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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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074 生き残り


「いやはや。最近は、大忙しだね」


 ルシア教の司祭の服に身を包んだレヴェルは、自分に与えられた個室の中で書類仕事をこなしながら、苦笑いを浮かべる。


「忙しい?普段の仕事量よりは、少ないと思いますけど?」


 忙しい忙しいと言いながら大量の書類仕事をこなしているレヴェルを横目に見ながら、同じように種類仕事をこなしながらレイラは首をひねる。


 バエンの王都で仕事をこなしていた頃は、これ以上の書類仕事をこなしていた。


 遠征軍の人員、物資管理から、王都での人事、根回し、各省との交渉仕事、その他の膨大な量の書類仕事を普段からこなしているため、レイラからすると少なく感じる。


 実際、この仕事場に持ち込んでいる書類は少ない。


 ここが、アニナシャフトの城の中なら、もう少し、たくさんの仕事量をこなす必要があるだろうが、ここはジルコニアの護るヘンドリクス領の一室であり、そんなに仕事を持ち込めない。


「これを少なく感じられるなら、レイラ君も仕事になれたようだね。

 いい事だ」


 そうだろうか。と、レイラは少しの間考えたが、暗殺の仕事で天候に関係なく外で待機したり、相手の護衛の間を縫ってその命を奪う作業に比べれば、楽ではあると納得する。


 それにエルズ率いる官僚達がアリスのアニアト統治における責任者であるため、レヴェルの仕事は減った。


 政務はエルズ。軍務はリーヴェ。


 レヴェルは、その間のあまり仕事の面倒を見ている。


 人員が確保され、アニアトで職を失った者達も新たに雇い入れたため、いまだかつて無いほどアリスの部下は充実している。


 そのため、レヴェルに回ってくる仕事は、以前に比べれば、格段に少ない。


 しかし、今は仕事が少ないとは言え、これからも仕事が増えないかと言えばそんなことは無い。


 何しろアニアト王都が焼け落ち、各種の重要な書類が失われた。


 各地の貴族の領地から上がる物産品のデータから、各年ごとの収入支出の推移が分かるデータ。各地の測量記録。外交的なやり取り。貴族同士の縁戚、婚姻関係。


 さらには、他国との協約や条約なども何一つ残されていない。


 その他もろもろの、アニアト王国を形作っていたデータが失われている。


 今は統治の新たな形態を造っている為、そこまで手が回っていないが、落ち着いてくれば、測量から始めなければならないだろう。


 と、レヴェルは考えている。


 データを収集する事に人生を費やしているレヴェルからすれば、アニアトの芸術品より、生活に必要なデータのほとんどが失われた方が痛い。


 そんな手間をかけさせ、政務を停滞する狙いを持って、コストア側が王都を燃やしたかどうかはわからないが、面倒臭い事は間違いない。


 ある程度は、貴族の領地に保存されている物もあるだろうが、そのデータが正しいかどうかを確認するデータがない。


 統治機構を明確にし、強化するためにはあてずっぽなデータではダメだ。


 正確なデータこそが相手を納得させ、公正な取引が出来るようになるのだから。


「で、どうかな。レイラ君。仕事の方は?何か他にやりたい事は見付かったかな?」  


「私がですか?」


 レヴェルと机をつき合わせて仕事をしながら、レイラは考える。 


 レヴェルは良く面倒を見てくれる。


 レイラと共に、バエンに引き取られた仲間達も仕事を振り分けられている。


 最初は事務仕事を任せてみて、うまくいかない者は転々と仕事を変えさせ、あっている仕事に付かせている。


 事務仕事に向かず、警備隊に行った者もいれば、商売に興味を持ち、商人になった者もいる。


 レイラを含めてレヴェルの元で事務仕事に従事しているのは、ほんの数人で、今はアリスの新しい城で官僚達の補佐をしている。


「命を救って頂いたお礼を、まだしていませんから」


「そんな事気にする必要はないよ。助けたのも俺の勝手。面倒を見ているのも俺の勝手。

 それをレイラ君が、気にする必要はないんだよ」


「そういうわけには行きません。私の体を元に戻してくれただけでなく、命も助けてもらいました。

 その上、こうして色々気を使っていただいてますから。

 恩知らずな真似はできません」


「さすが、レイラ君。いい意味で頑固だね。ま、そこが君のいいところだけどね」


 生真面目な顔でそう言ってのけるレイラに、レヴェルは楽しげに笑う。


「そうすると、ここでまた命を助ける事となると、感謝されてしまうのか?」


「それは、その人次第だと思います」


「それはそうだ」


 口を動かしながら、まったく手を休める事無く、書類を片付けていく。


 レヴェルが、ルシア教の司祭の服を着ているのにはわけがある。


 それは、“アニアトの業火”と名付けられた王都消失事件の生き残り。


 サニトナという若い貴族の回復を頼まれたからだ。


 コストアとのにらみ合いのために建てた砦には、今は落馬による頚椎損傷から回復したサウスマギアが、ホルストと交代で詰めている。


 その砦には、アニアトの貴族達が協力のために兵を出しており、頚椎損傷による下半身麻痺から復帰したサウスマギアの復活が話題に上っている。


 その話を聞いたジニが、一生寝たきりになる可能性から回復できる人がいるのなら、全身大火傷を負っているサニトナでも治せるのではないかと、相談を持ちかけて来たのだ。


 アリスからジニの要請を受けて欲しいと言う命令を受け取ったレヴェルは、こうして足を延ばし、ヘンドリクス領まで来ている。


 コストア側の発表にあった生き残りはコストア側の兵士のみだったが、アニアト貴族の生き残りがいるとなるとどうなるか。


 コストア側の発表が覆されるかもしれない人物の登場は、コストア側にとって迷惑な話だろう。


 そして、その生き残りはレヴェルにとっても迷惑だ。


 適当に報告するつもりだったクスハへの報告書を、改める必要がある。


 目に見えない物が見えると言うクスハの誘導によってアニアトにやって来たレヴェルからすると、これを見越していたのでは。と、背筋に冷たいものを感じる。


 サニトナを助けて話を聞けば、コストア側の発表とは違った話になるのは間違いないし、アニアトの宝を掠め取った話も出てくるだろう。


 そうなると、クスハへの報告も正確なものが必要になるし、せっかくまとまったコストア側との停戦交渉がややこしい事になる。


 サニトナが回復した後も大人しくしてくれればいいが、彼の場合は、必ずアニアトから奪われた宝物や魔道具を取り返そうとするだろう。


 そのまま見殺しにしようかとも思えるが、帰属した貴族達のまとめ役を買って出てくれているジニと、アリスの関係が悪くなるのはよくない。


 それに、アリスから直々に頼まれている以上、レヴェルとしてはその任務に手を抜くわけにはいかない。


 アリスの力があればこそのレヴェルである。


 バエンで好きなように仕事が出来るのは、アリスの信任があればこそだ。


 その期待を裏切るなら、もうレヴェルにバエンでの居場所はない。


 それがわかっている以上、レヴェルがサニトナの治療をしないという選択肢はない。


 そうなると面倒臭い仕事が増える事になるだろうが、それは仕方がない事なのだ。


「やるしかないよね。やるしか」


 独り言のように呟いたレヴェルの言葉に、レイラは不思議そうにしたものの、仕事はやらないといけない事だろうと理解して、資料製作に手をつけた。  

 


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