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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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088 準備


「よっし。止め」


 目の前の兵士達の動きを手に持った軍配、ではなく、竹細工のうちわを振って止める。


 領国内を視察している時に、支配下の村で作られていた物をイクスラが気に入り、それ以来、献上品として納められ、村の特産品として流通している。


 それ以外でも、貧しい村々で内職程度に作られていた物に手をくわえ昇華させ、特産品として周辺諸国へ売らせている。


 イクスラが見初め、それを大々的に売り込みをかけることにより、地場産品として商人達に売らせる。


 そうする事によって、支配地域の経済を活性化させ、領国内を富ませる。


 そうして集めた資金を使って回して、イクスラは軍備を整え、地域を開発し、産業を発展させ、支配地域の強化に勤めてきた。


 そのイクスラが選抜して作った兵達は、バエンの正規兵ではなく傭兵と言う扱いになるが、一騎当千の猛者の集まりで周辺諸国はもとより、盗賊や山賊に睨みを効かしている。  


 国土が広くなれば、当然、バエン本国の兵だけでは足りなくなる。


 精強で知られるバエンだが、元々の国土は狭い。


 人の数が限られている以上、地元の者を徴用して使っていくしかない。

 

 イクスラは広くなった領土を補うために、傭兵として兵を集め、その兵士達をバエン式に鍛えあげ、領国内の守備兵として領内の治安維持に当てている。


 兵士のより分けは面倒ではあるが、現在はサラス達バエン上層部が軍団の新しい編成を考えているようなので、それがうまく運べは兵士の指揮が一元化できる。


 軍団の兵士はバエン兵に限ると言うのは、国が小さければそれでも構わないだろうが、国土が広くなればさすがに兵が足りない。


 指揮系統が一本化できない部隊では、うまく戦えるはずもない。


 姉のサラスには、早くまとめてくれと矢の催促をしているので、今年中には何とかなるだろうと思われる。


「サナーレ。指揮してみてどうだ?」


「難しいですね」


 そんな精強なれど、現状では正規兵扱いではないイクスラの傭兵部隊を使って、サナーレに兵の扱い方を学ばせている。


 鍛え上げられた兵士達は、その経験から指揮官の何がまずいのかと言う事が理解でき、意見できる。


 実戦ではとてもではないが指揮を任せられないような者でも、訓練ならばいくらでも練習できる。


 そして、優秀な兵士達ならば、訓練中に感じた指揮官の出来ていない事を意見する事ができ、また、イクスラとしてもヒアリングする事ができる。


「そんなに簡単に兵の指揮ができりゃ誰も苦労しねぇよ。せいぜい広い視野を持ってがんばんな」


 慣れない兵の指揮をして疲れが見えているサナーレの返事に、イクスラは笑いながらその肩を叩く。


 そびえ立つ三重になった城壁の一番外側の城壁の内側ある練兵場で、兵士を百対百にわけ、その一隊をサナーレに指揮させる。


 それを、練兵場の真横に作られた一段高い段の上にあぐらをかいて座ったイクスラが、見学しながらサナーレに駄目出しをする。


 叔父に対抗する軍を率いる盟主になるだけなので、サナーレ本人が兵を率いる必要は必ずしも無いが、それでもルシア教の司祭という立場ではなく、父親の立場をついで王位継承権争いに挑む以上、兵を率いる経験をしておいて損は無い。


「確かに、リョウカの突破力に賭けるのは間違いじゃない」


 自分が飛び込むならまだしも、兵士達を操って相手の兵士と戦わせる。


 チェスや将棋のように俯瞰的な視点で見る盤上での戦いではなく、立体的に並行的に見る兵士同士の戦いは、どうしても視界を遮られ、サナーレの思考に混乱をもたらす。


 動かない的なら苦にも感じないだろうが、相手の指揮官はこちらの嫌がるように指揮をして来るため、サナーレの思うようにならない。


 イクスラやアリスのように俯瞰的にものを見て、全体を広くカバーできるなら苦労は無いだろうが、サナーレにはそれができない。


 それを打破するために、股肱の臣となってくれたリョウカに兵を預けて一転突破を図ったが、相手の指揮官はそれを見越して突撃して来る動きに合わせて兵を退き、その突撃を軽くいなす。


 そして、いなした兵をコントロールした相手の指揮官は、そのままリョウカと分断されたサナーレの部隊を囲み、一気に壊滅へと追い込んだ。


「だが、中途半端な兵の分け方をするのは間違いだ。

 リョウカにかけるなら、部隊の半数以上を預けてその威力に賭ける。

 そうでないなら、リョウカのすぐ後を追いかけて、攻撃の厚みを増すようにさせる。

 作戦は、人それぞれだが、色々考えて、次に生かせよ」


「はい」


 サナーレ軍の動きをトレースさせていた偵察武官が書いた絵図を見ながら、簡単に反省点を上げていくイクスラの言葉に、サナーレは素直に頷く。


「兵を率いるちゅうがは、難しいがやねぇ」


 意気消沈するサナーレの横に立つリョウカも、同じように反省するように難しい顔をする。


 サナーレがセラムの王族の一員である事がわかっても、サナーレに対する立ち位置を変えなかったリョウカは、そのままその力になる道を選んだ。


 そして、その力になる一環として、リョウカもサナーレに付き合って兵士を指揮する技術を身につけようとしている。


「そうだな。リョウカもサナーレの役に立ちたいなら、自分の武だけじゃなく、兵を率いる事も学びな。

 そうすりゃ、逆に己の武芸を高めるヒントも得られるぜ」


「なるほど。そりゃ、やってみにゃいかんね」


 イクスラの言葉に発奮するものがあったのか、表情を改めるとリョウカは鼻息荒く自分の両拳を握る。


「その意気だ。リョウカ。サナーレをその意気込みで助けてやんな」


「おう。任せちょき。ウチがサナーレ姐さんを助けちゃるき」


「おう。頑張れ」


 朝礼台のような高さのある台の上にあぐらをかいて座ったままイクスラは、単純明快なリョウカの言葉に応援を返すと、サナーレと共に二人を練兵場から見送る。


「・・・それで、どう思う?ヴィルド?」


 二人を見送った後、イクスラは台の上に座り込んだまま、自分に向って近づいて来た相手に声をかける。


「あの二人では難しいかと」


「となると、やっぱり指揮の代理を務められる者をあてがわないと無理か」


 軍配代わりのうちわで仰ぎながら、イクスラはサナーレの相手を務めていた指揮官、ヴィルディ・ヴィルケン・ヴィルドハルドの言葉に考え込む。


 老執事のような雰囲気を持つヴィルドは、イクスラの部隊の総参謀である。


 元々は、イクスラの母親であるサラディーナと敵対した貴族連合の指揮官だったが、戦いに敗れ、仕えていた伯爵家が没落した後、その能力を恐れられ地方に幽閉されていた。


 そのまま幽閉生活のまま人生を終えるかと思われたヴィルドだったが、イクスラにスカウトされ、現在に至る。


 敗者として潔く覚悟を決め、人生を終えようとしていたヴィルドであったが、再三再四のイクスラの説得と、孫娘を助けられた事により、イクスラの元でその力を発揮する事になったのである。


 そして、その知識と経験は、イクスラが望んだとおり役に立っている。


「誰かサナーレの力になれる者はいるか?」


 老年の域に差し掛かった白髪に白い口ひげを蓄え、落ち着いた雰囲気を持つ長身の軍服姿のヴィルドに、イクスラは視線だけ向ける。


 基本的にイクスラは自分の考えを披露する前に、相手に尋ねる。


 自分の考えと他人との間にどれだけ差があり、また、自分の考えに間違ったところがないか確認するためには他人の意見を聞くのが一番だ。


 人が百人いれば、百通りの考え方がある。


 他人の話を聞いてみれば、考え付かなかったなるほどという新しい閃きがある場合も多い。


 サラスも他人の意見を聞くが、サラスの場合は、部下達に好き勝手に話させておいて、その中から最も理にかなったものを汲み上げる。 


 意見を汲み上げるのに、身分や階級、種族などにサラスは拘らない。


 そうする事により、自分の意見もサラスに取り上げてもらうために、己の知識を高める努力をする。


 自ら学ぶ事により向上心が増し、さらにサラスへと意識が向き、その忠誠心があがる。


 バエン王国の後継者であり、他人を従える威風と能力を備えているサラスだからこその統率力である。


 数十人の意見を、いっぺんに聞ける耳と脳をイクスラは持っていない。


 しかし、イクスラにはイクスラのやり方がある。


 その方法が、その場にいる者に意見を求め、話を聞くというもの。


 会議などの場合、イクスラは片っ端から部下に意見を求めていく。


 そうする事によって意見をもらえるし、部下達の間に意見を求められるかもしれないと言う緊張が常に付きまい、意見を口に出来るように勉強するようになる。 


 そうする事により、自分の部下の能力を引き上げる。


 それが、イクスラの軍団運営の基本である。

 

 待ち聞きのサラスに、攻め聞きのイクスラ。


 タイプの違う指揮官ではあるが、どちらも優秀な指揮官である事に間違いはない。 


「そうですな。セラムからの二人、ダルカルとゴスターの二人がよろしかろうと」


「なるほど。あの二人は性格に難が無いか?」


 兵士達から聞き取りを終えた報告書を手渡しながら、ヴィルドはいつも通り簡潔に答える。

   

 ダルカルとゴスターの二人は、セラム王国からの降将である。


 セラム軍がグラゾフ南部に侵攻した際に、イクスラによって倒された部隊の指揮官である。


 ダルカルは能力は優秀であるが、不遜であり、能力の無い他人を見下す事があり、周囲になじめない者である。


 ゴスターは温厚な性格をしているが、金に目がなく、賄賂に弱い。

  

 能力は優秀だが、性格に難がある。


 その二人をサナーレにつけるには、やや不安がある。


「不安がありましょう。しかし、彼らは元々セラムの降将です。

 自分の本国に大手を振って戻れるとなれば、必ず、死に物狂いで働きます。

 その上、サナーレ様が勝てば、その身分は保証されると考えるはずです。

 性格に難があれど、役に立つはずです」


「なるほど。そういう考え方もあるな」


 意見を述べるヴィルドの言葉に、一理あると頷くと、イクスラは兵士達の報告書を見ながら考える。


「まぁ、まだ時間はある。その辺は、ゆっくり詰めようぜ」


 恭しくまるで本物の執事のように頭を下げてくるヴィルドに笑うと、イクスラは報告書に書かれていた内容を確認するために、立ち上がり、兵士達の方に足を向けた。



       

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