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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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043 密談


 グラゾフの王宮の中にある貴賓室の一室で、二人の女性がテラスに並んで座っている。


 かたや車椅子に腰を下ろした銀髪の女性。


 その隣に腰を下ろしているのは、深緑の髪を二つに分けてまとめている紺色の軍服を着ている女性。


 グラゾフの再建を任されているバエン王国の第二王女、クスハ。


 そのグラゾフの新女王シルヴィアの二人である。


 シルヴィアの父親が存命の頃は、ごてごてと高そうな絵画や美術品が集められていた部屋であったが、財政再建のためにすべて売り払われた今は、閑散とした部屋になっている。


 飾りらしい飾りと言えば、シルヴィアが作り出した紫色のバラが数本、花瓶に刺さっているぐらいのものである。


 そんな二人のほかに誰もいない、静かな部屋の中で、突然、クスハの笑い声が響き渡る。


「いきなり笑い出して、何だ?気がふれたのか?」


 言葉の選択は考え物だが、シルヴィアの相手を思いやる気持ちと心配する気持ちがこもった口調を受けて、クスハは笑うのをやめる。


「ご挨拶ね。シルヴィー。私の明晰な頭脳はいつだって絶好調よ」


 車椅子の背に体を預けたまま、クスハは開かない瞳を隣に座るシルヴィアに向ける。


「これを読めば、貴方もおかしくなるわ」


「ほう。どれどれ」


 内容を思い出しているのか、クックッ。と忍び笑いをもらすクスハから手紙を受け取ったシルヴィアは、その内容に目を落とす。


「何?城を?」


 ティアン川を挟んだマティソンの城塞都市の真ん前に、アリスが城を作ると言う報告書を読んでシルヴィアは目を丸くする。


「アリスが城を造ってくれれば、商業路の確保がしやすくなるわ」


「それはそうだが、大丈夫なのか?そんな予算はないぞ?」


「大丈夫よ。アリスの下には、優秀な魔法使いがいるそうだから。

 全部やってくれるそうよ。

 と言うよりも、全部できるなら好きにしなさいと返事を返すつもりよ」


 予算の心配をするシルヴィアに笑って答えると、クスハはいつもおかしな提案をして来る妹の姿を思い出して忍び笑いをもらす。


 今回の戦略目的は、セラム王国側に食い込んでいる商業ルートを奪い取り、グラゾフとバエンをつなぐ新たな道を確保する事にあった。


 このままセラムを攻略するのではないかと言う話も出ていたが、さすがに今のバエンとグラゾフの国力ではそこまで侵攻する力はない。


 今回の作戦も、相手側の作戦を逆手にとって利用する事で必要最小限の力で、ティアン川から北部の獲得に成功したに過ぎない。


 それもこれも、セラム王国内で暗闘が行われているおかげだ。


 セラム王国では、現在、長く国に仕える旧臣と新進気鋭の若手との勢力争いが活発になり、王宮内での暗闘が繰り広げられている。


 現国王であるモンリールが高齢になり、判断力が鈍くなってきている事に端を発し、平凡な能力の長男と、その長男を上回る優秀な能力を持つ次男との後継者争いが起こった事による。


 エルフである事の弊害か、八百年近く王座に君臨しているモンリールは優秀な王であったが、優秀であったがために代替わりのチャンスを失い、長々と王座にあり続けた。


 平和な時代ならそれでも良かったのだろうが、変化の激しい混乱極める世界となれば、果断な反応が必要になって来る。


 長くのんびりとした悠久の時を生きて来たセラム王国では、その急激な変化に対応できずにいた。

  

 平和の時代なら、平凡な能力の長男モントロールでも良かったのだろうが、時代がそれを許さない。


 平凡な能力では、他国に喰われる。


 ましてセラムは、新進気鋭の強国バエンと同じエルフの国であり、急速な変革を進めている古豪国メラーノに囲まれている。


 実際に攻められている事を考えれば、セラム王国は新しい体制を早急に作り上げる必要がある。


 本来ならモントロールにモンリールが王位を譲ればいいのだが、それをためらう要因がある。


 その要因が優秀な弟、モンスールの存在になる。


 早くから対外政策の脆弱性を説き、新しい国家体制を作り上げよう進言していたモンスールの姿勢に同調する者達は多い。


 そのモンスールとモントロールの二人を見比べたモンリールが、後継者に悩むのも無理はない。


 現在の路線を継承しながら変革するならモントロール、急激であっても変化に合わせた改革路線ならモンスール。


 その二人を見て、モンリールが決断を悩むのは、彼が年を取っただけではないだろう。


 ただ、後継者の悩みはそのまま、セラム王国内での暗闘につながり、長男派、次男派に分かれて醜い争いが続いている。 


 今回、クスハがちょっかいをかけさせるように仕向けたのは、モントロールの方だ。


 弟に実力で敵わないなら、素早く手柄を立てて差をつける。


 そう目論んでいる事を知ったクスハは、かねてから内偵させていた部下を使い、グラゾフ南部の防備が弱まっている事を流し、その上でグラゾフの反乱の事も教えてやったのだ。


 平和ボケしている国は、えてして諜報が弱い。


 それを利用し、クスハはセラム王国側を巻き込んだのである。


 魔獣の関係でティアン川を使用するのは難しいが、ティアン川の周りを使った商業路の確立はできる。


 国の中央を大きくベタルタ山地が横たわり、北部と南部が切り分けられている。


 大きく山地を越える今の商業路より、北と南を分けてバエン方面と結び、バエンを中心とした新たな商業路を構築する。


 そうする事により、グラゾフの経済を豊かにする。


 そうすれば、グラゾフの民もバエンとの関係を友好的なものとして捕らえやすくなる。


 それに付属してバエンが儲けるなら、バエンの官僚達も文句は言わないだろう。


「城ができれば、新たな商業路の起点になるな」


「そうね。貴方の懐事情もよくなるわね」


 アリスからの手紙を読み、目を輝かせるシルヴィアにクスハも満足そうに笑う。


 クスハとシルヴィアとの関係は、アニアト王国に留学した時から始まる。


 数千年に渡ってレドナ大陸を治めていた、魔道王国のかつての首都があったアニアト王国は、古きよき文化を継承していて文学や芸術に秀でている。


 魔法や錬金術に興味があったクスハは、アニアト王国に留学してそれを学んだ。


 その時、同じ師についたのが、シルヴィアだった。


 子沢山のグラゾフ国王の娘として生まれたシルヴィアは、継承権も低く、階級の低い貴族の出身だったため将来に保証もなかった。


 そのため、一念発起し、錬金術を学んで起業し、金を稼ごうと考え、アニアト王国に留学してきたのだ。


 後の事を考えれば、まさに運命的な出会いだったのだろう。


 そこでクスハと出会う事で、シルヴィアの人生は大きく変わることになる。


「クスハのおかげで、私の生活環境も大幅によくなった。

感謝しているぞ。クスハ」


 濃い緑の髪をツインテールに結んだシルヴィアが、薄い胸をそらして笑うのを見て、クスハも笑う。


「私も助かるわ。おかげでグラゾフも手に入ったし」


「なぁに。持ちつ持たれつだ。あのまま、あの男がいたのではグラゾフがどうなったかわからんからな」


 盟友と呼べるほどに仲のいい二人は、笑い合うと窓の外を眺める。


「ところで、クスハ」


 活気が失われて久しかったグラゾフの首都ダイアンの街の賑やかな喧騒を聞きながら、シルヴィアは表情を引き締め、クスハの方を向く。


「前から一つ聞きたかった事があるんだ」


「何?」


 急に真面目な表情になったシルヴィアに、クスハも何を言われるかと首をひねる。


 二人の仲はあけすけない関係なので、特に隠している事もない。


 お互いの国家を担う間柄なので、表に出せない話も確かにあるが、それはお互いに了承している内容だ。


 それに、クスハとしては、シルヴィアが深刻な顔をして聞いてくるような問題を隠していた覚えもない。


 自分の財布も国家の財政管理も大好きなシルヴィアの事だから、金に絡んだ話なのかもしれない。


「お前、目が見えないのに、どうやって手紙を読んでるんだ?」


 朧かげながらそんな事を考えていたクスハに、真剣な表情でシルヴィアが聞いて来る。


 その質問に、一瞬、意味が分からず、普段見せない呆けた顔を見せたクスハだが、徐々に意味を理解すると、こみ上げて来る笑いを我慢できなくなり、はじけたように笑い始める。


「?クスハ?」


「それは、いくらシルヴィーでも教えられないわ。企業秘密よ」


「ええ。いいじゃないか。教えてくれよ」


「ダーメ」


 車椅子を操り、その場から逃げ出すクスハを、好奇心旺盛なシルヴィアが追いかける。


「ヒントぐらいくれよ。ヒント」


「ヒントを上げなくても、貴方ならわかるわよ」


 つい先日まで敵対していた国のものとは思えない仲のよさで、二人は戯れた。 

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