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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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096 手応え


「ウチや。ウチや。ウチに任せてもらいたいがよ」


「いやいや。リュウさんより、私が行くべき」


「それなら、二人に同数の兵を任せるわ。二人でエグゼアの兵を蹴散らしてきて」


 兵を率いて先陣をやりたがるリョウカとクラビラの二人に、苦笑いを浮かべるとサナーレは、五百人づつ兵を率いて攻める事を薦める。


「おお。それやったら競争ちや。クラさん」


「おおぉ。私も、負けないぞぉ。リュウさん」


「若い二人は、お元気ですね」

   

 円月刀と二本の短杖を軽く打ち合わせ、戦場にいるとは思えない和気藹々さで陣幕を出て行く二人を見送るサナーレに、その様子を眺めていた仮面の男アンフェルが声をかけてくる。


 アンフェルがもたらした情報により、サナーレ軍は各地で争っているメラーノ軍を叩き、後顧の憂いを取った後で王都に攻め入る方針を掲げた。


 アンフェルが手に入れてきたモンスールがすでに死んでいると言う情報は、すぐには信じられる内容ではない。


 しかし、ここ数年、表立って目立つ場所に姿を現さない事、父親である現王であるモンリールを幽閉している事、さらに、自分に繋がる親族を自分の子供も含めて殺している事、など、王都の外にいても、伝え聞こえて来る内容だけで、確かにアンフェルの情報を裏付けられそうな印象は受ける。


 その中で、伝え聞こえて来る情報の中で一番大きいものは、セラムの王都の中をメラーノの関係者が動き回っている事になる。


 モンスールの私邸を中心に、メラーノ出身と思われるエルフが出入りしていている。


 いまだ各地でメラーノとセラムとが激しい戦闘を行っているにもかかわらず、セラムの王都ではもう戦争が終わったかのように、メラーノの者が闊歩している。


 それは王都に忍ばせている者の報告もそうであり、王都にしばらく逗留していたアンフェルも確認している。


 そこで、メラーノの動きを確認するために、アンフェルは王都内を調べて周り、いくつかの重要な情報を得るにいたり、さらに、密命を帯びるにいたった。


 情報と言うのは、モンスールがすでに殺され、メラーノの者によって入れ替わっている事。


 そして、さらに、モンリールが幽閉されているわけではなく、暗殺者の手から逃れるために、自発的に閉じ篭もって難を逃れ、メラーノに対する対抗手段を模索していると言う事実だ。


 アンフェルはその事を突き止め、さらに偽者のモンスール討伐のための勅命をしたためた密書を受け取り、サナーレに届ける任務を与えられていた。


 密書に書かれていた文字はモンリール本人の物であり、その確認は古くからセラムに仕えるレデスがしており、密書が本物である事はわかっている。


 その勅命のおかげでサナーレ達は、寄せ集めの軍から大手を振って戦える討伐軍に自然に格上げされ、それを喧伝したおかげで人も物資の集まりも良くなった。


 その上、勅命の影響は元々居た兵士にもいい影響を与えて、軍の指揮は見る間に向上している。

 

 軍全体が、共通の目的を持つ事によって目的意識が強くなり、セラム王自らが示したセラム解放の目的に向って一致団結できている。


 それにサナーレ一人では四苦八苦していた軍の指揮も、アンフェルが来てからは円滑に指示が出せるようになり、また相談できる相手ができた事により、精神的な面でも楽になった。


 討てば響くように答えが返ってくるアンフェルには、相談しやすく、柔らかい受け応えはわかりやすい。


 そして、指示も明確になったため、部下との衝突も少なくなった。


「しかし、カールソンに我々は勝てるかどうか」


「勝てるかどうかではなく、勝つしかないのですよ。我々は」


 今はサナーレ軍の筆頭武官となり、サナーレの代わりに前線の指揮を預かっているレデスが呟く言葉に、アンフェルがにこやかに答える。


 ダルカルとゴスターの王都に直接向うと言う意見は却下され、セラムとメラーノの戦闘が行われている場所を回って味方の軍と合流し、勢力を強める。


 メラーノの勢力がセラムの王都にいる以上、王都に最短を狙って直接向えば、どんな罠が張り巡らせているか分からない。


 それをさけるため、今国境線で戦っている味方に合流してメラーノの軍を叩き、後方の憂いをなくした後で、王都を奪還する。


 アンフェルの情報を元に作戦を決めたサナーレの軍は、まずマディソンを攻略しようとして向って来ていたメラーノ軍の勇将ビルディック・カールソンと戦う事になる。


 サナーレ軍は、リョウカとクラビラの二人を先陣に、ツラガネが後詰に入り、ダルカルとゴスターの二人を遊軍として、サナーレがレデスと共に本陣を率いる。


 カールソンの部隊からは、エグゼアという武官が率いた一万の先遣隊がサナーレ軍に向かって来ている。


 まず、サナーレ達は、その相手を打ち破り、自分達の実力を示さなければならない。


 モンリールの勅命を受けているとは言え、それを信じられずに半信半疑な者も多い。


 いち早く呼び声に答えてくれた者もいたが、多くの者がサナーレが本物で、モンリールの命令も本当かどうか疑っている。


 その不安を払拭し、サナーレこそ正統なモンリールの代行者である事を、王国内に知らしめなければならない。     

 そのため、まずはメラーノ軍でも指折りなカールソンとぶつかり、それを撃破する。


 勝ち続ければ、勝ち馬に乗る者も増える。


 そうなれば、サナーレ軍は一気に権勢を高める事ができる。


 そして、メラーノを追い出し、セラム王国を解放する。


「それは、まぁ、軍師殿のお手並み拝見ですな」


 合流して知識を披露したアンフェルは、そのままサナーレに力を貸してくれる事になり、軍師としてその隣にする事になっている。


 優秀な軍学者であり、早々にサナーレの下で部下をまとめて見せた手腕を評価され、内面の葛藤はともかく表面上は認められている。


 現状は、一応の主君であるサナーレが認め、頼りにしている存在のため内心の感情は押さえ、部下達はその指示に従っているに過ぎない。


 もし、この戦で負けるような事になれば、一気にアンフェルの存在は危うくなり、勅命があるとは言え、サナーレの求心力は失われる事になる。   


 しかし、アンフェルは周囲の不安の目を気にした様子もなく、相手を迎え撃つために兵の配置をサナーレ達に示図している。


 後の者はすべて配置がされているが、先陣だけは誰にするかを決めかね、結局、リョウカとクラビラの二人に任せる事になった。


 ツラガネが先陣の後詰を任されているため、娘が先陣するとなれば、必死に援護をするだろうから勢いがつくだろうと、アンフェルは笑って告げる。


 サナーレとしては、もはや、アンフェルの指示通りにして運を天に任せるしかないので、無事に行くように祈るしかない。


「安心してください。必ず、勝ちます」


 そんなサナーレの内心の不安を見越したかのように、アンフェルは涼やかに笑って見せた。


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