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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
66/102

065 始末


「やれやれ。こんなにお茶会に招いた覚えはないんだけどね」


 部屋の窓を突き破って現れた黒ずくめの相手にため息をつくと、レヴェルは伏せていた体を上げる。


「怪我は無いかい?」


「え、ええ。あ、いや。手を離、」


「おっと。これは失礼」


 窓ガラスを突き破った音が響くより先に、見詰め合っていたレイラの体を押し倒してテーブルの下に入ったレヴェルは、起き上がるのに手を貸しながら声をかける。


 先ほどまでの熱を帯びた口撃に当てられて意識が朦朧としている様子のレイラは、手を借りて起き上がると、そこで意識が覚醒したのか、慌てて離れる。


「さて。壊れた窓ガラスは誰に請求すればいいのかな。

 君たちで払って貰ってもいいんだけど、持ち合わせがないなら君達の雇い主さん、ユリースさんに請求書を送っておくけど」


 窓ガラスを突き破ってぞろぞろと入り込んで来る黒尽くめの男達に、レヴェルは澄ました表情で尋ねる。


「だんまりか。良くしつけられているみたいだね。それとも群集心理という奴かな。人は集団で動く訓練をされると個が死んじゃうからね。

 一人一人はいい人でも、集団になってしまうと平気で人でも殺しちゃうんだよね。

 怖い事だね。

 そう思わないかい?」


 自分を取り囲むように動く、体にぴったりと合った服装をした男達を無視するようにレヴェルは、すぐ後ろにいるレイラに同意を求める。


 同意を求められたレイラは、困惑して戸惑ったような表情を浮かべた後、後ろに下がる。


 声をかけられたレイラとしては状況の変化に頭と心が付いてこず、混乱している。


 熱を帯びた口撃を人生で初めて受けるという経験の上、自分の命が狙われているのに平気な様子のレヴェルの行動が理解できず戸惑っているのだ。


「まぁ、同意はしにくいか。それで、俺を殺すにしてもずいぶん人が多いね。

 レイラ君だけでは、荷が勝ちすぎると思ったのかな。

 それとも、失敗前提の作戦なのかな。

 その辺りどうなんだろう?

 カイロンさん?」


 混乱しているレイラの様子を見て、ある程度、説得の効果が出ているようだと頷きながらレヴェルは、男達に目線で視線を出している男を名指しで指名する。


「自分を襲う相手ぐらい調べているよ。

 それはお互い様だろ?

 ユリースさんの飼い犬として、ずいぶん活躍されてきたみたいだね。

 君の活躍ですごいと思ったのは、ダルアン侯爵に対するテロかな。

 いや味方だから油断してただろうけど、メルヴィス様に逆らう者には、容赦はしないその姿勢には感服するよ。

 しかも、それをバエン王国のせいにして、殺した相手の子供や部下の恨みを利用して味方に引き入れるなんて、なかなかできる事じゃないよ。

 お。そうですよ。トーリさん。

 あなたの事ですよ。

 あなたやみなさんはまんまと騙されて、利用されていたんですよ。

 ご両親の敵にね」


 男達から一歩下がった位置で指示出しをしていた男、ユリース直属の部下であるカイロンが驚くのにあわせて、レヴェルはメラーノ王国の裏事情を次々と暴露していく。


「ミルワークスさんも心当たりがあるんじゃないですか?

 そうあなたに付きまとっていたのは、カイロンさんの手の者ですよ。

 あなたの家族や恋人を殺したのもね。

 おかしいと思わなかったですか?

 高潔と平等を旨とするサラディーナ王が、そんな悪逆な手を使うと思いますか?

 どう考えてもおかしいでしょう?

 少し冷静になって考えてみればわかる事ですよ」


 もしかすると、心の片隅にそんな考えがあったのかもしれない。


 自分の言葉に動揺している様子の男達を見て、レヴェルはさらにこの場にいる男一人一人に目を向けながら、その身に起こった状況を口にしていく。


 ここにいるカイロンとレイラ以外は、すべてバエンに何らかの恨みを持つ者達である。


 ユリースの配下は、他国に恨みを持つ者で構成されている。


 それぞれがそれぞれの国に恨みを持つ者を集めてチームを組み、復讐を果たさせる。


 他人に恨みを持つ者は強く、その目的を果たすためにはどんな努力も惜しまない。


 人の暗い感情に精通しているユリースは、そうやって欲しい人材やこちらに敵対する者を落とし入れ、その家族を殺し、その証拠を捏造し、恨みの感情を煽らせ、自らの配下に仕立て上げていった。


 その恨みを持つ者達を管理統括するのが、カイロン達ユリース直属の部下となる。


 お互いに恨みを募らせるように仕向け、起こった事件に対して疑いを持たさないように管理していく。


 そうする事によって、恨みのある国に対してテロを起こさせ、後に引けない状況を作り出していく。


「まぁ、みなさんがどう考えるかはお任せしますが、今一度、自分の立場を考えるのもいいと思いますよ。

 元々聡明であったあなた方なら、少し自分を取り戻せば分かりますから」


「・・・これ以上喋らせるな。全員かかれッ!!」


「おやおや。普段喋らないはずのカイロンさんが声を出すなんておかしいですね。

 焦ってるんですか?

 なるほど。みなさん心当たりがあるのか、手が止まってますもんね。

 そりゃ、カイロンさん。焦りますよね」


 普段なら無言のまま目線だけで指示を出し、部下達を使って相手を始末するはずのカイロンだったが、あまりにもこちらの事情に精通しているレヴェルの言動に焦り、おもわず声を出してしまった。


 そして、そのカイロンの動揺に呼応するかのように部下である十人ほどの男達も、お互いを目でけん制しあい動けずにいる。


 別にレヴェルの説得に納得したわけではない。


 納得したわけではないが、確かに思わないでもない、心当たりが男達の中にある。


 そして、普段ではありえないほどのカイロンの焦り。


 さらに、風の精霊王と契約していると言われる男の幅広い情報網からくるであろう自分達の話。


 そもそも顔を黒い布で覆い隠しているにもかかわらず、名前を呼びながら、こちらに目を向けて話をすると言う事は、レヴェルがここに誰が居るのかをわかっていると言う事だ。


 それは、レヴェルが創作物語を口にしているのでない限りは、本当の事を言っている可能性が高いと考えられる。


「チッ」


 お互いをけん制しあい、動かない部下達に業を煮やしたカイロンは、レヴェルに向って短剣を投げる。


「お喋りが過ぎるんじゃない?マスター?」


「そうかな。ずっとシルフィーの相手をしてたから、口が回るのかもしれないな」


 投げられた短剣が、狙い違わずレヴェルの首元を捕らえようとするが、空間からにじみ出るように現れたティアが片手でそれを掴み取る。


「“精霊を、切り離す力をッ”」


「う、ああぁっ」


 中空から現れたティアの姿を見て、精霊王だと判断したのか、カイロンが古代語を叫ぶ。


 そのキーワードを受けて自動で“契約解除”の魔道具が発動を始め、レイラの左腕の前腕が形を変え始める。


 自らの意志と関係なく動き始めた魔道具に焦った表情を浮かべたレイラが、動きを制御しようとするが、完全に手を離れた魔道具は、レイラの魔力を強制的に吸い上げながら起動する


「なるほど。レイラ君が動かなくても、キーワードで魔道具が作動するわけか。

 興味深いね」


「面白いわね」


 レイラの左腕が上下左右の四つに別れて、パラボラアンテナのように広がり、そこを中心に部屋中に強く強力な光が放出される。 

  

「なッ!?」


 のん気に会話を交わしている二人に、思わず嘲笑の笑みを浮かべたカイロンだったが、光が収まった後も、ティアが手に持った短剣をクルクル回している姿を見て驚きの声を上げる。


 “契約解除”の力が発動した後なら、精霊と人との契約は強制的に解除され、精霊は姿を消すはずだった。


 レイラを影から見張って来たカイロンは、そんな光景を幾度も見てきた。


 だから、今回も精霊の力は失われるはずであった。


「驚いている所を悪いんだけど、この魔道具は精霊と人との契約を解除するものだろう?

 じゃぁ、効果は無いよ」


「私とマスターは、契約していないから意味無いわよ。私が自主的にマスターに協力しているだけだから」


「そ、そんな事が」


 状況が理解できない様子のカイロンに、レヴェルとティアが面白がって説明する。  


 本来であれば、精霊はその強さ弱さに関わらず、すべて契約を結ぶ事によって繋がりを持つ。


 契約もなしに、精霊個人が自主的に協力するなどという話は、ユリースから聞いたこともないし、カイロン自身も知らなかった。


「ぐわっ」


「マスターの命を狙いに来た相手を逃がすわけ無いでしょ」


 状況が不利と判断して逃げようとしたカイロンの手足を光の輪で空中に縫い止めると、ティアは無表情にそう言ってのける。


「まぁまぁ。ティア。ちょっと待とう」


 そのまま短剣をカイロンの額に突き刺そうとしたティアを止めると、レヴェルは周囲を見回す。


「みなさん。どうします?敵がこうなってますが、俺達に任せます?

 それとも、ご自分の手で家族の敵を取りますか?」


 ぐるっと男達と視線を合わせた後、レヴェルはカイロンを指差す。 


 そのレヴェルの言葉に、男達は一瞬ためらったものの、トーリと呼ばれた男が真っ先に動き出し、カイロンの腕に無言のまま手をかける。


「お、おい。お前達。よ、よせ。や、やめろ」


「ああ。そうですね。ここでやられると困りますので。みなさん。中庭でどうぞ」


 一応、私室であり寝室でもある部屋の主であるレヴェルは、部屋の中で私刑が行われるのは困るので、中庭に連れて行く事を提案する。


 その提案に従ったのか、男達は無言で頷くと、トーリを先頭に、空中にとどめられたままのカイロンを引きずって中庭に向って行く。

 

 中庭に向う間、カイロンの命乞いやら命令する言葉が聞こえてきていたが、それも徐々に聞こえなくなっていく。


「いやぁ、命拾いした」


「すごいわね。マスター。ほんとに舌先だけで生き抜いたわね」


 男達が出て行ったのを見送った後、流れ落ちる冷汗をレヴェルは服の袖でぬぐいながら、安堵のため息をつく。


 あらかじめの打ち合わせ通り、会話だけで暗殺者達からの襲撃を乗り切ったレヴェルの頭を、ティアはいい子いい子するように撫でる。


「危機感溢れる舞台のようでしたわ。さすがはティア様に見込まれた人物ですわね」


 子供のようにレヴェルを慈しんでいるティアのすぐ後ろから現れたシルフィールは、かぶりつきよりもさらに近い場所で見ていた光景に興奮したような歓声を上げる。


「ティアやシルフィールのおかげだよ。情報あればこそだね」


 そのティアと手を貸してくれたシルフィールに素直に感謝の言葉を返すと、レヴェルは笑みを向ける。


「それで、レイラ君。あれ?レイラ君」


 無事に乗り切った事を喜び、ハイタッチでお互いを祝福していた三人だったが、部屋に残っているはずの少女が静かな事に気づき、後ろを振り返る。


「おい。レイラ君。大丈夫か?」


 そして、部屋の中に倒れているレイラの姿を見つけ、レヴェルは慌てて駆け寄り助け起こす。


「どうやら、魔道具が不具合を起こしたみたいね」


「なるほど。強制的に発動させると装具者に負担をかけるわけか。

 それはともかく、すごい熱だ。

 何とか助けられないかな。ティア?」


 荒く激しい呼吸を繰り返しているレイラの様子を見てそう見解を述べたティアに、抱き抱えた体の熱さに驚きながらレヴェルは尋ねる。


「もちろん。助けられるわよ。

 せっかくのレヴェルの頼みだもの。任せて頂戴」


 抱え上げ、自分のベッドの上にレイラを寝かせているレヴェルの言葉にウィンクして答えるとティアは、まずはとばかり、魔道具を調べ始める。 

     

「じゃ、とりあえず、俺達は片付けようか。シルフィール、頼める?」


「お任せですわ」  


 レイラの事をティアに任せたレヴェルは、シルフィールに協力を求めながら、窓ガラスの破片を片付け始めた。


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