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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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055 アニアトの混乱


「計算違いも甚だしいっやつだね」


 想定と違う結果になってしまった事に、サニトナはイラただしげに舌打ちしてから深いため息をつく。


 サニトナはいま、アニアトの王都リンベナールにある音楽堂の中に立て篭もっている。


 なぜ、こんな事になってしまったのか?


 音楽堂の外で響き渡っている怒声と銃撃音を聞くと、サニトナは自分の作戦の見通しが甘かった事を実感せざるを得ない。


 サニトナの立てた作戦通り行っていたなら、今頃ジニの元に戻っていたはずだった。


 しかし、そうはならず、アニアト王都は争いの中心点になっている。


 何が悪かったのか?


 それは、人の感情を推し量ると言う事は生半可な事ではなく、非常に難しい事だ。と言う事だろう。


 はじめは、サニトナの思う通りに進んでいたと言える。


 ジニ達を戦線に送り出し、大盾を利用してアリス達を抑えさせて戦わずにさせておき、その間に講和派の力をまとめ上げ戦争継続派を抑える。


 戦争継続派はほとんど武官派の貴族であり、講和派のほとんどは文化、芸術を愛する文官派の貴族達だ。


 知り合いの楽士や芸術家達をサニトナが口説き落とし、そのかつての皇国からアニアト王家に脈々と続く文化を愛する貴族達を説得させ、アニアトの文化を護る。


 アニアトは芸術を愛する国だ。


 そのアニアトでは、当然、野蛮な戦闘を望む武官派の貴族よりも、文化を愛する貴族の方が多い。


 戦争を継続して、アニアトに残る遺跡や皇国から続く貴重な絵画や彫刻、音楽などが失われては困る。


 そういう風に仲間の芸術家を焚きつけ、サニトナは仕える貴族達を説得させ、武官派を抑える。


 そう考え、行動を起こした作戦はかなりうまく行き、穏健派の貴族達をまとめ上げ、代表であるクイッスル侯爵から武官派の筆頭ゴッフルフ侯爵を説得してもらう場面を作るまでになった。


 そこまでは、サニトナの想像通りに進んだ、と言える。


 芸術を愛し、豪華な食事を愛するクイッスル侯爵は金に汚い面はあるものの、おおむね貴族らしい常識を持ち合わせ、戦争を好む者ではない。


 バエン軍が王都に来ても、すぐさま降伏して、たとえ自分の爵位を無くそうとも、財貨を護り、今の生活を護ろうと考えている人物である。


 戦っても利にならない事を説明するには、もってこいの人物であった。


 武闘派のゴッフルフ侯爵とは考え方が違うため、仲が悪い事でも有名な人物ではあったが、バエン軍のサラスとアリスの二人の軍が進んで来ている状況をうまく使えば、仲が悪かろうと説得できるとサニトナは踏んでいた。 


 ゴッフルフ侯爵といえど、アニアトの貴族である。


 特に勇壮な音楽や戯曲を愛する一面を持つゴッフルフ侯爵であれば、王都が戦渦に巻き込まれればそれが失われる可能性をつけば、うまく説得できる。


 そのはずであった。


 人の感情は、理性によってあるのではない。


 レヴェルなら、過去の史書からそう言葉を引用するだろうが、サニトナは芸術家肌でありながら理性を超えた感情というものを甘く見ていた。


 説得は始めはうまく行っていた。と、サニトナは宮廷で騒ぎが起きてから聞いた。


 爵位を持たないサニトナは、王の裁定の間である宮廷に入れない。


 そのため、宮廷内で起こった事は友人の貴族達からしか聞く事ができなかった。


 宮廷の場で、王の前でクイッスル侯爵にやり込められ、憤怒の表情となったゴッフルフ侯爵は、あろう事か相手を殴り殺してしまったのだ。


 元々仲が悪かったからそうなったのか、それとも実際は戦う事に腰が引けている事を見透かされたからか、自分の立場が失われる危機感を覚えたのか、それともそのすべてなのか。


 ともかく、感情のブレーキを失ったオーグル族の巨躯を鍛えたゴッフルフ侯爵の強烈な拳の一撃を、顔面に受けたトロール族のクイッスル侯爵は即死だったらしい。


 頭蓋骨が砕ける音と共に両の目玉が飛び出したクイッスル侯爵の死骸は、正視するには堪えられないひどいものだったそうだ。


 そこで理性のタガが外れたのか、ゴッフルフ侯爵は穏健派にそのまま襲い掛かり、何人もの貴族がその拳の餌食になり、クモの子を散らすように逃げ惑ったそうだ。


 サニトナに話をしてくれた友人の貴族も当然穏健派の講和派であったため、ゴッフルフに追われる事になり、必死に逃げたと聞いている。


 そして、宮廷の場を血で汚す事となったゴッフルフ侯爵は近衛兵に槍で幾重にも突かれ、そのまま宮廷を騒がした罪で死刑になった。


 話を聞いたサニトナは王家の判断は妥当だと思えるのだが、ゴッフルフ派の貴族はそうは考えなかったらしく、寄り集まって兵を出すと言う判断を下す。


 そして、この事態を引き起こす事となった穏健派の貴族達の館に討ち入り、それに対抗するために穏健派も兵を集めたため王都を中心とした内乱に発展してしまった。


 その内乱のせいで、サニトナはジニの元に帰れず、内戦の被害から音楽堂を護る為にここに立てこもっている。  

 王家は王宮から逃げ出して自らの領地に篭り、王都は見放された。


 アニアト王家は、生活の基盤にしている王都以外にも自家の所領を持っている。


 その所領が大きいからこそアニアトの王に君臨している王家は、危なくなったら自領に逃げ込むのが慣例になっている。


 慣例になっていはいるが、ここで王家が裁定に乗り出してくれていれば内紛を抑えられたかもしれない。


 しかし、王家は皇国が残した国宝級の重要な文化財を抱えて、自領に逃げた。


 文化財を護ろうとしたのは、アニアト人らしい行動ではあるが、本来なら裁定すべき王家が逃げ出したおかげで、誰もこの王都の争いを止める者がいない。


 そのためサニトナは、仲間と協力して美術館や図書館、音楽堂などを護る為に立て篭もっている。


 今は穏健派と抗戦派との戦いに集中しているが、争いが激化してくれば貴重な文化財を手に入れ、混乱に乗じて売りさばこうとする者が出て来る。


 そんな者達から文化財を護る為にサニトナは、ここで仲間と共に不届き者が近寄らないように見守っている。


 本当なジニの元に戻り、指揮をしたいところだが、何分講和派と抗戦派を戦わすきっかけを作ってしまった負い目がある。


 自分が音頭をとって護る指示を出せば、文化財は少なくても守り通す自信がある。


 ジニ達の方は細かく指示を出している上に、戦わずに護りを固め、攻めてくれば逃げるようにしてある。


 万が一にも、ジニ達がピンチに落ちる事はないだろう。


「頑張ってくれよ。ジニ」


 音楽堂を護る切り札として置いてある火砲の筒を叩きながらサニトナは、自分の計画通り行かなかった作戦の見通しの甘さを悔やんだ。 



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