袖をつかんで残り3秒の合図を出した。
キーンとチャイムの音が鳴ると、イリクに手を引かれてその場を離れた。すぐ近くの角を曲がって、私の髪からリボンを抜き取ったイリクは、そのリボンで自分の髪を束ねる。
私も腰に巻いたブレザーを羽織って、スカートを元に戻した。
「チャイムが鳴り終わったから、急いで戻ろう。」
「うん。」
「やっぱり時間が無いね。昼休みか、授業終わりがいいかも。裏生徒会の集まりは行かずに、今日は噂を広げるのに専念するから、そのつもりでいてね。」
「わかった。今日はライと一緒に食べるんだっけ?」
「うん。一応、ライには触れないようにね。いくら仲間だと言っても、ウチの力を教えるつもりはないから。」
「もちろん。誰にも教えるつもりはないよ。」
私たちは、先生が来る前に急いで教室に戻った。同じようにバタバタと教室に戻るクラスメイトに交じって席に着いた私たちは、特に目立つことなく先生が来るまでの間の喧騒にまぎれた。




