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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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071 錬金術師


「ふむ。これでいいはずだが?」


 目の前に置いた金属製の箱をいじりながら、バエン王国の王サラディーナは、首をひねる。


 テーブルに置かれた縦に長い台形の箱の正面を開き、中の機器をいじる。


 機器の中央には七色に輝く拳大の魔石があり、やわらかい光を放ちながら、自身の存在をアピールしている。


 その魔石につなぐ器具やケーブルをいじりながら、サラディーナは魔石の輝き具合を調整していく。


「お母様。聞こえますか?」


 ある程度の調整を終え、箱の正面を閉じ、箱の上部にある穴に、銀色に輝く魔石を突き入れる。


 そのまましばらく、箱の横にあるつまみを調整していると、今は遠くグラゾフにいる娘の声が聞こえて来る。


「おお。クスハ。どうやら繋がったようだな」


 長い紫の髪を後ろで束ね、汗が流れ落ちないように布で前髪を押し上げ、袖を二の腕まで巻くりあげた黒シャツとズボンと言うスタイルで、工具を片手に箱をいじっていたサラディーナは、聞こえて来たクスハの声に安堵の息を漏らす。


 とても王とは思えない姿で魔道具の調整をしていたサラディーナは、グラゾフの王都にいる次女の声を聞いて満足げな笑みを浮かべる。


「さすがは、お母様。早くお姉様に王座を譲って、発明家として頑張って頂きたいですわ」


「そうしたいのは山々だが、そういうわけにも行かなくてな」


 お互いの魔力を媒介にして、遠距離通話を可能にする魔道具を完成させたサラディーナは、魔道具の完成に興奮した様子のクスハの言葉に苦笑いを浮かべる。


 もはやサラスも一人前になり、いつでも王座を譲ってもいいのだが、今のところ、前線指揮官の数が少ない。


 そのため、いまだサラスの身は身軽であり、王という重しはサラディーナが背負ったまま、後方において娘達の支援に回っている。


「お母様のこの発明があれば、どこにいてもすぐに連絡が取れますわね」


「ああ。ただ、どこでもとなると、この魔力変換機を持ち歩く必要があるのがネックだがな」


 イスと同じ大きさの目の前の箱を見ながら、サラディーナは問題点を指摘する。


 大気に満ちる魔力を通して、己が魔力を変換し、相手の受信機でそれを受け取り、魔力を通じて会話を行う。


 変換機の能力を上げれば、消費する魔力の量も抑えられるし、会話もスムーズに行える。


 しかし、相手の受信機に合わせて魔石を差し替える必要があり、今のところは量産に向いていない。


 だが、家族間で使うなら魔石が四つあれば十分であり、手紙や伝書鳩のやり取りよりははるかに伝えやすい。


「それより、シルヴィア嬢に伝えておいてくれ。君のおかげで研究が進んだと」


「そうね。シルヴィーのおかげね」


 お互いに箱の前に座ったまま、親子は笑い合う。


 グラゾフの新女王であるシルヴィアは、アニアト王国の留学中に、人にはその人特有の魔力パターンが存在する事を突き止めた。


 大まかな固有パターンを量る物は存在していたが、シルヴィアはそれをさらに突き詰め、その魔力の持ち主を特定できる方法を完成させている。


 クスハもその研究を応用して、魔力を読み取る事によって誰からの手紙かを知り、手紙の内容を知る。


 シルヴィアと知り合う前は、誰かに読んでもらうか、覚えた点字で本を読んでいた。


 クスハがシルヴィアに感謝し、その立場を押し上げるように協力したのは、シルヴィアの研究のおかげで誰かの手を借りずに好きなように本が読めるようになった恩を返すためだ。


 研究者でもあるクスハは、誰かの論文や必要な資料を読むのにも苦労していた。


 他人の論文や錬金術や魔法書など点字の物は少ない。


 バエンの王女であるため協力してくれる者が多く苦労はなかったが、それでも母や誰か手を煩わせて知識を得る事にクスハは負い目を感じていた。


 それをシルヴィアの研究のおかげで、誰かの手を借りる事も無く、自由に調べ研究できるようになり、クスハは大きく活躍できるようになったのだ。


 そのため、クスハはシルヴィアが窮地に陥った時には、必ずその力になろうと心に決めていた。


 その恩返しは、ずいぶん早い形で返す事になったが。


「研究の事はさておき、お母様」


「何かな。クスハ」


 魔石を通じてお互いの魔力をやり取りしながら、クスハはサラディーナに質問をぶつける。


「アニアトの王都が焼き討ちにあったと言うのは、本当ですか?」


「ああ。お前達には申し訳ないが、本当のようだ」


 クスハの質問に、サラディーナもストレス解消の作業の前に読んだ報告書を思い出す。


 アニアト王都の地下に張り巡らされていた地下道から出火した炎は、その勢いのままに地上に吹き出し、そのまま地上にあった建物に引火。


 その火の手の行方は凄まじく、まるであらかじめ火が通りやすくなっていたかのように、王都全域を焼き尽くし、アニアト王都は灰塵と化した。


「誰が火をつけたかは?」


「今のところ、調査中だ。サラスの部下達が全力を挙げて調べているそうだ」


「お姉様の部下達ですか」


「サラスの部下では、不満か?」


「いささか」


 不満げな声を上げたクスハに、サラディーナは苦笑いを浮かべる。


 サラスの部下には実直な者が多く、規律を護り、任務を的確にこなす事には優秀だが、融通が利かない。


 通り一遍等の調査はできるだろうが、応用の効いた調査が行われるかどうかはわからない。


 まして、一般的には魔法使いが少ないバエンの人民だ。


 魔法が使われた調査を、果たしてどこまで完全な形で報告できるか微妙なところだ。


「お前自身が出たいだろうが、グラゾフはまだ回復途中だ。シルヴィア嬢に最後まで協力してやってくれ」


「それはもちろん。グラゾフが落ち着かない事には、私も安心してシルヴィーを放置できませんわ」


 多くの魔力を持つクスハなら、何か気づく事もあるだろうが、クスハにはグラゾフ王国の経済を安定させると言う使命がある。


 ほとんど混乱から立ち直っていると言っていいグラゾフだが、いまだ燻っているものもある。


 それが落ち着くまでは、クスハにはグラゾフに協力して貰わなければならない。


「私は無理ですが、一人調査員として推薦したい者がいます」


「ほう。それは誰だ?」


 思い当たる者がいないサラディーナは、素直にクスハに尋ねる。


 そして、その推薦された相手の名前を聞いて、サラディーナはなるほどと納得した。 


 


 

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