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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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040 見え透いた罠


「シールドを展開し、アリス様を護れッ!!」


 エマの号令と共に、バエン兵達が魔道具を操り魔法障壁を張り、左右から飛んで来る炎や氷などの魔法攻撃に対処する。


「ふふ。罠に、嵌められたわね」


 足が八本ある馬型の魔獣、ルベルと名付けた赤銅色の肌をした巨躯の怪物にまたがったアリスは、自分を取り囲むように円陣に移行した兵士達を見ながら笑う。


 街道沿いを進み、緩やかなのぼり道を塞ぐ土砂崩れの現場に差し掛かったアリスの部隊は、そこで敵の奇襲を受けた。


 道を挟んで左側は雑木林が広がり、右側には緩やかな斜面が続きながら、まばらに木々が生えている。


 隊商達が通る道は大きく、部隊が展開しても窮屈さは感じないが、それでも左右から挟んだ攻撃をさばくには、少し手狭には感じる。


 そんな中で、不意の攻撃に対して素早く兵達を操り、アリスを護るように指示を出して、実際その通りに兵士達を動かして見せたエマの指揮は見事と言うしかない。


「リーヴェ。槍」


「ハッ」


 そんなエマの指揮に感心しながら、アリスは隣に並んで居るリーヴェに右手を差し出し、特別な槍を取らせる。


 アリスの指示に従い、リーヴェは側に控えている兵士達に魔道具の槍を取らせ、アリスに渡させる。


「はい」


 受け取ったアリスは、投げ専用の、兵士一人では抱えられない程度の重さの槍を手に取ると、気合の入っていない声と共に、前面に広がる土砂崩れに向って投げる。


 軽い掛け声とは裏腹に、音を超えるような勢いで投げられた槍は、地面に突き刺さると同時に爆発する。


 バエン王国は、他の国に比べて、魔法を扱える者が少ない。


 地域性なのか、バエンは魔法の素養の少ない者が多く出生する土地で、魔法使いが育ちにくい。


 それを克服するために、バエンでは魔法工学が発達し、魔法が扱えない者でも、擬似的な魔法が使える道具を開発する事に国家を挙げて力を注いできた。


 現女王であるサラディーナや、その娘であるクスハはもちろんの事、歴代の多くの知識人や王家の莫大な投資に支えられた開発部門は、魔法が使えない劣等国であったバエンを、一大強国にのし上げさせた。


 アリスが投げた槍も、姉であるクスハが開発した物で、光の魔法と同じ効果の物が詰め込まれ、一定以上の衝撃が加わる事により、槍の中の魔法が効果を発揮できるようになっている。


 ただ、投げるとなると、重い上に一定の衝撃が与えられないと爆発しないため、投擲専用の装置が必要になる。


 威力は抜群ながら、コストと見合わないため、バエンでの正式装備は見送られ、クスハは威力は抑え目ながら、コストと普及率に重点を置いた装備を開発する事にした。


 しかし、妹であるアリスが豪腕を持ち、軽々と槍を投げる姿を見て、改めて妹専用の装備として再開発した。


 その再開発された物を、今回、アリスはリーヴェに持ってこさせたのだ。


「ふふっ。爆発、って、楽しいわね」


 積み上げられた土砂に突き刺さった槍は、大爆発を起こし、距離があったアリス達の下まで土の欠片を飛ばして来る。


 その中には、人型の手や足が含まれており、土砂崩れがただの事故ではなかった事を示している。


「ふふっ。レヴィーの、言ったとおりね」


 慣れているバエン兵は微動だにしていないが、始めて見たエマが爆発の威力に驚愕の表情を浮かべたのを横目で見ながら、アリスは次の槍を用意しているリーヴェに笑いかける。


「はい。やはり、セラム王国の手が入っているのでしょう」


 アリスの笑みを見たリーヴェは、槍を用意させながら、その言葉に頷く。


 アリスとリーヴェしか聞いていない事ではあったが、レヴェルは今回の反乱の裏には、隣国であるセラムが手を回している事を調べ上げていた。


 クスハの支配下にあり、その統治がシルビアの名の下に強化されていく中で、反乱軍がどうやって力をつけたのか?


 その武器や食料などは、どこから供給されたのか?


 兵士の錬度や指揮などを、どうやってまとめたのか?


 土地や資産を奪われた貴族や騎士達が、それらを単独で用意するのは難しい。


 たとえ協力して集められたとしても、国家の軍隊を引っ張り出すまでの規模となれば、そう簡単にはいかない。


 ならば、どうするか?


 他国からの支援を取り付ければよい。


 今回の場合は、極秘裏に支援を申し出て来たセラム王国の話に反乱軍がのっかり、グラゾフ王国に反旗を翻す事となった。


 極秘の会談ではあるが、そこら辺りを自由に飛び回る風の精霊達を止められるわけもなく、風の精霊達の元締めであるシルフィールから逐一教えてもらえるレヴェルには、近所で井戸端会議を聞いているようなものだ。


 風の精霊達の情報網から連絡を貰ったレヴェルは、今回の襲撃事件を予見し、アリスとリーヴェに伝え、対抗策を打ち出しておいた。


 おそらく、道を塞ぎ、斜面から左右に分かれて挟撃して来る。


 そして、その場所は、バエンとグラゾフの国境沿いになるだろうとレヴェルは伝え、リーヴェに対抗策を練るように伝えてた。


 それが本当なら、ターエンでの反乱の話は兵を分けるためのおとりであり、相手の狙いはアリスの首。


 ターエンの街で相手を誘き出して、アリス達が挟撃して叩くと言う作戦を、反乱軍側は逆手にとって、分かれて引き返す前のアリス達を叩くと言う作戦をとった。


 しかし、それをさらに逆手に取ったアリス側は、ここで一気に反乱軍を叩くため、あえて相手の誘いに乗り、罠に飛び込んだように見せたのだ。


「はい」 


 その重さのため、行軍の邪魔になるため、二本しか持って来ていない炸裂槍を、再度、半分吹き飛んだ土砂の中にアリスは投げ込む。  


 待ち伏せのため、土砂を積み上げ、土の魔法を使い隠れていた反乱軍の兵士達は、その攻撃で砕け散り、土砂と一緒に辺りに自分の体の部品をばら撒く事になった。


「エマ」


「はい」


 二本の槍で、土砂の中に隠れていた兵士達を片付けた事により、戦場とは思えないほど静けさが増した中に、アリスの声がエマの耳に届く。


 凄まじい衝撃音に、一瞬、戦場を忘れていたエマだったが、アリスの声が聞こえ、指揮官の顔に戻る。


「貴方は、斜面の下。私は林に行くわ」


「ハッ。ミカは私に付いて。オーファンはリーヴェ様と共に。ジャンはカロッサと共に輜重隊を護って」


 いつもの槍を両手に持ち、鞍も鐙もなく、ルベルの背にまたがっているアリスは、エマに部隊を任せると、林の中に向って走らせる。


「ふふ。これが戦場よね」


 何も指示を出さなくても、自分の手足の延長のように動くルベルに進む先を任せると、アリスは笑みを浮かべ、林の中で慌しく弓を構える兵士達を、木々ごと槍でなぎ払った。


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