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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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094 侵攻


「意見はありますか?」


 指揮所としている天幕の中でサナーレは、座ったまま周囲を見回す。


 マティソン城内には入らず、城外とマティソン川の間にある平野部に陣屋を作り、サナーレ率いる部隊はそこで生活をしている。


 とりあえず、王兄派の者もいるだろうからと、ツラガネの意見を取り入れたサナーレは、臣従したマティソンで募兵を試みている。


 あまり芳しい成果は出ていないが、グラゾフやバエンからの支援物資の集まりは良く、マティソンを拠点にすれば半年は戦える力を集められている。 


 ただ、バエンの南側でメラーノとの小競り合いが始まった事により、当初イクスラと約束していた援助が受け入れられるかはわからない可能性も出ている。


 結局、バエン王国が危惧していたレルモース地方での戦闘は戦端が開かれ、イクスラ達はそちらの戦いに注視している。


 今の所、サナーレ達に向う援助がおざなりになっている様な事が無いが、これからはどうなるかわからない。


 そのため、サナーレはこのまま募兵を続けるか、それとも動くかの判断を集まった者達に尋ねているのだ。


「もちろん。動くべきでしょう。ここからセラムの王都まではわずか二十日。

 ここにいる一万の兵を率いて、強襲すれば、相手が体勢を整える前に撃破する事も可能でしょう」


 兵を率いる者と言うよりは、議長として意見をまとめる立ち位置を確保しようとしているサナーレに、真っ先に意見を述べたのはダルカルだった。


 メラーノとの戦端は開かれており、各地に部隊を配置している以上、王都にいる兵力は少ないと読んでの発言である。


 そして、素早くモンスールを討ち取る事ができれば、こちらも少ない犠牲で戦を終える事ができる。


 しかし、早急に戦を終え、イクスラの元へ戻る事を公言しているダルカルの意見である事を考えれば、ただ単に早く終わらせたいだけなのではないかと勘繰ってしまう。


 部下思いのダルカルではあるので、穿った見方をする必要も無いかもしれないが、サナーレにとって信頼していないダルカルの言葉は疑ってしまう。 

 

「いやいや、それだけでは危険でしょう。

 王都には、サナーレ殿のお父上の味方がいまだ残っているはず。

 その者達をこちらに引き込み、こちらが攻めるタイミングに合わせ王都で内乱を起こさせれれば、こちらに有利でしょう」


 そのダルカルの意見に追従して意見を述べたのが、ゴスターだ。


 こちらもイクスラの指示に従う事を約束していて、元々の上司の一族であるサナーレに様をつける事になく、殿と呼び、距離を取っている。


 陣幕の中では、北を背後にサナーレが座り、その右側にツラガネ、クラビラのグラゾフ王国の者が座り、そして、左側には元セラム王国のレデス、ダルカル、ゴスターが座っている。


 サナーレの唯一の味方と言えるリョウカは、席に座ることもなく、サナーレの背後に円月刀を持ち立っている。


 これはリョウカが貴族ではない平民の出身であるため、イスに座る事を許されないと言うのもあるが、それ以上にサナーレに不遜な態度を取る者を叩き切ると言うリョウカの心意気の表れでもある。


 見事に出身国別に左右に分かれて座っているメンバーは、座っている席と同じように考え方も違っている。


 セラム王国の出身者はレデスも含めて王都を直接攻撃する意思を持ち、グラゾフ王国から来ている者達は味方が増えるのを待つという待機思考に傾いている。  

 

 セラム王国の者は、今までの同胞となるだけ戦いたくないと言う意志が働き、グラゾフ王国の者は必要以上に戦って犠牲者を出したくないので、セラム王国の者が参加するまで待つ。


 そんな考えが、サナーレにも透けて見える。


 サナーレの統率力が高く、その上、自身の兵を率いているなら強気に出られるのだが、個人的な武力は高いものの他人を率いる力は弱く、連れている仲間はリョウカしかいない。


 そんなサナーレでは、急ごしらえの寄せ集め軍団を率いていく事はほぼ不可能である。


 クラビラだけなら簡単に協力してくれるだろうが、現在グラゾフ王国の支援部隊を率いているのは、その父親であるツラガネである。


 白い毛並みの獅子の頭を持つツラガネは、筋骨逞しい偉丈夫で、小柄なクラビラの倍以上の体格を誇り、陣幕の中で人一倍存在感を示している。


 そんなツラガネが人が集まって来るのを待つという姿勢を明らかにしている以上、グラゾフ軍の総意は待ちと言う事になる。


 完全にセラム出身者とグラゾフ出身者で意見が別れている状況で、サナーレはどうするべきか悩む。


 サナーレとしては、どっちでも良く感じる。


 たとえ、裏の考えがあったとしても、ダルカルやゴスターが言うように、相手の隙を突いて王都に一気に駆け込めば、叔父であり、敵であるモンスールを討ち取る事も出来る。


 しかし、こちらの兵数は少なく、もし、王都にたどり着く前に囲まれれば、全滅の憂き目もありうる。


 ツラガネの言うとおり、ある程度の兵が集まるのを待って王都に向えば時間がかかり、相手に防備を固めさせる時間を与える事になる。


 どっちを選ぶべきなのか、それともまだ他に選択肢があるのか。


 こう言う時に相談できる相手がいれば、悩みも少なくなるのに。


 自分ひとりの事なら、何の問題もなく決断できるが、サナーレの決断一つで多くの命が失われる事を考えれば、そう簡単に決断する事はできない。


 それが、サナーレの判断を鈍くさせる。


「お困りのようですね。サナーレさん」

 

 意見を言い合う部下達の前に座りながら、どうすればいいかを深く考え込んでいたサナーレの耳に、つい最近聞き慣れた声が聞こえて来る。


「おっ。アンフェルさんやないか」


 陣幕の中に杖を付きながら入って来たローブ姿で白い仮面をつけた男を見て、サナーレの後ろに居たリョウカが驚いた声を上げる。


 深く沈んでいた思考の狭間から帰って来たサナーレの目に映るのは、確かに王都に向かうと言っていたアンフェルの姿だ。


「おい。衛兵は何している。部外者を勝手に入れるなッ!!」


「はは。私は少々、魔法が使えましてね。衛兵達の認識を阻害させて頂きました。

 衛兵さん達を責めるのはかわいそうと言うものですよ」


 勝手に入って来た怪しい風体のアンフェルを見て、ダルカルが激昂して叫ぶが、仮面をつけて杖を付いた軍学者はからからと笑う。


「アンフェル殿。用事はすまされたのですか?」


「まだ用は済んでいませんが、王都で色々と情報を仕入れてきたので、これはサナーレさんにお知らせしなければと思いまして」


 誰に席を奨められたわけではないが、武官達が座っている長いテーブルを避けて、アンフェルはゆらゆらとサナーレの側に近づいて来る。


 しかし、そこにたどり着く前に、席を立ったレデスが、サナーレに近づいて行こうとしたアンフェルの前に立ちはだかる。

 

 そこまで瞑目したまま、一言も口を開かずに自分の意見も口にしなかったレデスが、急に動いた事にサナーレは驚く。


「レデス殿。大丈夫ですよ。アンフェル殿にはこれまでの道中で助けて頂きました。

 私を害する事は無いはずです」


「そうやき。もし、何かあってもウチが護りゆがやき。大丈夫やちや」


「・・・分かりました」


 そもそも自分を護る様な事をする相手がリョウカ以外にいる事にも驚いたサナーレだったが、とりあえず、レデスには礼を言ってイスに座り直して貰う。


 サナーレやリョウカの言葉を聞くとレデスは、一拍置いてから返事を返し、アンフェルに軽く頭を下げた後、座っていたイスに腰を下ろす。


「それで、アンフェル殿は、何を伝えてくれるのでしょうか?」


「ええ。面白い事ですよ」


 隅に置いてあった予備のイスを持って来たリョウカに礼を言って腰を下ろすアンフェルに、サナーレはレデスに向けていた目を向け、興味深そうに尋ねる。


 そのサナーレに、仮面から出ている右頬の部分の口角を動かし、アンフェルは周りを見回した後、ゆっくりと言葉を続ける。


「モンスールは、死んでいます」


 周囲の視線がすべて自分に集まっているの感じているのか、笑みを浮かべたままアンフェルは、誰もが想像しなかった事を口にした。  

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