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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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059 指揮者エマーリア


「抵抗する者には容赦するな。降伏する者は武器を取り上げて大人しくさせろ」


 銀色のツインテールを翻しながら槍を振るうエマは、付き従ってきた兵士達に指示を出す。


「カロッサ。降伏してきた者はあなたに任せるわ」


「わ、わかりました」


 向って来た兵士の槍を自分の槍で巻き取るように弾き飛ばすと、そのまま相手の胸を槍で貫く。


 その後ろで思いっきり太く巨大な棍棒を振り回していたオーグル族のカロッサは、エマの言葉に頷くと戦意を喪失している者を集めるように兵士達の元へ向う。


「レパード。ガルダは火砲の確保」


「アルバートは、コタンの部隊を率いて右側の敵を。カワッセはユーグ達と左を」


「ハッ」


 吊り上った紅く瞳を周囲に走らせながら部下に指示を送り、返事に頷くとエマは混乱する戦場を沈静化していく。


 本来、エマは部隊の総指揮官であり、前面に出る事は無い。


 しかし、今回、カロッサと共に戦場のど真ん中に出て来たのは、負傷したサウスマギアの敵討ちのためだ。


 火砲の爆発に巻き込まれ、馬から落馬して脊椎を痛めたサウスマギアがカタルナ領都に運び込まれて来たのは、つい一時間前の事である。


 その姿を見て、ほぼ間を置かずに兵を率いて敵陣に忍び寄ったエマだったが、別に怒りに我を忘れて勢いで飛び出したわけではない。


 傷ついた元主君を見て怒りが湧かなかったわけではないが、エマ自身は冷静だった。


 いや、冷静になったと言える。


 元々は感情の起伏が激しいエマが、サウスマギアの姿を見て冷静でいられたのは、今の主であるアリスのおかげである。


 かと言って、別にアリスが冷静に諭してくれたわけではない。


 傷つけられたサウスマギアを見てにアリスがキレてしまい、その姿を見て、逆にエマは冷静になってしまったというだけの事だ。    


 レヴェルの情報を元にリーヴェがたてた作戦通り、相手の降伏を待つとされていた作戦に、アリスは始めから難色を示していた。


 元々戦闘が好きなアリスに、戦闘を我慢させている状況である。


 戦えば簡単に勝てると考えているアリスを何とかなだめすかし、犠牲の少ない、それでいて簡単に兵を進める方法を取っていたのにもかかわらず、サウスマギアが意識不明の重体になってしまった。


 犠牲が少ないと聞いていたのにもかかわらず、サウスマギアが傷つき、その事に怒りをあらわにしたアリスが、自分が攻めると言い出しても不思議ではない。


 と言うよりも、自分が攻めると言い出さなければ、アリスでは無いとも言える。


 普段ならそれでもいいかもしれないが、今のアリスは軍団の長である。


 新たに編成された軍団の長であるアリスが先陣を切って出てしまえば、アリス自身の指揮官としての能力が疑われる。

 

 その上、部隊であろうが軍団であろうが結局アリスの突撃頼りと言う事になれば、せっかく念願かなって軍団が出来たのにもかかわらず、即解散と言う事になりかねない。


 相手の数はこちらの十分の一である。


 そんな相手に大将自ら出て行くなどとありえないし、梃子摺らされるわけにはいかない。


 だから、絶対にアリスを出さずに、相手を速やかに制圧しなければならないのだ。


 そういう念がこもった視線を、アリスをなだめるリーヴェから受けたエマは、アリスの前に進み出て自分がサウスマギアの敵をとる事を告げた。


「敵は火砲があると言え、少数です。

 ここはアリス様が出るまでもありません。

 アリス様が部下を大事に思い、目をかけていただいている事には感謝の念に絶えません。

 しかし、アリス様の手を煩わせる事無く、その意思を体現して見せるのが部下というものです。

 いちいちアリス様の手を煩わせていては、私達の存在は必要ではなくなってしまいます。

 ここは、元サウスマギア様の部下である私に一任し、任せてはいただけないでしょうか。

 必ず、アリス様のご期待に答えて見せます」


 レヴェルの元で、話の訓練をしておいて良かった。


 と思いながら、エマは読み度無く、アリスに胸を張って述べる。 

 部下を統率するためには、善意を持って接し、自信を持って答えなければならない。


 レヴェルにそう諭され、なるほどと鍛えた口上は色々なところで役に立つ。


 レヴェルに道を諭され、日々精進に励むエマの指揮能力は、プレタダに居た頃より格段に進化しているのは間違いない。 


 そんなエマの言葉がアリスに届いたのか、それとも他の者達からすぐさま同意の言葉が出たからか、アリスはエマの出撃を許した。


 その事にホッとする様子を見せるリーヴェと目と目で会話しながら、エマはアルフレッドと同じくプレタダ組のカロッサを連れて、丘陵地帯の影に隠れながら歩兵だけの部隊で素早く移動を開始した。


 アルフレッドを連れて出たのは、アリスを説得して兵の編成のためにカタルナ領都の側に張られた陣幕を出た時に、リーヴェから指示されたからだ。


 リーヴェは、大盾の陣地を護る部隊に忍び寄るために軽装の部隊の編成と、大盾の陣地を崩すために大地の精霊を操れるアルフレッドを使うように指示して来た。


 アリスの下で戦うようになってから、エマが一番話す相手はリーヴェである。


 エマは兵の指揮、編成に携わり、リーヴェがその部隊を運用する作戦を組み立てている。


 その役割分担のため、会話をする事が多くなった二人は今では目と目で相手の言いたい事がある程度わかるようになっていた。


 そのおかげで二人はアリス軍団の両輪になり、アリスの部下の中ではなくてはならない存在になっている。


 そんな二人だからこそ、いまさらアリスの軍団が無くなってしまっては困る。


 軍団を持つ事が何よりの楽しみだったアリスと同じく、そのアリスを支える事に価値を見出しているリーヴェ、レヴェルに部隊運営を習い、そのやりがいに楽しみを見出したエマ達の利害は共通している。


 いまさら軍団を解散させるような理由を生み出すわけには行かない。


 仕事の内容は違えど、その目標は同じであるリーヴェと完全に意見が一致しているエマは、今回の戦いをすぐさま調整し、最初の戦略路線に戻さなければならないのだ。


「うん?こいつ等」


 向って来た騎士風の男の槍を弾き飛ばし、そのまま金属鎧の薄い首筋に自分の槍を突き入れて倒すと、エマは相手の着ている鎧に目を向ける。


 その鎧の紋章が、レヴェルの報告があったヘンドリクス子爵家の紋章ではなく、ホーバンク家の紋章である事に気付く。


「オーファン」


「ハッ」


 間違っているとは思わないが、紋章を確認させるため、今や自分の右腕と頼むオーファンを呼び、打ち倒した騎士の紋章を見せる。


 勤勉で知られるオーファンは、他国の紋章や他国の風俗のなど雑多な知識に詳しく、他国との戦いでは非常に頼りになる。


「これはホーバンク家の紋章ですな。となると、聞いていた話と違います」


「そうね。・・・どうやら、相手は意思の疎通がうまくいっていないようね」


 オーファンの返事に頷くと、エマは周囲を見回す。


 そして、占拠した陣地の中にヘンドリクス子爵家の旗や紋章がない事を確認させたエマは、そう結論付ける。


「あれは?」


 となると、どうするか?


 陣地を放棄して逃げたヘンドリクス家を追うか、それともこの陣地にアリス達を呼び寄せてから進軍の相談をするか。


 そうした思考をしていたエマの目に、何か丘陵の上方で光る物が見えた。


 それを、ただでさえ険しい瞳をさらに細め目を凝らして見たエマは、それが鎧の反射光である事に気づく。


「オーファン。あそこに部隊が残っているわ。逃げるようならそのままに。向かって来るなら倒しなさい」


「ハッ。おい。そこから、そこまで付いて来い」


 見つけた以上は、放置するわけには行かない。


 かと言って、この陣地を放置するわけにも行かない。


 その事からエマは、オーファンに部隊の処理を任せ、自分は後続の部隊に陣地確保の連絡をさせるために、いったん陣地の状況を整理する事にした。


    


  

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