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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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066 魔道具


「なるほど。これはわからないですね」


 女性もうらやむほどの美しい金髪を持ち、顔立ち容姿優れた男セルシス・イドル・レパードは、隣を歩く黒髪の少年サニトナに向って驚きの声を上げる。


「ええ。精霊達に関する魔道具は、秘中の秘。王家の者を除けば、ここの場所を知っている者はほとんどいないと思います」


 侵略者ではあるものの、敵軍の権力者であるセルシス相手に普段の不遜な態度を控えたサニトナは、丁寧な態度で応対する。


「それを知っているとは、さすが神秘会のメンバーですね」


 敵国の者でありながら非常に協力的なサニトナの態度に、セルシスは穏やかな笑みを向ける。


「しかし、なぜ、この私に?勢力としては、バエン側に渡した方があなたの得になると思いますが?」


 二人が歩いている場所は、サニトナが死守していた音楽堂の地下だ。


 かつての皇国の首都の跡地を使って作られたアニアトの王都には、こういった地下が無数にあり、そのすべてが地下道で結ばれている。


 アリの巣のように張り巡らされている地下道のすべてを知る者はなく、サニトナ達もその全容を知るにはいたっていない。


 見える地層や掘削技術の違いから、おそらく掘った年代も掘る指示を出した者も違う地下道は、唐突に途切れたり、いきなり隣の地下道にぶつかっていたりと、まるで計画性が無く脈絡が無い。


 そのために、入り組んだ地下道の全容を知る者はいないのだ。


 いまや王族の伝える古文書でしか知る者のない秘密の地下道を偶然知る事となったサニトナとその仲間達は、ここを利用する事を思いついた。


 地下は、温度がほぼ一定である。


 その地下を使えば、年代物のワインが保存できるし、芸術品の保管もしやすい。


 湿度には気を使いながらも、使いやすい環境を利用してサニトナ達は、地下室を美術品や古い芸術品の保管庫としている。


「この地下道を使えば、軍の侵攻も容易です。しかし、我々の協力なく、道を外れればもう二度と元の道へとは戻れないでしょう」


「話の答えにはなっていませんが?」


 岩肌がむき出しの地下通路の中を歩きながら、サニトナは岩肌の天井越しに地上を指差しながら、東と西を指で指し示す。


「我々はアニアトの芸術を護る事を旨としています。それだけ言えば、聡い貴方なら分かるはずだ」


「なるほど。バエンの将は、サラスとアリス。二人供芸術に理解がある人物とは言いがたい。

 話を聞いてもらえませんでしたか」


 憮然とした表情を浮かべるサニトナの姿を見て、セルシスは彼の置かれた状況を理解する。

 

 サニトナ達が立ち上げた組織である神秘会は、古代の芸術や魔道具などを含めた技術、美術などを崇拝し、護るための組織だ。


 その事はセルシスも耳にしていたし、ほかの国の美術に興味を持つ者も耳にしている話ではある。


 サニトナはその情報網を使い、バエン王国側に連絡を取り、王都の美術品を護る為に戦争を早期の終結に結びつけようとした。


 しかし、バエン側はこの申し出に乗り気ではなく、色よい返事を返してこなかった。


 サラスの知恵袋であるシュバイツは、サニトナの能力を疑問視していた。


 サニトナの情報網は確かに有用ではあるが、サニトナ自身にはこの争いを止める力はない。


 もはや、何のために戦っているか分からない王都の争いを止めるためには、どっちか片方に肩入れする事無く、お互いの力が削げたところで一気に叩くのが肝要だ。


 と考えているシュバイツにとって、早期に無理に争いを止めればバエン側に被害が増える事になる。


 農村出のシュバイツにとって、腹の足しにもならない芸術品や美術品など、さして価値のないものとしてしか認識されない。


 そんな物より、シュバイツにとってはバエン軍の人命と物資の方が大事である。

   

 平民出身のシュバイツと、貴族出身のサニトナ、セルシスとは価値観の物差しが違う。


 たとえ、美術品が焼けて失われようが王都の争いを治めることより、シュバイツは王都以外の争いを治め、バエン軍の利益のために確保地を増やす事の方が大事なのだ。


 それは、コストア王国側の総司令官アイネも同じで、美術品の保護より陣取り合戦の方に重きを置いている。


 これが、もし、バエン側の指揮官がクスハやイクスラなど芸術を解す者ならサニトナの提案に乗る可能性があったかもしれないが、サラスもアリスも芸術品に興味はない。


 サラスは母の願いをかなえるため、アリスは戦うためにこの国にいる。


 サニトナ達と共通意識を持つ可能性は、最初からゼロであると言える。


「そこで、私に目をつけたわけですか」


「レパード卿なら、我々の考えを理解して頂けると考えました故に」


「ええ。そうですね」


 セルシスにとっても、美術品や魔道具に興味がないわけではない。

  

 なにしろ、セルシスの目的は精霊王の長であるティアを手に入れ、この世界を自分の足元にひれ伏させる事だ。 


 アレクの教会でその手段を失ったセルシスからすれば、魔道具が多く保管されているサニトナ達、神秘会の国宝級の秘宝はぜひとも手に入れたい物だ。


 アイネに王都に送り込まれた時は、命の危険を感じていたセルシスだが、思わぬ縁がつながったものだとほくそ笑む出来事だ。


「貴方の判断が正しかった。と思う事が出来るよう努力させて戴きますよ」


「ぜひ、お願いいたします」


 穏やかながらも満足げな笑みを浮かべるセルシスの様子に、サニトナは内心舌打ちする。


 サニトナとしては早期に王都の争いを終わらせ、美術品や芸術品の保護を終わらせた後は、すぐさまバエン側の支配下に置かれ、争いの最前線になっているジルコニアの領地に戻り、その手助けをしたいと考えているのだ。


 しかし、王都の争いが落ち着かなければ、サニトナは後ろ髪を引かれたままジルコニアの元に戻らなければならない。


 それでは、やはり、落ち着いて力を発揮する事はできない。


 神秘会が集めに集めた秘宝があれば、いまは宰相の地位を追われているセルシスでもクルセアに取り入り、高い地位に復権できる可能性もある。


 そこまでうまく行かなくても、クルセアに話を通してもらい、今のコストア王国の戦略を変更する事ぐらいは可能だろう。


 アニアトの美術品を国外に流出させるのは癪だが、永遠に失われるよりははるかにマシだ。


 王都を落ち着かせるために、セルシスには頑張ってもらわなければならない。


 そのためには、セルシスが求めていると言う精霊を使役できる秘宝を渡す必要がある。


(待っててくれよ。ジニ)    


 内心の焦りをおくびに出す事も無く、サニトナはセルシスを神秘会の宝物庫へと案内するために足を速めた。


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